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第18話

 地平の彼方から土煙を上げ、凄まじい数のモンスターが迫ってくる。ユズリハはその光景に足の力が抜けそうになるのを感じる。


「流石にこれは……もうどうしようもないよね……」


 彼方から聞こえてくる、モンスター達が上げる怒号にユズリハは諦めの表情をすると、その場に座り込む。


「参ったね……ボクがした事はあまり役に立たなかったって事か……唯一の救いはミナト君が無事に逃げられた事位かな……今頃、始まりの都に着いて、ギルドで対策を練っている頃だろうなぁ……そうだ! この事を知らせないと! 今までの暴走(スタンピード)とは規模が違う事を……」


 ユズリハがフレンドリストを開き、ミナトにメールを送ろうと書き始める。

その間にもモンスターは始まりの都を目指し、此方に迫ってきている。まだ遠くに見える土煙を見ながら、ユズリハはメールを書いていく。


(ミナト君へ、どうにか暴走(スタンピード)を止められた思ったんだけど、どうやらそれはボクの勘違いだったみたいだ。ボク達が最初に見た、暴走(スタンピード)は唯の余波で起こったものだった……何の余波かって? それは、始まりの都から北の全フィールドで起こった。暴走(スタンピード)、たぶんEOTCが稼動し始めてから最大級の規模の暴走(スタンピード)が、今この瞬間起きています。

 ミナト君は、直ぐにログ・アウトして下さい。そうすれば流石に巻き込まれる事は無いと思うから…ボクは今からだとどんなに頑張っても始まりの都(インゼル・ヌル)に辿り着く前に巻き込まれてしまうだろうから……それならボクは少しでもモンスターの数を減らしてやろうと思います……

 ミナト君、何度も言うようだけど、これはゲームなんだ、ボクが死んでもそれは、ゲームシステム的な死でしかない。ボクは生き返って、またミナト君に会える…だから決して助けに来ようなんて思わないで、どうしても気になるって言うなら、せめて塔の都まで逃げて下さい。あそこなら古参プレイヤーも多くて安全だから……

 それじゃあ、そろそろモンスターの姿が確認出来るようになってきたから、この辺で書くのを止めるね……この事をギルドに知らせて、ミナト君はログ・アウトするか塔の都に逃げて下さい。それじゃあ、ミナト君、また明日ね!)


 ユズリハはメールを書き上げ、それをミナトに送信すると立ち上がる。


「よし! これで後方の憂いは断った、あとはあのモンスターの群れに向かって突撃するだけだ!」


 ユズリハは、勢い良く言うが、その体と声は震えている、


「どこかに安全圏があればなぁ……ボクもログ・アウトしたいよ、でも、この辺りには無いんだよね……新職業を目指しLVを上げていた時も、それがネックだった……だっていざという時逃げ場がないんだもの……本当にこのフィールドは序盤にしては鬼畜仕様だよね!」


 独り言を、誰に向かって言うでもなく続ける、ユズリハは段々大きくなる地響きとモンスターの姿を見つめながら、


「あはは、EOTCで死ぬのは初めてではないけど……やっぱり怖いね……怖いよぅ……ミナト君……」


 ユズリハは俯くと、地面に輝く雫が降り落ちる。モンスターの雄叫びや大地を踏み荒らす音がはっきりと聞こえ始めると、ユズリハは俯いていた顔を上げようとするが、体が言う事を聞かないのかユズリハは俯いたまま体を震わせる。


「なんでこんなに怖いんだろう? 本当に不思議になるくらい体が心が怖がってる……一人だから? ううん、それは違う、ボクは一人の方が多かった……本当にどうしてなんだろう本当に死が怖くてしょうがない……此処で死ぬのが現実(リアル)で死んでしまうのと同じに感じるくらいに怖い……怖くて怖くて仕方が無いよ!!」


 ユズリハは、、涙を流しながら俯いたまま大声で叫んだ、それは綺麗な青空に吸い込まれ消えていくだけだった。ユズリハは座り込みそうなる自分を気力で支えながら、俯いたままモンスターに向かい一歩を踏み出す、その一歩が踏み出せた事に自分でも驚き、そして勇気付けられる。


「まだ、前に踏み出せる! なら、まだボクには出来る事がある!! ボクは負けない!」


 強く強く思いを込め、一歩を踏み出したユズリハが走り出そうとした時


「ボクじゃなくて、僕達でしょう? ユズリハさん。二人ならあれ位の敵なんて事無いよ」


 その声にユズリハの駆け出そうとした足が止まる。


「なんで居るのさ……絶対に来ちゃ駄目だって言ったよね……」


「あのメールが着た時には、もう始まりの都から随分と離れてたんだよ」


「それでも、戻ろうと思えば戻れたはずだよ…それに折角そこまでLVを上げたのに…」


「それでも約束したんだ、必ず行くって」


「馬鹿だね……ミナト君は……」


「うん、そうかも……でも後悔はしてない! そして間に合って良かったと思っている! あんな思いを抱えたまま一人でユズリハさんを行かせなくて済んで……」


「乙女の独り言を盗み聞きかい?デリカシーに欠けるね……」


「それは、妹にもよく言われるよ」


「あはは、女の子にモテないぞ、そんな事だと……」


「それも言われた」


「来なくて良いって、あれほど言ったのに……」


「女の子は時には、思っている事と逆の事を言う事があるって、妹と幼馴染の女の子に言われた」


「…………」


「それに約束をしたんだ、必ず助けに行くって、約束は守らないといけないんだ……絶対に……」


「……うん、ありがと…本当は待ってた、馬鹿な望みだとは思っていたけど…ミナト君なら来てくれると心の何処かで信じていたよ……」


「やっと言ってくれた……ユズリハさん、助けに来たよ」


「うん、来てくれて、嬉しいよ……」


 ユズリハは俯いていた顔を上げ振り返ると、涙の跡が残る目元を擦り、微笑みながらミナトを見つめる。ミナトも漸く正面からユズリハの顔を見る事で安心したのか笑顔を浮かべる。


