27 閑話~創造者~
お久しぶりです。諸々の事が終わりました。
しかし、先に就職が控えております。就職するまでの間にある程度進めればと思います。
しかし、すいません閑話からです。
天満 兼丸はサラリーマンである。京都出身の母と東京出身の父を持ち、大阪で生まれ育ったハイブリット関西人だ。ちなみに父方の祖父は沖縄で、母方の祖母はイギリス生まれだ。その結果非常に濃い顔に産まれ、外国人に間違われることが多々あるのが彼の悩みだ。
それはさて置き、そんな彼はサラリーマンだ。もう少し詳しく言うなら、SAの運営会社でありブラックボックスの開発元でもあるNHCの社員だ。NHCは元はしがないパソコンメーカーであったが、天満の入社後急速に成長一躍大企業になった。
「おはようございます」
「おやようございます。今日は早いんですね?」
「えぇまぁ、今日はちょっと用事がありましてね」
「そうなんですか」
「では、急ぎますんで」
「お仕事、頑張ってください」
「そちらこそ」
出社してきた天満は受付嬢|(27歳、独身)と挨拶を交わす。余談ではあるが、関西人だからと言って、皆がテレビで見るような関西弁を使っている訳ではない。イントネーションこそ関西のそれだが、「せやかて」とか「まんがな」とかは正直な話あまり使わない。そもそも関西と言っても、兵庫だって広島だって奈良だって含まれているのだから、その範囲は非常に広いのだ。だからあれは関西弁ではあるが、一般の使うそれではないのだ。あれは、河内弁とかそういうのだ。正確に言えばもっと違うのだろうが、方言の区分程曖昧な物はない。それが、天満の自論だ。
話を戻そう。
受付を通り越し、社員エレベーターを越え、階段、廊下のさらに奥、そこに荷物運搬用のエレベータがある。上のボタンを押すとすぐに扉は開いた。
天満はエレベーターに乗り込むと、文字盤の上にある鍵穴に取り出した鍵を刺し回す。そして素早く文字盤を四回押した。少し手間だが、セキュリティの為には仕方ないのだ。
チン、とエレベーターが目的の階に到着した事を天満に知らせる。天満が今いるフロアは外部の人間のみならず、ここの社員、それもかなり上の人間であっても知る者は少ないフロアだ。ここは簡単に言えば隠し部屋だ。ワンフロア丸々といささか規模は大きいが、高層ビルだからこそ出来る所業だ。
「ふうぅ、さぶ」
天満は手を擦り合わせた。何故ここが寒いのか、そしてワンフロアも丸々何に使っているのか、その答えはそこにある一つの機械であった。「一つの」というと、一般人は首を傾げる事になるそれは、このフロアの床面積の70パーセント程を占めていた。そんな巨大な一つの機械、それはコンピュータであった。頭にスーパーと付くコンピュータだ。その名を「世界」と言う。スーパーコンピュータの出す熱は一般のコンピュータの比ではない、故にクーラーを切ることが出来ないのだ。本来こういったフロアは熱を逃がしやすいように地下に置くべきなのだが、訳あって地上階に置いている。その分排熱管理はしっかりとしている。
「世界」の間を抜ける。すると、部屋の中央に丸いドーム、ちょうどプラネタリウムを縮小したようなドームが現れた。そのドームには「世界」より多数のコードが繋がっていた。
そのドームにある小さな扉を開き、中に入る。
扉が電源の代わりになっていたのか、ドームの中に光が灯る。ドームの中央までガラスで出来た通路があり、ドームの中央には思考制御用端末と椅子、それとその周りをぐるりと囲む机があった。
椅子に座ると天満は口を開いた。
「おはよう。イヴ、アダム」
『『おはようございます』』
イヴとアダムは天満が中学生の時に開発したAIだ。授業で習った基本的なAIを元に(天満の2、3代前よりAI制作が義務教育に組み込まれていた)オリジナルの肉付けをし、完成させたのが元だ。イヴとアダムには自己学習機能、自己修復機能、自己忘却機能が備えられており、思考パターンはかなり人間に近い物となっている。彼らはAIであるが睡眠する。圧倒的に処理するデータ量が多い為である。片方がメインの処理を行っている間、もう片方は低レベル稼働となり、体に溜まった垢の様な断片ファイルなどを処理するのだ。
なぜそれ程までに処理するデータの量が多いのか、それはこのスーパーコンピュータが行っている事のためだ。「世界」と言う名は伊達でなく、実際に世界のシミュレートしている。過去から現在までの歴史・経済・学問・気象等、ジャンルを問わないデータを蓄積・処理し、歴史の狭間に埋もれた真実から未来に待ち受ける人類が回避しなければならない問題まで、様々な事象をシミュレート出来る。
しかし、それすらも天満にとっては足掛かりでしかなかった。天満の真の目的はファンタジーをこの世に体現する事であった。ファンタジーと言うと、魔法や魔術のそれを思い浮かべるだろうが、天満の言うファンタジーには超能力や不老不死等も含まれている。つまり『超常的な何か』を人の手、ひいては自分の手で成そうと言うのだ。
天満の研究により、一般に巨人と呼ばれる様な人種が何千年も前に居た事は分かっている。その巨人は指が六本あり、怪力の持ち主であったそうだ。世界のシミュレーションでもその巨人は登場し、圧倒的な勢力を誇っていた。しかし、巨人はとある少数部族に敗れた。まるで奇跡が起きたようだった。その奇跡こそが魔術・魔法と言われる物だった。巨人たちは突如同士討ちを始め、それは最後の一人になるまで続いた。
