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戦国DNA  作者: 花屋青
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鎖の箱

 とらわれた友樹を救うべく、ネオ安土城を右往左往する行也達。

友樹を救い出した別働隊の鍋島・栗山・母里・田中は、途中で拉致された立花と何とか連絡を取る。

 一方、囮として城内を攪乱していた行也達は。島津の仇を取ると暴走した行人を救うため、敵の罠が待ち受ける大広間へ向かうことに。 

 行也は黒田達の助けを借り、敵の群れにつっこんだ弟の行人を暗闇の中で発見するが。

予備電源が点灯して信長達に発見されてしまう。

彼らは家康の一〇八計で生まれた家光の『江戸一〇八計・鎖国』により黒田達と切り離され。

銀の鎖の箱の中で孤立してしまった。


……自分達の前に聳える銀の刃の壁、銀色に輝く天井を見上げ、兄弟はため息を吐いた。

 行也は無意識のうちに行人をかばうように立った。せめて行人だけでも助けたい。土下座してでも……自分の命を差し出しても…そう思った彼だが……。

赤い髪赤い目の武者の憤怒に彩られた出で立ちを見て。考えを変えた。

これはそんな話が通用しない目だ。

それにもしここで自分達が人質になったら、それを盾にされて皆が危険な目に遭うかもしれない。

そう判断した彼は行人や島津に心で詫びると。大きな声で叫んだ。

「皆さん! 俺達は大丈夫なので逃げてください!!!」

「無駄だ。この『鎖国』内の声は外に漏れない。心掛けは潔いから苦しまないように殺してやろう!!」

「待って下さい!」

 十五人の襷の少年の群れの中から。『五代目』と書かれた襷の少年は恐る恐る前に出て、

信長に土下座した。

「まだ僕達と同年代の少年です! 命まで奪うのは……。どうか懲役くらいでお許しください!」

「綱吉殿。コイツはただの餓鬼では無い。今まで何人コイツに倒されたと思うか? 

今日も信玄殿達に深手を負わせ、足軽達を無慈悲に吹き飛ばし、私を殺そうとした。

そしてそれを庇った蘭丸は大きな傷を負った!!」

 信長は甲高い声と睨み殺すような目線で行人を刺す

家康は眉間に皺を寄せてため息を吐いた。

「綱吉、下がれ。こちらもチャンスをやったのだ。仕方ない。」

「権現様……」

「ごんげん! チャンスってなんだよ!!」

「ごんげんさま、だ。本当に頭が悪い餓鬼だな。冥土の土産に教えてやろう。

普通はあの放送を聞いたら真っ直ぐ帰る。

和議を乞うものに先制攻撃を仕掛ける奴等が、正々堂々と戦うわけがないだろ?

しかも指定場所は大人数に有利な大広間。

普通に考えれば罠だ。

それに、あの放送では、友樹殿以外は囚われていないことがまるわかりだぞ?

大広間に誘き寄せたいのだから、もし友樹殿以外の人質がいるならそれを思いっきりアピールをするだろう普通は。

お前達は俺達が友樹殿を殺さないことを薄々気付いているようだしな。


そもそも逃亡者を中々捕まえられない追手が、

『大広間で最後の勝負をしよう』

と良い条件をちらつかせながら言う時は、

逃亡者を捕まえる手段が尽きた時。若しくは焦っている時だと相場が決まっている。」

「大広間に敵が固まっているんだ、って油断した所を捕まえるための放送かもしれねぇだろ!」

「敵城内だぞ? そういう放送を聞いたからといって油断するか?

普通はしないだろ?

そんな不確実な策に割く人員があったら、一人でも多く捜索に回すのが普通だ。

とにかくお前達はさっさと帰るべきだったのだ。」

 やはり逃げるチャンスをやったのか……と家康に詰め寄ろうとした信長だったが。

友樹のことを出されて言葉を呑み。

行人は唇を噛んだ。

「確かにお前の言う通りだ!

