ダンボール手品。(後半)
壊れちゃった箱はミミ兄が片付けてくれるって言うから、おまかせしてボクとテンちゃんは本殿を出た。
次はどこで遊ぼうかな。
『トヨチー、社務所に行こうよ。
お片付け終わったんだもん。じいちゃん、ボール投げてくれるかも知れない。』
『そうだね。行ってみよう!』
テンちゃんに誘われて、ボク達は社務所に行ってみることにした。
じいちゃんは忙しいから邪魔したらいけないけど、もう、お仕事終わったかも知れないもんね。
社務所の縁側はいつも開けっ放しになってるから、じいちゃんが戻ってないのはすぐに分かった。
でも、代わりに良いものを見つけた。
『箱だ!』
『ダンボールがある!』
きっと、本殿の整理に合わせて、社務所の書類も移動したに違いないよ。
ボクらは競争しながら部屋の中に飛び込んだ。
コタツの隣に置かれたダンボールは、ボクの背よりちょっと大きくていい感じなんだけど、残念なことに空っぽじゃないみたい。
『何だ、蓋してあるよ。』
テンちゃんが上に飛び乗って、ふんふん匂いを嗅いだ。ボクも首を伸ばして覗いてみたけど、ガムテープが張ってあった。
『蓋してあるんじゃ、入れないね。』
『入れないんじゃ、つまらないね。』
テンちゃんはがっかりした様子で箱の上に横になって、ボクもその場で座り込んだ。遊べると思ったんだけどなあ。
そう言えば、ムイムイ達は何処に行ったんだろう。拝殿前にはいなかったけど、下の広場に行ったのかな?
ボクもそっちに行ったほうが良かったかな?
ちょっと後を振り返って、頭を戻したらテンちゃんが居なくなっちゃった。
あれ? 何処に行ったんだろう。
『テンちゃん、何処に行ったの? テンちゃん?』
箱の周りをグルって回っても居ないんだ。
ボクはちょっと怖くなった。
テンちゃんが煙みたいに消えちゃった。一体、何処に行っちゃったの?
ミャアーって鳴いたら、箱がガタガタって揺れて、バリッて音と一緒にテンちゃんの頭が中から出てきた。
ガムテープでとめてあったはずなのに!
『テンちゃん、どっから入ったの?』
『この蓋、ちゃんと閉まってないよ!
テンちゃんが座ったら、蓋が下にズレたんだよ!
するって中に落っこちたよ!』
全く、失礼な箱だって、テンちゃんは怒りながら這い出てきた。
改めて良く見てみたら、ガムテープはくっついているだけで、蓋の半分がパカパカ動いた。
そっか。ダンボールの蓋は普通、上に開くけど、テンちゃんの重さで下に動いたのか。
タネが分かればなんてことないや。怖がって損しちゃった。
『こんな箱、もう要らないよ! テンちゃんは向こうで遊ぶよ!
トヨチーも行こう!』
箱の中に落っこちたのが余程気に入らなかったのか、テンちゃんはプンプン怒って縁側を飛び降りた。
でも、ボクはちょっと良いことを思いついた。
『テンちゃん、ボク、もう少し社務所に居るよ。
代わりに広場に行ったら誰か社務所に寄越してよ。ボクが待ってるからって。』
『ふーん、別に良いけど。』
ボクの頼みに、テンちゃんは鼻に皺を寄せてフシャッと一声鳴いて、忌々しそうにダンボールを睨んだ。
『テンちゃんが思うに、そいつとあんまり関わらないほうがいいよ。
その箱は、ろくな奴じゃないよ!』
『うん、分かった。』
尻尾を振り回しながら駆けていくテンちゃんを見送って、ボクは箱の上に乗った。
うん、やっぱり蓋は片方だけが閉まっていないみたい。前足を乗せて体重を掛けると下にゆっくり動く。
これならきっと、上手くいくよ。
ダンボールの前に横たわってのんびり待ってたら、ミイちゃんとサンジが駆けてきた。
『トヨチー、何か用?』
『呼んでるって聞いたよ。』
不思議そうな二匹にボクは尻尾をピンと立てて、返事をする代わりに箱の上に飛び乗った。
『パパーン! レディースアンド、ジェントルメン!
トヨチーのマジックショーを見せてあげるよ!』
『レディースって、うちに女の子はいないよ。』
サンジがケチを付けたけど、決り文句だもん。
それにミイちゃんは目を真ん丸くして食いついた。
『マジックショー? トヨチー、手品が出来るの?
何をするの? 鳩を出すの? 魚は? 魚は出せる?』
『魚は出さないよ。』
ミイちゃんは魚が大好きなのは良いんだけど、ちょっとこだわり過ぎだよ。いつも背中に一匹背負っているのに、まだ足りないのかなあ。
ボクはフシッて鼻を鳴らしてから、気を取り直して口上を続けた。
『これから、煙のように消えてみせます!』
『消えちゃうの?!』
『ええー 本当にー?』
口を大きく開けたミイちゃんと反対に、サンジは胡散臭そうに鼻に皺を寄せて、ヒゲをピクピクさせた。
ふふん、そんな顔が出来るのも今のうちだよ。
ボクはできるだけ偉そうにダンボールの上に横たわって、スフィンクスみたいに胸を張った。
『それじゃあ、行きます。
ワン、ツー、スリー!』
数を数えてボクは後ろに寄りかかるみたいに体重を動かした。
狙ったとおり、ガムテープで止まっていない方の蓋がズレて、ボクはするっと中に落ちた。バレないように蓋を内側から押して元に戻す。
ミイちゃんたちが早速騒ぎ始めた。
『あっ、消えちゃった! サンジ、トヨチーが消えちゃったよ!』
『どうせ、箱の後ろに降りただけじゃないのー?』
『だってトヨチー、座ったまんまだったよ! ほら、やっぱり後ろにもいないよ!』
『あれ、本当だ。何処に消えちゃったんだろう?』
ふんふん鼻を鳴らして、ボクを探している音がする。
見つからないように息を潜めて、できるだけ動かないようにする。
此処で笑ったりしてバレちゃったら、台無しだもんね。
『おかしいな。何処に隠れたんだろう?』
『なんで? 何で消えちゃったの?
