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第19話

 互いに笑顔を浮かべ、良い感じに肩の力が抜けると、ユズリハは構えていた弓から矢を解き放つ、それは圧縮空気と共に凄い勢いでモンスターの群れに飛び込んでいく。破裂音と共にモンスターが吹き飛ぶと、

 ユズリハは一気に駆け出す、ミナトも矢を放ち、ユズリハに向かって突進してきた猪型のモンスターに止めを刺す。


「ミナト君! 私について来て!! 一気に群れを突っ切って反対側に出るから!!」


「分かった!! 露払いは僕に任せて!! ユズリハさんは威力重視の範囲攻撃でなるべく敵の数を減らして!!」


 二人はモンスターの群れに突っ込むと、互いに援護しあいながら進んでいく。腰からショートソードを抜くと、飛び掛ってくる狼型のモンスターの首を狙い一気に剣を振り下ろす。それは狼の首を断つに至らないが頸椎を砕いたのか狼は地面に落ちると動かなくなる。

 ミナトはそれを確認する暇も無く、ユズリハに向かおうとする二匹の狼の一匹の足を断つと、走れなくなった狼を、もう一方の狼に向かって蹴り飛ばす、勢いはそれ程でもないが互いにぶつかり動きを止めた狼をミナトは剣で纏めて突き刺す、狼は痛みでなのか暴れ廻る、ミナトは握っていた剣を離し、弓を持つと、遠くから突進してくる猪の足を狙い矢を撃ち込む、矢を受けた猪は、その巨体が周囲を走っていた居た狼達を巻き込み転倒する。ユズリハは攻撃より移動を重視してミナトが切り開いた道を進んでいく、

 地面で暴れ回っていた狼が息絶え光の粒子を残し消えたのを確認すると、地面に残された剣を素早く拾い、ユズリハの跡を追う。

 二人はそんな戦闘を繰り返しなら、モンスターの群れを突っ切ると小高い丘に登る、丘の上はモンスターの数も多くなく、注意は必要だが一息吐ける位の余裕があった。


「どうにか、第一目標である高台に来れたけど、どうして(ここ)はモンスターが少ないんだろう?」


「たぶん、モンスター(あいつ等)は移動を重視してるからだよ、起伏のある丘を走り抜けるより、整備された平地を走るほうが速く前に進めるからね」


 ユズリハはアイテムストレージからポーションを二つ取り出すと、一本をミナトに渡す、ミナトはそれを受け取りながら、ユズリハに話しかける。


「つまり、モンスター(あいつ等)が優先しているのは移動距離?」


「そう……この先にある始まりの都(インゼル・ヌル)が目標って事だね……」


 ユズリハはポーションを飲みながら、丘の下を怒号を上げて進んでいくモンスターを見つめると苦い顔をする。


「速くリーダーモンスターを探して倒さないと、本当に始まりの都(インゼル・ヌル)をあのモンスターの群れが襲うかもしれない……」


「仮に、このままモンスターが進行して始まりの都(インゼル・ヌル)を襲ったとして、被害はどれ位になると思う?」


 ミナトの言葉にユズリハは考え込むと、やがて口を開く


「実際問題、多分それほど影響は無いと思う……プレイヤー側からしてみればの話だけど……」


「それは、どういう意味?」


「プレイヤーに関して言えば、生き残る事はそれほど難しくは無いと思うよ、何せ数が多いと言っても、襲ってくるのは低LVのモンスターだからね……

 その気になれば十分安全を確保出来ると思う……でも、問題なのは……始まりの都(インゼル・ヌル)の都市機能と…そこに住む」


「NPC…」


「そう、NPCにはかなりの被害が出るかもしれないね……戦えるのは、ほんの一部のNPCだけだから……低LVモンスターだとしても甚大な被害になる。

 そうなると都市としての始まりの都(インゼル・ヌル)の機能は修復不可能な程の被害を受けてしまうかも知れないね……」


 ユズリハは、自分の予想に思わず体が震える、流石に運営もそこまではしないとは思うが、偶に酷く冷徹な判断をする事もあるなんて話も掲示板で見た事もあるユズリハは、首を振り不安を打ち消そうとする。その話を黙って聞いていた、ミナトはそんなユズリハの姿を励ますように言った