だけど普通普通うるせぇんだよ!

お前は逆に普通すぎるぜ!

隣のド派手な兄ちゃんと比べてむしろ地味だぜ! 影が薄いんだよ!」

「俺は地味に優秀で地味に人望があるんだ! 普通以下の脳味噌の野郎に何も言われる筋合いはない!」

 口論する二人。そんな中、行也は思い出した。あの放送を聞いた皆の表情が輝元と行人以外は冷静だったことを。

「家康殿! さっさと倒すぞ! 皆! 矢を放て!」

「島津十文字斬連打!」  口論しつつも信長達の動きを注視していた行人は十文字斬を連打。

少々の疲れが逆に無駄な動きを削ぎ落とし。

真空の刃は何時もより早く生まれた。

そしてそれは高速で迫る帯となった矢を破壊しつくす。

信長達の矢が尽きても行人は十文字斬を連打。足軽と襷の少年達は吹っ飛ぶが。

信長、家康と、仮、八、十四の襷の少年は腕をクロスして耐え。

腕をだらりと落とした行人、そして行也に襲いかかる。

「ドォリャアああー!」

 行也は行人の盾になるが如く前方に飛び出す。彼は片手で刀を振り回し。もう片手で黒田がリュックベルトに付けた催涙手榴弾を信長の顔面に投げた。

「卑怯者ォおおー!」

 悶絶する信長の脇から出てきた仮の襷の少年の刀を跳ね上げ。

さらに反転して家康の刀を受けた。

その間に刀を持ち直した行人は八の襷の少年の刀を刀、後からの十四の襷の少年の刀を鞘で受けた。

「二刀流は……よく習ってなかったぜ……。」

 ミシッと罅が入っていく鞘と刀。沈みこむ腕と心に。また、聞こえない筈の声が聞こえた。

『諦めてはいけないでござるよ!』

「……そうだよな!」

 行人は両手にありったけの力を込めて二人の刀を押し返し。撥ね飛ばした。二人は反動で後に倒れ。

行人は最初に起き上がって来た八の少年の頭上に右手で刀を振り下ろし。

続いて背後からの十四の少年の刀を勢いよく斜め下から上にスパン! と左手の鞘で跳ね上げた。

「ちぇすとー!」

行人は飛び上がって十四の少年の兜に刀を叩き込み。倒れたのを確認すると、行也を見た。

「兄貴うしろ!」

 刀を持って走り出した行人の目の前で。行也の背中に赤い線が一本走る。

いつも真っ直ぐな行也の立ち姿はぐにゃりと歪んだ。

「信長てめぇえェェー!」

 行人は信長に勢いよく斬りかかり。信長はそれを受ける。

「俺がムカつくなら俺を斬ればいいだろ!」

「お前だけじゃなくて旧日本人全員腹立たしい!」

 信長は腹の底心の底から哭くような吠えるような叫び声を上げた。

「お前達の先祖のせいで私達の先祖も私達も故郷と……健康を失った! キランが爆発した時のガスを大量に吸った私達の先祖は遺伝子に異常をきたし…低体温で免疫力の低い体質になってしまったのだ!

おまけにお前達の垂れ流すキランが海に溶けてスーパードックンになり……それで汚染された魚や貝類を食べてしまったせいで……心臓を患う者も増えた!

私達の平均寿命はどんどん短くなり………来年の統計では平均寿命が60歳を切るだろう!」

「………それは同情するぜ……でもお前はむしろインフルエンザじゃねーかと思うほど暑苦しいんだけど!