大変だよ! トヨチーがいなくなっちゃった!』
『待ってよ、此方の部屋に居るんじゃないの?』
子供部屋の方を見に行ったみたい。
ププッ、そんな所探したって、見つからないよ。
箱の外は覗けないけど、バタバタガタガタ、あちこち探している音が聞こえる。
ボクは嬉しくてヒゲをピクピク動かした。
やったよ、大成功! 後でリク兄やミミ兄にも見せようっと。
そのためにはタネがバレたらいけないよね。どうやって抜け出そうかな。
「お前ら、何をやってるんだ?」
『あ、じいちゃん!』
じいちゃんの声がする。戻ってきたんだ。
「此処で遊ばないで、向こうで遊びなさい。まだ、書類を片付けてる途中なんだから。」
『でも、じいちゃん、トヨチーが居ないんだよ!』
ミイちゃんがミャウミャウ訴えるのに、じいちゃんは呆れたみたいだった。
「豊一なら、また仁護のところじゃないのか?
ムイも天祥も広場に行ったみたいだぞ。お前たちも、向こうで遊びなさい。」
『ええー? だって、いないんだよ、ええー?』
『ミイちゃん、じいちゃんが言うとおり、広場に行こう。
ボクらが部屋を探している間に、逃げていったかもしれない。』
ミイちゃんは納得してない感じだっただけど、サンジに促されて境内の方へ行ったみたい。
ちょうど良かったよ。もう少し待って、完全にいなくなったら箱から出よう。
それにしても、さっきからビリビリって音がするのは何だろう?
天井の蓋をポンポン叩かれた。
あれ? ぐらぐら箱が動き出したよ?
「おかしいな? こんなに重かったっけか?」
あっ、じいちゃん、もしかして箱を動かしてる?
どうしよう、ボクが居るよって言わなきゃ!
でも、急に箱から声が聞こえたら、吃驚しちゃうよね。驚いた拍子に落とされたら困っちゃう。
もうちょっと待って、動かなくなってからにしよう。痛いのは嫌だもん。
「やれやれ、箱一つ動かすのも大変とは俺も歳かね。」
暫く待ってたら、じいちゃんがブツブツ言う声と一緒に、ドサって箱が揺れた。ぴしゃって何かが閉まる音も聞こえた。
何処かに箱ごと仕舞われたに違いないよ。よし、そろそろ出ていこう。
ボクは前足で蓋を押し上げた。
それなのに蓋はピッタリ閉まって、ピクリとも動かない。あれ、おかしいな?
両方の前足でうんと力を込めたけど、やっぱり開かない。
どうしよう、閉じ込められちゃった!
そう言えば、さっきビリビリって音がした。あれ、ガムテープを切って張り付ける音だったんだ!
でも、それくらいなら何とかならないかな。
前足だけで駄目なら、背中で押したら開かないかな? ジャンプしたら、どうかな?
駄目だ。開かない。開かないよう!
どうしよう! このまま閉じ込められて、ずっと出られなくなっちゃたらどうしよう!
ボク、そんなつもりじゃなかったのに! テンちゃんの言うとおり、こんな箱に構わなければよかった!
助けて! 誰か、助けて!
***
今日は沢山荷物が届いたので、この機会に少し倉庫を片付けた。ついでに空き箱に書類を詰めたので、社務所の方も随分すっきりした。重たい魔石や書類の束を運ぶのは、少々骨であったが、綺麗になった倉庫を見るのは気分が良い。
お茶でも飲んで一息入れようと気を抜いた途端に、閉めたばかりの戸がガタガタ揺れ始め、子獅子の悲鳴が聞こえてきた。
ミャアン、ミャアンと泣き叫んでいる。
『助けてぇ! 誰か助けてぇ!』
悲鳴に合わせて扉どころか、壁が揺れ始める。相当必死に暴れているらしい。
慌てて扉を開ければ案の定。片付けたばかりの箱が悲鳴を上げながら、ガタガタ揺れている。
大体の予想が付いて、気が遠くなった。
子獅子の恐れるダンボールお化けであれば、逆に良かったのに。
諦めと共に上に乗せた別の箱をどかし、手前に引っ張り出してガムテープを剥がせば、中から青毛の子獅子が飛び出してきた。
「お前か、豊一。」
『じいちゃん! ボク、怖かった! 凄く、凄く怖かった!』
ビミャーと鳴きながらしがみついてくる背中を撫でてやる。
「豊一。なんで、書類を仕舞ってる箱に入ったんだ。
いつも言ってるだろ、仕事で使ってるのは駄目だって。」
『ボク、忘れてた! 中に入れると思ったら忘れちゃった!』
使用中の箱で遊ぶなと言うのは、子獅子には難しいのだろうか。
いや、重さが変だと感じた時点で、中身を確認しなかった自分のミスか。
素直に不備を反省する。
しかし、どうして彼らは箱と見れば中に潜り込みたがるのか。
ネコ科の習性として片付けるしかない現実に、溜息が止まらない。




