第23話
シルエルティの声にギルド内に居るプレイヤー達の視線が集まる、シルエルティはそれに気付くとミナトとユズリハに慌てて別室に行くように指示する。
「ミナト君、ユズリハ、奥の部屋で詳しい話を聞くから、先に行って待っていてくれる!?」
シルエルティは、そう言うとカウンターの奥に居る、人物に話しかけている。ミナトとユズリハは互いに視線を合わせると、シルエルティに指示された部屋に入って行く。
「もう、ユズリハさんも人が悪いんだから……」
ミナトは先程のユズリハの行動に少し嗜める様な口調で注意すると、悪戯が成功した子供の様な得意気な顔で言い返してくる
「だって、エルティには新職業を探すなんて夢見たいな事は言うなって、散々言われ続けたからね。その事へのちょっとした意趣返しだよ」
ユズリハは、シルエルティの態度が余程面白かったのだろう、今まで見た事が無い程の良い笑顔をしている。
ミナトはその姿に溜息を吐くと、高級そうなソファーに座ると室内にを見渡す。豪華な調度品が配置され高級な雰囲気を漂わせている室内に少し居心地の悪さを覚え、ミナトはソファーの上で何度も体勢を変えていると、ユズリハが隣に座りながら話しかける。
「もう……少しは落ち着きなよ……ボク達はお客様なんだから」
「そうは言うけど、こんな雰囲気で落ち着けるほど、僕は場慣れしてないんだよ……何此処……校長室か何か?」
ミナトは少し混乱気味に庶民的な感想を言っていると、部屋の扉が開き、シルエルティと一人の品の良さそうな初老の紳士が入ってくる。
「校長室とは言い得て妙ですな。確かにこの部屋の雰囲気はそれっぽい……」
紳士はミナトの言葉が聞こえていたのか、笑顔でそう言いながらゆっくり歩き、二人の座るソファーの対面に腰を落ち着ける。シルエルティも紳士の隣に座ると、改めて二人を見つめて来る。
「あはは、聞こえちゃったみたいだね、ミナト君!」
ユズリハの言葉に顔を赤くすると、ミナトは俯き顔を上げる事が出来ないでいる。
「ふっふっふ……気にする必要なんてありません。確かに少し大仰ですからな、この室内は……」
「室長……そんな事より詳しいお話を……」
愉快そうに笑う紳士にシルエルティが話の軌道修正を行い、それに微苦笑を浮かべると、表情を改めミナトとユズリハを見つめると張りのある声で話しかけてくる。
「私は、クライマーギルド始まりの都支部の責任者で、リスト管理室室長のハグロと申します。今日は新職業を発見された報告を受けましたので、その確認と、重大情報の発見の特典についてのお話をさせて貰います」
ハグロと名乗った紳士は、隣の居るシルエルティに視線を配ると、それに頷きウィンドウを表示させるとその一部をハグロの前に送る、それを確認すると深く頷くと、
「確かに、新しい職業で間違いありません。それも一気に三種類も発見されるとは大したものです」
「いや、本当に偶然で……ユズリハさんが居てくれなかったら、見つからなかったと思いますから」
それを聞いた、ユズリハは苦笑を浮かべながら言葉を挟む
「それは違う、ミナト君の力だよ……ボクがした事なんて、大して役にたってないさ」
「それでも!僕はユズリハさんのお陰だって思ってますから!」
「ミナト君……」
二人が見詰め合っていると、前の席からの咳払いでハッとなると二人は視線を外し、少し顔を赤くする。
「フフッ、仲がよろしいのですね……新職業の確認は済みました……特典の話をする前にギルドへの登録を済ませてしまいましょう。ナクス君頼んだよ」
ハグロは一旦会話から外れると、シルエルティがミナトに話しかけてくる。
「こほん! 先程は失礼しました。つい取り乱してしまって……」
「いいえ、こちらこそすみませんでした…事前に話しておけば良かったですね……」
ミナトはすまなさそうな表情でシルエルティに謝罪すると、それに慌てて手と首を振ると
「いえ! ミナト君は悪くありません! 私が慌ててしまっただけですから…」
「そうだよね~シルエルティさんったらのあの時の慌て様はおも……大変なものでしたからね」
シルエルティの言葉にユズリハが言葉を重ねると、恨みがましい目でユズリハを睨むシルエルティ、その視線を無視して、ユズリハは笑顔を浮かべている。ミナトも視線でユズリハに注意すると、少し舌を出すとユズリハは口を閉じる。