「何にせよ、リーダーモンスターを倒せば、全てが解決するんでしょう? なら僕達のやる事は一つ!一刻も早くそいつを倒してこの暴走(スタンピード)を止める事だよね!!」


 落ち込んでいたユズリハはミナトの力強い言葉に微笑みながら頷くと、地平の遠くから迫ってくるモンスターを見つめる、すると何かを見つけたのか突然立ち上がり凝視するように地平を睨む、その様子に何かあったのかと、ミナトも同じ方向を見るとまだ遠いが明らかに周囲のモンスターとは違う一団が群れの中心に見えた。


「居た……あれがきっとそうだ! この暴走(スタンピード)の原因!リーダーモンスター!!」


 ユズリハはその一団を見つめると、直ぐにミナトに声をかけてくる。


「ミナト君もちょっと遠いけど見えているかい?」


「うん、流石に細かい所までは見えないけど、明らかに他のモンスターと違うのが居るね」


 ミナトは目を細めながら、確認しようとしているが流石に距離がありすぎるのか確認を諦めると、ユズリハを見つめる、その視繊に気付くとユズリハがモンスターの特徴を告げてくる


「多分、あれは巨人族だね……体長が四メートル近くある、武器は大きい斧を持ってる……それを囲む様に熊かな……これもかなり大きい三メートル近くあるかも……それが四匹……」


 ユズリハは見える範囲の情報をミナトに伝えると、此方に向き直り深刻そうな顔になる


「はっきり言って、ボク達の手に負えるLVのモンスターじゃない……中堅以上のプレイヤーのPTが複数居ないと厳しいと思う……」


 ユズリハはそう言って、ミナトの返事を待つ、ミナトは悔しそうな表情を浮かべると確認するようにユズリハに聞いて来る


「僕達が行っても、無駄死にするだけかな……」


「たぶん……ね……」


 悔しそうに俯くミナトに、ユズリハは苦笑を浮かべた後、表情を引き締めると問いかける


「でも、倒す手立てがない訳では無い……」


「本当に!!」


「ただし!! 成功する確率は物凄く低い、それでもやるかい?」


 ユズリハは真剣な顔でミナトを見つめ、諭すように言う


「ミナト君、ボク達が此処で無理をしなくても、きっとこの暴走(スタンピード)は治まる、幾らリーダーモンスターが強いとは言え、塔の都(ストーバ・トルレム)から高LVPTいや、一人でも高LVプレイヤーが応援に来てくれれば事態の収拾は可能なんだ……

 それでもミナト君は危険を犯しても、今この時に暴走(スタンピード)を止める事が必要だと思うかい?」


 ユズリハはなるべく熱くならない様に理性的に話す。ミナトはユズリハの言葉に頷きながらも反論するように言ってくる。


「確かに此処で僕達が、止めなくてもきっと事態は収まるんだと思う……

でも、止める方法があるのに、それをしないのは正しく無いと思う……結局、僕には力が無くて、その止める手立てもきっとユズリハさんの力に頼る事になるんだと思う……

でも! 今止めないと始まりの都(インゼル・ヌル)が襲われる……そこに住む人達(NPC)が死んでしまう、それはきっと明日いや数時間後には元に戻っている事なのかもしれない、ただの子供(ガキ)くさい感傷なのかもしれない……

 それでも、僕はあの始まりの都(インゼル・ヌル)で出会ったNPC(人達)を助けたい! あの馬車のお爺さんを! ギルドのシルエルティさんも! 皆、助けて上げたいんだ! 死ぬかもしれない不安の中に居る人達(友達)を救ってあげたいんだ!! それが今出来るなら絶対にやるべきだ!!!」


 ミナトの反論は最後には叫びに近くなり、聞いていたユズリハはその叫び(言葉)に頷くと、微笑みながらミナトを抱き締める。


「えっ!?」


 突然のユズリハの行動(抱擁)に驚いていると、優しく嬉しそうな声でミナトの耳元に囁いて来る


「君は本当に、今時珍しいくらいに真面目で純粋だね……ボクは君との出会いに改めて感謝するよ」


 そう言うと、抱き締める腕を解く寸前にミナトの頬に唇をよせキスをしてくる。そして完全に離れる瞬間ウィンクをしてくるユズリハ、相変わらず、そういう仕草が本当に良く似合う。ミナトは思わず見蕩れていると、頬に残った柔らかい感触を思い出し顔を赤くする。


