第22話
ユズリハの間の抜けた声は、それなりの大きさで周囲に響いたが、それは食堂の喧騒の中に消えていき、先程の様に注目を集める事は無かった。
「ミナト君……それは、新職業が複数発見されたって事だよ……」
ユズリハは声を潜めると、ミナトに顔を寄せて囁くように言ってくる。
「一体、幾つ表示されてるんだい?」
「三つです……でも、これって本当に新職業なんですか?」
ミナトはウィンドウを見つめながら、ユズリハに尋ねる。その問い掛けにユズリハは考え込むような顔ををしながら
「一般って職業の上級職が一緒に表示されているって事もありえるかも……取り合えず、その職業を教えてよ、ミナト君」
ユズリハの言葉に頷くと、ミナトはウィンドウに表示された職業をユズリハに告げる。
「まずは剣術士ってのがありますね…」
「剣術士……剣士じゃないのがやっぱりちょっと特殊っぽいね、リストに載ってる職業ではないから、新しい職業に間違いないね」
ユズリハはウィンドウを開き、何かを確認しながらミナトの話を聞いている。
「ユズリハさん、リストって何ですか?」
「ミナト君…まぁ、初心者だから仕方ないかな…リストって言うのは、EOTCの世界で新しく発見された職業や事象、素材や新スキルなんかの情報、塔の攻略進行度、高LVプレイヤーの名前なんかも公開されている、所謂公共掲示板…まぁ、新聞みたいなものだね、一日に四回更新されてその都度新しい情報が掲載されるんだ」
ユズリハは、少し呆れながらも説明する。
「もしかして、知ってて当たり前みたいな事?」
ミナトはユズリハの表情からそれを読み取り、恐る恐る聞き返すと、ユズリハは溜息を吐きながらも、仕方が無いなぁみたいな表情をするとミナトの問い掛けに答える。
「まぁ、大体のプレイヤーは知ってるだろうね……序盤はそれほど役に立つ情報が書いてある訳じゃあないから問題は無いけど、ある程度……塔に登るようになったら、最低でも一日一回はリストの確認しておいた方が良いよ」
ミナトはユズリハの言葉に頷くと、ウィンドウを開くとリストという項目を開いてみると、情報からギルドへの勧誘、PT募集まで様々な事が書かれていた。
「僕としては、あまり攻略系の情報は知りたくないんだけど……」
「それだったら、攻略情報ってタグを開かなければ大丈夫だと思うけど? ミナト君ってゲームする時に攻略サイトとか見ない人なのかい?」
ユズリハは珍しいものを見る様にしてミナトを見つめてくる、その視線に苦笑を返しながら。
「うん、あまりそういうのに頼らない事にしてるんだ、やっぱり自分で攻略していった方が、ワクワクしない?」
「そうかもね……昔はボクもあまり気にしなかったけど……今は駄目だなぁ、情報は凄く大事って気付いてからは、日に何度も攻略サイトを覗いちゃうよ」
ユズリハは苦笑を返しながら自分のプレイスタイルを告げると、それにミナトも頷くと言葉を続ける。
「情報が大事なのは分かってるし、効率的にもそっちの方が良いのは分かってるんだけど……せっかく自分の知らない世界に来てると思うと、冒険したくなっちゃうんだよね……」
ミナトは自嘲気味に言うと、ユズリハに向かって頭を下げる
「たぶん、これからもこういう事で迷惑をかけるかも知れないけど……」
その姿にユズリハは微笑むと、ミナトの肩を叩きながら
「大丈夫だよ、ボクがミナト君の代わりに情報を集めるから、ミナト君は自分の思うように楽しめば良いさ、ゲームは楽しむためにするものなんでしょう?」
ユズリハは楽しそうに笑い、ミナトもその笑顔に釣られる様に笑顔を浮かべる。
「さて、話が反れちゃったね……続きを始めよう、あと二つの職業はどういうものか教えてよ」
ユズリハの言葉に頷くと、ミナトは残りの二つの職業の名前を告げる
「傾奇者と精霊使いの二つです」
「精霊使いは何となく語感で分かるけど…傾奇者って何?」
ユズリハが戸惑うように聞いて来る。ミナトはどうにか自分の知っているだけの知識でユズリハに説明しようとする
「確か、戦国時代に派手な格好をして、アウトローっぽい思想をした人達の事だったかな…」
「いわゆる、ヤンキーだね」
ユズリハの身も蓋もない言葉にミナトは黙るしかなかった。