「では、改めて、ミナト・ユウキのギルドの登録を行ないます」
シルエルティは気を取り直すと、凛とした声で確認事項を告げていく
「まず、ギルドに登録するには職業に就く事が条件になります。ミナト君の希望の職種を教えて下さい」
「剣術士でお願いします」
ミナトははっきりと希望職種を答える、それにシルエルティは頷くと
「それでは、ご自分で転職の表示をタッチして、剣術士への転職を行なって下さい」
ミナトは、シルエルティの言葉に頷くと、ウィンドウを開き剣術士をタッチすると認証が現れる。それのYESをタッチする。
するとミナトの目の前が光に染まる、しかし、それは一瞬で終わり光が収まると職業欄が剣術士に変っている。それ以外に変った感覚が無いのを不思議に思ってか、ミナトは自分の体をあちこち触る、その姿に、他の三人は苦笑を浮かべると、隣に座ったユズリハがミナトに告げる。
「ミナト君、転職しても劇的に何かが変る訳ではないよ? 少し拍子抜けかもしれないけどね……でも、それはプレイヤー誰もが通る道だから……」
ユズリハはミナトの行動を見て、昔の自分を思い出したのか懐かしそうに微笑みながら
「ボクも今のミナト君と、ほぼ同じ行動を取ったよ……やっぱり何か期待してしまうよね?」
そう言って自嘲気味に笑うと、ミナトも多少残念そうにするが納得すると、シルエルティに視線を戻す。
「それでは続けますね……はい、転職を確認しました。それではクライマーギルドの証明カードをお渡ししますので、認証をお願いします」
そう言って、一枚のカードを手渡して来る。それを受け取ると、カードが光るとパスワードの設定を求められる。ミナトはパスワードを設定すると再びカードが光る。
「はい、登録の完了を確認しました。これでミナト君はクライマーギルドの所属となります」
「えっ? これだけで良いんですか? 確か適正試験に合格しないといけないとか聞いた覚えが…」
ミナトはすんなり終った登録作業に戸惑いながら、シルエルティに問いかける。
「はい、本当なら職業適性の実地試験を受けて貰わないといけないのですが……新職業に関しては、その試験を行なえる者が存在していないので、それに転職を行なえたという事は適正には問題が無いと言うことですから。まぁ、面倒な試験を受けなくてラッキー位に軽く考えて下さい」
シルエルティは意外なほど軽く言ってくるのを聞きながら、ミナトは戸惑いながらも頷いた。
「さて、登録も無事に済んだ事ですし、新職業発見の特典の話をしましょう」
今まで、黙って事の成り行きを見ていた、ハグロが口を開く。
「まず、特典で選べるのは、金銭、アイテム、そして物件の三つです。この中からお好きな物をお選び下さい」
「あの、アイテムやお金について、明確な提示は無いのですか?」
ユズリハは物怖じせずにハグロに問いかける、ハグロは笑顔を浮かべると質問に答える
「おっと、これは失礼……確かに内容が分からなければ選びようがありませんからな。それではまず、最も俗世的なお金の話からしましょうか……単刀直入に金額だけ言うと、金貨五万枚です」
「ごっ五万!?」
ユズリハは驚愕の表情を浮かべ、思わず声が上げる
「ユズリハさん、それって凄い金額なの?」
ミナトはその金額に、今一ピンと来ていないのか、隣で驚いているユズリハに問いかける。
「うん、そうだね……中堅プレイヤーでトップクラスの人達の全財産が多分五万位だと思うよ……」
ユズリハの答えで何となく凄い金額なのだと察するミナト、そんな二人の様子を見ながらハグロは話を続ける。
「アイテムに関しては、武器、防具、装飾品など希望があればそれに合わせ、提示した金額と同価値の物を用意しましょう……そして最後に物件ですが、塔の都にある屋敷ですね、ただし、使用人などはミナトさん達で雇って貰わないといけませんが……」
ハグロが全ての説明を終えると、ミナトは考え込みながらユズリハに問いかける
「ユズリハさんはどれが一番良いと思う?」
「ボクに聞いても個人的な意見しか言えないよ?」
ユズリハは苦笑を浮かべながらミナトにそう答えるが、ミナトは首を振りながら
