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シャルレーヌはヴィクトールからプレゼントされたストロベリーピンクのドレスを眺めながら考えていた。
かわいらしさの中にも高級感のある生地。一目見ただけで手が込んだドレスだと理解できる。
それにシャルレーヌによく似合うだろう。
一緒に用意されていた宝石も、宝石の採掘や加工を行っているサンドラクト王国でも見たことがないほどに上質なものだ。
それだけ今回のことは、ヴィクトールにとっては喜ばしい出来事だったのだろうか。
アナベルは妃としてこれからも顔を合わせるだろうが、シャルレーヌに恨みを持っているに違いない。
パーティーまでは何を仕掛けてくるかわからないため、警戒することに越したことはないだろう。
(この制度どうにかならないのかしら、生殺し状態で可哀想に……)
アナベルを妃から下すべきだとの声が高まっている。
それに今回のパーティーは帝国民の支持が多いアナベルが出席する予定だったものだ。
ヴィクトールは場所にあった妃たちをパートナーとして公務に出たり、パーティーに出席しているそうだ。
その回数がエマニュエルとアナベルが一番多かったのだろう。
(となれば、今回選ばれなかったアナベル様は悔しかったでしょうね)
事実上、謹慎している最中にシャルレーヌが出席。
サンドラクト王国からやってきたシャルレーヌのお披露目にもなり、注目度はかなり高いそうだ。
今は芋蔓式に教皇たちの悪事が暴かれているため、教皇たちは支持だけでも取り戻そうとするだろう。
侍女たちも離れてしまい、アナベルは一人で大人しくしていることなどできるのだろうか。
シャルレーヌは鏡を見つめながら考えていた。
ルイがリップを塗ったのだが、その唇が次第に弧を描いていく。
「ウフフ……」
準備を終えて、ヴィクトールの迎えを待っていた。
ノックの音と共にロミが扉を開く。
真っ暗な物置部屋の中。すぐさまテネブルがシャルレーヌの元へやってくる。
いつものように頬擦りしていると、ヴィクトールが顔を出した。
足にぶつかった物を見て、いつまでこの物置き部屋にいるのかと言わんばかりの表情だ。
「……いつ部屋を移動するんだ」
「ここがわたくしの部屋ですわ。それにテネブルもここが気に入っているのだからいいではありませんか」
「はぁ……」
シャルレーヌはテネブルに影に戻るように声をかける。
すると彼はヴィクトールの影へと移動した。
彼のエスコートを受けながら、長い廊下を歩いていく。
「陛下が選んでくださったドレス、似合っていますか?」
「……まぁまぁだな」
「ふふっ、わたくしとても嬉しいですわ。こうしてお姫様のようにパーティーに出席できるのは久しぶりですもの」
「お前は王女ではないのか?」
「サンドラクト王国でそのような優雅なイベントはありませんもの。盛り上がるのは喧嘩か、決闘という名の殺し合いくらいですわ」
「……今度の手合わせでオノレを殺さないでくれよ」
「ウフフ」
シャルレーヌは体を動かしたいからとオノレとの手合わせを提案していた。
すぐにしようと思っていたが、パーティー前で何かあれば大変だと止められていたのだ。
魔法で戦うこの国ではなかなか肉弾戦はできないからと、オノレも楽しみにしているのだという。
近々にはシャルレーヌと戦うことになるだろう。
それにヴィクトールは小柄で病弱なシャルレーヌをみくびってはいない。
(油断された方が楽なのですけれど、なかなか抜け目がありませんわねぇ)
ヴィクトールの観察眼に内心、驚きつつもにっこりと優しい笑みを浮かべた。
「それは彼次第ではないでしょうか。魔法も使えるのだから、わたくしを楽しませてくれるのでしょう?」
心底楽しそうなシャルレーヌを見てヴィクトールはげんなりしつつ視線を逸らす。
会話する二人の背後、壁から覗き込むように影。壁に爪が食い込んでミチミチと音を立てていた。
その影が見えたのをヴィクトールとシャルレーヌは見逃さなかったが、目を合わせて微笑むにとどめた。
ヴィクトールとともに会場に入ると、あんなに騒がしかった会場が一瞬で静まり返った。
シャルレーヌは動揺することなく、堂々と歩いていく。
サンドラクト王国の人間と聞いて、いかにも強そうな女性を想像していたのだろうが、シャルレーヌは真逆だ。
妃たちの誰よりも華奢で、少女のような幼さを残していた。
雪のような白肌に大きな瞳、折れてしまいそうな細い腕と首。
横を通ると、とある大臣の喉がゴクリと鳴った。
(カリマお姉様だったら皆さまの想像通りだったのかしら)
彼女はナリニーユ帝国の男性よりも筋肉があるだろう。
彼らは魔法を使って身を守るため、自分を鍛える必要はないのだろう。
筋骨隆々の男性たちではなく、モルガンのような中性的な男性が多い印象だ。
『あれがサンドラクト王国の第二王女……なんて美しいんだ』
『傾国の美女と呼ばれているんだろう? その通りだな』
『病弱だと聞いたが……大丈夫なのか?』
そんな会話が耳に届く。
シャルレーヌがにこやかに微笑むと男性たちは頬を赤らめた。
王族としての立ち居振る舞いはサンドラクト王国の中でもよくできる方だ。




