木場隼人の場合
特に行く予定のなかった中学の同窓会に態々来る事になったのは、担任が「アイツも来るかもな」と言ったから。
少し遅れて会場である居酒屋にやって来た俺を端の空いている席に座らせ、遠い席で担任は目だけでニヤリと笑った。
「久しぶりだな木場。
雰囲気変わったから、一瞬誰か分からなかったよ」
話しかけてくるのは…確か時坂、だったか?
いつも何かに苛立って八つ当たりするように暴れていた俺に、他の奴と変わらない態度で話しかけてきたのは、担任と時坂、それと、アイツだけだった。
「昔は近寄るなオーラ出してたもんなあ。
今はただのイケメンだし。
あ、何飲む?ビールか?」
「(うるせぇ…)」
既に酔っているのか、ぎゃあぎゃあと騒がしい。
中学の時の俺なら、舌打ちして黙らせるか、物理的に静かにさせていただろう。
「――――あ、上本さん!久しぶり!」
その名前に反応するが、そちらに顔を向ける事が出来ない。
「上本ー!
こっち空いてるぞー!!」
へらりと笑う時坂が呼ぶ。
俺が出来ねぇ事をあっさりとやりやがって…
「上本さん久しぶり。
メニューどうぞ」
「あ、ありがとう七海さん」
上本由奈。
とても真面目で、いつも教室の端の席で本を読んでいて。
人見知りだが、ふわりとした笑顔に落ち着いて。
俺は、彼女に10年近く恋をしていた。