Lv.44 伝説の・・・・を手に入れた!
時は少し遡り、それは地下のファンシー体育館(広さが)での出来事。
目の前にクマが迫り、俺の視界がブラックアウト…
「もぶー!!」
ブラックアウトというよりは、俺より頭二つ分は背の高い黒いクマの着ぐるみに抱き潰されていた。
「ぶふー!(放せ~!)」
渾身の力でもがいているにもかかわらず、なぜかクマの着ぐるみの腕は外れず、俺はかなり焦った。
俺、肉体強化の力が無くなったとか言わないよな!?
俺より強いぞこのクマ!
「…お、おぉ、すまんクマ、何しろ久しぶりの伝説の勇者だったクマ。かれこれ・・・」
明らかに声がおっさんのツキノワグマの着ぐるみクマは、ようやく俺を解放し、突っ立った姿で考え込んでいるようだ。
しかし…
・・・・・・
・・・
「わからないなら考えんでも…」
「はっ…寝てたクマ」
「寝んな!」
着ぐるみの中身が今何してるかなんてわかるかー!
えらく返事が遅いと思えば寝てるとは…。
ん? あれ? いまこのクマ、久しぶりの伝説の勇者って言わなかったか?
「いつもは昼寝の時間クマ」
「いや、聞いてないし。それより、伝説の勇者って?」
クマは着ぐるみを着ているためか、大きめのジェスチャーで頷き、俺を無視して体育館の中を進みだす。
よくわからないがついて来いということなのかもしれないので、不気味さを感じながらも俺は後を追った。
「なんでこんなにぬいぐるみやら着ぐるみやらが並んでるんだ?」
よくよく見れば部屋の中にはソフトビニールでできた人形も混ざっている。よっぽどの人形好きのコレクションルームと言ったところだろうか。
「ここにあるのは鎧と武器クマ」
俺はぴたりと足を止め、辺りを見回した。
「鎧と武器!? どこが!?」
どう見ても整然と並んでいるのはファンシーな人形達だ。地上で戦っている変態達とはかけ離れた世界の住人…のはずだ。
近くにあったキリンの人形を手に取り、矯めつ眇めつするが、どう見てもただのキリンの人形。体を強めに押してみても、中に何かが仕込んであるという気配はなかった。
「これはただの人形だろ?」
先を行くクマに問いかけると、クマはふと振り返って俺をじっと見つめたまま固まり…
「寝てんのか?」
思わず俺が尋ねれば、クマははっとしたようにびくりと体を動かして目を覚ましたようだ。
「すまんクマ。それはただのキリンのぬいぐるみクマ。かつての伝説の勇者のお気に入りクマ」
・・・・・あえて突っ込まないでおこう。
ただのぬいぐるみは元に戻し、おれはクマに向き直る。
そうそう、話の本題はその伝説の勇者のことだ。
「その伝説の勇者のことが聞きたいんだが」
小走りでクマに接近し、もう一度尋ねると、クマはその場で少し屈み、がさごそと何かを漁っていた。
何をやっているのかと後ろから覗き込むと、クマは何かをその手にひっつかみ、ものすごい勢いで振り返った。
ごぅっ
あぶねぇっ!
何かを振り回したらしいが、明らかに風を切る音が鋭く、傍の人形達が風圧で一部吹っ飛んだ。
俺は間一髪後ろに下がり、難を逃れたが、実はクマは敵かと身構えたほどだ。
「これだクマ~!」
クマは俺の警戒など丸無視し、自分と同じツキノワグマのようなクマの着ぐるみを手に、まるで新婚の奥さんがエプロンを自分に当てて「似合う~?」とでも言いたげな様子でぐるんぐるんと着ぐるみを振り回した。
「伝説の勇者だクマ」
俺はクマの着ぐるみを見下ろし、…俺の前の伝説のナントカさんは人ではなかったのか…と微妙なショックを受けた。
ついでに、その末路を思って尋ねてみる。
「勇者は、その…ハンターにでも狩られてその姿に?」
「?・・・これは伝説の勇者専用の着ぐるみクマ」
きょとりと首を傾げられた。
「知るかー! それにそれ鎧じゃなくて着ぐるみって言ったよな、今!?」
着ぐるみじゃ役に立たないだろうがっ!
今俺が求めているのは伝説の勇者の着ぐるみじゃなくて、外の敵を蹴散らせるような武器だ。まぁ、そんなすごいものでなくても、とにかく武器があって、戦えるのならば何でもいいのだ。
外での状況を思い出して踵を返そうとすると、ぐらりと地面が揺れた…
「待つクマ」
いや、地面が揺れたんでなく、俺は問答無用でクマに持ちあげられたせいで揺れたように感じた様だ。
「ちょっ…」
「伝説の勇者とその仲間達は、かつてこの着ぐるみを着て世界を救ったクマ。このクマスーツは世界を救う最強の鎧クマ。本人が言うのだから間違いないクマ」
「わかった、わかったから降ろせ・・・、ちょっと待て!本人ってなんだ!」
クマの着ぐるみはひょいっと俺を降ろすと、ついでにクマの着ぐるみを俺に手渡して告げた。
「私は元伝説の勇者…」
ごくりと唾を飲み込めば、クマは微妙な間の後、続けた。
「の残りカスだクマ」
ガクリと俺は項垂れる。
残りカスって…クマの着ぐるみ着ている必要があるのか? それとも着ぐるみ着たままコピーを作ったとかそういう状態か?
「このスーツの力は着てみればわかるクマ。言ってみてクマ…装着!と」
俺ががっくりきていることなどお構いなしでクマはノリノリに続ける。
「え~…装着ぅ?」
いやいやに呟くと、クマが俺の肩をがしりと掴んで首を横に必死に振った。
肩の骨がみしみしと軋むほど力が強い!
「もっと心の底から言うクマ! 伝説の勇者はヒーロークマよ!」
クマよって…
ギシリと肩の骨がなり、俺はとにかく痛みから逃れたい一心で叫んだ。
「装着!」
ふっ…この後のことは言いたくない…だが、俺の苦労をわかってもらうためにあえて言わねばなるまい…。
俺はクマの着ぐるみを魔法少女さながらにキラキラ状態で装着し(なぜ特撮ヒーローじゃなくキラキラ乙女仕様なんだ!)、装着し終わった瞬間その場にポーズをとっていた。
片足を上げ、両手で拳を作って口元を隠す…うふっ…のポーズに、俺はうちひしがれて滂沱の涙を着ぐるみ状態のままぼたぼたと流し、床に膝をついて悔しさに床に拳を何度も打ち付けた…。
着ぐるみの力なのか、床がガンガンにへこんだ…。
「さぁ、新たな勇者よクマ! 世界の危機を救おうではないかクマ!」
だんだん語尾のクマがきつくなってるぞクマよ…
気を取り直して俺は立ち上がり、立ち上がり、目にした光景にぎょっとして後退る。
「う…わぁぁ…」
そこには、大量の着ぐるみを抱えたツキノワグマと、なぜか自動で動くぬいぐるみ達が、待っていたとでも言いたげに目をギラリと輝かせて俺を囲んでいたのだ。
「我に残された力を使い、君を助けてやるクマ~! 行くぞ新たな伝説の勇者よ! クマッ」
最後のクマは明らかに忘れてたんだな…
俺は心で突っ込みながら、ぬいぐるみ達を引き連れ、地上へと戻って行った。
そして…
「よらないでよ変態!」
俺は、ヒーローとして出遅れるだった…




