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『世界のシナリオにハメられた「黒煙の魔女」の娘、一子相伝の【魔法障壁全貫通】で理不尽な運命もバカ王子もすべてブチ抜く  作者: ルツ


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目覚めた記憶と、静かな魔女

 ──脳みそが沸騰するかと思うほどの高熱に浮かされた夜、私は自分が二度目の人生を生きていることを思い出した。「はぁ……はぁ……、あ、あれ……? 私、なんでベッドに……じゃなくて、あっちの記憶・・・・は何!?」 

ガバッと跳ね起きた私の頭の中に、濁流のように流れ込んできたのは、前世──日本という国で女子大生をやっていた頃に狂ったように遊び倒していた、とある乙女ゲームの記憶だった。 

タイトルの名前は『ルミナス・ファンタジア』。 

光の聖女であるヒロインが、王国の麗しき王子や騎士たちと愛を育み、世界を脅かす闇を払うという王道中の王道ファンタジーRPGだ。 

そして、冷や汗を流しながら自分の両手を見つめる。 鏡を見なくても分かる。今の私の姿は、夜の闇を溶かしたような漆黒の長髪に、妖しく輝くアメジストの瞳。 私の名前は、レオナ。

「嘘でしょ……私、あのゲームのプロローグで早々に退場した、史上最悪の悪役魔女──『黒煙の魔女』の娘じゃん!!」 

そう、この世界はゲームの本編が始まる『10年後』の世界。 

かつてゲームのヒロインを激しくいじめ抜き、王族を騙そうとした罪で、身ぐるみ剥がされて辺境の村へと流刑にされた大悪党。それが、私の今世のお母さんだった。 ゲームの公式設定資料集には、お母さんの最期についてこう書かれていた。

『黒煙の魔女は辺境の流刑地で、己の罪を反省することもなく、孤独のなかで野垂れ死んだ』と。 

しかも、現在の王都の状況は最悪だ。 

お母さんをハメて英雄気取りになった当時の王子やヒロインは今や国王と王妃となり、その血を引いた子供たち──つまり『親の権力を我が物顔で振りかざす、傲慢な第二世代の王子たち』が、ゲームの攻略対象として学園でイキり散らかしているらしい。 

完璧なまでの格差社会。偽りの正義が支配する世界。それが、私の置かれた現状だった。 

ギィ……と静かに木のドアが開いた。 

そこに立っていたのは、長い黒髪を雑に一つに結び、感情の読めない紫の瞳をした女性。 

世界中から『最強外道』と恐れられ、歴史の教科書に悪名を刻まれた元・大悪党。 

私のお母さん、その人だった。 

お母さんは無表情のまま、私のベッドの横にトントン、とお盆を置いた。 

湯気を立てているのは、私が大好きなトカゲの肉(地元の高級魔獣の肉)のスープ。その横には、丁寧に煎じられた薬のすり鉢。

「お、お母さん……?」

「……起きたんだ。熱、下がったね」 

お母さんはボソッと、ひどく抑揚のない声で呟いた。 そして、私の額に自分の冷たい手のひらをそっとあてる。「まだ少し、熱い。スープ、残したら呪うから」 呪う、なんて物騒な言葉を淡々と言いながら、お母さんは私の布団をそっと胸元までかけ直してくれた。 

──私は知っている。お母さんの服の袖口に、深夜にしか生えない貴重なハーブの泥が少しついているのを。 口数は少ないし、いつも何を考えているか分からないけれど、私のために寝ずに薬草を摘んできてくれたのだ。 公式資料集の嘘つき。お母さんは孤独に野垂れ死んでなんかいない。感情表現が死ぬほど不器用なだけで、誰よりも優しくて、村の平民たちの怪我や病気を無償の薬術で淡々と治して深く慕われている、最高のお母さんだ。

「ありがとう、お母さん。大好き」

「……何それ。熱で頭がおかしくなったの? はやく食べな」

お母さんはパチクリと瞬きをして、少しだけ耳を赤くしながら、すたすたと部屋を出ていってしまった。

 私はスープを口に運んだ。五臓六腑に染み渡るくらい、温かくて美味しい。

「……決めた。私は、お母さんを絶対に孤独になんてさせない。ゲームのシナリオだか何だか知らないけど、そんな理不尽な運命、私が全部ブチ抜いてやるんだから」 小さな胸の中に、静かだが消えない復讐と反逆の炎が灯った。 