このシミュレーションより、巨人のDNAデータ及び少数部族の魔術・魔法のデータを抽出し解析した。生憎、少数部族の魔術は麻薬による幻覚作用だという事が判明したが、巨人の体躯及び怪力は今の人間と異なったDNAマップから来るものだった。人間に同じDNAを組み込めば『怪力』と『巨体』を持たす事が出来るのだ。一つの『超常』を『通常』にした第一例である。
そういった事を始め、他にも今では失伝したとされる古流武術やダマスカス鋼の様なロストテクノロジーも復元にも成功した。中には先の麻薬の様な危険な物もあったが、進展はおおむね良好であった。
「世界」によってシミュレートされている世界は三つある。過去の真実を暴くための『過去世界』、遠くない未来を予測する『未来世界』、二つの世界を隠すために造られた『平行世界』。この『平行世界』こそがSAの世界であった。初めは小さかったこの世界もブラックボックスに処理を一部肩代わりをさせる事で、ブラックボックスの所有者増加に伴い広がって行った。今では二つの世界と同等かそれ以上の広さを誇っている。さらに新しい技術が日々この世界で生まれているという嬉しいおまけつきだ。
その三つ世界を管理しているのが天満であった。勿論天満自身が全てを見張っている訳もなく、主な管理はイヴとアダムが行っていた。それはSAにおける違法行為や迷惑行為の取り締まりや、初めてプレイする際のキャラクター作成の質問なども含まれている。その結果なのかイヴの事を『女神』、アダムの事を『死神』と呼ぶプレイヤーが多くいるらしい。
「って事は俺はあれか、『創造神』か・・・いや、ないない。気持ち悪っ!!」
そう一人ごちた天満に声が掛かる。
「よぅ、創造神さんよぉ」
「聞かれてた!?いや待て誰やお前!!?ちゃう、お前ら!?」
流暢な、しかし違和感の残る日本語を話すそれは、おおよそ日本では見られる事の無い装いをした男、いや男達の一人から発せられたものだった。
「そんなこたぁ、どうでもいいんです。それよりもっともっと重要な事があるでしょう?」
日本では見られる事の無い装い、つまるところ全身黒ずくめのコンバットスーツ(特殊な電磁パルスを流すことによって収縮する人工筋肉と関節部にある小型モーターによって身体能力のアシストを行う戦闘用のスーツ。マッスルスーツとも言われる)を着込み、手にはこれまた大層なシロモノを抱えている。色的には黒だが。
「ふん」
恐れを吐き出すようにして天満は鼻を鳴らした。これは予想していた事だ。なんら、問題は無い。
「一体どういう要件ですか?えぇ?某国のエージェントさんよ」
何故か喧嘩腰になってしまった。天満はテンパると喧嘩腰になる癖があるという事を今になって思い出していた。
「要件はただ一つ『世界』を譲れ、さもなくば殺す」
「・・・・・・」
あえて世界と強調している辺り、天満が造り上げた「世界」の価値を知っている者であるという事だ。世界の秘密を知る者は極僅かしか居ない、それはこの「世界」が実際の世界を変えてしまう事も容易なものであるからだ。
実際、この「世界」より生まれた技術が世界を変えて来た。それこそ、今まで不治の病とされてきた病気の治療や先の巨人技術であったり、傍目で見れば大きなモノではあるが、そんなこと(・・・・・)は「世界」の持ちうる力からすれば微々たるものであった。
『過去世界』を見れば現代社会の基盤を壊せるだろう。なぜなら今まで人が信じていたモノの真実が暴かれるのだから。
『未来世界』を見れば世界を作り変える事ができるだろう。なぜなら全てを知れるのだから。
「・・・ふ」
「何がおかしい」
「いや、そんな分かり切った事を聞くとは・・・いやはや、君たちは本当に馬鹿だな」
「・・・答えは?」
天満の答え(かどうか微妙なのは別として)に苛ついたように男は先を促す。
「勿論・・・NOだ」
「そうか、それは残念だ・・・・殺れ」
男が手を振り降ろし、部下が引き金を引き、天満は胸を穿たれ倒れ伏した。
「「「「・・・ふふ、ふふふふふふ、あはは、あーはははははは!!!!!!」」」」
「なに!?」
「なんですか!?」
「隊長!!」
突如として室内を満たした笑い声に男達は(一人女性もいたようだ)混乱した声を上げる。ただ一人を除いて。
「落ち着け、お前たち」
天満と話していた男だった。男は天満の死体と思われる物を念のためその手に持つ銃で撃った。反応は無かった。
「「「「ははははは、ひーーーー!!無駄や無駄や!!弾の無駄や、なんせ俺は死んでるんやからなぁ!?それともあれか?ゾンビだとでも思ってんの?やっぱ本場は違うねぇ!!」」」」
そして、男は一つの可能性に思い至った。そして、その狂気に戦慄する。
答え合わせをするかのように、男達のいる部屋の中央に一つの映像、いや一人の人物が投影された。
「おまえは・・・」
「ああ、俺だ。天満兼丸、今ここでお前の部下に殺された者だ。しかし、この『目』で自分の死ぬ姿を見るとは思わなかった。いや、知っていたが中々に衝撃的だ」
「お前は、どこまで知っている?」
「全てだ・・・とは言えないが、少なくともお前たちの上司の家族の名前ぐらいは言えるな。予算の正確な数字も言ってやろうか?」
「いや、いい・・・この任務は失敗だ。更に、飛んでもない物を世に解き放ってしまったようだ」
「隊長!!ここを破壊すれば!?」
「無駄だろう、恐らくここもダミー・・・とまでは言わないが、ここを壊しところでコレは消えないだろう。仕方ない撤退だ」
「おーおー理解の早いこって」
「だが、我々は諦めることはない」
「は、精々頑張れや」
男達は来た時と同じく、音もなく帰って行った。
「さて、この死体どうするか?」
割と現実的な問題に頭を悩ます天満であった。




