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第16話

 北の城門の近くまで来ると、ユズリハは懐中時計を取り出し時間を確認すると、ミナトに視線を向けてくる。


「メンテのせいで時間が押しちゃったけど、このまま始めても大丈夫かい? もう少しで夕食の時間だけど……」


 ユズリハはミナトを見つめ、今後の予定を確めるように聞いて来る。


「それは大丈夫だよ、家にはメモを残してきたし、ご飯を食べたのも遅かったから……このまま始めよう!」


 ミナトは城門の方に歩きながら、アイテムや装備を確認視していく、ユズリハもその背中を追いながら同じ様に装備を確認していく。


「今から始めると、日は落ちる事になるから、今朝まで使っていたあの場所で戦おう、少しでも慣れた所の方が何か合った時にも対処しやすいからね!」


 ユズリハは、昨日と同じ様に魔法のカンテラを取り出すと、明かりが点くか確認していく。

 日が傾き始め周囲が茜色から薄い紫の空に変った頃に、二人は目的地に着くと昨日と同じ様に、周囲に魔法のカンテラを設置していく。それが終るとユズリハはミナトに向かい、注意を促してくる。


「ミナト君が強いのは、今朝までの戦いで分かっているけど、実際何が起こるか分からないのが戦闘だからね! 回復と引き際に注意して戦って行こう! ボク達の目的まで多分あと少しだ!」


 力強いその言葉にミナトは大きく頷き、アイテムストレージから弓を取り出すとそれに矢を番える、その姿を確認すると、ユズリハは匂い袋を使い、自分は明かりの範囲外に出ると昨日と同じ様にミナトの援護に廻る。

 暫くするとモンスターの気配がミナト達に近づいて来るのを感じる、ミナトは気配を読みモンスターが飛び出して来るであろう場所に狙いをつける。その瞬間、藪を大きく揺らし大きな猪がミナト目掛けて突進してくる。

 それを見切っていたミナトは限界まで引き絞った弓弦を放す、放たれて矢は一直線に猪の眉間に飛んでいき、硬い頭蓋骨を貫通し半ばまで突き刺さる猪はその一撃で致命傷に至り頭から地面に突っ込み、己の突進の勢いが止まるまで地面を滑り続け、止まると同時に消えていく。


「凄い、昨日まで使っていた矢と全然威力が違う……」


 ミナトは新しくした矢の威力に驚いていた。


「やっぱり最後にモノを言うのは良い装備か……あまり好きではないんだけどね、装備依存の強さって……」


ミナトが自嘲していると、森からモンスターの気配が次々と現れる。


「昨日より、出現する頻度が速い……偶然かな?」


 ミナトは森に現れるモンスターの気配の多さに一瞬考え込むが、森から狼が二匹飛び出してくるとそれを頭の隅に置き戦いを始める。

 二匹の狼は左右から回り込むように、ミナトに向かい駆けて来る。弓を取り出し左の狼に狙いをつけ矢を放つ、矢は狼の前足の付け根辺りに当たると貫通し地面に突き刺ささり地面に縫いつけられる。

 ミナトはそれを確認すると、腰から剣を抜き、もう直ぐ傍まで来ているに向かい構える。狼は速度をさらに上げ、ミナトの腕に噛み付こうと飛びかかる。

 その大きく開いた口に狙いを定め、剣を突き出す。剣は狼の口腔から喉を抜け刀身全てを飲み込む、体を大きく痙攣させ、そのまま息絶えるかと思っていると 狼は一矢報いようと開いていた口を閉じようとする。

 それを見たミナトは、横突きにしていた剣を半回転させ縦突きに変えると狼の大きく開いた口を閉じれない様に剣の鍔で支える、それでも狼は口を閉じようと暴れるが直ぐに大人しくなり、そのまま光と共に砕け散る。

