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お館様の代理人 呪いの館を相続したはずが館にめちゃくちゃ世話焼かれてるんですけど!  作者: zingibercolor
第2章

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それでも絶対渡さないんですけど

 遺産相続でめちゃくちゃ骨を折ってくれた弁護士さん、西野さんが館にやってきた。私がしっかり館に住んでいるか見るためである。館に住んでいないと、掛川右京氏の遺産を相続できないことになっている。西野さんは弁護士事務所の開業費用を掛川氏に全額出してもらったとかで、ものすごく掛川氏、お館様に忠実なのである。

 で、私は普通に館に住んでいるので、普通に西野さんに居住実態を見せた。あんまり片付いてなくて恥ずかしかったけど、東館の自室を見せ、それからちょくちょく使っている厨房の全自動コーヒーメーカーなんかも見せた。西野さんは普通に納得してくれた。別に敵ではないのだ、むしろとても良くしてくれている。

 その後、西野さんは少し話があるとのことで、私は西野さんを応接間に案内し、厨房のコーヒーメーカーでコーヒーを淹れて出した。西野さんは聞いてきた。


「掛川様は人を寄せ付けなかったので、入り用なものを売りに来る伝手も人もいませんが、牧之原様はお一人で大丈夫ですか?」


 これも善意で聞いてくれている。私があまりにも体力がないことを、彼はこれまでのやり取りでよく知っているので。ものすごい金持ちだと、デパートやら何やらがあっちから売りに来るそうだが、掛川氏はそういうのを全部断っていたとのことだ。

 私は普通に答えた。


「Uberとかネットスーパーとか、あとAmazonと楽天とヨドバシでなんとかなってます」

「館の手入れは困っていませんか? 掃除とか」

「あー、それは、なんというか心配いらないと言うか、その……」


 どう言うべきだろう。館の手入れは多分全部お館様がやってくれてるわけで。でも、どうやって切り出そうか……。

 私は悩み、無難なところから切り出した。


「幽霊とか信じますか?」


 西野さんは戸惑った。


「うーん、霊感はないので、なんとも……」

「なんか……多分掛川さんだと思うんですけど、なんかポルターガイスト的に世話してくれるし、館の管理も多分全部してくれてるんですよね」

「ど、どういうことです……?」


 さらに戸惑う西野さんに、私はこれまでに起きたことを話した。西野さんは、大変に困惑していた。


「そ、そうなんですか……」

「私も受け入れていいものかとは思ってるんですけど、楽なので」

「そ、そうですか……」


 西野さんはどう受け止めていいか分からないみたいだったが、「いえ、別件で気をつけていただきたいことがあるんです」と、切り替えた声を出した。


「なんでしょう?」

「玉藻ミクという女性についてです」

「玉藻ミク?」


 知らない名前だ。どういう人だろう。


「玉藻ミクという人は、財政界で大変知名度のある人なのですが、その……」


 西野さんは困り顔で説明してくれた。かなり言葉を選んでいたが、乱暴に翻訳すれば、玉藻ミクという人は、財政界で次々と男を落として貢がせてる超絶美女だそうだ。単に顔がいいだけじゃなくて、男を落とす手練手管が素人じゃないんだとか。

 いや、すごい人だとは思うが、その人がどうしたんだ? 私、経済的にはその人に擦り寄られてもおかしくないけど、別に私、女に落とされるタイプの女じゃないんだが?

 西野さんが最後に言った言葉で、その疑問は氷解した。


「その玉藻ミクさんが、この館に非常に興味を示しているそうなんです」

「興味? 見に来るんですか?」

「一言で言えば、この館を気に入って、欲しがっています」


 え、やだ。

 この館に住まないと遺産をもらえないのはあるけど、それがなくてもやだ。

 ずっと助けてくれて、優しくしてくれて、心配してくれる存在がいるこの館。一人暮らしの虚弱人にとって、ありがたすぎる。絶対に手放したくない。

 なので、私は西野さんに言い切った。


「絶対渡しませんよ」

「そう思ってくださってるならいいのですが」


 西野さんが少し安心したように表情を緩めたとき、知らない女の人の声がした。


「あらまあ、それはどうかしら。私、欲しいものは絶対に手に入れるタイプなのよ」


 え、誰!?

 声のした方を向くと、えらくきれいな女性が立っていた。タイトでシンプルな黒ドレスが包むのはグラビアアイドル並みのプロポーション、柔らかくウェーブを描く黒髪はつややか。ひときわあでやかな、赤リップの唇が微笑んだ。


「ひとまず、お邪魔虫には帰っていただこうかしら」


 すると、西野さんがバネ仕掛けのように立ち上がった。そして、ギクシャクした動きで玄関へ歩き出す。な、何!?

 西野さんの顔は、明らかに動揺している。


「な、何を……」

「あなたはまっすぐ帰るの。私のことなんて、関わらなくていいのよ?」


 何!? 西野さん好きで帰るんじゃないの!? 何これ、まるで操られてるみたいな……。

 びっくりしてる私を置いて、西野さんは玄関から外へ出ていってしまった。そして、知らない美女は私に微笑みかけてきた。


「さて、この館をくださる? タダとはいいませんわ、査定額の10倍を用意いたします」

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