8 傷心の遥⑥
「よし、終わった。では、私達帰るから…。矢島君はどうするの?」
「もう、終電を逃したから、今日は泊まっていくよ」
「そう、じゃあね、園村君、今日はありがとう…」
なんか気まずいな…とも思ったけど、家主に黙って帰る訳にもいかないので、最低限の挨拶はする。
「いえいえ。東雲さん、飯倉さん、またやろうね」
ようやく、遥と私は園村の家を後にした。さっきまであんなに園村家を出たかったのに…。いざ家を出ると、不思議と余韻が残り続ける。
ようやく女二人になって、話したいことがあるはずなのに…。しばらくは二人とも無言で、中途半端な半月や東京の変に明るい夜空を眺めながら歩いていた。ただ、夜の街に二人の靴音だけが変に大きく響く。
「遥、あんた、本当は知っていたでしょう?」
私は堪えきれなくなって、とうとう自分から口火を切ってしまった。遥は不思議そうに私をぼんやりと眺める。
「ん? 何を?」
「もう、しらばっくれてから…。園村が私に告白して来たのよ! まあ、断ったけど…」
「園村君が悠ちゃんに気があることは分かっていたけど、まさか今日言うとはね…。私はもう少し時間をかけた方がいいって言ったのに…」
「ほら、知っとるし。もう、泣いてばかりで、全然助けてくれないんだから…」
「だって、悠ちゃん、『恋愛は自己責任だ!』って言っとったし…」
確かにそう言われると、何も返す言葉はなかった。駅に着くと、二人はそれぞれ逆方向に向かう終電に乗るために別れを告げる。こうして、長くて短い夏の夜が終わった。




