Lv.17 テイクアウトです
「へぇ、伝説の勇者なの。で、伝説の勇者って何?」
ファナの言葉に頷く。それは俺も聞きたい。
「それは後じゃ。先にギルド証を作ろうかのう」
メルニア婆さんが誤魔化すように俺の背を押してギルドカウンターへと進む。
なんかおかしいんだよな。伝説の勇者の詳しいことになると口を閉ざすというか、のらりくらりと避けるというか。
俺、実は伝説の勇者なんて担がれてるだけのただの魔王への生贄とかいうんじゃないだろうか?
「婆さん」
「ほれ、ここに手を乗せよ」
婆さんに質問するより先に腕をとられ、ブラウンの木製カウンターの上に設置されたマウスパッド大のパネルの上に手を強引に乗せられる。
「あ、ちょっと、勝手にいじらないでよっ」
ファナが慌てて駆け寄り、カウンターの向こうにある端末らしきものをいじりだす。
パッと見る限りでは電子機器を扱っているように見えるのだが、確認をとってみれば、全て魔法で動いているらしい。
日本とは違って壊れても同じものを再利用するし、たとえグレードアップされても魔法自体が変わるだけで物は変わらないらしく、本体がゴミになることはないそうだ。
「小型化しようとか思わないのか?」
「その場合はこの本体を魔法で小さくすればいいだけでしょう」
なるほど。便利でエコだな、魔法。
だが、こんな変わった魔法ですら、法則にのっとる魔法で、創造魔法ではないというのだ。
「創造魔法ってそもそもなんだ?」
首を傾げていると、ぴこ~んっと機械音(魔法音?)がして俺の前にスッとギルドカードが差し出された。
「うおっ、早いなできるの」
「当然よ。その人の持つ情報を全て吸収してカードに書き換える最新式のギルドカード製造機だもの。あ、名前は確認してね」
何が当然かは全く理解不能だが、ギルドカードを眺め、俺はぐわっとその表面に齧りついた。
「名前が!」
ファナが「え?」という顔をして覗き込む。
「まさか違ってた?」
ありえないという表情に、俺は首を横に振る。
ギルドカードの表面に書かれた名前は、サカザキ アキト。皆が俺のことをシャカシャカアケートだとしか認識していないのにもかかわらず(読者も含む?)、ギルドカードには俺の間違いない正式な名前が燦然と輝いている!
「あら、名前が間違ってるわね。直さなきゃ」
ファナがひょいっとカードを奪い取ったので、俺は慌ててすがりついた。
「うおおおおっ、ファナさんっ、合ってるから! 俺の名前は坂崎明人であってるから!」
何とかギルドカードを奪い返し、ふぅと一息ついて額の汗をぬぐった。
モンスターと戦うよりも焦ったぜ・・・・。
何でもないことなのに、名前が合っていたというだけでじ~んと感動して打ち震えていた俺は、ふと周りを見て首を傾げた。
ギルドは受付カウンターと依頼書の貼られたボードがある以外は喫茶店のような作りになっている。
現在は夜だというのにちらほらと冒険者が椅子に腰かけ、のんびりしているのだが、彼等は待ち合わせでもしているのだろうか。というか、ギルドって基本何時までやってるんだ?
「ファナさん。あの人達は仲間を待ってたりするのか? それにギルドって何時まで開いてるんだ?」
俺がファナと話し始めたので、グウェンとロマとメルニア婆さんは依頼書を見にボードの前へと移動する。なんだか依頼書で盛り上がっているようだ。
それを横目で確認してカウンター内に座るファナを見れば、彼女はぱらぱらと何か紙をめくりながら答える。
「ギルドは基本開けっ放し。あの人達は宿代を稼ぎ損ねてここで一晩過ごすんでしょう。中には深夜クエストに行く人もいるけどね。アケトも深夜クエストしてみる?」
ひらひらと一枚の紙を差し出すので、俺は受け取りながら笑う。
「アキでいいよ。アキトは言いにくいらしいんだ」
「じゃあアキね、ココ飲む?」
「あ、ありがとう」
次いでファナからコーヒーのような味のする飲み物、ココをもらって口をつける。
・・・・・・
・・・・
・・・
なんか俺、初めてこの世界で人間らしいコミニュケーションをとった気がする!
妙な感動を覚えながら、俺は受け取った紙に目を落とし、ブフーッと吹き出した。
言っておくが笑いじゃないぞ。笑って噴出したのではなく、驚いて噴出したのだ。
「なっなっ…」
目を白黒させる俺に、ファナがにやにや笑いながら俺を見ていた。
「アキは結構可愛い顔してるからいけると思うのよね。急募なんだけどどう?」
ファナさん…さすがはギルドマスター。見た目に反して豪快な性格をしてらっしゃる…。
「俺はこういったことには厳しい国で育ちましたんで遠慮します」
そういうと依頼書を突っ返す。
「あら、アキってもしかしてまだ子供だった?」
「大人ですけどね…」
俺は脱力して答えた。
依頼書に書かれていたのはいわゆる夜のお相手募集の依頼書だ。
冒険者って何でもアリなんだなぁと項垂れる。
「ま、お金が底をつくようなことがあればこういうのもありよってアドバイスね。これはおおっぴらには出されないから、カウンターで聞くようにしてね」
「しませんて…」
犯罪とか不倫とか病気とかに巻き込まれそうなので、健全な男としましては、こういう物には手を出すまいと誓った。
「じゃあ…私となんてどう?」
項垂れていた俺の顎を指でついっと持ち上げられ、軽く唇が触れ合って微笑まれた。
気のせいか…?
いや、気のせいじゃない…
目が、目が魔獣だー!
ファナはにっこりほほ笑むと、ぺろりと舌なめずりし、俺の胸ぐらを掴んでそのままギルドの二階へと連れ去った。
男って…悲しい生き物だよな…。
アキ「肉食系じゃなく野獣系かー!!」
アキが喰われている頃、グウェン達は依頼書で盛り上がっていた…
グウェン 「巫女、これの方が初心者向けかと」
メルニア婆さん「いやいや、わしの勘がこれをアキに勧めろというのじゃ」
ロマ 「あら、私はこっちの不帰の森ダンジョンがいいわ」
グウェン 「それ…ロマのいた森じゃないか?」
アキ 「誰か助けろや~!」
バラバラパーティ…(笑)