体温が元々高い兄貴よりも熱が高いんじゃねぇか!」

「当たり前だ。私は体の体温を上げ、免疫を活性化させる薬の実験台になっている。」

「………待てよ! ……体温が高すぎるとそれはそれでやべえんじゃねぇのか!やめた方がいいだろそんなやべぇこと!」

「煩い! 兎に角! 私はお前達を生きて帰さない!」

 信長の気迫に圧され。行人は防戦一方になってくる。

上から落ちてくる赤い光を受けるたびに。刀こぼれし。ひびが刻まれていく。

さっきの二人相手の時のより深く、致命的な罅がだんだん刀を蝕んでいった。

信長の息は粗い。動きもだんだん緩慢になってきている。それなのに、何故か一撃一撃は信長の顔の赤みが強くなる程に力強くなっていく。

「な……ん…で?」

 力が抜けていく体で信長の刀を受ける行人は。とにかく、という言葉が引き金となり。島津が前に言っていたことを思い出した。

『物事は基本的には気合いで何とかなる。でもそうは行かないこともあるでござるよ。

戸次殿と高橋殿だってアクシデントは根性で解決しているように見えるが、意外と頭を使っているでござるよ。

例えば……あ! 意外とと言ったことは失言だから忘れて欲しいでござる!

とにかく、ピンチの時に浮かんだ疑問は突破口になる。それは覚えるでござるよ!』

「……もしかして体温が高い方が強くなる甲冑なのか! そう言えば兄貴が使っている黒田の兜は最弱のはずなのに、宇喜多を倒せた!

実季の話だと宇喜多はわとつえぇって話だったのに!」

 舌打ちする信長を視界の端に入れ。行人は行也を見た。

「兄貴! 兄貴なら倒せる! 頑張れよ! 頑張ってるの知ってるけど頑張れよ! 家康を倒せ!」

 それなりに広い箱の中をぐるぐる走って逃げ回る行也へ声援を送る行人だったが。行也は首を振った。

「……倒せない。」

「根性がねぇな! 兄貴は平熱高けぇから有利なんだぜ! 黒田先生の兜よりはマシそうな足軽の兜なのに!」

 行也は倒れた綱吉達をチラリと見て、静かに首を振る。

「………ナッツさん達は…………。」

「あ………………。」

 島津を失って啜り泣いていた時。春彦と高木が鼻声でポツリと言った言葉が、行也達にも微かに聞こえていた。

『ナッツ達を失った蒲生も……こげな気持ちだったんじゃろうか……。』

『弟みたいに思っていたのかもしれないね……。』

 行人はため息を吐いた。

「好きにしろ! でも死ぬなよ!」

「ああ!」

 その後も鬼ごっこ状態の行也、家康、仮の襷の少年。信長と刃を交える行人。

膠着状態の最中。行也の耳に黒田の声が聞こえた。

黒田は足軽の兜を被せる時に、行也の耳に通信機を仕込んだのだ。

「行也! しゃべらないでいいから聞け!

蓋を吊り上げるからそれにぶら下がって逃げろ!

吊り上げるタイミングは『あかごうし』とワシが叫んだ十秒後じゃ!

