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戦国DNA  作者: 花屋青
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炎の男

捕らわれた友紀を救うため、二手に別れて安土城を掛ける行也達。

鍋島、立花、栗山、母里、田中は友樹を救いだすが。謙信達との戦いの中で立花を誘拐されてしまう。

一方、行也達は島津を失い。ショックで動けずにいた。

そんな中、流れた城内放送に今までの怒りが爆発した行人は大広間にとんでもない速さで走り出してしまう。

その行人に異常を感じた黒田は、行也達に策を授けてから彼を追うことにした。


黒い壁を突き抜けるドリルのように。一直線に信長の元へ走る行人。

ついに足軽達の奥の壇上にいた信長に辿り着き。

助走をつけて飛び上がったそのエネルギーごと信長へと刀を叩き落とした。

「師匠達の仇ーーーーーー!」

「信長様!」

 蘭の飾りが付いた着物型甲冑の華奢な美少年は。信長を庇うように立つ。

「……あ…。」

 行人は反射的に刀を止めようとしたが。間に合わなかった。

行人の太刀を受けた少年の刀は真っ二つ。銀の細長い線は冷たい音を立てて床に落ちた。

少年の変身は解け。腹に走った一文字の傷からは血が滴り落ちる。

それでも少年は信長の前に立って震える両手を広げた。彼は半開きの目で視線が彷徨う行人を睨む。

「のぶながさ…まには……ふれ……させ………ない…。」

「蘭丸下がれ!! おい誰か! 蘭丸を医務室へ!」

「ま…だ………」

「蘭丸!」

 信長は彼を守るように立ち。懐に手を入れる。

銃だ。直感的にそう思った行人は咄嗟に刀を閃かせ。信長の手中の黒逆F字を切断した。

「蘭丸達の仇!」

 信長は血走った目で刀を構え。マグマを固めたような赤橙色の刀を振り下ろす。

それを受けた行人の刀は聖火のように赤く燃え盛った。

彼は太陽を素手で掴むような感触を感じつつも低い唸り声を上げ。燃える鉄刀を勢い良く押し返す。

「死ね!」

「お前こそ!」

 心ごと殴りあうように。二人は怒り哀しみ負の感情全てを刀で目で言葉でぶつけ。斬り結ぶ。

「最初は同情したぜ!

俺達の先祖がひでぇことをして許せないって思った!

俺達に出来ることはないかって思った!

でもお前らは俺達に関係ねぇ昔のことをいつまでもネチネチうるせーんだよ!

謝っても賠償金払ってもダメってどうしろって言うんだよ!」

「我らを犠牲にしたお前達先祖の所為でぬくぬくと暮らしている癖に!

今もキランを垂れ流して海洋汚染を引き起こしている癖に!

何で関係無いと言えるんだ!