「うん、取り敢えずは分かったよ、でも、どの職業もリストに載ってないね……精霊使いなんかは、ある意味ではEOTC全プレイヤーの事を指しているのに、今まで無かったのがちょっと不思議だね」
「そういえば、精霊との契約はキャラクターメイキングの中に含まれていたからね」
ミナトの言葉に頷きながら、リストを改めて見つめるとミナトに問いかける
「ミナト君は、どういった職業に就きたいのか聞いたこと無かったね? 戦闘系と魔法系どっちを目指してるの?」
「戦闘系だよ、だからこの中から選ぶとしたら、剣術士か傾奇者かな……どっちもどういう感じの職業なのか良く分からないけど……」
ミナトがそう言うと、ユズリハは微苦笑を浮かべると、右手の人差し指を立てながらミナトに告げる
「それじゃあ、どういう職業かそれを調べれば良いんだよ、職業を選ぶと説明が出るから、それを見て判断するといいよ」
「基本的な説明を何度もして貰って…ユズリハさんには面倒をかけるね」
ミナトがそう言うと、ユズリハは笑顔で手を振りながら
「気にしなくていいよ、ボクは結構こういう事好きだからね」
ミナトはユズリハに礼を言うと、ウィンドウを改めて見つめると、それぞれの職業の説明を読んでいく
剣術士
発現条件 LV差15以上のモンスターを武器(剣)攻撃のみで討伐
一般LV30以上
LVUP時の上昇ステータス
筋力
器用
速さ
魔力
運
LVUP時の割り振りSP 7
修得可能スキル
戦闘系スキル全般
職業スキル
剣術LV1 歩法LV1 遠当てLV1 透しLV1 気孔術LV2 クリティカル率上昇LV1
傾奇者
発現条件 一般LV25以上
大規模戦闘で勝利する
称号の獲得
LVUP時の上昇ステータス
筋力
器用
精神
運
LVUP時の割り振りSP 8
修得可能スキル
戦闘系スキル 強化系魔法スキル
職業スキル
剣LV1 格闘LV1 気合LV3 強化魔法LV1 捨て身LV2
精霊使い
発現条件 一般LV35以上
契約精霊による、モンスター討伐数1000体以上
LVUP時の上昇ステータス
器用
速さ
知力
精神
魔力
LVUP時の割り振りSP 5
修得可能スキル
精霊魔法系スキル全般
職業スキル
精霊魔法LV2 魔法威力強化LV1 精霊召喚コスト減少LV1 魔法発動短縮LV2
ミナトは説明を最後まで読むと、そこに書いてあった説明をメールに書き、それをユズリハに送る。
「なるほど…どれも下級職とは思えない程強力だね…精霊使いなんかは上位職業っぽいけど…違うみたいだし…ミナト君の考えは?」
ユズリハは送られてきたメールの中身を確認すると、ミナトに向かって聞く
「幾ら強い職業でも……僕は魔法系の職業には就くつもりはさっきも言った通り無いから……」
ミナトは申し訳無さそうに、ユズリハに告げる
「それじゃあ、予定通りに剣術士か傾奇者だね……剣術士は生粋の物理攻撃職で、傾奇者は魔法戦士系な感じだけどミナト君はどっちにするつもり?」
ミナトは二つの職業を見つめ、一つ頷くとユズリハに告げる
「剣術士にします! たぶん僕に一番合ってる職業だと思うし、希望の近接物理攻撃職ですから!」
「結構、即決だね……一晩くらい考えてからでも遅くないと思うけど?」
ユズリハの提案に、ミナトは首を振りながら答える
「多分、どれを選んでも多少は後悔はすると思うんです、それなら最初の考えを貫いた方が後悔がないような気がするから…」
「なるほど、ミナト君の中で答えが出てるなら、ボクから言う事は何も無いよ」
ユズリハは微笑むと、ミナトも笑顔を浮かべる。
「それじゃあ、早速転職しようと思うんですけど……」
ミナトがそう言うと、ユズリハが待ったをかける。
「ちょっと待って! ミナト君! その前にクライマーギルドに行こう、この事を報告すれば、ギルドから謝礼が出るはずだからね」
「謝礼? どうしてギルドから謝礼が?」
「まぁ、クライマーギルドはEOTC運営の窓口見たいものだからね、リストに乗るような発見をした者には特典がつくんだよ」
そう言うと、ユズリハはテーブルに朝食の代金を乗せると、ミナトの手を取り店から出る。ユズリハに引っ張られながら、人通りが増えて来た道をクライマーギルドを目指して歩く。
