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第15話

 何時も感じる軽い落下感と目の前の発光現象が終ると、皆人は目を開ける。メンテ明けと言う事もあってかまだ人通りも幾らか少ない道を見ながら、ミナトは早速ウィンドウを開くとフレンドリストを確認する。数少ないリストにジンとユズリハの名前が並んでいる、ジンはINしている様だが、ユズリハはまだ来ていないのを確認すると、ミナトは通りを歩き出す。


「そういえば、僕、自分で買い物した事無いなぁ……試しにちょっと入ってみようかな?」


 通りに面した、お店を眺めつつ興味を引くような物がないか探す。武器屋、防具屋、道具屋、装飾店、かなりの数の店が軒を連ねる。流石に全部見るのは不可能だし、武器防具に関しては職業のせいで装備できる物自体が少ないので、見ていても悲しくなってくるだけなので取りあえず無視、同じ理由で装飾店も除外すると、道具屋位しか見る所がなくなる。

 溜息を吐きつつミナト視線を彼方此方に飛ばすと、通りから少し入った路地にある。小さな道具屋を見つける、軒先の看板には‘シリウス’と書かれている、その店が何か気になり。ミナトは入って行く。


「おいでやす~」


 妙に間延びしたパチモノくさい京都弁がミナトを迎える、その声は店のカウンターに座る、猫耳の小さな女の子から聞こえてきた事に驚くミナトは、猫耳幼女をマジマジと見つめると一言


「店の名前はシリウスなのに、何故ネコ……」


「その辺の無粋な突っ込みは受付けていませんので~」


ミナトの突っ込みを笑顔で避わすと、猫耳幼女は耳を動かしながら聞いて来る、


「何かご入用ですか~? 素材の買取から~道具の補充まで~うちのお店にお任せにゃん」

 

 最後の科白だけ、妙に可愛い声で言ってくる、ミナトは何か痛々しいものを見る目でその猫耳幼女を見つめる。しかし、猫耳幼女は全く動じる事無くミナトを見つめ返してくる。


「メンタル強いって言われません?」


「商売人ですから~」


 今一歩答えになってない返事が返って来ると、ミナトは溜息を吐き見せの中を見渡す。色々なアイテムが整然と並んでいて、狭い店内にも関わらずそれを感じさせない、センスのいい店構えにミナトは驚いた


「店主は変わり者なのに店は良い感じですね」


「ありがとうございます~」


 皮肉にも一切動じない猫耳幼女、ミナトはその姿勢に感心すると、アイテムストレージに結構な数の素材アイテムが溜まっている事を思い出す。それの買取をしてもらおうと猫耳幼女に聞いてみる


「店を利用するのは初めてなんだけど……素材の買取ってして貰えますか?」


「はい~大量に持ち込まれますと~買取価格に若干の変動がありますので~注意が必要です~」


 ミナトは頷き、アイテムストレージから素材を大量に取り出すとカウンターに置く。


「結構多いですが、買取お願いします。」


「はい~査定を始めます~暫くお待ち下さい~」


 ミナトは頷くと、査定の間、店内を見て廻る、ポーション一つ取っても、プレイヤーメイドの物から既製品までかなりの種類があるのに気付く、値段も高い物から安い物まで一体どういう基準で選べば良いのか混乱しているミナトに、猫耳幼女が査定をしながらも説明してくれる。


「最初は~既製品で十分です~HPも初期はそんなに多くありませんし~十分な回復量を保証してくれますから~プレイヤーメイドの物は~回復だけではなく~能力値の一時的な上昇などの効果が付与されたりしますので~値段が高めになってるのですよ~」

 

