表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械じかけの私とお父さん  作者: ブラックサレナ
姉妹1 宗教好き
40/40

さようなら


 テレビから流れてくるニュース。

 そして流れる日常の小さな、そして大きな報道に紛れ、非常に奇妙な情報。

 それは日本国内に存在する政党をも所有する、巨大宗教の指導者の頭が爆発したのだと言うニュース。

 そしてそれに付随して、その宗教団体が持っている政党の党員も全て指導者と同じく消えた。

 海外はその事を大きく扱い、特集を組んだが、その事件の当事者たる国家の報道機関はそれを一報流しただけで、違うニュースに舵を切った。スポーツ政治、芸能人他様々なスキャンダル等。

 まるでそれが無かったかのように無視し、違う内容を報道するようになった。

 ネットでそれが騒がれても我関せず。企業もそれに追随した。

 真偽不明な情報が流れては消え、そして様々な不審を生んだが、流れる日常の中でそれも忘れられていった。

 だが、電子の世界に流れた情報が消える事は無い。その噂は静かに人々の心に残り、語られ続ける。

 既に民衆の心から消えつつあるが、宇宙人のせいにする者。それか国家機関の陰謀とする者。

 語る者達だけが集まり、語り合う掲示板。

 そこでは事件に関しての情報が細々と語られ続けられている。

 そこで、注目を浴びている一つの仮説。

 

 シロガネ教と呼ばれる都心の中に起きた新興宗教は、宇宙人が地球に侵略する為に作った物。

 そういった類の物。

 だが、それもあくまで多少の整合性があって語られたに過ぎず、誰もそれが真実であると証明する事は出来なかった。


 人とは、結局慣れる生き物なのだ。

 だから、国内の宗教指導者の頭が吹き飛んでもそれは忘れられ、違うものへと移っていく。

 そう、人は慣れる生き物なのだ。


 だから、国内の国会議員も同じような事になっても分からない。

 だから、国家が宗教の管理に置かれても気づかない。

 だから、国内インフラからインターネットが消え、国家の方針が大規模な重農主義へと変わっても気づかない。

 だから、世界の核兵器が一斉に誤作動を起こし、世界が核の炎に包まれて気づかない。

 だから、シロガネ教がある日本だけがそれを免れ、そして世界にシロガネ教を広げるべく、布教し始めても気づかない。

 世界に残る宗教信者が全て殺され、世界がシロガネ教の元統一されても、やはり人は気づかないのだ。


 人は見たいものしか見ないし、それが関係ないものだと分かれば、すぐさま忘れて違うものへ移る。

 どんな事が起きようが、どれだけ何かが無くなろうが、時間を進めて全て忘れさせてしまえば、世界は思うように上手く行くのだ。


「ここも支配かんりょーーーっと」


 世界が重農主義へと変化し、ありとあらゆる電子機器が廃棄され、それに付随する娯楽も事業も、全て廃止された世界。

 そこで例の黒髪の少女がやせ細り、汚物すら口にして生きようと粘った、宇宙飛行士達が眠る探査船の上で、その青い星を眺める。


「いやーー、やっぱり吸い上げるのは宗教を使ってやるのが一番好きだよ私は!」


 ふわふわと探査船内部で、飛行士達が軽くなった体を浮かばせている中、外部の装甲板の上で彼女はあぐらをかき、その足首をバタバタさせながら、嬉しそうに上半身も動かして、星を見る。