「ユズリハさん、そんなに慌てなくても……」
手を引かれたミナトは、足を縺れさせながらユズリハについて行く。
「でも、実際凄い事なんだよ! 今まで発見されなかった、新しい職業を見つけるって……しかも一度に三つも!」
自分の事に様に喜ぶユズリハの姿に、ミナトはどれ程、新職業の発見に思いを込めていたのか。ユズリハの喜びようを見て改めて知ることになった。
「ユズリハさんが居てくれなかったら……きっと新職業を見つける事は出来なかったよ……」
ミナトはユズリハにそう告げると、つながれた手が強く握り締められ、紅髪から顔を出している耳が赤くなっているのに気付くが、ミナトはそれには触れず、強く握られた手を握り返しながら、二人は無言でギルドまでの道のりを歩いたのだった。
ギルドの前まで来ると、どちらともなく手を離すと、お互いくすぐったそうな表情をしながらギルドに入って行く。
「昨日のあの爆発は何なんだ!」
「あの暴走を止めた、ギルドは何処のギルドなんだ?」
「いや、それより! あの大爆発の方が重要だ! あれほどの広範囲に、あれだけの威力を出せる魔法なんて存在してないはずだ!」
「そんな事、どうでもいいから、クエストの発注の確認をさせてくれよ! 急いでるんだよ!!」
ギルドの中は人で溢れていた、普段は始まりの都では見ない様な、高LVプレイヤーや、有名ギルドのタグを着けた者など、普段は広々とした筈のギルド内が狭く感じるほどの賑わいだった。
「これって……」
ミナトはギルドの混雑に驚きながらも、カウンターを目指して進もうとするが、あまりの混雑振りに前に進む事が出来ない。
「昨日の事を調べに来人達だね……まさか此処までの騒ぎになっているなんて思ってなかった……」
ユズリハは周囲をを見渡し、比較的人の少ない所を見つけると、そこに向かって進む。その後をミナトも追いかけ、一息吐ける場所に辿り着くと互いに苦笑を浮かべる。
「まさか、こんなになってるなんて……」
「それだけ、衝撃的だったんだろうね…あの姫は一体何をしでかしたんだ……」
ミナトとユズリハは、ギルド内の様子で昨日の出来事の重大さを改めて知る事になった。その時カウンターの中から、シルエルティの大きな声が響いてくる。
『昨日の事件に関しては、只今、ギルドでも調査中です!詳しい事が分かり次第、リストの方に報告を上げますのでそれまでお待ち下さい、なお、一般業務に支障が出ておりますので!御用の無い方はギルドの外へ出て下さい!!』
シルエルティのこの喧騒にも負けない声が響くと、徐々にだが混雑が引き始める。それを見た二人は、互いに大きく息を吐くと、
「これは、どういう事が起きたか聞かないと……」
「さっきの人達の会話から察すると、どうやらあのお姫様はとんでもない解決方法を取ったみたいだね……」
二人は混雑が引いた事を確認すると、カウンターに向かって行く。中に声をかけると
「もうっ!! 事件の事は調査中です!!」
強い口調でシルエルティがミナト達に言い返す、二人は驚いた顔をすると、二人に気付いたシルエルティは顔を赤くして、頭を下げる
「す、すみません! つい、また事件の事を聞きに来た人だと思ってしまって……」
「いいえ、良いんですよ……大変そうですね?」
ミナトがシルエルティにそう声をかけると、溜息を吐きながら疲れた表情でミナトを見つめてくる。
「すみません……昨日から一度もログ・アウトも出来ず、事件の対応に追われていたので……」
「えっ!? シルエルティさんってプレイヤーだったんですか!?」
ミナトが驚愕の表情で聞くと、シルエルティは微笑みながら答える
「はい、私はプレイヤーです……と言っても純粋なプレイヤーとは言い難いのですが……」
「シルエルティさんは、ロイ・カー……運営に雇われているゲーム内就職者なんだよ」
ユズリハが隣から顔を出してミナトに言ってくる。そのユズリハの姿に一瞬シルエルティの顔に驚きの表情が浮かぶ。それに気付いたミナトだが、単純に突然隣から出てきた事に驚いたのだろうと勝手に思うと。ユズリハの言葉に反応を返す。
「ゲーム内就職者って、確か病気や怪我をしてに働けない人達を、仮想空間内の会社に就職させるって言う?」
