支援物資。
土地から溢れる霊気には流れがあるが、強い力は良くも悪くも周囲に影響を与える。恩恵を与える場合は神域、邪鬼を生み、瘴気溢れる場所は魔境と呼ばれる。核となる御神体の扱いを誤れば大きな災害に繋がるため、管理施設として神社が建てられる。
関東全域には大小併せて260余りの神社や部族が存在する。各所で祀られる御神体の恩恵や所属する霊獣は様々で、病の治癒や運動能力の向上、破邪や守護と得意にすることが異なるが、自分が管理する咲零神社には勇猛果敢な獅子がいる。
純白、若しくは空色の毛並を持ち、霊気や鉱石を糧とする霊獣の彼等は邪物の討伐に長ける。此処より西にある魔境、過負盆地から生まれ出る邪鬼怨霊を討伐し、関東地域を守護する一角として周囲の期待を担っている。
魔境はどういうわけか温かい時期に活性化する。
そろそろ邪鬼が結界の境目に現れ始める頃。討伐が始まれば、毎日のように車に乗って現地まで向かうことになる。バスや運転者の手配のため、自分も村の役場とスケジュールの調整を始めた。
その間、留守番しなければならない子獅子達は、毎年のことながら不満げで、機嫌が宜しくない。留守を守るのも大事な仕事と教えてはいるのだが、どうしても置いてきぼりを食らっている気分になるらしい。
気に入らない留守番の憂さを晴らせるような面白いことはないかと、何時も以上に落ち着き無く境内を走り回り、普段は行かない森の方まで足を伸ばしている。
それを大人の獅子たちが喜ぶはずもなく、必然的に彼等の機嫌も悪くなる。
邪鬼が此処まで来ることはまずないとは言え、そもそも神社が手薄になるのは防犯上宜しくないし、目の届かない場所で子獅子に何かあっても困るし、討伐の準備で忙しく、ゆっくり構ってやる暇はないし、さりとて言って大人しくなる子獅子ではないしで、落ち着かないのだ。
本格的に討伐シーズンが始まれば村の役場から係りの人が留守番に来てくれるが、まだ平穏なこの時期はそれもない。
そんな折の宅配便の配達に、新人さんが当たってしまったのは不運と言えよう。
まず、参道口で門番の獅子に、何時もと違うと念入りにボディチェックをされ、知らない人への警戒心を滲ませて、集まってきた大小様々な獅子達に周囲を囲うように案内され、獅子の喉では人の言葉を話せないため、代わりに使う思念波で話しかけられることもされず、無言で社務所まで連れて来られた配達員のお兄ちゃんは、大きな荷物を抱えて一寸泣きそうだった。
途中、境内に入ったというのに、仕事に必死で手水場に向かおうとしなかったのもいけなかった。
自分達の敷地に入りながら無礼な奴めと強制的に連行され、シャッと警戒音をあげて手を洗うよう促されるも、大事な荷物を地面に置くのも憚られ、もたつくごとに獅子たちの顔がどんどん怖くなりと散々な目にあったらしい。
挙げ句、兄獅子に感化された子獅子たちにまで冷たい視線を向けられ、まだ若い配達員さんは、とても遣る瀬無さそうに帰っていった。
一寸目を離した隙に、体格的に一番小さい巳壱にまで威嚇されていた。
非常にお気の毒であり、宮司として申し訳ない。
獅子達は勿論、子獅子にも他所の人にとる態度ではないと叱ったのだが、大人しい逸信まで『だって、いつものお兄さんじゃない!』と、文句を言った。
逸信はいつもの配達員さんが好きだから分からなくもないのだが、あれが駄目なら他はもっと駄目である。我が儘坊主の天祥は疎か、比較的温和な陸晶や瑞宮まで鼻を高く上げて、当然の対応と言わんばかりであった。
もう少し時間が経てば、ある程度落ち着くので、新人さんにはこれに懲りず、また来ていただきたい。
運んできた荷は取扱免許がいる神社専用の特殊貨物。
資格所有者として、これからも各神社を担当するのであろうし、懲りずに是非、参拝にでも来ていただきたい。
悪い噂が立たなければよいが。非常に心配である。
さりとて、起こってしまったことは取り返しがつかないので諦めて、配達された荷物を確認する。