この蓋は銃弾を跳ね返す作用があるから中にいる間は奴らも銃を撃ってこないじゃろろうが、

登る蓋にぶら下がっている間は危ない。

お前はリュックのベルトについた催涙手榴弾を投げて、行人には十文字斬を撃たせろ! 失敗した場合は失敗したと叫べ! 以上!」

 思わず口を抑え頷く行也の背を。家康はよろよろしながら悔しげに見つめた。

「た、体力に……は……自信があるのに……。」

「おと……権現様は座っててください。」

 仮の襷の少年とぐるぐる回る行也。

少年も段々ふらついてきて、こけたりしたのにも関わらず、彼はひたすら逃げ回るだけであった。

少し楽になった、と思った行也だったが。事態は急変した。

倒れていた襷の少年達が立ち上がり始めたのである。

『あかごうし!』

「こっちだ!」

 行人はなんとか信長をぶっ飛ばす。行也は目が虚ろな彼をひょいと掴んで肩に担ぎ上げ。

走って鎖にしがみついた。行也は行人が自分で鎖を掴んだのを横目で見ると。催涙手榴弾を投げた。

「十文字斬を!」

 信長はそれを避けながら弓を構える

「奴等を撃て!」

「島津十文字斬乱撃!」

 行人は片手で金網を掴み。もう片手で扇風機のような高速で技を繰り出し続けた。

下からの矢のシャワーは風の壁に押し戻されてバサバサっと下へ落ち。直ぐに止まった。

「裏切り者めがァアー!」

 信長が叫ぶ間も底なしエレベーターは空中を登り。

行人は手を止めて一瞬下を見た。

蓋が無くなって無防備になった信長達へ神崎・光紀・黒田が何かを投げているのが見える。

その間に行也は行人の真向かいに移動し。蓋のバランスを取る。

「行人、あとちょっとだ。」

「……ごめんなさい。」

「俺じゃなくて皆さんと……島津師匠だ。」

「あ………。」

 行人が俯いた時。底なしエレベーターは終点に着いた。

行也達が島津を失った悲しみにくれていた頃。

栗山達と地下に居た田中は、目にも止まらぬ速さで携帯端末を爪弾いた。

「ムネリン大丈夫今どこ!?」

「立花は無事であります。今、友樹殿がおられた屋根裏部屋におります。

謙信殿は倒しました! 茂殿達はご無事でありますか?」

「うん。よかっ……倒した!? ……じゃあ足軽さん達が上杉さんを探しに来るかも知れない!」

「それは多分大丈夫であります。謙信殿は立花を運ぶ途中で『絶対に屋根裏部屋に入らないで』

と足軽のみなさんにおっしゃってました。それに今も眠っております。

茂殿達は今どちらですか? 立花は参るであります!」

「いや! それなら部屋の中に居たほうが安全だよ! 上杉さんは強かった?……そうか…

じゃあ上杉さんには悪いけど……念のために上杉さんの手首を後ろ手に縛って

…そう、時代劇で悪役がやる結び方。それで縛っといて、起きても大丈夫なようにしておこう。

そのあとは部屋の鍵を閉めてこもってて! 行き違いになったら困るし! 今すぐ行くから!」

「かしこ………いややああああアアアア!」

「ムネリン! どっ、どうしたの!?」

「ああああ屋根裏部屋でピンクの鳥を見つけると死ぬと…謙信殿がおっしゃるであります!

 立花は部屋を出ます! ピンクの鳥を見つけたら死ぬであります!」

「え??? 上杉さん起きちゃったの!?」

「目は閉じておられます……ああああババッババルコニーで金の猿を見つけたら

……大砲を撃てと……大砲なんてないであります!!!」

「目をつぶっているなら寝言だから大丈夫だよ! 鍵をしめて部屋にこもってて! ……大丈夫だから! ……うん。大丈夫! ごめんね一旦切るよ!」

「立花殿は精神攻撃を受けていらっしゃるのですか! 急がねば!」

 鍋島は腕の痛みも忘れて拳を突き上げて立ち上がり。皆も慌てて立ち上がった、その直後だった。

「徳川家康です。城内に不法侵入した黒田殿御一行様。最後の勝負をしましよう。

もし、我らに勝てたら旧日本とは賠償金で手を打ちましょう。ですが。もし負けたら……

新薬の実験台になっていただきます。では。天守閣の大広間でお待ちしております。」

「誰がわざわざ罠に飛び込むか! バカ野郎!」

 城内放送を聞き、思わず罵声を飛ばす母里。

鍋島も眉間に皺を寄せつつ放送を聞いていたが。すこしほっとしたような顔で言った。

「黒田殿御一行様という表現は日本語としてどうなんですかね? ……まぁ、そんなことはどうでもいいとして。こんな放送を流すということは、誰も掴まっていないということですね。良かった。

それにしても誘き寄せたいのならもっと言葉を選ぶべきです。

あんな言い方をされて、はいわかりましたと向かう馬鹿はいませんよ。

声も少し上ずっていたし、何か敵にトラブルでもあったのでしょうかね?」

「俺様達を捕まえられなくて焦ってるんだろ! 

