Lv.42 ギルド到着
「本物の魔物っていたんだな…」
ぽつりとつぶやく俺を、婆さんがゲインっと杖で殴った。
「偽物の魔物になど一度も遭遇しておらんじゃろうが」
ゴヒツジとか…、カマンハーチとか…、明らかに偽物っぽいだろう。
ましてやステータス画面なんて普通のファンタジーの敵にはならんぞ。
頭をさすりつつも抗議の言葉は心の中だけでひそかに呟いた。
俺達を乗せた馬車は、少し速度を落として王都の入り門に近づく。
王都の門で戦っているのは門を守る兵士と…
「白鎧!」
俺が能力を奪った堕ちた勇者達と、さらに数人の白鎧が奮闘していた。
「とりあえず町に入るぞ! 一部の敵は蹴散らしてくれ」
ゴルベーザは馬車の中の俺達に告げ、ロマと婆さんが頷いた。
俺はと言えば、馬車の中からでは剣は振り回せないし、俺の剣はガーゴイルとの戦いでひびが入って使い物にならなくなった。
ならばとグウェンの剣を借りたくても、奴の武器はここ最近ウクレレで、今は壊れたので武器がない。まぁ、もともとウクレレは武器ではないが…。
じゃあ、ここは一発、久しぶりにやってみるか!
馬車が再び加速しだすと、俺は外に向けて叫んだ。
「ヒーター!」
覚えているだろうか、俺がまだここに来たての頃、ぼそりと呟いたあの大魔法を!
今度は思い切り叫んだので、雨にも負けない業火が馬車を中心にして迸り、一気に辺りに襲いかかった。
ちなみに、コントロールとか無理だから。
「「うをぉぉ!」」
「「あちちちちっ」」
白鎧達と兵士達も魔物同様逃げ惑う。
俺は白鎧達の力を吸い取ったが、まだ他に同じ鎧の奴らがいるようで、きっと彼等も勇者なのだろう。ならば、きっと炎ぐらいなんとかするはずだ。
無責任なことを思いつつ、たぶん大丈夫だと信じて俺達は町の中へと入った。
町もかなりひどいことになっていた。
商店のガラスは割られ、あちこちに点々と魔物の死骸が落ちている。
街道と違って落ちているのが魔物の死骸であることが唯一の救いだが、城の方向に向かうにつれて、さらに町の様子がひどいものへと変わっていく。
一部火災も起きているようだが、大雨のおかげでそれほどの被害にはならないだろう。
さらに道を進むと、ようやくギルドが見えてきたが、ギルドにも非難する町の人間がいるのか、冒険者達が魔物と戦いつつ市民らしき人々を誘導していた。
「ファナ!」
ギルドマスターのファナの姿が見えて叫ぶと、気が付いたファナがぎょっとしたように叫び返す。
「後ろ!」
窓から降り返った俺の目には、黒に虹色の輝きの混ざった鱗を持つ不気味な竜が飛び込んできた。
「婆さん、結界!」
咄嗟の叫びだったが、メルニア婆さんの結界は素早く張られ、俺は顔を馬車の中にひっこめる。
次の瞬間、バキバキと音を立てて馬車の屋根がはがされ、車体を振り回されてそのまま俺達は外へと放り出された。
「ワイバーンだ!」
誰かの叫び声にその場の殺気が高まる。
「野郎ども! 倒せば鱗が手に入るよ! しっかり稼ぎな!」
ファナ…さすがはギルドマスターというべきか。
こんな時でも冒険者達に稼ぐことを要求するらしい・・。
ファナの声を聴きながら、婆さんの結界で何とか無傷だった俺達は全力で走り、冒険者達にかばわれながらギルドへと飛び込んだ。
ちなみに俺はけが人の旅人に肩を貸し、ゴルベーザは緑の役立たずを担いで駆け込んだ。
この後、何をするにも武器がいる。
「武器を調達しないと」
もちろん魔法もありだが、俺の場合周りを全て巻き込むからな。
ぼそっと呟いた俺の言葉に、ギルドカウンターから声がかかった。
「武器ならいくつか予備がある。必要な得物を持って行きな」
見上げれば、随分と渋い雰囲気の老人が一人キセルをふかしながら床を指さした。
指し示す先を見れば、カウンターの前の床が上がっている。どうやら地下があるらしい。
覗き込むと、後ろからポンと肩を叩かれ、俺は振り返る。
「ギルドの地下には有事の際に戦えるよう武器と食糧が備蓄されてるんだ。俺は外のを蹴散らしてくるから、武器を選んだら助太刀ヨロシク」
ゴルベーザはそういうなり巨大な戦斧を手に持ち、ギルドから再び飛び出していく。
長旅で疲れているだろうにタフだな。
「じゃあ、ロマにはけが人を任せていいか? 婆さんはグウェンを起こしてくれ」
ゴルベーザを見送り、俺は地下に武器を取りに行くとして、ロマと婆さんに頼むと、二人は頷き返した。
「任せて」
「一発で起こしてやろう」
ぐっとメルニア婆さんが杖を持つ手に力を込める。
…頼むから再起不能にはしてくれるなよ…と一抹の不安を抱きながら、俺は地下へと降りるのだった。
嵐の前の…一話…