 地面に縫い付けられた狼に止めを刺すと、落ちた矢を素早く回収し、弓を取り出すと素早く拾った矢を番え、森に向ける。


(やっぱり、ミナト君は凄い……戦いなれている……あれだけ冷静に対処出来るなんて……)


 ユズリハは先程の一連の戦いを思い出しながら、改めてミナトの戦闘技術の高さに驚きを隠せない、


(幾らゲームとは言え、実際に戦っているのとなんら変らない感覚を受けている筈なのに、あれだけの動きを……しかも職業にも就いていないのに出来るなんて……)


 ユズリハは暗闇の中で一人考えていると。森の中から狼の遠吠えが幾つも聞こえてくる…それは次々と重なり、森自体が大きな狼になったようだった ユズリハは何かに気付くと大声でミナトに呼びかける。


暴走(スタンピード)だ!! ミナト君! 急いで撤退して!!」


「えっ!? なんですか?それ?」


「詳しく説明している暇なんてないよ!! 取り合えず始まりの都(まち)を目指して走るんだ!!!」


 ミナトはユズリハの様子が普通でない事に気付き、急いでその場所を離れようとするが、


「ユズリハさん! 魔法のカンテラ回収してないですけど…」


「そんな物、どうでも良いですから!! とにかく急いでこの場から離れないと!!」


 ミナトは漸く、尋常ではない事が起きようとしている事に気付くと、弓をアイテムストレージに収めるとその場から一目散に逃げ始める。ミナトが駆け出したのを確認すると、ユズリハも急いで走り出す。

 その間も森から響いてくる、狼たちの遠吠えは大きくなって行き、次第に狼の遠吠えだけではない、唸り声や雄叫びも混ざり始める。

 ユズリハは後ろから追いついてきたミナトと共に走る速度を限界まで上げ森から二百メートル程離れると、先程まで聞こえて来たモンスター達の声が聞こえなくなった。


「始まる……」


 ユズリハのその声が、荒い吐息と共にミナトの耳に届くと、同時に、森の中から地響きが聞こえてくる。ミナトは全力で走りながらも、後ろを振り返ると森の木々が次々と倒され、土煙が上がりその中から次々とモンスターが現れるを見ると、隣を走るユズリハを見る。


「今はとにかく走って!! 逃げ切る事だけを考えて!!」


 呼吸を乱しながらも大声で言ってくる、ユズリハの言葉でミナトは走る速度をさらに上げる。

その間にも森からは、様々なモンスターが次々と現れる。そのモンスターはミナト達を目掛け駆けて来る


「ユズリハさん! 何かこっちに向かって来ますよ!!」


「それはそうだよ! 狙いはボク達だからね!!」


 その言葉に、ミナトは驚くと後ろを振り返り、追いかけて来るモンスターを確認すると、


「あのモンスター全部が僕達を狙って来てるんですか…」


「そうだよ……まさか暴走(スタンピード)に遭遇するなんて予想してなかった……」


 呼吸が乱れ、走る速度が若干落ち始める、始まりの都(まち)までは、まだかなりの距離があり、追いつかれるのは時間の問題のようだ……ユズリハは覚悟を決めた顔をするとミナトに言ってくる。


「はぁはぁはぁ、あの坂を登り切ったら、ボクがモンスターを足止めするから、ミナト君はそのまま始まりの都(インゼル・ヌル)を目指して!! ボク達がこのまま始まりの都に入ったら、モンスターもボク達を追ってきてしまうかもしれないから……ミナト君はクライマーギルドに行って、この事をシルエルティさんに知らせるんだ!!」


「でも、ユズリハさんを一人で置いて行くなんて……」


 ミナトは悲壮感を漂わせた顔でユズリハを心配そうに見つめる。そんなミナトに笑顔を浮かべ軽く答える


「ミナト君、心配してくれるのは嬉しい、でもね、これはゲームなんだ。幾らリアルに出来ていたとしても、所詮は仮想での出来事で本物(リアル)ではないんだ……もし、ここでボクがモンスターにやられて死んじゃっても始まりの都にある大聖堂で復活するんだ……」