でも確かに俺達を誘き寄せる気が本当にあるのか疑わしい言い方をするよな……兄者? どうした?」

 固い表情で携帯端末を耳に当て、頷く栗山。彼は電話しながら慶次達のもとへ歩き出す。

険しさの中に、少し哀しみが溶け込んだ栗山の眼差し。それに息を呑みつつ皆も歩き出す。

そして少しして。栗山は皆を見回すと。一語一句ハッキリとした発音で小早川からの伝言を伝えた。

「小早川殿からの伝言です。

急いで慶次達の所持品を漁り、バージョンアップした城内の設計図を手に入れて欲しい。

で、その設計図を見て直ちにコントロール室へ向かい、占拠するように。とのことです。

とにかく急いで欲しいと。それから……島津殿が…やられたそうです…。」

「島津殿が……。」

 言葉を失い。天を仰いだり、俯いたり、目を潤ませる皆だが。

鍋島は、気が長い小早川が急かすのは余程のことであると判断し。目頭を押さえて言った。

「とにかく急いで設計図を…」

「ありました!」

「速いな兄者!」

 一番先に我に返っていた栗山は。発見した設計図を母里に広げさせ、

それを見ながら電話の向こうの小早川に報告した。

「設計図を慶次の懐から発見しました。コントロール室の場所は…四階大広間の二つ奥の隠し部屋です。

大広間を突っ切らないと………お? ……失礼しました。少々お待ちください。」

 栗山は天井を指差し。それを見た母里は設計図を天井の照明へかざす。

すると。大広間へのもう一つの道などが浮かび上がった。

「……荷物運盤用電動スロープから城の屋根まで登り、先程立花殿が空けた穴から入る方法もあります。

……ありがとうございます……はい、そうです………えっ? ……畏まりました。

そういう状況になったらやれるだけやってみます。成功の保障は出来かねますが。」

 電話を切った栗山は皆に小早川の伝言を再び伝え。皆は勢いよく走り出す。

先頭を走る母里は、こうなった原因を推理して言葉を吐き捨てた。

「最初は友樹を救ってさっさと帰るはずだったのによ。面倒くせえことになった。

恐らくバカ弟が敵討ちだとかほざいて大広間につっこんだんだろうな! 殿を危険な目に遭わせやがって! クソ!」

「行人君は島津さんをお父さんとかお兄さんの様に思っていたんじゃないかと

……そもそも皆さんがここにくるはめになったのは僕のせいで…」

「しつけーな。 お前はもっと人のせいにすることを学べ!」

「太兵衛、お前は友樹殿と逆で人のせいにし過ぎだ。全く!」

 非常口から夜空の下へ飛び出し。バルコニーの真下に隠れて電動スロープのスイッチを探しつつも、

私語が止まない母里達。鍋島は低い声で釘を刺した。

「皆さんお静かに。……ん? 俺から離れて下さい。」

 鍋島は白壁が少し四角形に盛り上がった部分を発見し。

皆が少し下がったのを見てから上にスライドさせる。すると。

一から九の数字が書かれたボタンと液晶画面が出現した。

「暗証番号が必要みたいですね。設計図には書いてありませんか?」