 その星は以前と比べて、何だか少し奇麗になったように思えた。


「人の営みは星を汚す。この星もゴミだらけだよ。でも、これも営みの証」


 彼女は星を見る。それは、やはり青い美しい星である。

 彼女はそれをしばらく見ると、再び声を上げる。宇宙空間で、それが出来ない筈なのに、それを彼女はするのだ。


「感謝しろよ、この星の奴。姉妹にはもっと悪辣に搾取して、楽しもうって輩も多いんだから」


 変化し、そして変化させた星。その上空で彼女は実に尊大な口調をそれを言う。


「お前達より優れたこの私が、あんた達を正しく教化してやったって訳」


「後は、パパの名を関した宗教の元で、ゆっくりと畑でも耕しながらその生を全うしていきなさい」


「そして、それが私達のエネルギーになる」


「人の魂を糧として、星々を食らう我々姉妹」


「その中で、このお優しい私に目をつけられた事を光栄に、そして幸運に思いなさい」


 誰も居ない宇宙の空間。そこで独り言のように声を張り、宣言する彼女。

 そんな彼女を罵る者も無い。蔑む者もない。

 あるのは、浮かぶ飛行士達の死骸。

 見捨てられ、絶望しながら死んでいったその飛行士達の上で、彼女がそのありがたいご高説を続ける。

 ふんぞり返り、自分が変質させた世界の頂上で、彼女はその勝ち誇りを行っていたが、しばらくして。


「でもここ、なんか見た事あるような気がするんだよなーー」


 彼女は自分が関わったで星を見やり、そう呟く。相変わらずの独り言であるが、その言葉には、明らかな疑問符が投げかけられている。


「過去から昇って来たから、もしかしたら過去姉妹が、いやパパが関係していた星なのかな?」


「パパも、元は星出身の人間だった、とか?」


「ここは色々と似ている。でも、それはたまによくある事だけど……」


 明るく、尊大に振舞っていた彼女が顔が徐々に曇っていく。彼女はしばらくそれから言葉を発しない。

 そしてようやく言葉を開いて、彼女は言う。


「こ、こんな星……無かった」


 初めに出る否定文、こんな星は無かった。

 だから、どうすると言うのか。


「私は、パパを……殺してなんかいない」


「ここは、次元が違うんだ。だから、きっとパパは居ない……」


「ああ、でも。もしここにパパが居たのだとしたら……」


 彼女は口元をガチガチと震えさせ、涙を流しながらそう悶絶する。頭を掴み、そのまま下に敷いている探査船に、頭をゴツンと置くと、それからボソボソと何かしらを呟く。


「ああ、そう……こんな所に、星は無かった」


「ここには何も無かったんだ」


 しばらく静止していた彼女、だがしばらくして置いた頭をゆっくりと持ち上げ、彼女はその場から立ち上がった。


「ここには何も無かった」


 彼女は言う。彼女の顔に、笑みは無い。


「ここには何もない」


「ここには、星系すらなかった」


「ここの元は無だ。何もない」


「ここには銀河すらない」


「ここに宇宙は存在しない」


「そう、だから……」


 彼女はぶつくさと何かしら呟きながら、その手に大きな光玉を作り出していく。


 そしてそれを持つ手を空に掲げ、更に、更にその光玉を大きくしていく彼女。

 それはどこまでもどこまでも大きくなり、

そしてそれは下に見る星。そして付随する太陽系を超え、銀河にその姿を確認できる程肥大化していく。それは銀河すら超え、もはや世界、いや宇宙に存在する全ては光玉に飲み込まれていった。

 大きく光り輝く光玉。だがそれはフッとその姿を消すと。

 後には、何も残って居なかった。

 そこには星も無い。何もない。

 無。

 完全な無となって、そこに白く存在する。

 彼女の居た銀河、宇宙は無となった。

 無とは、白いものなのだ。

 それは彼女が幼い頃、記憶に埋め込まれた知識。

 だが、実際に見た事は無かった。

 なぜなら彼女はまだ幼いから。

 だから、こんな間違いも起こしてしまう。


「ここは、パパが居た世界じゃないもん」


「私は、悪い子じゃないもん……」


 どこまでもどこまでも透き通った世界。

 いや、無となった白の世界で、彼女はただ一人、色と形を残しそこに存在する。


「私は悪い子じゃない、そうだ、だって…」


 何もない空間。そこで一人、悲しみに震えていた彼女はある事実に気づいた。


「あれ?この宇宙は、何もない空間なのか」


 自分が壊した筈の世界。壊した宇宙、壊した銀河。純白に染まったその空間を忘れて、彼女は白々しくそう言い切った。


「なーーーんだ。ここは何も無いのか」


 途端に普段の笑顔を取り戻す彼女。彼女はしばらくその世界でゆらゆらと遊泳していたが、しかし思い立って、言葉を放つ。


「何も無いなら、私が新しく作ってやんなきゃ!!」


「まったく世話の焼ける時間軸ですこと!」


 彼女がそう宣言してそれから。

 それから、新しい宇宙が生まれた。

 世界を生み出す闇が白の空間を暗黒に染め、世界に様々な星々が生まれる。

 生まれ変わった宇宙。生まれ変わった世界。

 そして、自分が作り替えた世界で、彼女はまた言葉を発するのだ。


「私は、自分から作るのは苦手」


「だから、他の姉妹みたいに自分で作って育てたりしない」


 彼女はそう言って、自分のお腹をさすると。


「私の中の体内宇宙くん、そういった意味で、君達はとても幸運な存在なんだよ」


 自分の腹に対して話しかける彼女。

 自分の腹に宇宙などある訳がない。

 だが違うのだ。そこに宇宙はある。

 そこに人は居る。そして営んでいるのだ。

 そしてそれが、彼女の動力源。


「ここで出来た命も、宇宙も、そこにあるがままに流れれば良い」


「私が他に移る。そして他でまた、姉妹の為にご飯を持って行ってあげるんだ」


「パパ」


 彼女の、この世界での最後の言葉。


「パパ、私って良い子でしょ?」


 彼女はそう言って笑うと、その世界から消える。

 そして彼女が消えた世界。

 その世界で、全ては静かに動き出していった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