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お館様の代理人 呪いの館を相続したはずが館にめちゃくちゃ世話焼かれてるんですけど!  作者: zingibercolor
3章

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楽しくやってくれればそれが一番なんですけど

 お昼はまた庭の東屋で食べた。東屋に絡んだつるバラはまだまだ盛り、満開の花びらがこぼれ落ちそう。赤いガーベラやピンクのポーチュラカ、藤色の日日草や玉簾の白い小花なんかも咲いている。花の名前は全然わかんないんだけど、今咲いてる花の名前は、ヤカが丁寧に教えてくれた。

 アサリとキャベツの酒蒸し、ブロッコリーのしらす和え、ニラもやしと卵の炒め物、デザートに九さんち産の柿。みんなでおいしく食べつつ、なんとなく金銀妖狐の話題になった。私は矢車ちゃんに言った。


「パソコンとか防音室とか、見積もり出してくれたら払うけど、ちゃんと使える、値段に伴う質のものを選びなね? きちんとしたものを長く使うのが一番いいんだから」

「はい! きちんと調べます!」


 薄荷ちゃんが矢車ちゃんを見た。


「あとで和泉さんにも相談したら?」

「うん」


 イズミさん? 私は薄荷ちゃんに聞いた。


「それ、誰?」

「私たちのインターネットの先生です、矢車ちゃんはバズりたいんですけど、身バレっていうのがとっても危ないから、顔を隠せるぶいちゅーばーっていうのがいいって和泉さんに言われて」

「なるほど」


 九さんのところは女子校みたいなところらしいから、女の先生かな?

 矢車ちゃんはもぐもぐしつつため息をついた。


「和泉さんには、身バレの可能性が低いから動画を勧められたんですけど。私、本当はライブ配信もしたいんです……」


 それはねえ。VTuberの主流はライブ配信だしねえ。私は、少し考えた。


「うーん、配信も別に止める気はないけど、うちで起こったことを全部しゃべられるのはやっぱり、防犯上ねえ……特定が怖いし……」


 そして、私は思いついた。


「積極的に嘘ついてけばいいんだ。いい、矢車ちゃん、VTuber金銀妖狐は見栄ばっかはって金のない老婆の家でメイド中! 横浜なんかじゃなくて山奥のド田舎で館なんてたいそうなものじゃない! 主人の老婆は本当に金がなくて安月給! 老婆は老婆なのにムキムキで暴漢もひと殴りで倒せる! あともっとムキムキで強くて何でもできる用心棒がいる!」

「むちゃくちゃじゃないですか!」

「VTuberの設定なんてむちゃくちゃでナンボでしょ」


 柴胡ロジーなんて、設定上は人の心理を調べに来た異星人だぞ。まあ中の人の存在感がでかすぎて設定を貫通してるけど……。

 ヤカはびっくりしていた。


{私は用心棒なのか……}

「頼りにしてる」


 そう言ってヤカにウインクしてみせると、ヤカは何故かガチガチに固まってしまった。なんで?


「どうしたのどうしたの、強盗のこと考えたら怖くなっちゃった?」

{い、いや、そういう訳ではないが……}


 食べる手を止めてヤカの背中をなでていると、矢車ちゃんが決意したように言った。


「和泉さんに相談してみます」


 薄荷ちゃんが矢車ちゃんに優しく言った。


「後片付け私するし、すぐ連絡しなよ」

「ありがとう」


 で、ご飯が終わって薄荷ちゃんがお皿を下げる中、矢車ちゃんはスマホで何やら打ち込み、「よし!」と顔を上げた。


「和泉さんにLINEしました」

「いい返事くるといいね」


 そして館に戻って、さて自室に行こうかと思っていたら、スマホの着信音が響いた。私のじゃないな、誰のだ?

 矢車ちゃんが慌ててスマホを取り出した。


「和泉さんだ! はい、もしもし!」


 矢車ちゃんは真面目な顔で話しだした。どんなこと言われてるのかな。


「はい……はい……あ、はい、ご主人様の提案で……はい」


 矢車ちゃんはスマホから耳を離し、私を見た。


「あの、和泉さんがちょっとお話できないかとおっしゃるんですけど」

「はいはい、変わるね」


 スマホを借り、「もしもし?」と言うと、返事があった。


「もしもし?」


 それが明らかに男性の声だったので、私はびっくりした。


「え、男性の方だったんですか?」


 イズミっていうから女の人かと!

 電話からは苦笑する気配がした。


「あ、苗字だと間違えられがちですね……和泉豊と申します、WEB編集兼ライターをしています」


 名字かー! WEB編集者なんだ、だからインターネットに強いんだ。

 私も、失礼のないように名乗った。


「はじめまして、牧之原真希と申します。矢車ちゃんの雇い主です」

「はじめまして。矢車ちゃんが、VTuberで動画じゃなくて配信をしたいけど大丈夫かってことだったんですけども」

「はい、私の方はですね、気をつけては欲しいけど、楽しく活動してくれるならと思っていて。矢車ちゃんの動画見たんですけど、特にまずいことは言ってないし、VTuberの設定としてフェイクを盛りまくった上で特定に気をつけてもらえれば、私はうちで起きたこと多少雑談配信してもらっても構わないんです」

「そうですね、牧之原さんがチェックしてくださるなら大丈夫でしょうね」

「へ? そうですか?」


 私が変な声を出すと、和泉さんは優しく言った。


「フェイクという発想が出る方ですから。気にしてない人はそんな発想出ません」


 うわ、歴戦のインターネット戦士の言葉だ……いや私も人のこと言えないけど……。


「じゃあ、なるべくチェックしときますね」

「はい、では矢車ちゃんに代わっていただけますか?」

「はい」


 電話を矢車ちゃんに返す。矢車ちゃんはまだ少し和泉さんと話していたが、やがて電話を切った。


「牧之原様と相談しながらやりなさい、って言われました」

「はいはい、いつでも相談に乗りましょう」


 それから、私はまた思いついて言った。


「フェイク入れまくりなら、こないだの天照大御神様と宇迦之御魂神様との会合でてんてこ舞いだったとか話してもいいかもね」


 矢車ちゃんは目を輝かせた。


「それ話したかったんです! やります!」

「よし、頑張れ」


 活動を楽しんでるVTuberが増えたなら、嬉しい。裾野が広いほど、頂点は高くなる。これも、頂点の柴胡ロジーのためになったらいいな。

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