⑧ 銀の甲冑
空からさえずる鳥の鳴き声が聞こえている。
そして森から差し込んだ陽光が私の瞼に朝と目覚めを伝えてくる。
私は起きた。 それはとても清清しい朝だった。
家族が殺された… あの忌々しい日の夢を見る事も無かった。
それも全て彼のお陰だ。 私は瞼を開けようとする。
しかしそこで少し不安になる
もし、もしだ… ここで彼が私の近くに居なかったら?
手足も無い、口も聞けない
彼が居なければ、私が拠るべき存在は何処にも居ないのだ。
目を開けるのが怖い 空の陽気は清清しい
だがそれ以上に私の心は陰気に捕らわれ、不安で一杯になる。
私は目を閉じたまま固まる。もう一眠りしてしまおうか?
彼の優しい声で目覚めたい… 私はそれを望んでしまった。
だが、それは彼の行為に甘えるという事だ。
不本意と云え、あんなに優しい彼を私は召喚してしまったのだ。
行為に甘える事は出来ない。私にその資格は無い。
私は意を決してその瞼を開ける。
「ガッ…」
そこに彼は居た。確かに存在する 彼か? ああ彼だ、たぶん…
彼は居た。そして彼の従者も
それは喜ばしい事だ。 だが… その姿は昨夜見たものとは異なる。
闇夜に塗れて気付かなかっただけなのだろうか?
私が再び見た彼は、真っ直ぐにその巨躯を立たせこちらを見据える
銀色に包まれた甲冑戦士の姿だった。
彼はその体躯を鎧により更に大きく見せ、我が前に立つ。
彼の従者も同じ、いや同じではない。
彼の体躯は「彼」と違い変わらない。 だが
彼のその鉄兜は何処か間抜けさを思わせる型から外れ
歯を食いしばり、こちらをギロリと睨み据える威嚇の面へと姿を変えていた。
「ガッ… ゲッ…」
私は嗚咽を漏らす。 それしか出来る事はない。
目の前の光景に理解が及ばない。 私はどうするべきなのだろうか?
私の体は固まり、その目は彼の兜から覗けない彼の目を探している
何か声をかけて欲しい 昨日みたいに私に優しくして欲しい
私は固まる 彼を見る。ただじっと見据える 怖かった。恐ろしかった。
そして私は、そこで涙を流したかもしれない
それから瞬きするくらい流れた時間
急に彼はその鎧をガシャリガシャリと背面の突起に収納させると
頭まですっぽりと覆った。
体付きがしっかり分かる衣類を着たまま私に近づき
私の顔を撫でてくれた。彼は言う。
「オナカガスイタダロウ ナニカタベルカイ?」
優しい目だ。私は目から涙が零れるのを我慢しながら
彼の言葉の意味も分からず、黙ってその場で頷いた。