[24]
8月も終わりに近づいている。
まだまだ暑さが続いている暁月町に6両編成の電車が熱気を切り裂いて走っている。
そして定刻通り暁月駅へと入っていく。
電車のドアが開く。
ふわり、と空気が変わった。
山の静けさとは違う、少しだけざらついた日常の気配。
人の声、アナウンス、遠くで鳴る踏切の音。
「・・・・ふぅぁぁぁぁーーっ」
暁月駅のホームに降り立った瞬間、真子は大きく伸びをした。
背筋を反らし、両腕を上にぐーっと伸ばす。
「やっと戻ってきたーっ・・・・!」
肩の力が抜ける。
金翅寺の空気も嫌いじゃない。
でも、ここはやっぱり「帰ってきた」と思える場所だった。
「よしっ!」
真子は一息、気を入れて、人の流れに合わせて、ゆっくり歩き出す。
改札へ向かいながら、ぼんやり周囲を見渡した。
前回は2年4ヶ月振り、
今回は1ヶ月振りで短いが、
久しぶりの景色、
刷新されている看板。
どこか、出張の多いサラリーマンが帰ってくる気分である。
(あたしは、高校生だってさ・・)
そんなくだらない、1人ボケツッコミをいれていた・・その時。
「あれ?・・・・まこち?」
声。
聞き慣れた声のする方へ顔を向ける。
「ん?」
視線の先。
裕子と浩太が立っていた。
「あーーっ!」
真子の顔がサラリーマン顔からぱっと明るくなる。
「ゆーこ! こーた!」
2人も驚き顔で歩み寄ってくる。
「わぁー、まこち、久しぶりー!」
裕子が嬉しそうに手を振る。
浩太も少し照れたように笑った。
「帰ってきたんだな」
「うん、今さっきね!」
3人の距離が一気に縮まる。
自然に会話が始まる。
「どうだった? 修行」
「いやもう、地獄。うちの師匠はスパルタクソババアだからヤバいよー」
裕子が苦笑する。
「言いかた・・・・」
軽口が続く。
でも。
真子の中に、小さな違和感が生まれていた。
(ん?・・・・あれ?)
裕子と浩太。
並んで立っているのに、どこか距離がある。
目線が微妙に合わない。
言葉の間に、ほんの少しだけ空白がある。
(前はもっと自然だったよね・・・・)
真子がぽつりと口を開いた。
「・・・・ねぇ」
真子の視線が、二人の間を往復する。
2人が同時にこちらを見る。
「貴方たちって、そんなギクシャクした感じだったっけ?」
スパーーンッ!
一刀両断
切先が空気をも止める。
裕子と浩太の表情が、同時に固まった。
「・・・・え?」
裕子が小さく息を飲む。
浩太は視線が泳ぐ。
なんとも言えない、曖昧な顔。
その瞬間だった。
――ぶぅぅわわわわ・・・・
真子の脳内へ、情報が流れ込んでくる。
感情。
記憶。
迷い。
裕子の浩太に対する想い。
浩太の裕子に対する感情。
すれ違い。
言えなかった言葉。
誤解。
後悔。
(・・・・うっわ)
(お、おっも・・・・!)
思わず顔をしかめる。
頭の中に、二人分の感情が重なって沈んでいく。
真子はゆっくりと息を吐いて心を落ち着かせる。
そして。
腰に手を当て、ぷくっと頬を膨らませた。
2人を交互に見て、強く口を開く。
「・・・・ちょっと」
「貴方たち、今からお説教ね」
「えっ?」
「はっ?」
同時に声が上がる。
真子はニヤッと笑った。
「場所変えるよ。ここじゃ人多すぎ」
くるっと踵を返す。
「喫茶白鯨、行くよっ」
有無を言わせない声。
2人は顔を見合わせる。
そして、慌てて真子の後を追った。
暁月の雑踏の中を、3人の背中が並んで歩いていく。




