上本由奈の場合
偶然手持ちの仕事がない時に、同窓会開催の手紙が届いた。
最初に思い浮かんだのは、自分が所属していた図書委員の日常。
昔から本が大好きで、海外の文庫作品を主に扱う出版翻訳家という職業にまで就いてしまっている私は、朝昼放課後と休み時間を削ってほんの貸出作業をする図書委員に所属していた。
勿論、私以外立候補者はいなくて、ほとんどがクジやじゃんけんに負けて嫌々所属している子たちばかりだった。
休み時間や放課後にも誰も来なくて、毎日私が担当してたけど、私にとって静かな図書室は居心地の良いところでしかなかった。
彼にも、会う事が出来たし。
「上本ー!
こっち空いてるぞー!」
少し遅れて到着した私に遠くから声をかけてくれたのは、クラスの人気者だった時坂君。
地味で目立たない私にも良く話しかけてくれた。
近くには学校一の美人兄妹といわれた九十九さんたちや、九十九さんの親友の七海さんもいる。
正直気後れする顔触れだなあ…。
「(あ…)」
正面の時坂君の方を向いているから横顔しか見えないけれど、その横顔だけで少し頬が熱くなる。
座る場所が机の端のあの人の隣しかなくてどうしようと思ったけど、彼が何も言わずにずれてくれて間の七海さんの隣に座らせてもらった。
と言っても、結局隣はあの人なんだけど…。
「メニューどうぞ」
七海さんの差し出してくれたメニューを受け取り、お酒の飲めない私は烏龍茶を注文する。
もう皆大分飲んでいるみたいだけど、嫌そうな素振りを一切見せずに乾杯してくれた。
「(話しかけても…良いのかな…)」
どうしても話したかった人が、今隣にいる。
「久しぶりです、木場君」
「…おう」
こっちを見てくれて、返事も返してくれた。
木場隼人君。
凄く喧嘩が強くて、いつも1人でいて、でも授業は真面目に受けてて。
ぶっきらぼうだけど、口角を上げて笑う姿はとてもカッコよくて。
私は、彼に10年近く恋をしていた。