送り主は智知神社の宮司、平さんだった。邪鬼討伐に持っていく消耗品を送ってくれたのだ。その殆どが智知神社の御神体から生み出された魔石で、箱は結構な重量があった。
改めて思う。結構、急な坂道である参道を登って、重たい荷物を運んでくれた宅配屋さんには本当に申し訳なかった。
深くお詫び申し上げます。
さて、魔境から湧き出る怨霊怪異の多くと直接対峙するのはうちの獅子たちであるが、勿論、働いているのは当社だけではない。過負盆地から溢れる瘴気を抑える結界の要となり、西部を護る三峰と南部を護る不二を始めとして、幾つもの神社が協力体制を取っている。
智知神社もその一つで、後方からの物資支援を担当している。
いざ、戦闘に参加するとなれば、筆頭霊獣のシロフクロウ、雪之丞が得意の千里眼で遠くから魑魅魍魎の動きを把握し、優秀な情報隊員として働いてくれるが、神社のある場所が三峰の東と防御結界からも、実際の討伐が行われる現場からも大きく離れ、戦闘地域に移動するのは時間がかかってしまう。
また、智知の御神体は当社と違い、多くの魔石を生み出す。霊力を大量に含んだ魔石は瘴気が溢れ、霊気を得ることの出来ない戦場で霊獣の糧となり、神職が傷の治療や防御結界を作成するための術式を発動させる補助動力となり、加工することで特殊な効果をもたらす。獅子達が攻撃の炎球を作る核に使ったりもする。
三峰と不二の結界が優秀で、破られることはないであろう現状、無理に戦闘に参加するより、兵站部隊として継続的に物資を運んでくれるほうが助かるのだ。
聞いたところによれば、我が国で流通している魔石は霊気の蓄積には長けても加工に向いておらず、術式を刻むのならば西洋にもっと良い鉱石があるらしいが、手に入らない物を求めても仕方がない。
それに平さんの加工技術は見事なもので、伝統的な破邪や封魔の術式に独自の文様を組み込み、発動範囲を広げたり、追加効果を付帯する。非常に高い性能をもっているのだが、術の広がり方が独特で、慣れないと上手く使いこなせなかったりもする。特に新しいものは癖が強いので、調整してもらなければならないことも多い。
今日はどの魔石が届いたか。箱を空けて中身を確認しながら説明書を読む。
取り出した魔石は純粋に霊気を大量に含んだだけの兵糧用がほとんどであった。目ざとく気付いた瑞宮が、いそいそと近寄ってくる。
『じいちゃん、それ何? カリカリ?』
送られてきた魔石は大きく、おやつの鉱石の欠片と違うことはすぐにわかるのに、獲物を見るような目でジツと見つめる。神域にいれば腹は減らず、今、食べるものではないのは分かっているとは言え、美味しそうな鉱石の塊に他の獅子たちも集まってきた。
そんな中、天祥が縁側をバシバシ叩く。
『じいちゃん、テンちゃんも!
テンちゃんも、その大きなカリカリ、食べたい!』
「瑞宮も誰も食べてないし、これは食べさせられないよ。
大体、大き過ぎて齧れないだろう。」
まるで不当な扱いを受けたかの如く、自分にも食わせろと騒ぐ子獅子には困ったものだ。
おやつじゃないと払いのければ、天祥は益々大きな声で吠え立てた。
『だって、兄ちゃんは食べるんでしょ!
お出かけ先で、食べるんでしょ!
テンちゃんはお留守番しなくちゃいけない上に、カリカリも食べられないの嫌だ!』
「お出かけって、遊びに行くんじゃないんだぞ。」
出掛ける先は邪鬼怨霊のはびこる危険地帯で、向かう理由は討伐のためである。一歩間違えば怪我は疎か、命を失うことだってなくはない。
順調にことが進んでも神域には長時間戻れず、戦い続けなければならないからこそ必要な兵糧で、特典でも何でもない。馬鹿なことを言うなと叱れば、天祥はがうっと吠えて言い返した。
『わかってんもん!』
そのまま悔しげにその場でぐるぐると回り始める。
『テンちゃんだって、テンちゃんだって、もう一寸大きければ邪鬼やっつけられるのに!
そんで、兄ちゃん達と一緒に討伐に行けんのに!
でも、まだ小っちゃいから出来ない! 悔しい!
