さぬきの騎士作戦編4
扉の先に広がっていたのは、真っ白な無音空間。
天井・壁・床すべてが、曇りひとつない白に染まっている。
天井の高さはおよそ5メートル。空間の広さはテニスコート1面ほど。
まるで何かを「保存」するためだけに設計された無菌区画のようだった。
「……警戒してんのか、それとも“見せたがってる”のか」
SAJIROがM4を構えたまま、じわじわと中央へと進む。
BENIも無言で左右を警戒。FLOWAは端末で反応をスキャンしていたが──
ギィィィィ……
低く、粘るような駆動音。
その直後、天井パネルが自動スライド。
「上だッ!!」
FLOWAの声と同時に、黒鉄の塊が落下する──!
「──っ!」
SAJIROは咄嗟に転がり避けるも、M4が手元を離れ、床を滑っていく。
敵機は地面に着地。
脚部なしの重装型ボディ、蛇腹状の多関節アーム、センサー群、
そして、左右に搭載された巨大な高圧ノズルが起動と同時にスチームを噴き出す。
胴体中央部、鋼鉄に焼き込まれた機体番号──
──MEN-Ω(メン・オメガ)
「……財閥製のAI兵器……“自律型うどん調理機”が、迎撃に出るとはな」
FLOWAが静かに呟く。
「高圧出汁……ちょっと浴びたくねぇな……ッ!」
SAJIROが床を転がって距離を取る。
だが、MEN-Ωのセンサーアイが赤く点滅し、即座に反応。
胴体から左右のアームが展開され、高圧ノズルがSAJIROへと狙いを定める。
ブシューーーーーーーーッ!!
瞬間、灼熱の出汁が弾丸のような速度で放たれる。
バッ!!
SAJIROの左肩すれすれをかすめ、背後の壁を焦がす。
「くそッ! 熱ッ……!!」
スーツ越しにも蒸気の温度が肌を刺すように感じた。
「BENIッ!!」
バババンッ!!
鋭く乾いた三連発。BENIのM4が火を噴いた。
指切りバースト射撃で、正確に敵のセンサー部へ!
「動きを止めるだけだッ!」
MEN-Ωのセンサーに当たり、アームの動作がわずかに鈍る。
「FLOWAッ、今だ、かき回せッ!」
「──ジャミング、展開!」
FLOWAの端末から広がる波形。
敵機の演算処理に干渉するノイズが、視認モジュールへ負荷をかける。
「センサー妨害、成功。0.52秒、反応遅延!」
「十分だッ!!」
SAJIROが地面を蹴り、跳び上がる。
空中で体を捻って回転──
廻し蹴りが、鋼の脚のように唸りを上げる。
「──うどんはなァ!!」
「人の手で打つもんだろがァァァァァ!!!!!」
ガアァンッ!!!
踵が胴体のコア直撃──
フレームが悲鳴を上げ、MEN-Ωがぐらつく。
センサーが明滅、ノズル部から出汁が漏れ出す──
それでもAIは反撃動作を継続しようとしたが──
──ジャミング、FLOWA
「──中枢処理、過負荷。」
ブスゥゥゥ……
機体の各所からスチームが噴き出し、
胴体を支えるアームが崩れるように垂れ下がった。
──沈黙。
数秒の静寂が、部屋全体を包む。
「……あっぶねぇ、焦げ出汁にされるとこだったぜ……」
SAJIROが、背後の壁の焦げ跡を見やりながら息を整える。
BENIが銃を肩にかけ、ポツリと呟いた。
「お前、回避してんのか本能で動いてんのか、どっちだよ……」
FLOWAは敵機の残骸に近づきながら、端末を操作する。
「自律型AI。……内部ログが、財閥技術で暗号化されています。」
「つまり、ここはまだ保存する部屋でなく、“AI式うどん製造部屋”ってことか」
BENIが目を細める。
FLOWAは画面を睨み、短く言った。
「──まだ奥がある。進みましょう。
次が、おそらく……“保管庫”です。」