「それでも良いよ。この中から選ぶとしたら。ユズリハさんならどれを貰う?」
ミナトの言葉にユズリハは暫く考えると、質問に答える
「うん、個人的に受け取るなら、後腐れの無いお金かな……お金の使い道はそれこそ自由自在だからね」
ユズリハの言葉にミナトは頷くと、此方の様子を見ているハグロに向かって言う
「ハグロさん、お金を頂く事にします。ユズリハさんの言う通り自由度の高い選択が出来るのがお金だと僕も思いましたから」
ハグロは静かに頷くと、手続きのウィンドウを呼び出すと改めてミナトに確認してくる。
「それでは、ミナト・ユウキさん、新職業発見の特典は金貨十五万枚でよろしいですね?」
「はっ?」
「えっ?」
ミナトとユズリハの間抜けな声が部屋に響く。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 新職業発見の特典の支給金額は金貨五万枚なんですよね?」
「そうだよ! それがなんでいきなり十五万なんて額になっているのさ!」
二人は慌てると、目の前で飄々としているハグロに問いかける。
「はい、新職業発見時のお金の支給額は金貨五万枚です」
「だから、それがどうしていきなり十…まさか…」
ミナトは何かに気付くと、目の前のハグロを驚愕の顔で見つめる。ハグロはにこやかに笑うと
「はい、お察しの通り、新職業の発見の報酬は金貨五万枚、それが三職分ですので合わせて金貨十五万枚です。計算に間違いはありません」
その言葉にミナトとユズリハ顔を合わせると溜息を吐く、そしてお互いに頷くとハグロにこう言った
『ちょっと相談させて下さい!』
それから暫くミナトとユズリハの相談が行なわれる。そんな二人の様子をシルエルティとハグロは微笑ましそうに見つめている。
数分間の相談が終ると、ミナトが改めてハグロに希望を伝える。
「確認しますけど、三つ分特典がもらえると言う認識で良いんですよね?」
ミナトは念を押すように確認をする、その言葉に頷くハグロに向かいミナトは告げた
「金貨を十万枚と塔の都にある、屋敷を頂きたいです!」
「アイテムはよろしいのですか?」
「はい、装備で強くなるのはもっと先で良いと思ったのと……それにお金があれば、身の丈にあった物が買えますから……」
ミナトはそう言って笑う、ハグロはその言葉に頷くと受け渡しの手続きをしていく。
「手続きが済みました。それではユウキさん、ギルドカードを貸して下さい」
ミナトは、先ほど受け取ったばかりのカード渡す、それを受け取ると、カードにハグロは手をかざす。カードが一瞬光を放つがそれも直ぐに終わり。カードをミナトに返却する。
「これで、特典の受け渡しは完了しました。お金はそのカードに入れて置きましたので、現金として引き出す時はギルドでお願いします」
カードを受け取とると、ハグロがミナトに問いかけて来る。
「おっと、一番大事なお話を伺うのを忘れていました。リストへの新職業発見者の名前を、公開してもよろしいですか?」
「えっと……匿名で良いなら匿名でお願いします。あまり騒がれるのは好きではないので……」
ハグロの問い掛けに、ミナトはそう答えるとユズリハを見る、それに苦笑しながらユズリハも頷くと、ミナトはハグロに頭を下げる
「すみません……我侭を言って……」
「いいえ、名前を公表する方はあまり多くないので全く問題ありません。新職業への条件さえ公開出来れば良いわけですから」
ハグロは席を立つと、ミナトとユズリハを見つめ、頭を下げる
「今回は重要な情報を提供して頂きありがとうございます。これからもお二方の活躍を期待しておりますので、ぜひ頑張ってください、私はこれから少し予定が入っておりますので失礼させて頂きます。後何か分からない事があったらナクス君に相談して下さい……ナクス君、頼んだよ」
「はい、室長」
「それでは失礼します。ユウキさんと…………ユズリハさん」
そう言うとハグロは部屋を出て行く。ミナトはユズリハの名前をハグロが呼ぶのに、少し間が開いたのが気になった、ユズリハを見ると、ハグロが出て行った扉を見つめている。その視線に気付いたのかユズリハがミナトに向かい首を傾げてくるが、ミナトは首を振りなんでもないとジェスチャーで返す。すると二人の前に座るシルエルティが、少し頬を膨らませユズリハを見つめながら
