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Lv.35 吸引失敗?

 さて、これは困ったパターンだぞ。

 襲いかかってくる勇者達から二度と襲いかかってこないよう力を奪うというのはわかる。襲いかかって来る時点でロクな勇者じゃないからな。


 しかし、この勇者らしきガリガリに痩せた男は、俺に力を奪ってほしいと自ら懇願してきた。

 うさん臭さ大爆発だ。


「婆さん、あれは勇者で間違いないのか?」


 俺とグウェン、それに婆さんは幌の中仲間と、アマゾネスの女達を起こさないようにしてこそこそと相談する。


「気配は勇者特有のモノじゃ」


 …勇者の気配ってものすごく信頼性が低いが、とりあえず婆さんが巫女だというのを信じたと仮定して話を進めれば、あれは勇者で、能力を奪ってほしいと言っていることになるな。


「どんな能力なのか把握しておく必要があるぞアキ」


「だよなぁ、ゴルみたいに魔物ホイホイらしきものが出てきても困るしな」


 まぁ、ゴルベーザは勇者じゃないし、あれは呪いだから関係ないが、勇者の中にもそんな余計な力がないとも限らないだろう。なにしろ目の前の男はガリガリに痩せてやつれているのだから。


 とりあえず額を突き合わせるのをやめ、もう一度馬車の前の土下座男に向き直った。


「聞くが、どんな能力なんだ?」


 厄介な能力ならば嘘をつかれるかもしれないと思い、嘘は見逃すまいと男の様子を窺えば、男はすまなそうな表情で答えた。


「私の能力は…モテるという能力だ」


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・・


 ・・・・


「何の自慢だそれは」


 思わず突っ込んだのは仕方ないだろう!

 いきなり目の前のガリガリに痩せた見た目の悪い男が自分はモテますよと言い出したんだぞ!

 二次元の空想世界での勘違い男か、はたまたただの異常者かと思うだろう! 普通!


「う、嘘ではないんです! ここに女がいたらすぐにわかるが、とにかくこの能力を伝説の勇者に!」


 俺は思わず靴を投げ、その靴は見事に男の頭にごいんっとぶつかった。


「伝説の、言うな…」


「アキ、あの男死ぬぞ」


 呆れたように言った婆さんが指示(さししめ)した男は、ぴくぴくと震えながらその場に突っ伏していた。


 靴のヒットで、HP1か!?


 その後ロマを起こし、俺達は懸命に男を蘇生させた。

 息も絶え絶えの男は、幌馬車の中にアマゾネスがいると知って真っ青になり、絶対に外に出すなと懇願したので、俺達は騒ぎに目を覚ましたアマゾネスを幌馬車の中に押しとどめ、幼女は範囲外らしいのでロマを加えてさらに話を聞くことになったのだが、とにかく力を奪えの一点張りになってしまった。


「なんだかわからないけど奪ってあげたら? 勇者の力って人の為にあるものなのでしょう?」


 ロマが言えば、メルニア婆さんがコクリと肯く。


「本来はのぅ」


 本来じゃないところが気になるが、グウェンを見れば彼も呆れたように肯く。


「ここでこうしていてもらちが明かないだろう。もう奪ってやればいいんじゃないか?」


 完全に他人事だな。


 まぁ、どの道ここでこうしていても仕方ないのは本当なので、ため息をつきながら、俺は男の額に手を当てた。


「あぁっ」


 恍惚とした顔で祈るのはやめてくれ…気持ち悪い。


 吸引するのを一瞬ためらうほどの表情の輝き様にドン引きしながら俺は男の力を吸引した。

 途端に少しずっしりとした疲労感に襲われる。


「どうだ?」


 チラリと男を見れば、男の額にスッと『堕』の文字が浮かんだが、すっとすぐに消えた。


「あれ?」


 男以外の全員がその変化に首を傾げる。

 ひょっとして失敗したんだろうか。


「ためしにアマゾネスを呼んでみるか?」


 婆さんが言うなりバサッと幌を開き、そこからずっと聞き耳を立てていたらしいアマゾネスが顔を出した。

 

 ・・・・・


 特に変化はない。


「おぉ! ありがとうございました!」


 男はなんだか輝きを放ちながらものすごい勢いで走り去っていった…

 

「一応勇者なだけあって速いな…」


 すでに地平線の彼方へと消えてしまった・・・・。と、そんなことより、先程の『堕』の現象と俺に何も起きないのはなぜなんだ?

 もてるんじゃなかったのか?


 俺は首を捻り、ロマは満足そうに頷く。


「アキがこれ以上モテなくてよかったわ」


 ・・・まぁ、何も起きなかったのならいいのか?







 なんて、甘っちょろいことを考えていた俺は、現在の自分が勇者避けにダンディな別人になっていたことを忘れていたのだ。


 吸い取った能力が、あんな恐ろしいことになるとは思いもよらず、俺はしばらく吸い取った能力と消えた『堕』の謎ばかりを追い、その時まで、平和な時を過ごしていたのだった。

 


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