 鍋島は栗山が広げた設計図に目を凝らす。皆もまた、設計図を穴が空くほど見つめた。

「さっきから変だなと思っていたんですが……設計図の座標……

例えばE6の後ろの()の中に小さな数字が……ロジックパズル???」

 栗山はそう呟くと。設計図を地面に置き。凄い速さでロジックパズルを解き始めた。

何時の間にかバルコニーに出てきていた春彦達が、天守閣バルコニーの足軽達を狙撃している間に。

彼は無心でマスを塗りつぶす。

「001582!」

「お疲れ様です!」

 手をぶらぶらさせる栗山の代わりに、鍋島は即座に暗証番号を入力。

直ぐに二人が横並び出来る幅の電動スロープが出現した。

栗山は耐久重量他を付属の取説で速読で確認し。スロープの形状を階段型に設定する。

そして四階に昇ろうとしていた輝、それを支える高木、輝元にも声をかけた。

「毛利殿達もお乗り下さい!」

「ありがとうございます!」

 高木は輝と輝元を階段状になったスロープへ乗せ、自分も乗る。

皆が乗って手すりを握ったことを確認した最後尾の鍋島は電源を入れた。

スロープから変形したエスカレーターは上へ上へと高速で皆を運ぶ。

鍋島の配慮で安全な真ん中にしてもらった友樹は。どんどん小さくなっていく周りの風景に少し身震いしつつも。

高木の肩から飛び移ってきた来たヨッシーに微笑んだ。

「高木殿ありがとー。

友ちゃん大丈夫!? 白い粉まみれで昔の公家みたいー。拭いてあげる!」

 高木に手を振ると。ヨッシーは小さなハンカチで友樹の顔を拭こうとする。

だがそんな彼女が視界に入った小早川は、それを止めた。

「その方が迫力があって良いですよ。……皆様。ご武運を。」    

「小早川殿達もご武運をお祈り申し上げます。」

 小早川達に敬礼を返す間に。友樹達を乗せたエスカレーターは天守閣に辿り着いた。

さっき立花が空けた穴から屋根裏部屋に突入した彼らは。耳を塞いで震える立花、

そして彼の対角線上で怪談スピーカーと化した美しい女性を目にした。

瞳を閉じた彼女はブランケットを掛けられて横たわっていたが。寝言とは思えない明朗な声で、不気味な言葉を口走る。

「その地下室には……ホルマリン漬けの…モモンガが……」

「しげるどのーーーーー!」

「もう大丈夫! 遅くなってごめん!」 田中は半泣きで駆けてきた立花の頭を優しく撫で。栗山を見た。

「……ここからコントロール室への抜け道があるんですか?」

「あっちの箪笥の真下にあるみたいです。」

 田中、鍋島、母里が部屋の奥へ走って箪笥をそっと動かすと。その下には小さな四角の扉があった。

 母里は扉に光紀作成の聴診器をあてる。彼は輝程ではないが、そこそこ耳が良い。

「……四人~六人くらいだな。多分銃を持ってるぜ。」

「でしたら銃を奪う必要がありますね。母里殿、田中殿、立花殿は俺と一緒に足軽達を縛り上げていただきます。栗山殿、大沢殿は天守閣の電源を探してください。念のため、大沢殿は最後に侵入してください。」