せめておやつぐらい、食べたい!』
意外と色々分かっているようだが、思考がやはり子供である。立派な獅子として兄と同じように戦いたいが、今の自分ではそれが不可能なことへの不甲斐なさや悔しさなどが変な形で混ざっている。
みぎゃーっと感情のままに転げ回る子獅子を呆れた顔で兄獅子の湊が宥めた。
『こんな大きいのは兄ちゃんだって食べられないよ。まず、割らないと。
討伐に持っていく時には小さく割るから、欠片が出る。それを分けてもらえばいい。それまで我慢しな。
ね、じいちゃん、それぐらいなら大丈夫でしょ?』
我が儘な弟に言い聞かせながら、此方を見る。
「そうだな。天祥、それまで我慢しなさい。」
『うーっ!』
首肯して、改めて我慢するよう言い聞かせれば、子獅子は兄獅子の足に突進して、頭をグリグリ押し付けた。
『テンちゃん、カリカリは我慢できるけど、やっぱり、兄ちゃんと一緒がいい!
お留守番、嫌だ!』
『仕方がないよ。
邪鬼の出る狩場は危ないし、お前は落ち着きないから絶対迷子になる。』
『なんないよ!』
きいいと暴れる天祥を湊が困った顔で何度も舐める。
先に大喧嘩した二匹だが、元々天祥は湊に懐いており、湊は真面目で弟の世話をきちんと見る。喧嘩の原因も天祥が湊が好き過ぎたためで、別段嫌いあってるわけではない。
他の獅子総出で距離を置かせ、落ち着かせたことで大分安定した。
あと、湊が色々諦めた。
天祥を宥める湊の真似して、瑞宮も仲良しの弟を舐めてやる。
『討伐に行けないのはボクもだもん。仕方がないよ。
一緒に留守番しながら体を鍛えてれば、きっと連れて行ってもらえるようになるよ。』
それを見ていた逸信や陸晶も寄ってきて、一緒になって天祥に頭をこすりつけ始めた。
『皆でお留守番しようね。』
『頑張って、ボクらも一緒にいけるようになろうね。』
身体を押し付け合う兄たちを見て、更に幼い子獅子達もわっと集まってきた。みゃうみゃうぎゃうぎゃう騒ぐ猫団子ができる。
あ、うちの霊獣は猫じゃなかった。獅子だったわ。
頑張ろうとスクラムを組む弟たちを、長兄の獅子、二前が前足で軽く叩いて散らす。
『お前たち、気合を入れるのもいいが、この機会にどんな魔石があるか勉強しなさい。
魔石は食べるだけじゃない。攻撃に使ったりもするんだから。
特に無比刀と豊一は青毛なんだから、しっかり覚えないと駄目だ。』
うちの獅子は白毛と青毛の二色が存在するが、青毛の獅子は魔法や魔石の扱いが得意な傾向がある。
名前を呼ばれた子獅子はみゃうと胸を張って答え、後ろに控えていた青毛の獅子、仁護と翔士もゆったりと尻尾を揺らしながら、近寄ってきた。
『俺が説明しようか?』
『じいちゃん、何の魔石が送られてきたの?』
「そうだなあ。」
現場で使用する前の確認も兼ねて、子獅子に説明しようと申し出てくれたのは有り難いが、幸か不幸か今日は説明してもらうほど種類がなさそうだ。
同封された品目を眺め、一つずつ並べていく。
「説明するにも今日運ばれてきた中に、加工されたのは殆どないな。
砕いて食べる兵糧用と、投げつけて使う砲弾用、後は術式発動の補助とかかな。」
『ほうだんよう、って、なに?』
『じゅつしきほじょって、なに?』
早速、幼い巳壱と燦馳が不思議そうにみゃうみゃう鳴く。
同い年の彼等が知らないことを知っているのが嬉しいのか、豊一が尻尾をピンと立て、偉そうにミャッと鳴いた。
『ほうだんようは、ひのたま、ぶつけるときの、かくにするんだよ!』
『かくって、なに?』
『にいちゃん、じぶんで、ひのたま、つくる。
なんで、ませきがいんの?』
説明したそばから質問で返され、豊一は再びミャッと鳴いた。ニャグニャグと口ごもる弟に、仁護がやれやれと眉尻を下げる。
『核というのは、中心になるものだよ。
自力で火球を作って投げてもいいけど、魔石に火を移せば充溢された霊気で燃えるから、自分の力は少なく火球を作れる。』
『逆に霊気を込めれば、もっと良く燃えるしね。
練習では魔石を使ってまで火球は作らないからなあ。
でも、ボールを何匹かの間で回しながら打ち込んだりするだろ。あれも、魔石に皆の霊力を集めて火力をあげてから、打ち込む練習なんだよ。』
翔士が前足をあげて、其々の魔石を示しながら補足する。
