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やはりこのことを妃たちに知られるのは面倒なのだ。
ヴィクトールもそれが想像できたのか顔が曇っていく。
「早くお戻りになられてはいかがしょうか」
「言われなくても出ていく」
「邪魔で……そうしてくださいませ」
「…………」
シャルレーヌの失言に何も返すことはないようだ。
不機嫌そうな表情は相変わらずだが、敵意はないらしい。
ただ値踏みするようにこちらを見つめているヴィクトールに微笑みを返すことしかできない。
(テネブルはまたここに来るでしょうね。陛下まで頻繁にここに来られてはたまりませんわ)
シャルレーヌの気持ちとは違い、こちらにどんどんと近づいてくるヴィクトール。
何を考えていると思いきや、そのまま顎を持ち上げられた。
「…………陛下?」
暗闇で光るアメジストのような瞳が、首元を見つめている。
「怪我はないようだな」
「え……?」
「先ほどは悪かった」
シャルレーヌは大きく目を見開いた。
先ほどとは短剣を向けたことを指しているのだろう。
「まぁ……随分とかわいらしいのですねぇ」
「…………」
「ああ、申し訳ございません。心の声が漏れてしまいました」
ヴィクトールはくるりと背を向けた。
横暴かと思いきや紳士的。心を許さないと思いきや、こうして素直に謝罪をする。
真夜中だからかもしれないが、彼の素の部分を見れたことは大きいだろう。
なんともかわいらしい姿にシャルレーヌの心はキュンと締め付けられた。
(リリーとはまた違ったかわいらしさですわね。絶対に懐くはずのない獰猛な獣が近寄ってくる……そんな感覚かしら)
彼が赤面しているとは知らずにシャルレーヌは余韻に浸っていた。
リリーもテネブルもかわいらしいが、ヴィクトールのまた違った一面も当てはまる。
シャルレーヌの好きなものはかわいらしいものだ。
「それだけだ……もう行くぞ」
名残惜しそうなテネブルはシャルレーヌの元をクルクルと回った後、ヴィクトールの影に入り込んでいく。
そのまま早足で去っていくヴィクトールを見送った。
「今度勝手に抜け出したら承知しないからな」
そんな声が遠のいていく。
「あらあら……なんてかわいらしいのかしら」
ヴィクトールの顔は見えないが、照れていたことはわかっていた。
リリーと同じでかわいがられることには慣れていないらしい。
そういう男をどろどろに甘やかすとどうなるのか……シャルレーヌは知っている。
今までの王子たちもすぐにシャルレーヌに靡いた。
ヴィクトールの闇は深そうではあるが、どうなるのだろうか。
シャルレーヌはこの状況を楽しみにしつつ、窓を開けた。
すると、我先にカラスと蝙蝠たちが駆け寄ってくる。
一匹のカラスが、ひび割れた銀色の玉を咥えていた。
「懲りないのね。気を遣ってくれてありがとう」
どうやらまた盗聴されていたらしい。
テネブルと話していたことは、たわいもないことばかりだ。
多少の会話は聞かれていただろうが問題はないはずだ。
それにヴィクトールが入ってきて暫く経って潰された会話が筒抜けになる魔導具。
こんな真夜中に彼女が聞いているかどうかはわからない。
シャルレーヌの部屋に懲りずにコレを仕掛けて会話を聞こうとしていたのはエマニュエルだろう。
彼女がもし起きていれば騒ぎになりそうだが、残念ながら蝙蝠たちによると眠っていたらしい。
(あとは護衛が侍女が見かけていたら一番いいけれど、お一人だったものね)
シャルレーヌは月が浮かぶ夜空を見上げながら微笑んだ。
サンドラクト王国よりも肌寒く、朝や昼間に出かけなければ居心地はいい。
テネブルがシャルレーヌに懐いたことにより、ヴィクトールも定期的にここに足を運ぶことになるはずだ。
そうすれば妃たちは黙っていられなくなる。
(先に誰が動くのかしら。うふふ、楽しみですわ)
──それから数日後。
どうやらヴィクトールとの密会が誰かにバレることはなかったようだ。
テネブルも深夜にここに遊びにくることはなくなった。
シャルレーヌはリリーと共にゆったりとした時間を過ごしていた。
カラスや蝙蝠たちには情報収集を頼んでいたが、特にイベントもなく静かだった。
夕方にはリリーと散歩に行っていたが、めまいに咳が出てしまい部屋で一日中眠っていた。
するとリリーは自分のせいだと大号泣。
ここ一週間、テネブルと遊んでいた影響もあるのだろう。
それを説明できるはずもなく、彼女を宥めていた。
外に出ればカラスたちが空で様子を見ていた。
シャルレーヌがゆっくりと体を休めていると、扉を叩くノックの音。
ルイが対応すると見たことがない執事がいるそうだ。
どうやら匿名の呼び出しを受けているようで、シャルレーヌは驚いていた。
「シャルレーヌ様、どうされますか」
「コホッ……どうしましょうね」




