さぬきの騎士作戦編5
銀灰色の小部屋、その中心に──
ステンレス製の出汁保存容器に偽装された端末が、無機質な光の中に静かに佇んでいた。
一見すれば業務用の寸胴鍋。だが、その実態は財閥が秘匿してきた高度データ格納ユニット。
FLOWAは端末の底部、隠されたインターフェースに"麺棒型USB『Noodle-Drive 07S』"を差し込む。
「……取得プロトコル起動。開始」
端末内部にある秘伝出汁文書──
それは、ただのレシピデータではない。世界の食文化と政治を左右する、“出汁”の鍵。
解析率:42%……64%……83%──
そのときだった。
「……来るな」
SAJIROが、音もなく顔を上げる。
FLOWAが手を止め、彼を見る。
「階段の奥。……足音。金属の反響が浅く、重い。3人以上」
「……“敵”だな」
SAJIROの声は低く、しかし確信に満ちていた。
BENIがすぐに端末を取り出し、周囲の電源制御ユニットにジャックを接続する。
「よし、やるぞ。ここで電力を断つ」
「移動はしなくていいのか?」
「ここでやれる。任せろ」
SAJIROは、M4を手に取り、チャンバーを確認。
薬室の状態とセーフティ位置を視認し、静かに閉鎖音を戻す。
「──異常なし。すぐ動ける」
FLOWAも麺棒USBの読み込みが終了すると、淡々とコードを抜き、
同じくチャンバーを覗き込んで確認。
「OK。弾も、情報も、全部揃いました」
BENIが片膝をついたまま、ごく冷静にカウントを開始する。
「停電、カウント入る。──6秒前」
SAJIROとFLOWAは同時に目を閉じナイトビジョンゴーグルを展開。
音もなく作動し、目を開くときには今と変わらない視界になるだろう。
「5秒──4──」
階段の先、すでに私兵部隊の重い足音が聞こえ始めていた。
「3……2……」
壁が振動し始める。
ドアが開く寸前、誰かが無言で銃を構えた気配。
「──1」
──電源、カット。
シュゥゥゥウウン……
空間から光が消えた。
照明、空調、センサー、すべての電源が落ち、
完全な闇と静寂が部屋を支配する。
BENIの声だけが通信に響いた。
「全システム停止完了。
“こっちの目”だけ、生きてるぜ」
SAJIROが、緑の景色に浮かぶ敵影を確認し、低く言った。
「──迎撃、開始」
──────────────────
──電力が落ちた。
白一色だった空間が、一瞬で“ほぼ完全な闇”へと沈む。
別電源であろう部屋に等間隔で設置された、僅かな灯りの非常灯を除き。照明、空調、通信、すべてが沈黙した。
「っ……視界が──!?」
「嘘だろ、内部警戒任務なのに──ッ!」
ザリ……ザリ……ッ!
床に足を引きずる音。
混乱の中で、私兵たちは互いに位置も把握できず、
完璧に“目を奪われた”状態だった。
次の瞬間──
パスッ……! パスッ、パパッ!
静かすぎる銃声。
空気を裂くような、乾いた破裂音が続く。
「ぐっ……! う……が、あ……」
呻き声が、すぐ近くで。
敵のひとりが胸を押さえて崩れ落ちる音。
続いて、別の一人も短い悲鳴とともに沈黙する。
「なっ、なんで見え──」
パスッ!
最後の言葉も、消えた。
その混乱のただ中で──
SAJIROは、物音ひとつ立てずに端末のあった小部屋を離脱。
屈みながら床に沿い、影のように滑るように移動。
破壊されたMEN-Ωの残骸の影に入り込む。
重厚なフレームが残す凹凸に身体を預け、
音も、光もなく、じわじわと敵の死角へ接近していく。
「射線、開けます。左二時方向に三名、遮蔽なし」
FLOWAがナイトビジョン越しにマークした敵影へ、
AR-15を肩付け、射撃を開始。
パスッパスッパスッ!
サプレッサー越しの射撃が、
空気を震わせながら敵の進路を遮断する。
「右壁沿いに回ってきてる。牽制入れる」
BENIも即座に位置を取り、
精密な二点バーストを散らすように撃ち込む。
「敵、カバーなし──一発ずつで沈む」
敵私兵たちは、ただの兵士だった。
暗闇に慣れていない。装備は万全でも、“目”がない。
そして、相手は闇を味方にするプロの諜報員──
「今だ……!」
MEN-Ωの残骸から飛び出したSAJIROが、
足音すら殺したスライディングで敵の間合いに入る。
接近戦。
パスッ、パスッ!!
M4を肩で受け流すように扱いながら、
精密なショートバーストで二名を即座に制圧。
「がッ…!?」
さらに振り向きざまに銃床で顎を打ち上げ、もう一人を沈める。
「フロウワ、終わりだ!」
「確認──残弾十分、敵影なし」
「BENI、電源復旧は?」
「あと6分。問題なし。」
パスッ!
SAJIROが振り向きざまに銃床で殴られ、気を失っている兵士にトドメを刺した。
「目標は達成した。これより撤退する。」
闇の中に、ただ3人の影だけが立っていた。
静寂の支配下で、
完璧な連携による“プロの迎撃”が終わった瞬間だった。
連携っていいよなぁ!!
サプレッサーの発砲音も含めた5割増で良いよなあ!!!!