「おう!」 鍋島は皆が頷いたのを見ると。眠っている上杉の耳に耳栓を入れるよう栗山に指示し。

その間に液晶画面へさっきと同じ暗証番号を入力。続いて立花に扉に小さな穴を開けさせ。携帯端末から音楽を流した。

「何だ!?」

「五月蝿いな!」

「多分ここか……」 

「突入します!」

 鍋島は友樹が四角い扉を開けた瞬間にそこから催涙手榴弾を投げて飛び降りた。

四角い扉の真下に集まり、天井を見上げていた三人の足軽達は。催涙手榴弾を顔面にくらって悶絶。

そこへすかさず鍋島、続いて母里、田中、立花が飛び降り。足軽達にのしかかった。

潰れたカエルのように低く濁った声で唸る足軽達。さらに。鍋島達は足軽達の鳩尾を殴って気絶させ。

縛り上げた。

「……後一人居た!! 大沢殿!」

「バケモノぉおおおおあああああああああー!」

「うらめしや~!!」

 上の扉から覗き込む顔も全身も真っ白な友樹。それを見た足軽は友樹が消えた空間に絶叫ししながら銃弾を放ったが。鍋島に取り押さえられた。

「コントロール室は渡さな……」

 母里に鳩尾を殴られた足軽は言葉の途中で倒れ。その間に黒田からの合言葉を聞いた栗山は天守閣の電源を落とした。鍋島は急いでフック付きロープを取り出す。

「敵が来ます! 母里殿、先に登って皆を引き上げて下さい!」

「おう!」

 母里は吊るしたロープを超早送りで手繰り寄せ。あっという間に屋根裏部屋へ這い上がった。

彼はテキパキとよじのぼった皆を屋根裏部屋へ引き上げていき、最後に引き上げられた鍋島は息を止め。母里から貰った睡眠手榴弾を大量に部屋へぶち込んで素早く扉を締めた。さらにテープで密閉する。

「これで部屋に入った足軽は眠気に襲われるはずです。 ……あれ? ちょっと外から声がしませんか?

大沢殿。こば……は忙しいでしょうね。輝殿にメールを送っていただけますか?」

 友樹が輝にメールを打った直後。栗山は黒田からの電話に出た。

「……行人殿と行也殿が箱型の蓋にとじ込められちゃったんですか!!

小早川殿の仰有る最悪の事態になってしまったと…………はい伺っています。……それで蓋ごと彼らを引き上げたいということですね……重さは……はい。

……立花殿、ここに田中殿の握りこぶし大の穴を開けていただけますか? ……ありがとうございます。太兵衛、センサー付き望遠鏡。」

 栗山は黒田の話を聞きながら陣羽織を脱いで母里に渡し。母里は手早くその陣羽織と望遠鏡をつなぐ。

そして立花の開けた穴に望遠鏡の先を突っ込んだ。陣羽織スクリーンに望遠鏡からの景色が映る。栗山はスクリーンにネオ安土城の設計図から探した大広間や、屋根裏部屋の様々な数値、さらにセンサー付き望遠鏡からのデータなどを入力し。

黒田の矢継ぎ早の問いに大きな声で答えた。皆にも聞かせるためである。

「……大広間の面積に占める割合などから考えて鎖の箱……蓋の面積と高さを割り出しました。蓋はそのまま垂直に持ち上げられれば屋根裏部屋へ引き揚げられます。下は大体一メートルくらいの余裕はあります……少々お待ちください。」

 栗山は皆を遠ざけて部屋の隅に走り。刀を突き上げて叫んだ。

「戦国一〇八計・命綱!」 栗山が刀で兜を擦ると。兜には栗を覆う毬のように繊細なとげが生え。それが伸びて絡まりあって太いロープになった。そしてそのロープは導火線を奔る火のような勢いで伸びて行く。

「……はい……かしこまりました。殿もお気をつけてください。」

 電話を切った栗山は皆に『山田兄弟を蓋ごと持ち上げて救出する』という作戦を説明しようとするが。

会話を聞いていた皆は既に動き出していた。

 スクリーンを見た鍋島、田中、立花は、母里に道具を借りて床に蓋の面積より一回り大きな四角形を書き始め。

部屋の真ん中に居た母里は滑車設置の準備をしていた。

彼は栗山のリュックからとても大きく、縁に窪みがある円盤を出し。

さらにそれをパカっと割って中から同じ形の円盤三枚、フック、円盤をつなぐプレートなどを取り出した。

このフック、プレート、マトリョーシカ状の円盤……滑車などは博士の自信作であった。

ダイヤ繊維と蜘蛛の糸を模した繊維を合成して構成されているので、軽い割には凄まじい耐久性だという。

部屋に有った箪笥に上り。母里は友樹をアシスタントにして定滑車を滑車と同じ素材の固定具で梁に付ける。その横で人間になっていたヨッシーは利休の土を栄養ドリンクで溶いて接着剤を作った。