数分後、今度は静かにドアがノックされた。「レオナお嬢様。お目覚めになられたと大奥様から伺いました。お体の具合はいかがですか?」 

入ってきたのは、私と同じ14歳ほどの少年だった。

 仕立てのいい、けれど少し着古した衣服を端正に着こなし、手には食後のハーブティーを載せた銀盆を持っている。 

彼の名前はジーク。

 かつて王都でお母さんに仕え、この最果ての流刑地まで同行してくれた忠義の元執事──数年前に病で亡くなったおじ様の息子であり、私の身の回りの世話を完璧にこなしてくれるオールマイティな幼馴染だ。

「ジーク。うん、もうすっかり大丈夫。心配かけてごめんね」「滅相もございません。大奥様は『あんな小娘、放っておけばいい』と仰りながら、裏山で寝ずに薬草を採取しておられましたが」

「ふふ、お母さんらしいね」

 ジークはクスリと上品に微笑むと、手際よく部屋の片付けを始めた。 

彼はとにかく万能だ。料理、洗濯、家の修繕はもちろん、お母さんから教わった基礎的な隠密術や護身術も完璧にこなす。流刑地という過酷な環境で、私たちが不自由なく暮らせているのは、お母さんの薬術と、ジークのこのオールマイティなサポートのおかげだった。

「ねえ、ジーク。私、ずっと気になってたんだけど……」

「何でしょうか、お嬢様」 

私はベッドから足を下ろし、ずっと胸に引っかかっていた疑問を口にした。

「私のお父さんって、どんな人だったの? お母さんに聞いても、いつもはぐらかされちゃうから」 

ジークの手が、一瞬だけピタリと止まった。

 彼は困ったように視線を落とし、静かに首を振った。「申し訳ありません。私の父も、その件に関しては大奥様から固く口止めされていたようで、私には何も……。ただ、父が一度だけ漏らしたことがあります。『あの御方は、この世界で最も不器用で、最も気高い御方だった』と」

「不器用で、気高い人……」 

やっぱり、ゲームのシナリオにはない、何か深い事情がある。 

ジークが部屋を出た後、私は前世の記憶を頼りに、お母さんの部屋の奥にある、古びた木箱を開けてみた。お母さんが「触っちゃだめだよ」と静かに言っていた、厳重な鍵がかけられた箱だ。 

けれど、今の私には前世のゲーム知識がある。

ゲームキャラクター達のアイテムの隠し場所の構造を思い出し、仕掛けを外して蓋を開けると──そこには、上質な絹の布に包まれた【何か】があった。 

そっと布をめくる。私の目が驚愕に翻った。

「これ……大剣の、切っ先……?」 

それは、まばゆい白銀の輝きを放つ、美しくも強固な金属の破片だった。 

ゲームの知識が告げている。これは一般の騎士が持つような代物じゃない。

国最高峰の聖金オリハルコンで作られた、神聖な大剣の破片だ。

「お母さんが、国から持ち出した未練の品……。これを現役で扱える人間なんて、この世界に数人もいないはず」 そのとき、私の胸の奥がドクンと跳ねた。 

破片に触れた瞬間、私の中に眠っていた魔力が、まるで共鳴するように激しく脈動したのだ。

 全属性が混ざり合った、不気味で圧倒的なハイブリッドの魔力。お母さんから受け継いだはずの私の闇の魔力が、なぜかこの『聖なる白銀の破片』を拒絶せず、愛おしそうに受け入れている。

「……私の紫の瞳。そして、この聖金と共鳴する魔力。パパ、あなたは一体誰なの?」 

掴みかけた謎の糸口。けれど、今の私にはまだ、その謎を解き明かすための力が決定的に足りない。 

この先、私が王都の学園へ進めば、偽りの英雄たちの子供(傲慢な王子たち)が私を待ち受けている。

お母さんをハメた黒幕たちも、のうのうと権力の座にふんぞり返っているのだ。

「待っててね、お母さん。ゲームのシナリオだか何だか知らないけど、お母さんに泥を塗った奴らも、理不尽な世界のシステムも……私のこの魔力で、全部ブチ抜いてやるんだから」 

小さな胸の中に、静かだが消えない反逆の炎が灯った。 お母さんを、お父さんを、そして世界を縛るすべての『偽りの盾』を粉砕するための、私の地獄の修行レベルアップの日々が、今ここから始まる。

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