 二人は漸く正面から向き合うと、互いを見つめながら力強く頷きあう、かなりの距離まで迫ってきているモンスターに視線を向けると。


「感動の対面と来てくれたお礼は、このモンスターをどうにかした後であげるね!」


「楽しみにしているよ、それで作戦はあるの?」


 ユズリハは、ミナトからの問い掛けに、弓を取り出しながら答える。


暴走(スタンピード)を起こすモンスターの種族リーダーが居るって事は説明したよね?」


「うん、確かプレイヤーに報復するために、狩られ続けたその種族のリーダーが、周囲のモンスターに呼びかけて起こるのが暴走(スタンピード)だって……」


 ユズリハはミナトの言葉に頷くと、矢筒を取り出し背中に背負いながら


「この暴走(スタンピード)の発生条件はそのたった一匹のモンスターなんだよ、つまり、発生原因でもあるそのリーダーモンスターを倒せば暴走(スタンピード)も自然に治まるんだ」


「つまり、そのモンスターを探して、倒す事が作戦って事?」


 ミナトが地平を埋め尽くす程の数のモンスターを見つめながら、引き攣った顔でユズリハに尋ねる


「流石に、これだけのモンスターの中から、その一匹を見つけ出すのは不可能だろうね……でも、それは通常の暴走(スタンピード)の場合さ……

 今回のこの規模を考えると、やっぱり運営の突発イベントの可能性が高い、だから、多分通常よりそのリーダーモンスターが見つけ易い場所に居る筈なんだ、そうじゃなければこれ程の規模の暴走(スタンピード)は収集できないからね」


 ユズリハの言葉に納得の顔を浮かべるミナトだが、少し不安な事があるのかそれをユズリハに問いかける


「でも、殲滅戦て事は無いの? 例えば塔の都の古参プレイヤーと協力してって感じで……」


「そういう解決方法も勿論運営は考えてるだろうね、ただ、それでもこの暴走(スタンピード)止める為の前提要素を無くなんて事はしないと思うから……たぶん大丈夫だと思うよ……?」


 ユズリハも説明している内に、不安になってきたのか最後が疑問系になったのを見て、ミナトは苦笑を浮かべながら言う


「どっちにしろ、この暴走(スタンピード)を放って置く事は出来ないからね、それなら逃げるより、戦う方が僕は良いな……」


「ミナト君……でも、本当に良いの? さっきも言ったけど、ここまで頑張った(LV上げ)が無駄になっちゃうよ……」


 ユズリハはミナトの顔を真剣に見つめながら聞いて来る。その顔に笑顔を返すとミナトははっきりと答える。


「うん、ユズリハさんを助けに来た事に後悔は無いし、戦う事にも不安は無い! それにユズリハさんこそ忘れてない? これはゲームなんだよ、こんな面白そうなイベント参加しないほうが損でしょう?」


 ユズリハはミナトのその言葉で、先程から胸の奥で感じていた死への恐怖が和らいだ事に気付く、改めて、ミナトを見つめると


「……そうだね……ボク忘れてたよ、ゲームは楽しむものだよね!」


 そう言って、微笑むと、取り出した色取り取りのポーションを飲みほし、自分の体にかけていく。

ミナトもアイテムストレージから、装備を取り出すと身に付けていく、弓を持ち、ショートソードを腰の剣帯に挿すと、ストレージの中にジンから貰った剣がある事に気付くと、僅かに逡巡するがそれも取り出し剣帯に挿す、最後に矢筒を背中に背負うと隣のユズリハを見て頷く


「それじゃあ、ミナト君、初めての共同作業のために必要な事をしておきましょう?」


 ユズリハはそう言って笑うと、ウィンドウを開き何か操作すると、PT(パーティー)申請が届く。


「あっ、そうか今までずっと一緒にいたから何も違和感感じ無かったけど、ユズリハさんとPT組むのは初めてだね…」


 届いたPT申請にYESで答えると、互いの簡易ステータスが並んで表示される。


「これで、戦いが激しくなって互いに逸れて位置が分からなくなっても、場所が分かるようになったよ、簡易MAPと方向表示で位置を教えてくれるから、もし逸れたらそれで確認して」


「うん、了解」


 ミナトはPTウィンドウを確認しながら頷くと、此方を見つめるユズリハに頷く。


「お互いに準備は出来たみたいね……」


「うん……大丈夫」


 二人は迫り来るモンスターを見つめると、弓に矢を番える。


「作戦はなるべく高い所に移動しながら戦い、リーダーモンスターを見つける。見付けたら二人で協力して倒す…ごめんね……これ位しか思い付かない……」


 ユズリハは申し訳なそうな顔をしながら謝るが、ミナトは笑顔を浮かべながら、気楽そうに答える


「全然良いよ、元からこれだけの物量にたった二人で戦いを挑むんだもの、大まかな作戦が決まっているだけで十分だよ」


 ミナトの言葉にユズリハは苦笑を浮かべると、改めてミナトを見つめると、礼を言う。


「来てくれて、ありがとう……本当に嬉しかったよ……」


「うん、僕も助けに来れて良かったよ」


 ユズリハの礼に、ミナトは優しげ微笑み言葉を返すと、二人は笑い合った。

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