「あのあの、ゆずりはさんいまのはいったい」


「お礼、それと、これからもよろしくねっていう挨拶だよ、欧米では珍しくないだろう?ハグして頬にキスなんて……」


 そういうユズリハも顔が赤いのにミナトは気付くと、それ以上は何も聞かないでおいた。

ユズリハはミナトを見つめ、ミナトもユズリハを見つめる。二人は互いに頷き合うと


「うん、ミナト君の覚悟も聞いた! ボクも覚悟を決めた! やろう! あのモンスターを二人で倒そう!!」


ユズリハの力強い言葉に、ミナトは嬉しそうに言葉を紡ぐ


「ありがとう…ユズリハさん! 僕に出来る事なら何でもするよ! だから二人で協力してモンスター(あいつら)を倒そう!!」


 そう言って、ミナトとユズリハは改めて、リーダーモンスターの集団を見つめる、かなりの速度なのか、その集団はもう暫くすれば、ミナト達の居る丘の下を通るであろう事が容易に予測出来た。それを見たユズリハが早速、作戦を立て始める。


「これからは時間との戦いにもなる……かなりの数のモンスターが、もう始まりの都(インゼル・ヌル)の近くまで迫っていると思う……

ボク達は一刻も早く、あのモンスターを倒さないといけない……それにはボクがある程度、あのリーダーモンスターの近くまで行く必要があるんだ。

 そこでミナト君にお願いしたいのは、あのリーダーモンスター(場所)までの護衛と露払い……そして時間稼ぎの三役をして貰う必要がある……出来るよね?」


「出来る!! それ位の事してみせるよ!!」

(たとえ出来なくても……無理やりでもやり切って見せる!!)


 ミナトは気合をいれて言うと、その返事にユズリハは微笑を浮かべると、


「それじゃあ信用してあそこまでの道のりは任せるよ、ボクをあそこまで連れて行ってくれ、そうすれば後はボクが必ずリーダーモンスター(あいつ)を倒す!!」

(出来ないだろうけど……命をかけてでも成し遂げて見せる!!)


 二人は互いに出来もしない事を出来ると口にした、互いの命をかけても出来ないかも知れないと分かっていて、それでもミナトとユズリハは出来ると互いに言い切った。

 二人は暫く見つめあい、そして、互いに視線で合図しあうと、調度丘の下を通り過ぎようとしている、リーダーモンスターの集団の前に出るため、ミナトは一気に丘を駆け下りながら叫ぶ


「それじゃあ行くよ! ユズリハさん!!」


「うん。任せた! ミナト君」


 飛ぶように駆けて行くミナトの背中を追うユズリハ、ミナトは腰からショートソードを抜くと、更に速度を上げる、モンスターの群れに突っ込むと、襲い掛かってくるモンスターを切り伏せていく、

前進する為に邪魔になるモンスターを最小限の数の倒しながら前に進む、これはモンスターが移動を重視している玉に出来る事で、もし正面からこの数を相手にすればあっという間に数で圧殺されていただろう。

 ミナトは剣を振るいながら、ひたすら前進して行く。狼の牙や、熊の大きな爪、蜂型モンスターの毒針などが、ミナトを襲う、それを時には躱し、剣で受け流しながらミナトは進んで行く。永遠とも思える、攻防を凌ぎ切り、漸く視界にリーダーモンスターである、巨人族の姿が見えて来る、ミナトは切り伏せるモンスターの数を増やし、ユズリハの為に少しでも安全圏を広く保とうと剣を振り続ける。そして巨人族を大きさが明確に分かる様な距離まで近付くと、後ろからミナトに声がかかる


「よく頑張ってくれたね、此処からはボクの仕事だ!」


 そう言ってユズリハが、左手を前に掲げると、周囲のモンスターの怒号に負けない位の大声で叫ぶ


「マイクロバースト!!!」


 その言葉と共に緑の光の粒子がユズリハの周りに現れると、それと呼応するかのように碧の髪の美しい女性が現れ、ユズリハと同じ様に左手を掲げると、先程まで晴れていた空に急速に積乱雲が集まり始め、雷鳴が聞こえてくる、周囲の温度が下がり始め、空から一気に、冷たく全てを圧殺するかのような突風が地上目掛けて落ちてくる。その冷たく全てを押し潰す風が周囲1キロメートルをすべて押し潰す。その光景を防御フィールドの中から見つめる、ミナトはそのあまりの光景に呆然としてしまう。全てのものが押しつぶされ周囲に動く物の影すらなくなると、防御フィールドが解かれる。


