LV.30 生中継でした…
気分は徹夜明け、なのに仕事を押し付けられ、上司は先に帰った…そんな気分だ。
実際はただ疲れて眠くなってきただけだけどな。
人間には、うがぁ~!と暴れたくなる時があるんだよ。思春期然り、大人の事情然り。
と、いうわけで、本日の苛立ち餌食は白い鎧です。
「ロマ、二人ぐらいは話が聞きたいから捕まえといてくれな」
「わかったわ。えぇと、でも、アキ大丈夫?」
心配はごもっとも。
俺にはまだまだ経験が足りない。特に人間相手の戦いなんてゴメスと訓練していた時ぐらいだ。
しかぁし! 徹夜明けテンションに怖いものはないのだ!
俺はロマの頭を撫でてやると、正面に向き直った。
「歯ぁ、食いしばれ」
ぼそっと呟くと、地面を蹴る!
たぶん高速というやつだ。
周りの景色がスローモーションに見え、俺はただ普通のパンチやキックを繰り出しているだけなのだが、そのどれもが白い鎧達に当てることができる。
徹夜明けのテンションだから…?
ふと、俺は例の勇者から吸い取った何かを思い出した。
あの勇者の戦い方も素早さ重視で敵を翻弄する戦い方だった。
もしもそれに、人並み以上の身体能力が加わったとしたらどうだろう。
ドカン!
俺は白い鎧の腹の辺りに回し蹴りを喰らわせ、わずかに鎧をへこませてふっ飛ばす。続けて数人を蹴り飛ばし、空中へと吹き飛ばした。
「なるほど…」
スタッと地面に降り立ち、体の状態を感じて頷く。
「うぎゃああああああああああ~!」
悲鳴と共に空からメルニア婆さんが降ってきて、そのままズドンッと音を立てて地面に落ちた…。
「あ、悪い」
考え事をしていて、メルニア婆さんを捕えた男を吹っ飛ばした後、共に上空に飛んでいた婆さんのことを俺は忘れていたようだ。
婆さんが落ちた落下地点を見ると、魔法で結界を張った婆さんが、オレンジ色に輝きながら垂直に地面に埋まっていた。
人参みたいだな…
慌ててロマとグウェンが救出に駆け寄り、土に埋もれた人参ヨロシク婆さんを収穫した。
「えらい目にあったわい。しかしアキよ、そなたその力は先の勇者のモノじゃな?」
服についた汚れを叩きながら、メルニア婆さんは俺を見上げる。
よくあの状況で把握したなぁ。
「たぶんそうだろうな。異常なスピードが出る…でも少し疲れるな」
時間が経つにつれて手足がジンジンと痛むのはおそらく疲労からだ。
どうやらこの能力を使うと疲労が蓄積されるらしく、手足が重く感じられた。
「オノレ盗人めぇ!」
俺達が話していると、少し甲高い声で叫んだのは白い鎧の一人。
今はロマの蔦に全身絡まれて動けない状態らしい。
「盗人とは失礼な奴じゃっ。勇者ともあろうものが大勢で寄ってたかって伝説の勇者をいたぶろうとは男の風上にも置けぬ所業よっ」
「あ~、ちょっと待った婆さん。そいつを拷問するのは待った。その前にどうやって俺のことを知ったのか知りたいんだよ。情報伝達が早すぎるだろ?」
杖を振り上げ、男を叩きかけた婆さんは止められてピタリと動きを止めた。
と同時に、ゴルベーザが戦斧を肩に担いで戻ってきた。
えぇと…斧に赤いものが付いていたのは見なかったことにしよう。
「半数が複製だったぜ」
ゴルベーザはそういうとにやりと笑って倒した敵の方を顎で指示した。
赤いものが気になったので顔を向けたくはなかったが、現状を把握しないわけにもいかず、ちらっと目をそちらへ向ければ、確かに2・3人倒れているものの、命に別条はない程度のけがのようで、今は呻きながら転がっている。
ん? 2・3人? 確かゴルベーザは半数ほど相手にしていたはずだが…
辺りを見回せば、倒れている白い鎧は俺が相手にしたのと目の前で捕らわれている男を加えてたった4人しかいない。
「あれ?」
「複製だって言ったろ? たぶんこの4人の誰かが複製の力を持ってるんだよ。そういう力を持ってる奴がいるって聞いたことがあるしな」
なるほど、分真の術ならぬコピーの魔法という奴か。他人も複製できるってことかな。力のバランスはどうなのかわからないが、かなり強い奴が何人もいたら鬼に金棒ってやつだ。
なんて考えていると、俺の腕を掴んだ婆さんが勝手に男の額に手を当てさせた。
「さぁ、吸引じゃっ」
「ひぃっ」
男が悲鳴を上げる。
「あ~、情報の出所を言ってくれればやめるぞ?」
脅え方からして簡単に落ちると思い、尋ねれば、男はコクコク頷いてべらべらと…ではなく、簡潔に告げた。
「あのドラゴン退治は勇者ギルドで生中継されていたのだ!」
つまり、俺の能力は、どうやってか知らんが、テレビのように中継され、すでに勇者達に知られ済みだということか!
俺、詰んだ!
がくぅっとその場に頽れた俺は、その後約束通りその男だけを避け、後の3人の能力を奪った。
備えあれば憂いなし…『複製』も手に入れ、ただ今勇者というより魔王の道をばく進中…。
3人目の能力を手に入れたところで俺はばったりと倒れた。
どうやら疲労が吸引によリ引き起こされたものだったと気づいたのは、王都まで気絶したまま運ばれ、翌日宿屋で目が覚めてからだった。
あぁ…風呂に入り損ねてる…。
とりあえずの悩みは全部無視して、俺は朝から逃げるように風呂場に直行し、余計なことを考えぬよう隅々までピカピカに磨き上げたのだった。