 ユズリハはそう言って薄く笑う、二人は坂道を登り終えると、ユズリハは立ち止りミナトに言ってくる


「この暴走(スタンピード)っていうのは、特定イベントの可能性がある……トリガーになったのは、ボク達の行動のせいかもしれないけどね……」


 ユズリハはアイテムストレージから自分の持っている、最強装備を取り出すと装備していく。その間にも口は動きミナトに状況を説明していく


「たぶん、ボク達が一定の場所で特定のモンスターを狩りまくったのが、この暴走(スタンピード)の間接的原因の一つだと思う……」


「それいって一体……?」


 ミナトは疑問を浮かべた表情でユズリハに聞く


暴走(スタンピード)自体はそんなに珍しい出来事ではないんだ…効率よくモンスターを狩る為に人為的に良く起こされる事象だからね、同じ場所で、同じ種類のモンスターを倒し続けると、そのモンスターの種族リーダーが報復を行なうため、同フィールドに居るモンスターに協力を求めるため合図を送る…さっきの遠吠えがそうだと思う……するとその合図と共にモンスターが一斉に、プレイヤーに向かい襲い掛かってくるんだ、これを利用してLVを効率よく上げるための経験値稼ぎに使うんだ……」


「じゃあ、僕達があの場所でモンスターを狩り過ぎたから…」


 ミナトは後悔の為に苦い表情を浮かべるが、ユズリハは首を振るとミナトに更に言葉を続ける。


「それは、少し違うと思うんだ……ミナト君は確かにかなりの数のモンスターを倒したけれど、基本的に一人で狩れる位の数では暴走(スタンピード)は起こらないんだ、

実際に暴走(スタンピード)を強制的に起こすには、大手ギルドやかなりの熟練者パーティーが協力し合わないと、起こす事自体出来ないんだ……

それ位の規模で、しつこくしつこく狩りを継続しないと起きないようになっているのに、ミナト君とボクが二日ばかり狩りを続けた位で暴走(スタンピード)が起こったという事は、

この事象は時限式の強制イベントだった可能性が高い……その時間を僅かだけどボク達の行動によって早めてしまったって言うのが、多分真相だよ……だから、ミナト君は気にする必要は無いよ。暴走(これ)は起こるべくして起きたんだから……」


 ユズリハはアイテムストレージから大量の矢筒を実体化させると、それを自分の周囲に置いて行くと、最後に弓を取り出し弓弦を確認するように一回引くと、小さく頷く、

 少しづつ数を増やし、近付いてくるモンスターに向かい矢を番え狙いをつける。


「ミナト君……今はこの事を少しでも速く、始まりの都(インゼル・ヌル)に行って、報告するんだ……そうすればボクだって、死なずに済むかも知れないんだからさ!」


「ユズリハさん……」


 ミナトは弓を構えるユズリハの姿を見つめると、決心したのかユズリハに声をかける


「絶対に助けに来ますから! 最後まで諦めないで下さい!! 必ず僕が助けに来ますから!!」


「うん、期待して待ってるよ……速く来ないとボクが暴走(スタンピード)を一人で止めちゃうんだから!!」


 その言葉を背中で聞くと、ミナトは全速力で坂を駆け下って行く。それを少し後ろを振り返りながらユズリハ見送る。


「えへへ、『僕が必ず助けに来ますから』……か、これは頑張って生き残らないとね……それじゃあ、王子様が駆け付けてくれるまで、ボク(お姫様)は戦うよ!! 助けを待っているだけの弱い女の子(お姫様)じゃないからね!!」


 そう言って、引き絞った弓弦を放すと矢は狼の群れの中に吸い込まれ、その瞬間爆発する。


今、ここに一対無数の戦いが始まる。

後に、‘始まりの都の奇跡’と呼ばれる、奇跡と謎に満ちた戦いの幕が上がった瞬間だった…

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