8
噴水広場前には大きなゲートがある。そのゲートは時刻表に従って違う国や、またそれに含まれる都市と繋がっている。バスや電車や飛行機みたいなものだ。勿論、戦争状態にある国にゲートが繋がることは無いし、敵対国同士もゲートでつながることは無い。それにこのゲートがあるのは大きな都市だけなので、行ける場所は限られる。だからSAでの基本な移動方法はこのゲートで目的地最寄の都市へ飛んで、そこから更に遠くなら途中に村とかがあるなら乗合馬車などに乗って目的地の近くの村まで行き、そこから更に徒歩や召喚獣等に乗って目的地まで行く、という感じだ。逆に帰りの際は楽で、登録した場所まで飛べるアイテム『飛翔石』や拠点に帰れる『帰還石』を使えばよい。
そのゲートの正面にグラン達はいた。時間は12時55分、五分前行動は日本人の性だ。
「こんにちは」
「ようワカ。紹介しよう、ウチのクラン『リザーズ』のメンバーだ。お前たち、コイツが昨日言ってたワカだ」
「あ、ワカはあだn・・・」
「よろしくー」
「よろしく」
「よろしくねワカさん」
「・・・よろしくお願いします」
むぐぐ・・・あだ名を正せなかった。まぁいいか今度で。全員と握手を交わす。
「俺はサトール、弓使いだ」
サトールは灰色のリザードマンだ。背中に赤い大きな弓を背負っている。
「ヴァニキス、呪術師をしている」
ローブを着てそのフードを目深に被っていて顔は良く見えないが、ローブの下から見えているその尻尾は忙しなく動いている。綺麗な白い色をした尻尾だ。
「私、獣使いのアキって言います。今日は来ていただいて本当にありがとうございます」
「お」
「はい?」
「いや、珍しいなと思って」
「よく言われます」
アキは名前から分かるかも知れないが女性だ。リザードマンのプレイヤーはそもそも数が少ない。折角のゲームなのだから、普通の人は見た目の良い種族やロマンある種族を選ぶ。リザードマンにだってロマンがあるが、普通の人が求めるそれとはかなり違う。更に、リザードマンはその身体的特徴により装備を選ぶ。街に行けば買えるが、NPCから買える防具は普通の性能しかなく、強い防具が欲しいと思ったらプレイヤーから買うしかない。となると、基本的にオーダーメイドになるがそもそもリザードマンのプレイヤー人口が少ないため、それに合った物を仕上げる事が難しい。あと、可愛い服が似合わない。といった理由で、リザードマンのプレイヤー人口は少なく、女性ともなるとゼロに近い・・・なのだが、ここにその女性プレイヤーが居たのだ。声も漏れ出ようものだ。
「本当に初心者装備なんですね」
「うん、そうだよ。始めてから今まで、ずっとこの装備なんだ」
「ちなみにいつからですか?」
「ベータテストの時からだから・・・ざっと五年位かな?」
「ベータテストの時から!?え、ベータテスターっ!?」
「うん」
「はぁ!?」
「何だって!?」
「うそだろ!?」
今、トップランカーとされているプレイヤーの殆どがベータテスターだ。『オプサラス』のメンバーにもベータテスターは多い。故に、ベータテスターはこのゲーム最高の戦力を持っていると、一般には認識されている。だからこそのこの反応だ。
「その証拠に、ほら、ギルドカード」
ギルドカードにはプレイヤーの種族や職業、実績やクエストの成功率なんかの情報が記されている。当然、そこにはプレイ時間も記されている。
「よ、よんせんひゃくにじゅうななじかん・・・」
4127時間、それが僕がこのSAに五年間で費やした時間だ。別に廃人ではないが、毎日ログインしていたし、休みの日は殆どSAをしていた。一応ちゃんと勉強や仕事もしてるので大丈夫だ。問題ない。
「こんな装備だが、コイツの腕は折り紙つきだ。なんせ俺に勝つぐらいだからな」
「団長・・・」
確かにグランは強かった。それこそイチャモン付けに来たあいつらなんか屁でもない程だ。
「ま、そんな訳で今日はよろしく頼む」
そんな自己紹介の後、僕たちはゲートをくぐった。