「そうそう、ミナト君はゲームの情報には疎いのに、そういうのは詳しいんだね」
ユズリハは感心したように言うと、カウンターの中に居るシルエルティは微笑みながらミナトに声をかける、そこにはもう驚きの表情はなく、ミナトは何となく納得はいかなかったが、改めて聞く事はしなった。
「えっと、一昨昨日はよく挨拶も出来なかったですからね、それでは改めまして、クライマーギルド始まりの都支部のシルエルティ・ナクスです。シルって気軽に呼んで下さいね!」
そう言って微笑むシルエルティの笑顔に、顔を赤くしながらミナトは改めて自己紹介する
「ミナト・ユウキです。よろしくお願いします。シルエルティさん」
「ふふっ、呼び方は変らないのね、でもいいわ、君からさん付けで呼ばれるのは、何故か嫌な感じがしないから」
シルエルティはカウンターの席に着くと、二人も備え付けの椅子に座る。
「それで今日はどうしたの? 約束の期日まであと半日以上あるけど?」
「えっと……実はギルドの登録をしに着ました」
「そう……諦めてくれたのね? ユズリハさんと一緒にギルドを出て行ったから……心配したのよ、無茶な事をするんじゃないかって……」
シルエルティはユズリハを軽く睨むと、その視線に気付いたユズリハは慌てて視線を逸らす
「あれ? 二人は知り合いなんですか?」
先程のシルエルティの表情にはやはり意味があった事に気付くと、ミナトは二人を交互に眺めると、ユズリハは視線を更に逸らし、逆にシルエルティは嬉しそうにミナトの問い掛けに答える。
「知り合いって言うより、友達かな……ね? ユズリハ?」
いきなりユズリハを呼びつけにすると、そっぽを向いていたユズリハも観念したのか、一つ息を吐くと
「なるべく顔を合わせないようにしてたのに……久しぶりエルティ」
ユズリハは若干照れ臭そうにしながら、シルエルティに親しげにに言葉を返す。
「私が居ない間にギルドへの登録を済ませて、いきなり始まりの都を出て行っちゃったから、心配したのよ……それなのに一昨昨日現れたと思ったら直ぐに居なくなっちゃうし……」
「あの時はごめん……ボクにも余裕がなかったから……」
ユズリハはバツが悪そうに言うと、それを見たシルエルティは何かを察したのかそれ以上は深くは追求しなかった。
「うん、でも、良かったわ。ユズリハがミナト君を連れてギルドから出て行ったのを見て、心配してたのよ……どうやらそれは杞憂だったみたいだけど……ありがとうね、ミナト君を説得してくれたのでしょう? 新職業を探すなんて無茶な事をしないようにって……」
シルエルティはユズリハに感謝の視線を送ると、その視線を受けたユズリハは悪戯っ子の様に微笑むと何かを思いついたのか神妙な顔をして語りだす
「うん、苦労したわ……それでね出来ていなかった、ギルドへの登録をお願いしたいの、エルティいいかしら?」
「うん、ありがとうユズリハ……貴女も大人になったのね……」
ユズリハの邪な微笑みに気付かず、シルエルティはミナトのギルドへの登録準備をすると、改めてミナトに問いかける
「ミナト君、君はどんな職業に就きたいですか?」
その屈託ないシルエルティの顔を見て、隣で笑いを堪えているユズリハを少し非難の目で見ると、ミナトはシルエルティに告げる
「剣術士になろうと思います。どうか手続きをお願いします」
「えっ? 剣術士? そんな職業ないのだけれど……」
シルエルティは困り顔でミナトを見つめる、隣で既に笑いを堪え切れてないユズリハは肩を震わせながら俯いている。それを少し恨みがましそうに見ながら、ミナトはもう一度はっきりとシルエルティに告げる
「ミナト・ユウキは新職業剣術士に就く事にします! 登録お願いします」
その時、シルエルティのギルド登録画面にミナトのステータスが送られてくる。その中に映る、転職可能の文字と、新職業の表記を見つけると、シルエルティは驚愕の表情を浮かべると
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 新職業ぉぉぉぉぉ!?」
シルエルティの声がギルド中に響き渡ったのだった。




