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第21話

 始まりの都(インゼル・ヌル)に居るプレイヤー達の活動拠点はそれぞれ趣が違う。自分の家を持ち其処を自らの拠点とする者、宿屋などを使いその日暮らしをする者、ギルドに所属してギルドハウスに自分の部屋を持つ者、それぞれが自分の居場所を取り合えず確保するのはEOTCでは当たり前だった。

 そして、早朝から宿泊していた宿を飛び出し、まだ人通りの少ない道を気まずそうに歩く、男女二人のプレイヤーの姿があった。


「いや~まさか気付いたら始まりの都(インゼル・ヌル)の宿のベッドの上なんて事になってるなんて、驚いたよね! ユズリハさん」


 その男の隣を歩く紅髪のショートカットの可愛い少女は、完全にそっぽを向いている。その様子にミナトは溜息を吐くと、おそるおそる話しかける


「……だから、謝ったじゃないですか……あれは不幸な事故だって……」


「それで、済まそうなんて、随分とボクは安く見られたもんだね!」


 ユズリハがミナトを睨みながら、強い口調で抗議してくる。それは怒っていると言うより、恥ずかしくて気が高ぶっているという感じの声音だった。


「まったく! どうして気付いたら、つ、連れ込み宿の一室で一緒のベッドに寝てるんだよ!! 意味分からないよ!?」


「連れ込み宿って……随分古風な言い方だね……それは僕も一緒だよ……目が覚めたら、隣で半裸のユズリハさんが、僕に抱きついて寝ていたのに気付いた時は、まだ夢を見ているんだと思ったよ……」


 ユズリハは顔を真っ赤にして、ミナトも疲れた様に言うが、その声は微妙に上ずっている。


「まぁ、その事は後で追求するとして! 一体あれから何が起こったの? ボク全然、あの後の記憶がないんだけど……」


 ユズリハはミナトを見つめると、再び顔を赤くしてそっぽを向きながらも、それでも、少し心配そうな声で聞いて来る。


「それに、あの時のミナト君……言い方がおかしいけど……中身が違ったよね?」


「……うん、多分ね…僕も実際は殆ど記憶が無いから……辛うじて思い出せるのは…巨人にやられて、意識を失う寸前に、女の人の声で力が欲しいかと聞かれて…それに応えると凄い力が湧いて来て、巨人を倒した所までは憶えてるんだけど……その後は所々の記憶はあるんだけど……それがバラバラで、どういう時間軸で起こった事なのか判断出来ないんだ」


 ミナトは表情を顰め、思い出そうと考え込むが溜息を吐くと、首を振りながらユズリハに告げる


「やっぱり思い出せない……もしかしたら僕より、ユズリハさんの方が詳しい事を知ってるかも……」


「でも、あのミナト君の姿をした中身が女の人は、詳しい事はミナト君に聞けって言ってたんだよ?」


「その妙に長い名称は面倒だから……取り合えずあの人の事は……『姫』って呼ぼう」


「何故に『姫』なの?」


 ユズリハはミナトの言葉に首を傾げながら聞いて来ると、ミナトは神妙な顔で言う


「だって、妙に時代がかった喋り方してたし、ちょっと……かなり偉そうだったし……『姫』って感じがしなかった?」


 ミナトの言葉に昨日の事を思い出すと、ユズリハは納得して頷きながら


「うん、確かに『姫』って感じだった……」


 二人は互いに微苦笑を浮かべると、改めて昨日の事を思い出そうとする。


「…本当に何も思い出せない……? その憶えている所々の記憶から分かる事とかはないの?」


 ユズリハはミナトにもう一度確認するとミナトは唸りながら答える。


「う~ん……どれも断片的で、ハッキリしないんだよね……モンスターの群に向かって歩いていく場面と、目の前が一瞬で光に包まれた場面、意識の無いユズリハさんを抱える場面……」