無知で愚かなお前らは財産全てを差し出して一生我等の奴隷になればよい!」

「ふざけんじゃねぇーー! ぬくぬくなんて暮らしてねぇよ! 俺も兄貴も! みんなも!」

 鍔迫り合いする刀越しに。暗くて熱い怨念をやり取りする信長と行人。

少しして。ぴったりと均衡を保った力の天秤は行人側に傾いた。

「一番えらくて一番悪いお前をぶっ殺して師匠達の敵を取ってやる!」

 絶叫した行人は信長を床に叩きつけ。仰向けに倒れた信長の兜に刀を突き立てようとした。

その時。彼は聞こえるはずのない声を聞いた。

『行人殿後ろ!』

 行人は素早く振り返り。片手で家康が構えていた刀を遠くへ跳ね飛ばす。

さらに。彼はそのまま流れるような動きで反転。

目にも止まらぬ一閃を繰り出し。飛び起きた信長の太刀を明後日の方向に撃ち上げた。

刀を拾いに走る信長。それと入れ替わりに戻ってきた家康は行人と対峙。黒い銃口を向けた。

「お前達の力は解った。降伏する気は?」

「ない!」

「そうか。……これでも?」 行人は背後を見て目を見開いた。

いつの間にか。彼に『関ヶ原敵中突破』で撥ね飛ばされた足軽達の一部は立ち上がり。

行人へ銃口を向けていたのである。それでも行人は家康の目を見て叫んだ。

「撃てるもんなら撃ってみやがれーーーーーー!」

「……家康殿は人が良すぎる! 皆の者! 撃」

 刀を構えて戻ってきた信長の非難めいた叫びに覆い被さるように。

銃声と悲鳴が天守閣に響き。部屋は闇に包まれた。

「コントロール室は渡さな……」

「なんだ? コントロール室か?」

「と、とりあえず信長様と家康様をお守りしないとと!」

 ざわめく黒い景色の中。電気が消える前の記憶を頼りに家康と信長の近くへ近付こうとする足軽達。

さらに。天守閣バルコニーからも悲鳴が木霊し。火花が投げ込まれた。

続いてガシャン! とバルコニーの雨戸が閉められ。さらに闇が深くなる。

「敵は人数が少ない! 落ち着け! ヘッドライトを付けろ!」

 よく通る声で叫ぶ家康。その傍らの信長は。目の前に行人がいないことに気が付いた。

「奴を探せ! それから佐藤、田中、高橋、鈴木、中澤、山崎、石田、

お前達はコントロール室に様子を見に行け!!」

 闇夜に浮かぶ炎のような信長は早口でそう言い。消えた行人を血眼になって探す。

その信長の探す行人は。電気が消えた直後に変身を解き。

四つん這いになって足軽と足軽の間から這い出ていた。

彼は激しい眠気と倦怠感に襲われつつも荒い息で必死に床を這う。

遠のく意識の中で。彼は暖かく優しい手に引かれ。安心したように目を閉じた。

……その暖かい手の主は行也であった。彼は行人を抱え込み。息を殺して床を這う。

そんな行也は珍しく焦っていた。

コントロール室を占領した栗山達が天守閣の照明を切っても、

直ぐに予備電源が点灯してしまう可能性を知っていたからである。

黒田先生達が切り開いてくれた道……絶対に行人を連れ帰って、今度は俺が皆さんを助ける。

行也は行人を引きずりながら、そう決意した。


――時間は遡り。大広間へ行人が風のように走って行った時。

黒田は行人の兜に小さな角が生え、足跡が床にめり込んでいることに気が付いた。

冷や汗を掻いて目を見開いた黒田は。行人を追おうとする皆へ慌てて叫んだ。

「待て! ワシに策がある! 今の行人には追い付くことも取り押さえも不可能じゃ!