乾くとハンダゴテのように固まる強力な接着剤である。

「義父さ……いや。義母さ……違うか。大友殿、出来たか?」

 母里はヨッシーからその接着剤を受け取ると。固定具と梁の境目などに接着剤を縫った。

「これでよし! ……もう一つの定滑車は兄者が田中と付けている所か。大友殿、兄者の所へ接着剤を持ってってくれ。

友樹はまだちょっと手伝え。」

 母里は動滑車を通したロープを梁に固定するのに使う分と、二つの動滑車をつなぐプレートを補強する分を除いてヨッシーに渡すと。二つの動滑車をプレートでつなぎ、そのプレートにフックも取り付けた。

ワイルドな彼が額に汗を垂らしてまで几帳面にフックの具合を確認するのを見て、友樹は尋ねた。

「これは何に使うのですか?」

「このフックにあの蓋の上部を引っかけんだよ。網目は緩いから多分大丈夫だ。多分な。多分。」

「多分……」

「……所で、外がまだちょっとだけ音がするけどよ、坂崎は何て言ってるんだ?

さっきは大丈夫って言ってたようだが。

また状況が変わったかもしれねーからもう一回だけメールしてみろよ。」

「そうですね。…………………輝君は大丈夫って言ってます。」

 友樹は直ぐに返事が帰ってきた携帯端末を母里に見せる。母里はそれを見て頷くと、鍋島の声に振り向いた。

「母里殿! 大沢殿!」

「今行くぜ!」

 立花が走りながら床をザクザク切り始める様子をチラリと見ると。

母里は箪笥を担ぎ。栗山が一〇八計で出したクソ長い『命綱』を持って梁の下に居る鍋島のもとへ走った。

 ……全ての準備を終わった。屋根裏部屋から大広間にロープで下りて動滑車を設置し、再び上に上って来た母里も。皆も。一列に並んで『命綱』を綱引きをするかのように強く握る。

そんな中。友樹は前方にぽっかり空いた巨大な穴を見て息を呑み。ヨッシーを見た。

「ヨッシーは危ないから列から外れなよ。そんなに力がないから戦力にならないし。」

「一キロでもちょっとでも力が必要でしょー!」

「友樹殿! 殿は意外と重いので十分戦力になるであります!」

「……ムネリンってさりげなく無神経なところがあるよねー!」

 ヨッシーが頬を膨らませる中。合図の振動が後ろから伝わって来た。

小さな穴に通した命綱を龍造寺達が引っ張ったのである。

「行きますよ! せーの!」

 先頭の鍋島の声に合わせ。皆は命綱を引っ張る。すると。以外と軽かった銀の鎖の蓋はするすると上がりだした。

銃声、十文字斬が風を切る音、怒号、爆音、様々な音が交錯する中。

兄弟は無事に屋根裏部屋へ辿り着いた。

「母里殿! 救出をお願いします!」

「備前長光を使ってください!」

 母里が綱引きの列から抜け。勢いよく前方に引き寄せられる皆だが。何とか歯を食いしばる。

 母里は急いで立花から刃こぼれや罅が目立つ備前長光を借りて、銀の蓋に近寄った。

「見えねーんだけど! お前らどこだよ!」

 コンコンと蓋を叩く母里。兄弟はガシガシ金網を叩いた。

「今叩いている場所にはいません!」

「じゃあこっち斬ってもいいな!」

 母里はザクザクと金網をドア型にくりぬき。兄弟はドアから母里の助けで屋根裏部屋に着地した。

「無事でよか……アアアアアアアア!!!!!」

「友ちゃん綱から手を放して!」

 屋根裏部屋に居た皆は思わず手を離し。綱を握っていたままの友樹と、彼を綱からひっぺがえそうとしたヨッシーも勢いよく引きずられた。

「ななななんということでしょう!」

 ヨッシーは立花と田中に、友樹は鍋島と栗山に綱から引っぺがされ。銀の蓋は大広間にズドン! と落ちた。


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