「す、凄い……」


 ミナトは若干震える声でそう洩らすのが限界だった。


「はぁはぁはぁ、これならどうだ……」


 ユズリハは呼吸を荒くし、リーダーモンスターが居た辺りを睨んでいる。テンペストは無言でユズリハの隣に浮きながら控えている。


「幾ら、あのモンスターが強いといってもこれだけの威力なら……」


 ミナトがユズリハに近付こうとした時、地面が盛り上がり、巨人族と大型熊モンスターが立ち上がる。そこから雄叫びを上げ、ミナトとユズリハに向かって襲い掛かってくる


「あの攻撃を受けて、まだ立ち上がれる!?」


 ミナトが驚愕していると、静かな声でユズリハがモンスターに向かって右手を掲げ言った。


「そう来ると思っていたよ! これでも食らえ!!」


「マルチボーテクストルネード!!」


 ユズリハの隣に控えていた、碧の髪の女性が今度は右手を掲げると、上空の積乱雲から漏斗雲が現れ、周囲の気圧が低下し、耳の調子が少しおかしくなると、凄まじい音と共に風が巻き上がる。周囲のあらゆる物を吸い込みながら、巨人族と大型熊モンスターも飲み込んでいく、竜巻は回転しながら吸い込んだ物体吐き出し、時には内部でぶつけ合いながらその場に停滞する


「くうっぅぅぅぅうう、動くなぁぁぁぁ」


 ユズリハがそう叫びながら、掲げた右腕を左手で抑えながら、何かに耐えるようにしている


「ユズリハさん……もしかして竜巻の移動を制御えているのか……」


 ミナトは再び現れた防御フィールドの中で停滞する竜巻を見ている。飛散物が物凄い勢いで飛び、内部には大きな石や折れて鋭利になった樹木などが渦巻き、その破壊力を見せ付けている。


「これが精霊の力……なんだよね……」


 ミナトは初めて見る精霊の力に驚くと、ユズリハの隣で悠然と佇んでいる、綺麗な女性を見つめる。その女性が視線に気付いたのか、ミナトを見返すと、驚愕の表情を何故か浮かべ苦笑をしながら手を振ってくる女性に驚きながらも手を振り返していると、徐々に竜巻が小さくなり周囲に吹いていた風も収まる


「はぁはぁはぁはぁ、これで駄目なら、ボクにはもう打つ手が無いよ……」


 ユズリハは膝に手をつきながら、荒い呼吸でそう言うと、隣で佇んでいるテンペストに話しかける。


「これで倒せたよね?」


『それは分からないわね……今の私達の力のほぼ全力を出し切ったのは間違いないわ、これで駄目ならユズリハも諦めが着くでしょう?』


 テンペストは気軽そうにユズリハにそう言うと、周囲に光の粒子が現れ姿がだんだん消えていく


「今日はありがとう、流石にもう呼ぶ事はないと思うけど……」


『そうね、私の出番はもう無いわ(・ ・ ・ ・)


 テンペストは何故かミナト見つめながら、そんな言葉を残し消えていく、ユズリハはそれを不思議に思いながらも、己の体の限界を感じ、座り込んでしまう。

 それを見たミナトが近くに来ると、ポーションを取り出しユズリハに渡す


「大丈夫?ユズリハさん……かなり無茶をしたみたいだけど……」


 差し出されたポーションを受け取りながら、ユズリハは苦笑を浮かべると辛そうに言葉を紡ぐ


「流石に、ちょっと無理しすぎたかも……VRでも意識が遠くなるなんて現象もあるんだね……」


「ユズリハさん……取り合えず横になりなよ。少しでも楽な姿勢……」


 そう続けようとしていたミナトは突然立ち上がると、竜巻が収まった場所を見つめながら


「出て来い!! まだ死んじゃいないんだろ!!」


 ミナトがそう大声で言うと、複数の大型熊モンスターが立ち上がったのかと思えば、その熊たちは地面に倒れ自然消滅して行く。そしてそこから現れたのは地面に巨大な斧を突き立て、それを両手で握った、ほぼ無傷の巨人族が此方を見て、大きく顔を歪めた。

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