Lv.34 旅の途中
「では早速行くぞ、我らが村へ!」
がしぃっと腕を絡められ、すぐ近くでグウェンが「ひぃっ」と悲鳴を上げた。
まぁ、遠慮なしに腕を絡められ、魅惑の胸がむちむち当たる状態では接触恐怖症とはいえ、男として恐怖すべきか喜ぶべきか迷うだろう。
現にグウェンは悲鳴を上げたけれど、突き飛ばすようなことはせず、ひたすら固まっている。
「ちょっと! 勝手に私のアキに触らないでちょうだい!」
腰に手を当て、怒りをあらわにしたのは我らがお子様アイドル(?)ロマだ。
今は彼女の怒りが救いだ!
なんとかこの依頼を無かったことにしたい。
「ふん、森の精霊か。まだ子供ではないか。口出しできるほどグラマラスになってから口出ししてみることだね。あたしたちアマゾネスが美と強者に従うのは森の精霊なら知ってるだろう」
鼻で笑われ、ロマがギンッと俺を睨む。
うわ~っ 浮気現場を押さえられた男の気分だ。
愛人は強気、妻も気は強いが、どうして何も言わないのよこのぼんくら!みたいな視線を感じる。
とても依頼は誤解だと言える状況ではない。
修羅場だ…
なんとかしてくれとゴルベーザを見たが、彼は必死に首を横に振った。
こいつは駄目だ…
ならば! メルニア婆さん!
「わしの若い頃を見ているようじゃのぅ」
なんだか知らんがアマゾネスと自分の昔を重ねて思い出し、うっとりしているようだ。
婆さん実は巫女じゃなくてアマゾネスだったとか言い出さないよな?
まぁ、なんにしても婆さんに助けは期待でき…
ひゅおおおおおおっ
音が聞こえてきそうなほど冷たい冷気がロマとアマゾネスの間に流れ、グウェンが固まったままガチッと凍った。
ゴルベーザは現在必死で逃走を図っている!
俺はアマゾネスにがっちり腕を掴まれていて逃げることができない!
「そう言うことならいいわ…アキが私の物だって証明を私自身がしてやろうじゃない! 勝負よアマゾネス!」
「受けて立とう森の小娘!」
依頼は…逃れることができなかった…
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結局、売り言葉に買い言葉のようなノリで俺達はアマゾネスの依頼を受けることになったが、まぁ10万リンは大きいから良しとする。
俺達は現在幌馬車に揺られてアマゾネスの村への旅の途中だ。
王都からアマゾネスの村までは片道約1週間もかかるらしい。
さすがに1週間24時間起きっぱなしで婆さんに結界を張ってもらうわけにはいかないので、ゴルベーザの厄介な魔物ホイホイは夜の間解放することになり、昼は俺達も(馬車を動かすグウェンを除く)案内役のアマゾネス達も睡眠をとることになった。
魔物ばかりに気をとられていて、すっかり忘れていたのだが、俺が勇者に狙われているんだったと思い出したのは4日目の昼のことだった。
「たのむぅぅぅぅ~! 伝説の勇者よぉぉぉぉ~!」
夜の激闘を終え、婆さんと馬車を動かすために夜寝ているグウェンが起き出し、のんびりと旅を続けて俺達が眠りに落ち始めた頃、そんな声に起こされて、俺は眠い目をこすりながらのろのろと幌から顔を出した。
「何の騒ぎだ?」
俺のダンディ変装は解いていない。だから、勇者たちにばれることはそうそうないと思っていたのだが…。
遂にこの姿もばれたのかと外の様子を窺えば、ユックリと止まる馬車の前に、土下座するガリガリに痩せた男がいた。
「何か頼みごとがあるらしい」
グウェンが俺の顔を見て答える。
「頼み? 俺にか?」
「伝説の勇者と名指しじゃのぉ」
「それは俺じゃないと言ってくれ」
そこは思い切り否定しようと幌の中に引っ込もうとすれば、がばっと男は顔を上げた。
よれよれの服、ガリガリの体。目の下にはクマができ、肌はがさついてほとんど生気を感じられないような男だが、目だけはギラギラと輝いている。
「伝説の勇者よ! 私には真実を見ぬく心眼がある! どんな姿をしようと私はお前を見抜けるぞ!」
・・・・・・・・
「脅しかそれは?」
俺より先にグウェンが反応して腰の剣に手をかけた。
「まぁまぁ、落ちつけよ。で、おっさんは何が言いたいんだ?」
当事者の俺じゃなくグウェンが怒りをあらわにするので、俺は冷静になって男に尋ねた。
「…私の勇者の能力を奪って欲しい! 頼む! この通りだ!」
再び土下座をされ、俺だけでなく婆さんやグウェンもおそらく思ったに違いない。
うさんくせぇ…と。




