8 傷心の遥②
ようやく、前期試験が終わった。いつの間にか梅雨も明けて、夏真っ盛りである。東日本大震災後、原発が動いていない影響で全国的に節電を余儀なくされている。
それなのに、猛暑の影響でほぼ毎日三五度を超える日が続く…。本当に死にそうだ…。節電の影響で大学図書館などの公共施設のクーラーの効き目が今イチであった。
まあ、何はともあれ、これでようやく熊本・御所浦島の実家に帰れるぞ。ただ、園前に天文同好会への挨拶をしないといけないだろう。
また、園村、矢島、遥、私の四人で内輪だけの前期お疲れ様会をすることとなった。要は理由をつけて、騒ぎたいだけである。東京でやるべきことさえ終われば、実家に帰れるのだ。ここまで来たら、何だってやってやる。
「東雲はえらいな…。東雲だけだよ。こうやって、わざわざ挨拶に来たのは…。僕が一年生の時はわざわざこんなことしなかったな…」
「あら、私は一年生の時に悠ちゃんのように挨拶に来ていたけど…。四谷君はそう言うこと、いい加減だからね…」
「相変わらず、平尾さんは厳しいな…。そんなことを言うなら、会長の仕事もやってもらおうかな…」
「いやいや、四谷君。私に会計処理や書類作成などできるはずもないでしょう…。もう、すぐムキになるんだから…」
「あの、すみません…。九月はいつ顔を出したらいいですか?」
二人の会話が意味もなくダラダラと続きそうだったので、頃合いを見計らって、次にいつ顔を出せばいいかだけ聞くことにした。しかし、二人には聞こえなかったのか、言い合いを続けている。全く、困ったものである。さらに大きい声で聞くことにした。
「あの! すみません!」
「悠ちゃん、どうしたの?」
二人がビクッとして、私の方を向く。そして、平尾さんが目をきょとんとさせて尋ねて来た。
「あ、お話中にすみません。次はいつ、顔を出したらいいですか?」
「そうねぇ。しばらく、天文に関するイベントもないからね。四谷君、どうしようか?」
「だったら、都天文連合合宿の時でいいんじゃないの?」
「じゃあ、八月三一日に来てもらえたらいいよ。他の一年生にも伝えられたら伝えといて。まあ、悠ちゃん以外みんな音信不通だから、無理だろうけど…。あ、もしよかったら、まだサークルに入っていない子で、一人連れて来てくれないかな? できたらでいいから…」
「分かりました。それでは失礼します」
「はい、お疲れ様。気をつけて、熊本へ帰るんだよ」
「ありがとうございます」
そうして、私は天文同好会の部屋を後にした。わずか十分足らずであったが、四年生と話すのはとても緊張する。それにしても一年生が私以外にいないとは…。
このままいけば、天文同好会は廃止に追い込まれる。四谷さんも平尾さんもあまりにも危機感がなさ過ぎる。それとも自分の代まで持てば、それでいいとでも考えているのだろうか。よく分からないけど、何かしっくりとしないな…。