 間延びした喋り方で説明してくれた、猫耳幼女はミナトを見つめると


「査定が終りました~全部で銀貨四十八枚と銅貨八十枚です~」


「はい、ありがとうございました」


 そう言って、お金を受け取るミナトを、猫耳幼女は不思議そうに見てくる、その視線に気付いたミナトは首を傾げながら猫耳幼女に問いかける


「何かな? 僕に用事?」


「いいえ~ただ~全く疑わずに~受け取ったので~驚いてしまっただけです~」


 猫耳幼女は、何故か嬉しそうな顔になり、ミナトに言ってくる


「私の~査定に~疑いを持たなかったのですか~」


「えっ? そう言われて見れば……でも、この査定に間違いは無いのでしょう……?」


「はい~何処に持って行っても~銅貨の数が5枚上下する位の違いしかありません~」


「なら、問題ないじゃないか? 何処か可笑しい事があったの?」


 心底不思議そうな顔のミナトに、猫耳幼女は微笑むとしっぽをふりふりしながら嬉しそうに笑った


「いいえ~またのお越しをお待ちしております~」


「うん、また寄らせてもらうよ、それじゃあ、またね」


「は~い、またね~」


 ミナトは‘シリウス’を後にすると、フレンドリストを開くと同時にメールが届く。


(遅れてゴメンよ、今何処に居るの? ボクはクライマーギルドを目指して移動中、ミナト君も近くに居るようならルドで待ち合わせをしよう!)


 メールを確認すると返信する。


(了解! ギルドの前で良いよね? これから向かいます)


 ミナトは返信すると、ギルドに向かい歩き出す。徐々に人が増えて来た大通りを横目に見ながら、少し早歩きでミナトは目的地に向かう。場所も近かったお陰で五分も歩かない内にギルドの辿り着くと。先に着ていた、ユズリハが手を振りながら近付いてくる。


「遅れて、ゴメン! 臨時メンテが入るなんて思わなくて……」


「全然気にしてないよ、僕もINしたばかりだし、臨時メンテがあるなんて思わなかったしね」


「そうなんだよ! 仮眠して、さぁ、入ろうると思ったら、メンテ中の文字が出てさ……それと朝はゴメンね、何かミナト君の都合も聞かないで勝手に時間決めちゃって…」


 朝の事を気にしていたのか、ユズリハは謝罪してくる。


「それこそ、気にしなくて良いよ……僕の方こそごめんね…場所も考えないで、あんな事をして…」


「ううん、ミナト君は励ましてくれただけで…それに過剰反応しちゃったボクが悪かったのさ……」


 二人は朝の事を思い出し、互いに少し顔を赤くする。また妙な空気になりそうなのに気付くと、ミナトはユズリハに声をかける


「そ、そういえばさっき、初めてお店に入って見たよ! それで溜まった素材を売ってきたんだ!」


「へ、へぇ~初めての買い物はどうだったんだい?」


 ユズリハもまた朝のような雰囲気になるのを回避したいのか、ミナトの多少強引な話題提供にも戸惑いながらも乗って来る。


「うん、シリウスってお店に入ったんだけど…」


 ミナトはお店であった事をユズリハに説明していく、頷きながら楽しそうに話を聞くユズリハを見て、どうやら朝の事はもう気にしなくても平気そうだとミナトは思った。


「ユズリハさんは、普段はどういうお店を使ってるの?」


「ボクかい?塔の都(ストーバ・トルレム)に知り合いが店を出しているから、そこを使ってるよ。ミナト君に渡した、ポーションもそこで買った物だよ」


 ユズリハの言葉に、ミナトはその事を思い出し。慌てて言った


「そういえば、まだポーションの代金返していなかったね、素材も売って多少はお金もあるから返すよ」


「既製品のポーションだから値段は高くなかったし、気にしなくて良いのに……」


「駄目だよ、こういう事はハッキリしておかないとね」


 ミナトはそう言って、お金を取り出すとユズリハにポーションの代金を聞くと、どうやら今あるお金で返せそうな額なのを確めるとお金をユズリハに渡す。ユズリハは苦笑を浮かべながらお金を受け取ると、


「しっかりしてるんだね、ミナト君は……」


「貸した物に頓着するな! 借りた物は横着するなって、昔通ってた、道場の先生に言われたから」


 ミナトは軽く笑いながら言うと、残った金額を確認して、ユズリハに聞く


「もうちょっと矢の予備が欲しいんだけど……良いお店知ってる?」


「既製品じゃないのが欲しいの? それなら幾つか心当たりがあるけど……普通に、唯、矢だけが欲しいなら何処の店で買ってもそんなに変らないよ?」


「うーん、プレイヤーメイドの武器には興味はあるけど……今の財政状況から考えると厳しいかな……結構高いんでしょう? プレイヤーメイドの武器って……」


 ミナトは幾分軽くなった、財布を見ながら苦笑を浮かべる。ユズリハも困った顔をして、ミナトに相場を教える。


「う~ん、ピンからキリまでの間が幅広いからね、プレイヤーメイドは…安いのは既製品と変らない位の値段から、高いのになると本当になんでこんな値段なの!? って言いたくなる程高いのもあるからね……ところで、ミナト君の予算は幾ら位でどの位の数が欲しいのかな?」