「もう!ユズリハったら意地悪なんだから!大人になんか全然なっていない!!」
「あはは、カウンターではゴメンね……昔、色々言われたのを思い出したら、ついからかいたくなっちゃったんだ」
ユズリハは笑いながらシルエルティに謝る。その屈託のない笑顔にシルエルティは怒っていた顔を緩ませると
「本当にビックリしたんだから……まさか本当に三日で新職業を見つけてくるなんて……はぁ、今日のリストの更新で暫くはまたギルドへの問い合わせが増えるわね……昨日あんな事があったばかりなのに……」
シルエルティのその言葉で、ミナトはは昨日の出来事の情報を聞くという事を思い出すと、ユズリハに視線を送る、それに頷くとユズリハがシルエルティに問いかけた
「そういえば、今日のギルドの騒ぎは一体なんだったの?」
ユズリハはなるべく不自然にならない様にシルエルティに聞いた。
「ユズリハも、昨日大規模な暴走が起こったのは知っているでしょう?」
「まぁ、詳しい事までは良く知らないけど……かなりの規模だったらしいね?」
「ええ、始まりの都から北のフィールド全体で起こったEOTCで最大規模の暴走……だったんだけどね」
シルエルティは首振りながら、呆れる様な声でユズリハに話しかける
「ギルドに一報が入って、僅か二時間後には暴走は沈静化……何処の誰が止めたのか一切不明、ただ分かっているのは、通常では考えられない程の大爆発が北のフィールドで起こったっていう事……その規模が笑えるのよ? 半径五十キロメートルの森林が焼失、始まりの都の城壁も広範囲渡り倒壊、爆発によって生じたキノコ雲が塔の都からもはっきり観測されているわ…爆発の閃光に至ってはどの位の位置まで確認されたか、範囲が広すぎて計測不能……」
ミナトとユズリハはシルエルティの一言一言を聞くたびに顔色が青くなっていく。
「運営もEOTCが稼動してから観測された最大の破壊力を持った爆発だって発表までしたのよ?」
「へ、へぇ~そ、そんな事がおきていたのかぁ」
「そ、それは、エルティも大変だったね…」
二人は冷や汗をかきながら、どうにか言葉を紡ぎ出す
「そうなの! それでね、朝から爆発の原因を教えろってプレイヤーの人達が詰め掛けて大変だったんだから!!」
シルエルティは自分の言葉に興奮しているのか、二人の様子に気づく事無く文句を言い続けている。二人は静かに視線を合わせる頷き合うと、シルエルティに話しかける。
「そろそろ僕達、用事があるから…もう良いかな?」
「うんうん、ちょっと外せない用事があるんだ!」
「そうなんですか? 質問が無ければ、勿論、帰って貰っても大丈夫ですよ?」
シルエルティは二人の言葉にそう返事を返すと。二人を見つめ言ってくる。
「ミナト君にユズリハ、今回の事は一応おめでとうと言っておくけど……これからは無茶しちゃ駄目だよ? 新職業を見つけるのに結構な無理をしたのは、あの新職業の発現条件を見れば分かるもの…」
ユズリハは意味深な視線を二人に送るが、二人はどうにか視線を逸らす事無く見つめ返す、シルエルティはそんな二人の様子に溜息を吐き、苦笑を浮かべると語りかけてくる
「きっと、二人は凄い冒険をしたのね……きっとその冒険は貴方達だけのものであって、私が介入する術なんてないのだと思う……だから何も言う必要もないし、私も聞かない……だけど二人とも無茶をしては駄目よ?」
シルエルティはそう念を押すと締め括る、二人は苦笑を浮かべると、何処まで気付いているの分からないが、大体の事は察しているだろうシルエルティに頭を下げると部屋から去っていく。
誰も居なくなった部屋で、シルエルティは一人微笑みを浮かべると、立ち上がり自分の仕事に戻っていった。
読んでくれている人達に感謝を……本当にありがとうございます。
これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。
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