ピーコ。(後日談)
社務所に到着すると、早速、陸晶と逸信が弟たちを追い払い、兄獅子に対しても干渉を拒否すると頑張った。
幸い雛はあまり弱っておらず、保護して貰っていることを理解しているのか、卵の黄身などを練った挿餌を差し出すと嫌がらずに口を開け、沢山食べて瞬く間に元気になった。
お陰で思ったより手間が掛からず、獅子達も文句を言わずに受け入れ、「このまま、うちに置いてもよいのでは?」との意見まで出た。
通常であれば古参で長兄の二前が、そんな浅慮は認められないと皆を諌めるところであるが、今回は意外にも奴が一番日和った。
『大人しくて、こっちの言うこと分かってるみたいだし……』
『駄目だよ。』
『直ぐ大きくなって、もっと手間掛からなくなるかもしれないし……』
『ニノ、駄目だよ。可愛いからこそ、ちゃんと面倒見てくれるところに引き渡さなきゃ。』
『……お前は良いよな。何時もきいちゃん、独り占めしてるんだから。』
『それとこれとは話が別。
それに独り占めしてるんじゃなくて、きいちゃんが俺を好きなの。』
普段、自分に厳しい二前が耳を横に垂らし、他の獅子に見付からぬよう部屋の隅で相方の陸奥と揉める様は、申し訳ないが見ていて一寸面白かった。
里親もあっさり見つかった。
驚いたことに東北で多くの霊鳥を抱える竈門神社が、即座に受け入れを決めてくれた。
下手なところに任せるよりも、うちできちんと世話をすると宮司が胸を叩いてくれたのには、只々頭が下がる思いだった。
彼処には三葉だけでなく、うちから巣立った獅子も数匹所属している。彼等も面倒を見てくれるだろう。
心配なのはこの機会に恩を売って、更に数匹連れ出そうと目論んでいないかということだ。
駄目です。うちは神職もカツカツだけど、霊獣もだから。駄目、絶対。
更に嬉しいことに、雛の成長に関する定期報告は三葉が担当してくれることになった。ついでに遊んでもらえると子獅子達は大喜びし、久しぶりに三葉とゆっくり話せる機会が出来そうで、自分も嬉しかった。
別れの日、勿論、瑞宮は悲しそうだったが、雛のためになるのだと胸を張り、尻尾を揺らした。
『ピーコ、お利口にして、沢山食べて、ミツバ兄ちゃんの言うこともちゃんと聞いて、立派な霊鳥になるんだよ。』
「ぴぃ!」
『ボクも頑張って、立派な獅子になる。
それで何時か、ピーコを迎えに行くから。
その時は今度こそずっと守ってあげるから、一緒に暮らそうね。約束だよ。』
「ぴいぃ……」
チョンチョンと不格好に跳ねて移動した雛は、羽をばたつかせて瑞宮の頭にすり寄った。別れを惜しむ彼等の間を引き裂くのは心が痛んだが、何時までもそうしているわけにも行かず、加賀見が雛を箱の中に移し、自ら竈門へ連れて行ってくれた。
雛を送り出した後、瑞宮はブルブルと身体を振るって気持ちを切り替え、何時もと同じように兄弟たちと境内を走り回り始めた。
泣きも喚きもせず、実に立派だった。
何方かと言えば、天祥が何時までもぴよこちゃん、ぴよこちゃん言い続け、煩かった。
数週間後、約束通り三葉が持ってきてくれた写真を見ると、雛は目に見えて大きくなっており、手紙の内容からも何の心配もなさそうだった。三葉だけでなく、他の霊鳥たちにも可愛がられているようで安心した。
頑張っている雛に恥ずかしい姿は見せられないと、瑞宮はこれまで以上に立派な獅子になると息巻いており、どうしてそうなったのか、立派になるとひよこがやってくると理解した天祥まで張り切り始めた。
他の子獅子たちも二匹につられて、元気よく転げ回っている。
どうなるかと思ったが、丸く収まって何よりだ。
ただ一つ、竈門から苦情のようなことを言われた。
要約すると、『引き取るのは良いけどさ、名前、ピーコでいいの? ちゃんと考えてあげないの?』とのことだったので、瑞宮に確認してみたのだが、『ピーコはピーコだよ。』と逆に不思議そうに返された。
仕方がないのでその様に答えた所、『可哀想じゃん! もう、うちで新しい名前、考えるからね!』等と怒られた。
何故、第一保護者の意見を尊重して怒られるのか。理由はわかるが誠に遺憾である。