「予算は銀貨十枚、数は取り合えず十本あれば良いかな……」


「うん、それなら結構な品が買えると思うよ!早速ボクの知ってるお店に行こう!」


 ユズリハはミナトの手を取って走り出す、突然手を握られた事に驚きながら、ミナトはユズリハに手を引かれながら走り出した。北に向かう大通りの隅にある、‘trust’始まりの都店と書かれた看板の店の前まで来ると、ユズリハは止まると、ミナトを見つめ、握った手に気付くと顔を赤くすると慌てて、その手を離す。


「ゴ、ゴメン!つい……」


 ユズリハは顔を赤くして、俯きながら謝って来ると、ミナトは頭をかきながら


「あ、あのさ……こういう事はお互いに、もう気にしない事にしようよ? 冒険していれば、こういう事(お肌のふれあい)も多くなるだろうし…… お互いに相手の事を気にしてる場合じゃない場面も出てくると思うんだ……その度にこういう妙な空気になるのはお互いに恥ずかしいし……」


 ミナトは今の自分の気持ちを素直にユズリハに告げる、するとユズリハは俯かせていた顔を勢い良くあげると、ミナトに聞いて来る


「それって! これからも一緒に冒険するって事で良いの……かな……?」


「えっ!? ユズリハさんはこの冒険が終ったら、僕とのフレンド申請を解除する気なの!?」


「そんな事絶対にしないよ!!」


 ミナトの言葉をユズリハは強い声で即座に否定する。その声の大きさに驚くが、ミナトはユズリハを見つめながら、


「だったら問題ないよ、僕は暫くはソロで活動するつもりだし、ユズリハさんの都合がつく時は、また一緒に冒険しようよ、だから、変な遠慮は、もうお互いしないようにしよう!」


 ミナトがそう言って手を差し出してくる。その手を暫く見つめ、ユズリハ嬉しそうに微笑むと、その手を握ると、元気に言った。


「うん、これからもよろしくね、ミナト君!」


「こちらこそ!」


 二人は互いに笑い合うと、今度はった手を意識せずに離す事が出来た。




 二人は店の前で話していた事に気付き、回りの迷惑になってないか周囲を見渡すが、幸いにも人通りは多く無かったみたいで、今朝の様に冷やかされる事も無く二人は安心する。ミナトは店を見ながら、ユズリハに改めて聞いて見る。


「この店がユズリハさんが言っていた所?」


「うん、ボクが使う良く使う塔の都(ストーバ・トルレム)でやってる店の、支店だよ」


「へぇ~、生産職で自分のお店を持っているなんて……しかも二つも、これって凄い事だよね?」


 ミナトは店舗の外観を眺めて、感心するように頷いている、ユズリハは苦笑を浮かべると感心しているミナトに言ってくる


「確かに、凄い事だけど……店主はちょっと変ってるから……覚悟しておいた方が良いかも……」


 ユズリハはそう言って遠い目をする。二人は店のドアを開け中に入る。


「こんにちは~! モホールさーん!お 客さんを連れてきましたー」


「誰かと思ったら、ユズリハじゃない、何々お客様を連れてきてくれたの? ありがと~」


「……ユズリハさん……こちらの方は?」


 ミナトの顔が引き攣っているのに気付いている筈のユズリハは、それを無視して、その人物を紹介してくる


「こちら、この‘trust’始まりの都 支店の店主で、モホール・イゲさん」


「どうも~、私がこの店の店長兼生産系ギルドtrustの副ギルマス、モホールよ~。よろしくね! 可愛いぼくちゃん」


 そう言って、ミナトにウィンクしてくる、軽く眩暈を起こしそうになりながら、ミナトはユズリハを空ろな目で見て、小声でどういうつもりなのかを聞いて置く


「ユズリハさん……このやたら筋肉質なのに着ている服はピチピチで、何故か内股で仕草が女っぽい、バカデカイオッサンを僕に紹介してどうする気ですか…お返事次第ではフレンドリストから貴女の名前がなくなりますよ……」


