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マジシャン。

 龍脈、地脈など呼び名は様々だが、土地が持つ力には流れがあり、神域として恩恵をもたらすこともあれば、魔境として邪鬼怨霊を生み出すこともある。


 当社の獅子達は神域を守る神社付きの霊獣の中でも高い打撃力と俊敏性を駆使し、ネコ科には珍しい統率力を持って人に害なす魑魅魍魎を退治する。

 近隣で暮らす人々のために怨霊怪異と戦う兄獅子達は、子獅子にとって羨望の的で、自分たちも立派な獅子になろうと、幼いなりに自ら身体を鍛え、日々努力している。

 宮司の自分も彼等の訓練に協力するのが仕事の1つだ。



 並んで尻尾を振る小さな子獅子達に向かって、獲物の代わりにボールを投げる。子獅子達は真剣な顔でボールに飛び掛かり、上手に捕らえると嬉しそうに打ち返してくる。

 兄獅子達は捕ったボールを打ち返すのも上手だが、幼い彼らはまだ、そう上手く戻せない。緩急方向定まらず転がってくるボールを、回収係の天祥(てんしょう)は落ち着いてしっかりと捉える。尻尾でバランスを取りながら、細かく左右に移動してボールを抑える姿はなかなか様になっており、安定性すら感じさせる。

 反面、投げ返す方が酷い。比較的大きい子は現在プロレス中で、ボールに向かっているのは幼い子ばかりと言っても、もう少し何とかならないものか。


「ほら、巳壱(みいち)

 慌てずにしっかりボールをよく見て。

 無比刀(むひと)は前に出過ぎ。

 豊一(とよいち)、また悪いくせが出てるぞ!

 燦馳(さんじ)は上手に取れてる。

 もう少しスピード上げていこうな。」


 声を掛ければ、みゃうっと若干切羽詰まった声で返事があった。まだボールを捕らえるのに必死で、投げ返し方に気を配る余裕はなさそうだ。

 ただ、連係を取るのに味方の状況を顧みられないようでは困る。

 今は注意しないが後の課題と頭の隅に置いて、隣の天祥を横目で確認する。此方はまだまだ余裕が有るようで、前をしっかり見据え、獲物に向かって舌なめずりするかの様に口の周りを舐めた。

 歳はボールを取っている4匹とほぼ同じだが、ひと回り大きい兄獅子の瑞宮(みずみや)に引っ付いているだけあって、成長著しい。何だかんだ言っても朝早く起きて、大好きな兄と一緒に走り回っている分、運動能力は他の子獅子と比べてかなり高い。

 甘えん坊の我が儘坊主だが、努力しているのだ。

 よしよしと頷いて、ボールを投げる方に注意を戻す。



 幾ら練習とは言っても弱い球ばかりでは意味がないので、少し強めに投げつければ、子獅子達は揃って失敗しだした。

 まず、巳壱が取りこぼし、慌てて後ろに転がるボールを追いかけ、燦馳は横っ飛びしたまま、バランスを崩して転ぶ。豊一はボールを見失って、キョロキョロと立ちすくみ、無比刀が何とか抑えるも落ち着いて返せず、誤って打ち上げてしまう。

 方向もおかしかったので、これは天祥も捕らえられないかと思ったのだが、子獅子は軽やかに跳躍し、両前足で叩きつけるようにボールを抑えた。ジャッと音を立てて、敷かれた砂利が弾け飛ぶ。



『あっぶな!』


 焦った様子ながらもボールをしっかり抑え、蹲ったまま満足げに尻尾を揺らす。


「よく捕れたな、天祥!」

『テンちゃん、頑張ったよ!』


 褒めればガウと元気よく応え、誇らしげに立ち上がった。


『じいちゃん、テンちゃん凄い? 格好良かった?』


 自分でもファインプレーだと思ったらしい。尻尾をピクピク動かして、偉そうに胸を張る。

 それは良いのだが、手持ちのボールが切れてしまった。天祥を褒めてやりながら、集めたボールを手籠に移す。


「ああ、凄かった。それで、捕ったボールは?」

『あり?』


 今、捕ったボールも寄越せと手を差し出せば、子獅子は子首を傾げて自分の手のひらを眺めた。



 まず、右前足を上げてみる。ボールはない。

 左前足を上げてみる。やはり、ボールはない。

 後ろを振り返ってみる。そこにもボールは見当たらない。



 その場でクルッと周り、困惑した様子で首を傾げた天祥だが、急に砂利を掘り出した。中からボールが出てくる。叩き付けた拍子に埋まってしまったらしい。


『あったー!』


 見つけたボールを咥え、照れくさそうに持ってくる。


『テンちゃん、ボールが消えちゃったと思ったよ。』


 えへへと笑いながら、差し出すボールを受け取り、頭を撫でてやる。


「ああ、吃驚したな。」

『魔法みたいだったね。ぱっと消えちゃってさ。

 テンちゃん、魔法使いだね。

 ボール消しの魔法使いだよ!』


 言いながら、自分でもおかしくて仕方がないのか、尻尾を振り回す。

 確かに魔法の如くボールが消えてしまったように見えたが、自分でも何処に行ったか分からないのでは困るのではなかろうか。


「何方かと言えば、同じマジシャンでも手品師の方じゃないか。」

『手品! マジシャン!』


 物理的にボールの行方を隠したのだから、そちらの方が近かろう。

 苦笑して返せば、響きが良かったのか何度もマジシャンと繰り返し、ガウと吠えた。


『テンちゃん、次から“マジシャン・天祥”って名乗るよ!』

「それは止めとけ。」


 むふふとほくそ笑み、宣言する天祥の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。

 お調子者の子獅子は、すぐその気になるから困ったものだ。


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