 ミナトは必死に考え込みながら思い出した事を口にすると、ユズリハは考え込むように沈黙する


「あっ!?」


 ミナトがまた何かを思い出したのか、声をあげる


「何か重要な事でも思い出した?」


「ううん、そうじゃなくて、ポケットに中に手紙が入っていたのを見つけたから…」


 ミナトは折り畳まれただけの飾り気のない手紙を広げると、読み始めようとする


「ちょっと待って! 歩きながらだと落ち着かないし、何処かに入ってからにしよう?」


 ユズリハはそう言うと、目に付いた店にミナトの手を引っ張りながら入って行く。


「ち、ちょっと待って、引っ張らなくて着いて行きますから」


 二人はプレイヤーメイドの食堂に入ると、飲み物と軽食を頼むと端の方にあるテーブルに席を取ると、ミナトは改めて手紙を開く。すると隣から椅子を寄せ肩が触れ合うほど近くに寄ってきた。ユズリハを少し意識しながらも読み始める。


(この手紙を残すのは、そなたらの状況を知らせるためじゃ、本当ならこのような面倒事はミナトに任せるのじゃが……思いっきり意識を失っておって起きる気配が無いのでな……多分これでは今の状況を憶えていないのは明白じゃからのぅ。

 それではまず最初にそなたらが目を覚ました宿は私が取った宿じゃ、価格が安く人目につかない所が此処であっただけで、これと言って何かしらの意図があってではない。ユズリハには悪いと思ったがミナトは意識を失っておるし、悪さをする事も無いと思ったからのぅ…それとも何か期待していたか?)


 そこまで読むと、ユズリハは顔を赤くして手元のジュースを飲み干し、ミナトを睨んでくる


「姫の言葉を間に受けないように!」


「分かってるよ……」


 ミナトは、そう言うと手紙に視線を戻し続きを読み始める


(おっと、話が反れたな……そなたらが聞きたいのは、あの戦いの後のことじゃと思う、簡単に状況だけを書くので、それで理解せよ。面倒なのでな、

ユズリハと分かれた後私の力でモンスター共を倒し、意識を失ったユズリハをこの街まで運び、宿を取った。以上説明終わりじゃ)


「…………」


「…………」


 二人は手紙を見つめる、ミナトは手紙を裏表ひっくり返しながら続きの文面を探すが、何処にも書いていない。するとユズリハは震える声で言ってくる


「明らかに面倒くさくなって書くの止めたよね……」


 その静かな声に、一瞬体を震わせると、ミナトはユズリハに恐る恐る向き直り


「う、うん、明らかに書いてる最中に面倒になって、書くのをやめた雰囲気が出まくってる内容だね…」


 そう同意を言葉をかけると、ユズリハは思い切りテーブルに手を叩きつけると、叫んだ


「こんなんじゃあ! 説明に!! なってないよ!!! ふざけんなぁぁぁぁ!!!!」


 店に居た客が何事かと、ミナト達の方に一斉に視線を向ける、その視線に頭を下げながら、隣のユズリハを座らせ、小声で宥める


「ユズリハさん、怒る気持ちは分かるけど、落ちついて、ね? 頼むから落ち着いて下さい」


 ミナトは最後は懇願するようにユズリハを宥める、ユズリハも周囲の視線や隣のミナトを見て、漸く状況を理解したのか、頬を赤く染めると静かに席に着く。


「悪かったよ……でも、流石にこの手紙の内容は無いだろう……状況を簡単に書いたメモのようなものじゃないか! これは!?」


「確かにそうだけど……一応はどういう状況であの宿に辿り着いたかは。判明したね……」


「ミナト君は、それで良いの!?」


 ユズリハは、また声が大きくなっていた事に気付いて、落ち着くように深く深呼吸する、それを見て苦笑を浮かべるとミナトはユズリハを見つめ話し出す


「確かに、この手紙の内容で説明責任を果たしたとは、僕にも到底思えないけど…僕達を助けてくれたのは間違いないし、暴走(スタンピード)を止めたのは、多分彼女で間違いない……一応の状況は分かった事だし、今は取り合えず良しって事にして置こうよ。」