 ミナトのかなり本気な声に若干引き攣りながら、ユズリハも小声でミナトに言い返す


「だから覚悟しておきなって、言ったじゃない……でも大丈夫! 女の子プレイヤーからは(・ ・ ・)すこぶる評判が良いから!」


「その言葉に、僕が安心できる要素が一つも無いのは、何故なの? ユズリハさん…」


 ミナトは生気の無くなった瞳をユズリハに向けると、モホールがミナトに必要以上に近付いて話しかけてくる。


「あらん、近くでも見ても可愛いわぁ~食べちゃいたいくらい(物理)それでうちの店に何を求めてきたのぉん、貴方可愛いからサービス(意味深)しちゃうわよ」


 ミナトは涙目になりながらユズリハに視線で助けを求めるが、ユズリハはミナトから顔を逸らして明後日の方向を見ている。それに絶望を感じたミナトは覚悟を決め直接対決に打って出る事にした


「えっと……矢を補充したいので、良さそうな物があれば買いたいなぁと思いまして……コホン」


 声が若干震えているのが自分でも分かったのか、ミナトは一度咳払いをする


「なるほどねぇん、それなら今結構良い物があるわよん、でも、少し値段が高いけど、予算は幾ら位かしらぁ?」


「銀貨十枚位でお願いしたいのですが……」


「分かったわ~、ちょっと待っててね~ん、在庫を見てくるから、ん~チュっ」


 投げキッスをミナトにすると、店の奥に引っ込んでいく。ミナトは力ない声で、知らん顔していたユズリハに向かって言う。


「僕はもう駄目かもしれない……」


「不吉な事言わないでよっ! 責任感じちゃうでしょ!」


 ユズリハは痛々しいミナトの姿に流石に悪い事をしたと思ったのか、ミナトの近くに寄ってくると、そこにモホールが幾つかの商品を抱えて戻ってくる。


「貴方の予算に合わせると、この位の商品になっちゃうけど、」


「モホールさん、ミナト君は少し気分がすぐれないみたいなんで、あとはボクが代わりに見ますから」


 ユズリハはミナトに向かってウィンクすると、視線で店に備え付けのソファーを見る、それに気付いたミナトはモホールに


「すみませんが、あのソファーで少し休ませて貰っても良いですか?」


「良いわよん、体調には気をつけなくては駄目よ~、何事も体が資本だからねぇん」


 そういって胸筋をピクピク動かすモホールを視界から外し、ミナトはソファーに横になる。それから五分程の話し合いで、掘り出し物が見つかったのかユズリハがソファーに横になる。ミナトに近付いて。買ったアイテムを渡してくる。


「代金は立て替えておいたよ、結構良い出物だったし、ミナト君も気に入ると思うよ」


 ユズリハは元気にそう言うと、モホールに礼を言って、ミナトの手を取ると店を出ようとする。ミナトが立ち止まり、モホールに向かって頭を下げると、それを見た。モホールは嬉しそうに微笑み手を振りながら見送ってくれる。

 二人は店を出るとゆっくりとした歩調で、北の城門への道を歩いていると、ユズリハが聞いて来る


「改めてどうだった?あの店……」


 ユズリハが笑いをかみ殺した声で、ミナトをからかう様に聞いて来る。それに苦笑を返しつつミナトは言葉を返す。


「きっと、凄く良い人なんだろうけど…やっぱり男としては近寄りがたいなぁ……」


 素直な感想にユズリハは微笑を浮かべ


「でも、気に入られてたみたいだよ、ミナト君がソファーで寝てる時も心配してたみたいだし、良かったじゃない」


「物凄く不安になる情報だなぁ…なるべく一人では近付かないようしよう、幾ら品揃えが良くても、色々な意味で身の危険を感じるし…」


 ミナトは一人頷くと、ユズリハから先程受け取った、矢を見る、鏃から矢羽まで真っ黒、試しに弓筒から一本抜いて手に持ってみる、今まで使っていた既製品に比べると、凄く手に馴染む不思議な感覚がする


「命中率と威力が上がる効果がついてる魔法の矢だよ、何となく手に馴染む様な感覚があるでしょう?それが命中率を上げている効果、結構品質良いものだから大事に使いなよ?」


「ありがとう、あっ、お金立て替えてくれてありがとう」


 ミナトは財布からお金を取り出すとユズリハに渡す、それを苦笑をうかべながら受け取る


「やっぱり、しっかりしてるね、ミナト君は」


「そうかな? 普通でしょう?」


 二人はそんな事を言い合いながら、傾き始めた優しい日の光の中を仲良さそうに歩くのだった。

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