感電するぞ! おまけに自分でも変身が解けな……だから待てと!」

 黒田は尚も追いかけようとする行也を神崎と春彦に取り押さえさせ。急いで和歌を詠唱した。

「思いゆく 言の葉なくて ついにゆく  道は迷わじ なるに任せて 」

 眩く輝いた黒田は人間になって赤いメタリック型の兜を被り。

福岡市博物館に展示してあるような、鉄を皮でくるんだ黄土色の胴の甲冑を纏う。

彼はさらに、垂れ藤の指揮棒を振り回した。

「戦国一〇八計・中国大返し・超速!」

 メタリックパープルの藤の花びらが宙を舞い。皆の兜に貼りついて光る。

全員の兜をパッと確認した黒田は。

今まで戦った裏日本軍の甲冑のヘッドライトが黒田達の兜よりも光が強かったこと、

裏日本人が夜の行動を避ける理由の一つに、

暗い場所で物が見辛いということを栗山が会議中に補足したのを思い出し。早口で言った。

「行也。お前は暗闇でも行人の場所はわかるか?」

「はい! 今日の行人はカレーくさいから特にわかります!」

「よし。実季、足軽の兜は皆が装備できるか?」

「はい!」

「良かった。それなら明智殿と龍造寺殿と霧沢は、酒井の足軽の兜を五個強奪してきてくれ。

残りの皆は酒井と本多がバージョンアップした城の設計図を持っていないか調べてくれ。

小早川殿は利安に電話。城のシステムコントロール室を探し、

こちらが合図したら天守閣の電源を落とすよう言ってくれ!」

 続いて黒田は行也に視線を移し。少しだけゆっくりと、噛んで含めるように言った。

「行也は天守閣に着いたら、神崎と長宗我部殿の影に隠れて足軽の兜を装備しろ。

そして黒田の兜を入れたリュックを背負え。で、天守閣の電気が落ちて真っ暗になったら、

足軽達に紛れてこっそり行人を探せ。

アイツのことじゃから、敵陣深くに斬り込んでいるじゃろう。行人は鬼島津モードじゃ。

並みの足軽は近付くだけでぶっ飛ぶし、直ぐにやられることはない。

だが鬼島津モードが切れた後がまずい。一気に脳も体も疲れて気絶する恐れがある。

それに予備電源が直ぐに点灯する可能性もある。明智殿とかが照明を打ち落とすという手段もあるが、

敵に囲まれていたら余裕が無いから無理じゃ。

とにかくお前は夜目が効くから暗い内に急いで引っ掴んでこい。

酒井の足軽の甲冑も多少は銃弾防護力はあるじゃろうが、気を付けるんじゃよ!」

「はい!」

「一人じゃ危ないけん! わしも行く!」

「俺も!」

「オイラも!」

 一人でも大丈夫だと言う行也と、神崎達は押し問答。黒田はすかさず口を挟んだ。

「駄目じゃ。弟のケツは兄が拭け! それに人数が多い方が敵にバレる。

……小早川殿、どうじゃった?」

「今、コントロール室へ向かっているそうです。友樹殿も無事だそうですよ。」

 ほっと長い息を吐く皆。栗山達は小早川の指示で気絶した景勝達の所持物を漁り、

バージョンアップしたネオ安土城の設計図を手に入れたのである。

「……というわけで………………」

 小早川は栗山から聞いた立花の情報も元に、考えを述べた。

黒田はそれを聞いて頷くと、本多からパクった城の設計図を行也に拡げさせ。進軍ルートを告げた。

「よし! ワシ、行也、龍造寺殿、長宗我部殿、神崎、海、光紀は隠し階段から正面突入。

それ以外の皆は外壁から天守閣ベランダに侵入。外への退路を確保し、敵からの援軍を絶ってくれ。そこから大広間への突入の有無とタイミングは吉川殿の判断にお任せする。

とにかく外から奴等を撹乱し、絶対に深く斬り込まないこと!

あまり此方の状況が酷い場合や援軍が多い場合には、退却してくれ。

博士達が万が一捕まってしまった場合のことを考えると、全滅だけは避けたい。

頼んだぞ! 因みに車輪は爪先の藤の花を引っ張ると収納される。」

「退却以外は解ったゼ!」

 皆のブーツ底には藤色の車輪が出現し。独楽の様に高速で回転。

行也達は勢いよく床を蹴り。二手に別れて天守閣の行人を追う。

「この階段の先に行人が……本当に俺達は迷惑をかけっぱなしで……」

「本当じゃ。 皆の命を危険に曝したことを一生後悔させろ! 反省させろ! 

今のアイツは人類一のうつけ者じゃ!」

「……黒田殿。確かにそうだが言いすぎだ。」

「しっ!」 黒田は指に口を当て。天守閣大広間のドアを差した。

「ここから先は静かに。」

「長さんより黒田さんが先に大声出したじゃん。」

 海は思わず抗議したが。皆と静かに階段を登りきった。そして。先頭の行也はそっと扉を開ける。

「行人!」

「関ヶ原・敵中突破。」

 行也達の目の前で。台風が木を薙ぎ倒すように足軽達をぶっ飛ばして突き進む行人。

思わず追いかけようとした行也の腕を黒田が掴んだ時。彼らの前を斑模様の丸太のようなものが横切り。

床板をぶち抜いて消えていった。

「なんでしょうか?」

「わからん……海、見ていたか?」

「だいじゃ? するどくて長い角が身体中に生えた、へび? みたいなのが通ったよ!」

 行也達がその穴に意識が集中したその瞬間。

彼らの頭上へ直径数m程の金蛇の輪が飛んできた。

それは輪投げのように行也達全員を範囲に入れてスポンと落ち。

彼らが抜け出る間も無く一瞬で縮む。

そして彼らを円形に纏めて締め上げた。

テープで数本がぐるぐる巻きになって売られるアスパラのように。金蛇の輪の中で肩と肩がぶつかりひしめく七人。

幸い外向きで束ねられたため、斎藤の様子は見える。

だが体の上半身は粘着力がある幅広の金蛇の輪に強く拘束され。

自由が聞くのは頭、手首、足だけ。

刀を引き抜いていた黒田も行也も海も手首を返して金蛇の輪を切ろうとするが。輪は堅い。

七人は金のフラフープの中で必死にもがき。

そんな彼らへ無慈悲な声が飛んだ。

「戦国一〇八計・美濃の油売り。」

 柄の甲冑の男は。手桶の中に透明なレモンソーダ色の小さな蛇を突っ込む。すると。手桶は握りこぶしりこぶし六つ分サイズになったその蛇が増殖して満杯になり。飛び上がって行也達へと体当たりして来た。

