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魔力0の訳あり王女、最狂につき取り扱い注意  作者: やきいもほくほく
三章 悪女のお気に入り

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「どこでそれを知った?」


「あら、なんのことでしょうか」


「…………答えろ」



ヴィクトールの低い声が耳に届く。

しかし剣先が首に触れようとした瞬間、テネブルが短剣に巻きつくようにしてヴィクトールを止めた。

触手を尖らせて怒りをアピールしている。

つまりシャルレーヌを傷つけるなということを言いたいのだろう。



「テネブル、わたくしは大丈夫ですわ。むしろ……」



シャルレーヌはヴィクトールの剣を掴んでいる手を掴んで自分の方へと引き寄せた。

剣先がシャルレーヌの細い首に食い込んでいく。

ヴィクトールは反射的に距離をあけようとするが、その手が動くことはない。

ヴィクトールもシャルレーヌがここまで力が強いと思わずに戸惑っているようだ。



「おい! 手を離せ」


「うふふ、陛下こそこのまま力を抜いてくださいませ」


「……何を!」


「どうぞ最後まで突き刺してください」



さすがのヴィクトールにも焦りが滲んでいた。

シャルレーヌは微笑みつつも、力を緩めることはなかった。

このままでは間違いなく短剣が首を突き抜けてしまう。



「くっ……!」


「……ふふ」



もう少しで皮膚を突き破る、そんな時だった。

テネブルがプルプルと震え出し、ガバリとシャルレーヌの頭を覆うように被さってしまった。

シャルレーヌは手を離してしまい、カランカランと短剣が床に落ちた。


(残念……テネブルに邪魔されてしまいましたわ)


視界は真っ暗の闇の中、ひんやりと冷たいものが顔を包み込む。

いつまで経っても離れてくれないため、呼吸ができないと軽くテネブルを触れる。

何度か叩いてアピールすると、ずるずると這いずるようにして離れてくれた。



「ぷはっ……! 苦しいですわ。もう、テネブルは少々強引なところがありますわね」



テネブルは触手をブンブンと横に振っており、シャルレーヌのことを心配しているようにも見えた。

それを見たヴィクトールは目を見開いたまま固まっている。

テネブルの行動に何か思うところがあったのかもしれない。



「あらあら、かわいい子」


「…………」


「ふふっ、びっくりしたのよね。ごめんなさいね」



テネブルは怒っているのか、今度は触手を縦に揺らし始めた。

ヴィクトールはいつのまにか短剣を拾い上げて、シャルレーヌに警戒するような視線を送っているではないか。

シャルレーヌは何事もなかったかのように髪を整えていた。



「何を考えている……?」


「あら、陛下はわたくしを殺そうとしたのではないのですか?」


「殺そうとはしていない。ただ少し動揺して……脅そうとしただけだ」



ヴィクトールの意外な言葉にシャルレーヌは目を見開いた。

歯切れの悪い言葉にシャルレーヌは吹き出すようにして笑う。



「クソ……サンドラクト国王の言った通りだな」


「やはり陛下はお父様と取り引きをしたのですね。そんなことだろうと思っておりましたけれど。でなければナリニーユ帝国に嫁げなんて言うことはありませんもの。お父様ったら、ご迷惑ばかりおかけして……」



ヴィクトールになんらかの条件を出して掛け合ったのだろう。


(まぁ、わかっていたことですけれど。厄介なことを押し付けられて可哀想ですわねぇ)


ヴィクトールは最初からシャルレーヌと距離をとり、警戒していたように思う。

突拍子もないことばかりなため彼が戸惑うのも無理はない。



「陛下は随分とお優しいのですね」


「俺が優しい……だと?」


「えぇ、そうですわ。わざわざテネブルを迎えに来たり、わたくしの行動を止めたり、お優しいですわ」


「……意味がわからない」



ヴィクトールの表情は険しいままだ。



「それとわたくしを脅すのは無意味だとわかっていただけましたか?」


「…………」



黙ってこちらを睨みつけるヴィクトール。

これ以上話をしても仕方ないため、ここは文化の違いということにしておこう。



「…………変な奴だな」


「まぁ! ありがとうございます」


「褒めたつもりはない」



それから部屋に沈黙が訪れた。

手持ち無沙汰になったシャルレーヌはテネブルを撫でながらいつもの遊んでいた。

しかし明らかにヴィクトールは苛立っている。ここは空気を読んでテネブルに声をかけた。



「テネブル、そろそろお別れしないと。陛下が寂しがっておられますわ」


「……おい、まだ話は終わってないぞ?」



不満気なヴィクトールを見て、シャルレーヌはクスッと笑った。



「こんな真夜中にわたくしの部屋をそんな格好で訪れて、他者が見たらどう思うのでしょうか」



他の妃たちより先にシャルレーヌの元へ訪れたとなれば、大騒ぎになるはずだ。

シャルレーヌの口角がどんどんと上がっていく。


(これを広めて引っ掻き回すのもおもしろそうですわね)


だが、まだその時ではない。

今は何もないままヴィクトールには帰ってもらわねばならない。



「他の妃に勘違いされたらどうするのです? 立場が悪くなるのは望んでいないのでは?」


「…………!」



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