刻まれた式や大きさが違うだけで、術式補助も殆ど同じだ。魔法を発動するにはまず、術式を組み其処へ霊気を流し込まなければいけないが、魔石が流し込む霊気を肩代わりしてくれれば、早く楽に発動できる。また、自分の霊力も込めれば、術がより強力になる。
二匹の兄獅子の説明を聞きながら机の上の鉱石を眺め、子獅子達はわかったような、わかっていないような顔をした。一度で分からずとも複数回繰り返し、実戦を踏まえれば自ずと理解するだろう。
それより、先んじて勉強していた所為で、わかった気になっている豊一の方が心配だ。問に答えられなかったのを代わりに説明してもらい、すっかり安心して他所見をしている。
後できちんと復習させるよう、仁護に伝えておこう。
『カリカリって、大きいのは食べるだけじゃないんだね。』
『なんで、豊一達はもう教わってるのに、ボクらは教えてもらってないの?』
不思議そうに瑞宮が魔石の匂いを嗅ぎ、不満そうに陸晶が尻尾を左右に揺らした。
魔術の扱いは白毛より青毛のほうが得意なことは知っているが、自分達のほうがずっと歳上なのに。
そう言って恨めしそうな顔をする弟に仁護が眉をひそめた。
『ん? まだ、教わってなかったか?』
咎めるように隣を振り返れば、翔士がぱしぱしと瞬きした。
『ああ、そういや、忘れてたわ。』
『お前なあ。教えとくって、言ってたじゃないか。』
仁護に前足で叩かれて、翔士は気まずげにガウと鳴いた。
天祥がフシャッと鼻にシワを寄せる。
『これだから、トシ兄は。色々緩いんだから!』
生意気に尻尾で地面を叩く弟の隣で、湊も困ったように耳を横に伏せた。
『じいちゃん、じいちゃん、それで、これはなに?』
揉める兄たちを気に留めず、無比刀がみゃうみゃうと鳴いて、説明から漏れた魔石の山を鼻で突く。量が少ないため、他のに隠れて見落としていたが、まだあったようだ。
『へんな、いろ。
むい、これ、しらない。なに?』
「ああ、なんだろうな。」
取り上げてみるも、自分も見たことがない色と大きさで、刻まれた術式を日に透かして確認するが、よく分からない。平さんの新作だろう。
改めて添えられた手紙を確認する。
「音声を録音して……敵の撹乱用?」
『音を録音して、どう使うんですか?』
新しい戦術の要になるかと二前が耳を立てて聞くのを、まあ待てと留める。手紙によれば、予め録音しておくなどした音声を再生し、敵の注意を反らしたり、逆に呼び寄せることを目的として作成したらしい。
『そんなの、役に立つのかなあ?』
不可解そうに逸信が尻尾を左右に揺らす。
「わからんが、三峰のシズの経験を元に作ったものらしいぞ。」
西部の結界の要、三峰神社の霊獣頭兼宮司は風の扱いを得意とする。空気を震わせて居もしない人の声を作り出し、敵を混乱させ、その隙に攻撃すると聞いたのを参考に作成したそうだ。
森林で木々に隠れてのゲリラ戦を得意とする三峰の狼と、平原で敵を囲んで白兵戦を主にするうちの獅子とでは状況も戦法も大きく異なるが、役立たせることは出来るだろうか。
説明を聞いた獅子達もピンとこないようで、ふーんと気のない顔をしたが、二前だけが耳をピクピクと動かす。
『使いどころはよく分かりませんが、三峰の経験を元にしているのであれば、一概に駄目とも言えないのでは?』
三峰の狼は優秀。無駄なことはしないだろうと古参の獅子はいう。
「そうだな。とりあえず、使ってみなきゃわからんか。」
泥棒捉えて縄を綯うのもなんだし、本格的な討伐が始まる前に何処かで試してみるのが宜しかろう。その結果で量産を頼むなり、調整を頼むなりしても間に合うはずだ。
なにせ残念なことに、邪鬼の発生時期は春の終わりから秋にかけてと長い。
さて、何処で試そうかと魔石の山を眺め、一つだけ別袋に入っているのに気がつく。
更に手紙の続きを読めば、サンプルを同封してくれたらしい。音声も録音済みで、スイッチの代わりに霊力を込めればいいそうだ。
「ふむ。折角だし、ここで使ってみるか。」
考えてみれば効果は音だけ。光や衝撃を放つわけでもない。子獅子たちへの実演にちょうどよかろう。
提案すれば子獅子達はわっと歓声をあげ、兄獅子たちも尻尾を揺らして賛成した。
ぐるりと自分を中心に輪になるのを待って、霊力を込める。
早速ふわっと魔石が仄かな明かりを灯した。
『あーあー テステス。
山口さん、獅子の皆、久しぶりです!