「俺から見て右! 斜め後ろ!」

 神崎の声で右へ左へ横っ飛びするひとかたまりの行也達。

蛇の噴水となった手桶から涌き出て飛び上がる蛇を避け続ける。

床に落ちて破裂した蛇は。熱した石を水に放りこんだような音を点てて床を溶かした。

段々と床は水で溶いた粘土のように変化していく。

「いだっ!」

「黒田先生!」

 肩から滑り降りた蛇に肩甲を融かされ。黒田は熱した鉄板を押し付けられたような痛みを感じた。

だが、彼は一瞬顔を歪めつつも冷静に口を開いた。

「大丈夫、それより大蛇が落ちた場所は踏んだらだめ……しまった!」

 行也達は溶けた床のぬかるみに嵌まり。どんどん体が床にめり込んでいく。

「足が抜けない!」

「床下の大蛇に食われるがいい。」

「………みんなちょっとだけ屈め!」

 黒田は金蛇の輪を見て何かに気が付いた。

行也達も咄嗟に屈み。

黒田は半分原型をとどめていた蛇を手首を返して刀ですくい上げ。もう片手で掴む。そして自分達を拘束している輪に押し当てた。

アイスのように輪は溶け落ち。黒田の手は自由になる。

 さらに。彼は赤くただれた手で催涙手榴弾を斎藤へ投げつけた。

「黒田先生…手が!」

「ワシは天才だから大丈夫じゃ!」

 黒田は自分の手を心配そうに見ている行也の輪を溶かす。

行也も同じように隣の海の拘束を溶いた直後。

海の足は床からすっぱぬけた。

「海殿!」

「海くん!」

 黒田と同じように拘束を溶いていた長宗我部は。行也と一緒に海の腕を掴み。ぬかるみの外へとぶん投げた。

「長さん行也兄ちゃんありがと! ごめんちょっと待ってて!」

 痛んでいない床に着地した海は。フック付きロープを光紀の腰ポーチに引っかけて引っ張った。

「わわ私は大丈夫大丈夫大丈夫だから斎藤に気をつけてくれ!」

「どうみても大丈夫じゃないよ!」

 彼は神崎のアシストで光紀を何とか救いだし。

今度は黒田の腰ポーチにフックを引っ掛けた。

「待て! こういう時は戦力になる神崎あたりからじゃろ!」

「伏せろ!」

 長宗我部の声に反応した海は。横の光紀の体を床に押し付けながら自分も伏せ。

頭上を通った気配に息を飲んだ。

 いち早く起き上がった光紀は白い顔をさらに白くしつつも。目を擦る斎藤に気が付き。素早く金柑弾を放った。

「……!」

 金柑弾は斎藤の足元の手桶に命中し。中にいた満杯の蛇は弾けて爆発。

金色の液体が斎藤に降り注いだ。

彼が翻したマントには穴が開く。

行也はその穴目掛けてフック付きロープを腕が折れそうな程思いっきり投げた。

「引っ掛かった!」

 凄い勢いで引っ張る行也。足をなんとか持ち上げてのそのそと集まり。それに加勢する神崎達。

だが脚力のある斎藤は一度引き倒された後に素早く立ち上がり。マントを引きちぎった。さらに。背後からの海の一太刀を受け止める。

「急いでるんだからどいて!」

 巨大な鉄球をぶち当てるような海の太刀筋。それは斎藤の刀に皹を走らせた。

「中々だな……。」

 無言で刀を押し当てる海だが。甲冑が擦れる音を聞いて一瞬意識が逸れた。

「長さん!」

 行人に吹っ飛ばされた足軽達数人は立ち上がり。ぬかるみから抜け出そうとしていた行也達へ向けて弓を構えた。

「四国の蓋。」

 渾身の力で斎藤を吹っ飛ばした海は。銀の円盤をいつもよりそーっと放った。

それは行也達の頭上へそっと落ち。足軽達の放った矢をカンカン跳ね返す。

その円盤を片手で支えながら。

長宗我部は海へ銃を向けた斎藤に刀を投げた。

それはあっさりと避けられてしまったが。その一瞬で充分であった。

震える手で銃弾を補填した光紀は座ったまま斎藤の足を撃ち。

海はよろめく斎藤の頭上へ。刀を思いっきり振り下ろした。

白眼を向いて斎藤は大の字に倒れる。

「海! 光紀! 足軽達から離れろ! ライトは点けるな!

