表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/61

Lv.31  依頼2

「俺は新たな技を手に入れた!」


 ばば~んっと珍しくハイテンションでロマ達に宣言する。


 風呂から上がった後、例の白鎧からもらった技を試してみたのだが、はっきり言って『複製』は怖かった…。

 

 鏡の前にずらりと並んだ俺軍団。

 どうやら複製された者は言葉を発したりはしないようだが、気を抜くと皆各々(おのおの)俺ならこうするだろうという動きをし始めるのだ。

 なまじ俺と同じ顔なものだから、あまり親しくないものが見たら本物か偽物か見分けは付かないだろう。

 

 これが戦闘に使えるかはともかくとして、普段使うには使い勝手が悪そうではある。


 もう一つの能力は衝撃波だった。

 指先に小さく力を込め、ピンっとはじくと、少し離れた位置にあったガラスのビンがパンッと音を立てて割れたのである。


 これは戦闘時自分や武器に纏わりつかせればかなりの戦力になる。


 そして最後の一つ。

 これが肝心だ。


「火でも吹くのか?」


 説明する俺を、メルニア婆さんがワクワクしながら目を輝かせて見ている。

 

「さすがにそれは人としてどうかと思うが・・・、かなり役に立つぞ」


 俺の言葉に他の皆も興味津々だ。

 というわけで、俺は新しい依頼を受ける前に、部屋に皆を招いてその能力を披露することにした。


「じゃじゃ~ん!」


「「「おぉ!」」」


 くるりとその場で回転した俺を見て、全員が驚きの声を上げる。

 掴みはバッチリだ。


「すごいわ。身体能力はどうなっているの?」


 ロマが興味深げに俺を覗きこんだり、着ているものに触れたりする。

 

 それもそのはず。俺は現在、俺を襲ってきた例の白い鎧の一人に扮しているからだ。


 着ている物だけでなく、髪型、髪色、目の色、肉付きや身長まで、ありとあらゆる物がそのままの形で現れるこの能力は、さしずめ『変身』と言ったところだろうか。


 これがあれば俺は目立つ場所でも別人の姿で街を闊歩できそうである。

 なにしろ俺は勇者()に狙われてるからな。


「身体能力も劣ることがないし、どうやら見た人間を再現できるようなんだ。ついでにこんなこともできる」


 くるりとまた一回転。


 俺の体はゴルベーザのごつくて筋肉質な体に代わり、顏は少し小柄なメルニア婆さんのものになった。


「変身というよりモンタージュかもな」


 俺の説明と実践に皆が何とも言えない表情を浮かべる。

 その気持ちはよくわかる。俺も鏡を前にいろんな人のパーツを繋いでこんな人間いたらコエェと気持ち悪くなったからな。


 だが、これのおかげで全くの別人を作ることができる。


 俺はそう考えた瞬間、すれ違っただけの男の顔、ギルドで朝食をとっていた細身の男の体とつなげ、どちらの人間でもない全くの別人の姿を作り出したのだ。


 これで勇者達を誤魔化すことができるはずだ!


 追われる心配が少し減った。


 まぁ、それでも、このパーティーとして一括りにされると逃れようもないが、それ以外の目はごまかせそうである。


「しばらくこの姿で依頼をこなすよ」


 そう言って変身したのはどこにでもいそうなちょっと紳士風の冒険者だ。

 ロマにはものすごく不評だったが、背に腹は代えられないということで納得してもらった。



_____________



 そういうわけでギルドの依頼書2件目は無難に材料集めだ。

 どこにでも生えている薬草の一種で、とにかく数がいるということでゴルベーザとグウェンも共に探してくれることになった。


「なんだか見慣れないわ」


 森の薄暗い場所に生えている薬草をぶちぶち抜きながら、口もぶちぶち文句を言うのはいまだ俺の姿に反対しているロマだ。


 この顔は意外とダンディだと思うんだが、ロマはひょっとしてダンディが嫌いなのだろうか。

 

 俺としては、現在の年になるまでちょっと若く見られていたから、ダンディに憧れている。


 少し白髪混じりの髪をびしっとオールバックにした細長で鼻筋の通った顔は、なかなかいけてると思う。これに口髭があっても格好いいだろう。

 まぁ、口髭までやると冒険者には見えなくなるからしないけどな。


 ちなみに依頼を受けるとき、冒険者ギルドのファナは俺の今の顔と冒険者証を見て大笑いしていた。

 

「人気者はツライねぇ」


 そう言う辺り事情は筒抜けのようで、応援していると言われたので、依頼を受けるに当たり、姿が違ってもお咎め無しのようでほっとした。


 さて、のんびり薬草を抜いていた俺だったが、一つ忘れていたことがある…


 がさがさっ


 茂みが大きく揺れ、俺とロマは立ち上がって身構える。

 

「…アキ…囲まれてるわ」


 俺はコクリと肯いて辺りを見回した。

 

 ロマが傍にいるおかげで索敵レーダーが自動で発動する。

 目の前に映る俺だけが見ることのできるスクリーンの中の赤い点はかなりの数だ。10や20ではなさそうである。

 敵にもよるが、数が多すぎる。


「グウェン! ゴルベーザ! メルニア婆さん!」


 三人も気が付いたらしく、俺の傍に集まって各々武器を構えた。


「…そういえば、結界を張り忘れたのぅ」

 

 メルニア婆さんがぽつりとつぶやき、ちらりと見たのはゴルベーザ。


 ・・・・・・・


 ・・・・


「「「・・・・・」」」


「魔物ホイホイ!」


 やっと思い出した俺が叫んだ瞬間、茂みの中から現れたのは、カマキリの顔をしたカマを持つ一匹が縦横30㎝~50㎝の巨大なハチの大群だった。


「カマンハーチ!」



 なんだそのカマキリとハチをくっつけただけじゃなく某チーズ名を真似たような名前は!


 


 ロマのあげた悲鳴に、俺は身の危険や命の危険を感じるよりも先に、盛大に突っ込んだのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