Lv.41 襲撃
ぐしゃりと地面に落ちて動かなくなったグウェンはひとまず置いといて…
「ゴル! 婆さん! ロマ!」
御者席から飛び降りた俺は、旅人と、軽く叩かれた程度にしかダメージを受けていないガーゴイルの間に入り、剣を振った。
ギィィィン!
「硬い!」
さすがは石で出来ているとかいうガーゴイル。
そんな余計なところはテンプレでなくいいのに、そういうところはきっちり守るんだよな、この世界・・・
痺れる腕を軽く振り、剣を持ち直す。
攻撃されたガーゴイルには嘴があり、そこには細かい牙のようなものが点々と付いていた。
あれで噛まれたら相当痛い…。
ぞっとしたところで、ガーゴイルが飛び掛かってくる。
「アキ! 剣では無理じゃ! 折られるぞ!」
「そういうことは早く言えって!」
ガーゴイルの嘴攻撃を思い切り剣で受け止めた俺の目の前で、剣の刀身にみしみしとヒビが入り始める。
おまけに石でできているせいか、ガーゴイル自体がものすごく重く、腕が痺れてくる。
このままだとやばい・・
そう感じたところに、視界に入り込む影があった。
ドガシャアアアアア!
俺は咄嗟に剣から手を離していたおかげで難を逃れた…。
横から何かが飛んできて、ガーゴイルにぶつかったようだ。
そう思い、飛んできた方向を見ればそこにはゴルベーザが立ち、ニカリと笑っていた。
どうやら助けてくれたらしい。
では、何が飛んで行ったかとガーゴイルを見やれば
「ぎゃああああ!」
俺は思わず悲鳴を上げたよ…。
ガーゴイルに向かって飛ばされたのは丸太とか、ハンマーとか、馬車の一部とか、そういう平和的なもの(?)ではなくて
緑色の彼だった…
「お前は鬼かー!」
俺が叫べば、ゴルベーザは頭をカキカキ、旅人の周りに結界を張るメルニア婆さんを示す。
「あの鎧なら大丈夫だとそこの巫女婆さんがな」
「…婆さん…」
ジト目で見やれば、婆さんはいつものようにしらっとした顔で答える。
「問題はないぞ。その鎧は特別性。衝撃にも魔法にも優れた一品。以前そ奴が着ていて売り払ったレプリカとは違う本物の勇者の鎧じゃ」
今、ものすごい突っ込みどころ満載だったような気がするんだが…
やっぱり前の鎧は売り払っていたんだよな、とか、あれがレプリカなのか、とか、勇者の鎧って!?とか・・・聞きたいことが山盛りだが、とりあえず!
「グウェンは勇者なのか!?」
そう叫んだら全員に驚いた顔をされた。
「緑の騎士は有名な勇者の名だぞ。かつて、エルフォーミアの国を襲った緑竜を退治してその鱗で鎧を作ったというのがヤツだ。そいつが10代の時の話だな」
グウェンはやはり強かったのか…。
だが…
俺はいまだガーゴイルと共に目を回しているんじゃないかと思うグウェンの姿を見てなぜか尊敬の念は一ミリすら湧いてこなかった。
湧いたのは、たぶん憐みだったと思う…。
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ガーゴイルが起き出さないうちに、と俺達は再び馬車に乗り込み、箱馬車の中にケガ人と鎧を詰めてぎゅうぎゅうな中、王都へと走った。
ちなみに雨の中の御者は婆さんの雨避けの結界を張られたゴルベーザだ。魔物ホイホイは甘んじて受けてもらい、自ら魔物を払ってもらうことにした。
襲われた旅人はあちこち傷だらけではあったが命に別状はなく、意識もしっかりとしていて、今は魔法ではなく簡単な応急処置を施されていた。
「助けていただきありがとうございます」
陰鬱な表情なのは仕方がない。彼は仲間を失っているのだ。
「王都に帰るところだったんだ。一体何があったんだ?」
外では時折魔物の声と妙な音がするので、ゴルベーザが叩き落としているかもしれない。
「実は、こういった町や人間への襲撃はここ数年激化していて、我々は点々と場所を変えて逃げていた最中でした」
旅人はそう言うと、ここ4~5年でおかしくなったのだと告げた。
「魔王が代替わりしたとも言われておりますが、ここ数年、あちこちの村や町が襲われ、人間が殺される、もしくは奴隷として連れて行かれているのです。もちろん原因は魔王。
・・・ですが、かつての魔王はただの女好きで、そこそこ顔もよく、女達も無理強いされているわけではなく、自らの判断で帰らないので、今までは妬んだ男達の苦情の討伐依頼がギルドに貼られるだけだったのです。しかし…今の魔王は残虐で残忍。その悪行に脅える者達が討伐依頼をだし、その数はかなりの物となっているのに、ギルドはおろか、勇者ギルドでさえ動かない始末」
その女好き魔王もどうかと思うが…とりあえず普通の魔王が就任したということだ。
普通の魔王って言ってて妙だな。
「ですが、それでも王都周辺には神聖神殿があり、魔族は決して入れないよう結界が張り巡らされ、平和であったはずなのです。しかし先日、その一つが壊され…遂に外側から徐々に破壊が始まりました。われわれは仲間と共に情報を得ながら王都へと逃げてきて…」
「…情報操作がなされておるかもしれぬ…ギルドや勇者ギルドにこのことを知られぬように…」
ぼそっと青い顔したメルニア婆さんが呟く。
婆さんも巫女だ…たぶん。きっとその神聖神殿とやらには仲間がいたのだろう。
馬車の中がしんと静まり蹴る中、がたんっと馬車が大きく揺れ、止まった。
「どうしたゴルベー」
いや、わざとそこで名前を止めた訳じゃないぞ?
馬車から顔を出した俺は、驚きに言葉が消え、王都の入り口で繰り広げられていた戦いに大きく目を見張った。
王都は、今まさに魔物の襲撃を受けていた。




