第20話:帝都凱旋、そして世界を壊す愛の誓い
アイゼンシュタット帝国の皇都は、今日、伝説の一頁となった。
空からは、エルセの魔力が結晶化した「真珠の雪」が静かに降り注ぎ、地上では数百万の民衆がひれ伏し、歓喜の声を上げている。
中央大通りを往くのは、皇帝レオンハルトの漆黒の騎馬隊。そしてその中心で、天を舞う白鯨の飛行艦からゆっくりと舞い降りてきたのは――。
白銀の翼を背負い、全人類の罪を浄化するかのような輝きを放つ、エルセの姿だった。
「……見て、あれが私たちの、真実の聖女様……!」
「なんて美しいんだ。彼女が微笑むだけで、空気が甘く澄んでいく……」
エルセが地上に降り立ち、一歩踏み出すごとに、大理石の道からは純白の花々が咲き乱れる。
彼女は今、レオンハルトから贈られた『原初のプリズム』を胸に抱き、世界で最も美しい花嫁のような装いで、皇帝の元へと歩み寄った。
レオンハルトは、漆黒のマントを翻し、全観衆の前で、ただ一人の少女のために膝をついた。
「――エルセ。私の、唯一無二の光よ」
彼の声は、魔法の増幅なしに帝都の隅々まで響き渡った。
冷徹皇帝と呼ばれた男の瞳には、今やエルセに対する狂おしいほどの情熱と、誰にも渡さないという独占欲だけが燃え盛っている。
「世界は、お前を『神の道具』と呼んだ。運命は、お前を『世界の心臓』として閉じ込めようとした。……だが、私はそれを許さない。お前が神になるというなら、私は神からお前を奪い去り、私の隣でただの幸せな女として生きさせてやる」
レオンハルトはエルセの手を取り、指先に深く、誓いの接吻を落とした。
「お前を捨てた過去も、お前を縛る神の理も、すべて私がこの手で壊してやろう。……エルセ。私の皇妃となり、永遠に私の腕の中で飼われてくれ。お前の微笑みも、お前の涙も、その魂の欠片ひとつまで……すべて私が独占する」
それは求愛という名の、甘美な「終身刑」。
エルセは、潤んだ瞳で陛下を見つめ、満開の花のような微笑みを浮かべた。
「……はい、陛下。世界がどうなろうと、私は……あなただけのエルセでございます」
二人が唇を重ねた瞬間、皇都全体を真珠色の極光が包み込み、すべての悪意と毒気が消え去った。
色彩の審判はここに完了し、少女は「泥人形」から「世界の主」へと、その運命を完全に塗り替えたのだ。
◆
その頃、皇都の片隅。
罪人として鎖に繋がれ、馬車で移送されていたジュリアン王子は、鉄格子の隙間からその「光」を見ていた。
「……ああ……。あんなに、あんなに遠くへ行ってしまったのか……。僕が、僕の手で……あんな宝物を、捨てたというのか……」
彼はもはや叫ぶ力もなかった。
彼が見つめていた「光」は、彼のような汚れた者には触れることさえ許されない、絶対的な断絶。
彼は、かつて「無能」と笑った少女が放つ、慈悲深いほどの美しさに焼かれながら、暗い牢獄へと消えていった。
その記憶だけが、彼の残りの生涯を蝕み続ける、終わりのない地獄となるだろう。
◆
夜。帝都のテラスで、二人きり。
レオンハルトは、エルセを背後から壊れ物を扱うように抱きしめていた。
「……これで、お前は名実ともに私のものだ。……だが、エルセ。お前の体が、少しだけ透けている。……神がお前を迎えに来ようとしているのか?」
「陛下……。怖がらないでください。私は、ここに……」
「離さん。例えお前が光となって消えようとも、私はお前を抱いて虚無まで追いかけてやる。……愛している、エルセ。お前だけが、私のすべてだ」
レオンハルトの執着は、もはや世界の理さえも歪め始めていた。
二人の物語は、ここからさらなる「神話」へと、そして誰も知らない愛の深淵へと続いていく――。
第2章:完結
泥の中にいたエルセ様が、皇帝陛下の狂おしい愛によって「世界の女神」へと至る物語。
第1章・第2章を通して、徹底的な「ざまぁ」と「究極の溺愛」を描ききりました。
皆様、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
エルセ様は幸せを手に入れました。ですが、レオンハルト陛下の愛が重すぎて、
彼女自身が「神」へと昇華し始めてしまうという、新たなる波乱の予兆……。
もし、「この先の神殺しの物語も読みたい!」「二人の子供はどうなるの!?」という
熱いお声がありましたら、第3章:『神域の揺り籠編』でお会いいたしましょう!
ブックマークと評価(★★★★★)をいただけますと、
エルセ様の「人としての絆」を繋ぎ止める大きな力となります。
それでは、またお会いできる日を楽しみに。