 ミナトの言葉に不満そうな顔をするユズリハだが、一番知りたかった、連れ込み宿の一件は理由が判明したので渋々ながらも頷くと、少し乱暴な手つきで皿の上のサンドイッチを頬張る。


「それより、僕達には確認しなくちゃいけない事があるだろう?」


 ミナトは嬉しそうに、ウィンドウを開き、何かを確認しながらユズリハに声をかけると、何かを思い出したかのようにミナトに詰め寄る


「そうだ! LVは幾つになったの? 新職業は!?」


 ユズリハは、ステータス画面を確認している、ミナトに勢い込んで聞く


「えっと……何処を見れば良いのかな?」


 ミナトはまだ慣れていないのか、ウィンドウを確認しているが見つけられないで居るらしい


「ステータス画面の職業の横に、転職って文字が出てれば当たりだよ! 速く確認して見て!」


「結構、簡単な所に表示されるんだね……ちょっと待って、今、確認するから……」


 ミナトはそういうとステータス画面を表示させ、ユズリハの言われた所に視線を送る。




キャラクター名   ミナト・ユウキ


LV    38


種族   ハーフエルフ

年齢   17歳

性別   男

血液型   A型


職業   一般   ‘転職可能’


基本能力値


HP  22/22

MP  27/27


筋力 23

体力 19

器用 27

速さ 37

知力 19

精神 20

魔力 31

運 34


残りSTポイント   0


アビリティ    ≪精霊一体化エレメンタル・インティグレーション≫  

スキル        効率行動LV2

契約精霊       ????

称号        ≪挑戦者(ヘラオスフォルダラー)




「何か見た事のないの(称号)が一つと転職可能って出ている……」


 ミナトはステータス画面を見ながら、独り言の様に言うと。近くで聞いていたユズリハは顔に満面の笑顔を浮かべるとミナトに抱きつく


「やったぁぁぁ! 本当に在ったんだ! 存在していたんだよ!! ボク達のしてきた事は無駄じゃなかったんだよ!!」


 抱きつかれたままの体勢のミナトはユズリハの体の弾力を全身で味わう事になり、顔を一気に真っ赤にしながら、ユズリハのなすがままになっていた。


「ゆ、ユズリハさん……取り合えず離れて……他のお客さんが見てる」


「けっ!」


「あの男に呪いを呪いを呪いを呪いを呪いを…」


「今夜は新月かぁ……良い具合に暗いんだろうな」


「爆発して爆ぜて砕けろ!」


「皆さん、心根が素直すぎで、少し本気で怖いですよ!!」


 ミナトはユズリハから離れながら、(紳士達)の怨嗟に突っ込みを返す。ユズリハは客のその反応に顔を赤くしながら、ミナトから離れるがそれでも新職業の事が気になるのか、ユズリハの右手の指はミナトの服の袖を摘んで離さない。その姿に客たちは


「萌える!(そろそろ死語)」


「ちくしょぉぉぉ!!」


「可愛いじゃねえかぁぁぁぁぁ!」


「フラグも折れて、ついでに頚骨もへし折れてしまえぇぇぇぇぇ!ていうか俺が折りてぇぇぇぇ!!」


「四番目!! 何気に殺意が高いぞ!!」


 ミナトが再び突っ込むと、男達は宿から飛び出して行く。それを生暖かい目で他の客と共に見送っていると、袖を引っ張りながらユズリハが聞いて来る。


「ミナト君……そろそろ教えてよ! どんな職業なの? 戦闘系かな? それとも魔法系?」


 わくわくした顔で、ミナトを見つめるユズリハに急かされながらミナトは、‘転職可能’と光っている部分をタッチすると、新しくウィンドウが開くと、そこには新しい職業が表示されていた。


「これって……」


 ミナトはウィンドウを見つめたまま固まっていると、それに気付いたユズリハが声をかけてきた


「どうしたのミナト君?」


 ユズリハのその声に、ミナトは情けない顔を浮かべながら言ってくる


「複数あるんですけど……新職業。どれが良いですかね……ユズリハさん?」


「はっ?」


ミナトのその言葉に思わず変な声を出してしまう、ユズリハだった。

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