元気にしてますか?
此方は雪之丞も、婆さん達も元気です!』
流れ出した音声に瑞宮と陸晶、天祥が耳をそばだて、湊が尻尾を揺らす。先日、智知神社を訪問した彼等は嬉しそうにガウッと吠え、顔を見合わせた。
『平の、おじちゃんだ!』
『智知の宮司さんだ!』
『テンちゃんは、元気です!』
ガウガウと録音された音声へ返事をする天祥に湊が苦笑し、前足で撫でて止める。
『録音されたものだから、返事をしても聞こえないよ。』
『そういや、電話のことも教えたほうがいいかね?』
『知らん。それこそ後でやれば。』
弟たちのやり取りを見た翔士が仁護を振り返り、軽くいなされる。一応、魔石のことなど教え忘れたのを気にしているようだが、獅子はまず、電話など使わない。使わない知識を態々教えずとも、そのうち勝手に覚えるんじゃないのと緩いやり取りに、二前が無言で溜息を付くが、その間も録音された音声は流れていく。
『今日は実験も兼ねて、此方の夏の名物の音を送ります。
何だと思う? 何か、わかるかな?』
夏の名物と聞き、獅子達は首を傾げ、子獅子は尻尾を振り回した。
『クイズだ!』
『なつのおとって、なんだ?』
『きっと、セミだ! セミの声だよ!』
『そうかな? 風鈴の音とかじゃない?』
『みいちも、せみだと、おもう!』
我こそが当ててみせると騒ぐ子獅子たちをからかうように、平さんの声が響く。
『わかるかな? わからないかな?
それじゃあ、いくよ!』
音声が一瞬止まり、風を切るようなヒュルルル……という独特な音に嫌な予感がする。
再び一瞬の間を空けて、それは始まった。
バンッ! ババババンッ!
バババッバババッババッバババババッバババンッ!!
物凄い炸裂音に子獅子も大人の獅子も飛び上がる。
ミギャーッと悲鳴があがり、パニックを起こした子獅子が隙間に隠れようと駆け回り、助けてもらおうと兄獅子に飛びつき、結果的に腹に一撃を食らわせ、別の悲鳴が上がる。
「大丈夫だ! 落ち着け!
音だけ、音だけだから!!」
泣き喚く子獅子たちを拾い上げ、大丈夫だと撫で擦る。獅子たちもいち早く正気に戻ったものから、弟を宥め始めるが、炸裂音が止まらなければ、収まるものも収まらない。
終わったと思ったら再び始まる花火特有の嫌らしさで、ようよう終了した時には砂利が蹴飛ばされ、棚の本やら書類やらが落ち、机のみかんは飛び散った偉い有様だった。
皆が息を荒く乱す中、平さんの声が響く。
『はい、正解は夏のメインイベント、花火でした!
7月31日には花火大会があるよ!
よかったら、皆で見に来てね! じゃあ、またね!』
飽くまでにこやかな別れの挨拶を最後に録音は全て終了し、魔石が光を失う。
庇護を求めてしがみつく弟たちを抱え、獅子達は口々に呟いた。
『花火かよ……なんで態々花火だよ……』
『何処で録音してきたんだ……こんな大音量で……』
『7月末とか邪鬼発生シーズン真っ只中じゃねえか……行けるか!』
『他所の宮司さんに悪態つかない。』
最後にバシッと二前が締め、自分に向かってグルルと鳴く。
『魔石の効果は大変よくわかりました。
おじいさん、平さんには良くお礼を言っておいてください。』
「ああ、わかった。」
内容こそ感謝であったが、顔は真逆であった。怒りを抑える古参の獅子の気持ちはよくわかる。
平さんには入念なお礼の手紙を。序に彼処の説教臭い婆さん虎にも、事実の報告という名のチクりを入れておこう。