……あかごうし!」

 黒田は携帯端末にそう叫んだ瞬間。辺りは真っ暗になった。矢の雨も止む。

黒田は行也の被っている『黒田官兵衛の兜』の緒をほどき。足軽の兜を被せた。

「今じゃ。早く行かないと電源が復旧するかもしれん!」

「でも……」

 神崎達は全員で行也を担ぐように持ち上げ。黒田は行也のリュックの中の高橋の兜の隣に赤い兜を捩じ込み。迷う行也に小声で渇を入れた。

「迷うなアホ! 今しかないって言ってるじゃろ!」

「皆さんを置いて行けません!」

「……さっさと行け……! 戻ってきたら焼きカツ半年分だ!」

 龍造寺はイライラした声でそう言い捨て。行也をそっと投げた。

投げ方がよかったのか、ふわりと着地した行也は。振り返って頭を下げると、カレーの匂いを頼りに行人を探す。

彼は息を殺して這いつくばって、ざわめく足軽達の間をすり抜ける。

……いた! 行也は微かなカレーの匂いを嗅いで、胸を撫で下ろした。

匂いもだが変身を解いていた行人は髪が明るい色なので少しだけわかりやすかったのである。

行也は行人を抱え。そっと黒田達の元へ向かう。

「あに……き?」

「話はあとでな。」

 小声で目を覚ました行人にそう言うと。

行也は行人に足軽の兜を被せようとしたのだが。行人は首を振り島津の兜を被った。

二人はゆっくりと音を立てずに芋虫のように床を這い進み。

足軽達の群れからやっと出た。

そしてうっすらと黒田の赤いメタリックな兜も点状に見えてくる。

だがほっとしたのも束の間。熱いものが行人の兜に被せた黒いハンカチを掠めた。

 はっとした行也は行人に覆い被さり。首だけ気配がした方向を向いた。

「お前はカレー臭い! ……皆の物! こっちだ!」

 炎の化身のような信長がそう叫んだ瞬間に予備電源が点灯し。

行也達を煌々と照らす。家康は倒れたままの足軽達を見て、眉間に皴を寄せ。溜め息を吐くと。

刀を突き上げて叫んだ。

「戦国一〇八計レジェンド・徳川十五代ファイナルアタック!」

 家康が自分の兜から飛び出したモモンガ十五匹に、海水を掛けた時。

甲冑を纏う、家康に微妙にそっくりな十五人の若武者が彼の回りに現れた。

家康は『三代目』と書かれた襷の少年に声を掛ける。

「家光あれを!」

「はい! お祖父様!

……江戸一〇八計・鎖国!」

 少年は手の中の鎖に刀を指してから海水を掛ける。

すると。鎖はマシンガンのような凄まじいスピードで増殖して面となり。行也達と黒田達を遮る銀の壁となった。

そしてそれはあっという銀に輝く鎖の部屋を作り出す。

「島津十文字斬!」

 迫りくる足軽達を竜巻のようにぶっ飛ばした行人だが。

信長、家康、襷を掛けた十五人、さらに数人の足軽は刀を構えてゆっくりと行也達を追い詰める。

兄弟は思わず、銀の鎖の天井を見上げた。


ーー行也達が本多達、鍋島達が慶次達と戦っていた頃。

立花は謙信に保護と言う名の誘拐をされ。

天守閣の屋根裏部屋……友樹が居た部屋に連れこまれていた。

柱に縛られた彼はじたばたしながら部屋を見回す。森達ははいない。

足軽が医務室に連れていったのだろう。そう思った彼はちょっとだけほっとした。

謙信は立花の縄をほどき。正座させると、立花に優しく矢継ぎ早に尋ねた。

「ごめんね、痛い所はない? あの目付きの悪い髭とかに殴られたりはしていない?

ご飯は三食キッチリ食べているの?

学校には通っている?

手伝いばかりさせられているとか、勉強に集中出来ない環境だったりしない?

……あっ! 着物が破けている! 誰にやられたの? 髭? とにかく縫ってあげる!」

 リュックからソーイングセットを取り出した謙信へ。立花は眉を困ったように寄せて答えた。

「お気遣いありがたいですがけっこうであります。

これはあなたにゆうかいされて宙づりになっているときにできたものであります。

体は痛い所はありません。母里殿は忠義心にあつく、強くて立派な武士であります。

ひげという言い方は失礼です。名前を呼んで下さい。

ご飯は三食たべています。いつも茂殿や茂殿の母上様が美味しいごはんを作ってくださります。

学校にも通っていますし、殿や友樹殿はランドセルや文房具や服や野菜や肉を贈ってくれました。ジャングルジムも贈ってくださりました。

おなかがすいたり、着る服がないとか、生活に困ったことはみなさまのおかげでないであります。

父上と義父上も生活費を振り込もうとしてくれたり、メールで勉強を教えてくれたり……稽古をつけてくれました。

生活費は茂殿達が一円も受け取ってくれないと父上達は困っていたでありますが……。

気持ちがうれしかったであります。

離れていても…大切にしてくれました。

お手伝いは畑を耕したり、近所のおばあちゃんの買い物などをすることはありますが、それはたまにです。

お手伝いよりも同じ年の友だちを作るのが武士のつとめだといわれるからであります。

正直にもうしあげますとそれが困るであります。武士のつとめというなら、立花はひょうりゅうしていた所を助けていただいたり、風邪をひいたときに看病してくださった茂殿達に恩返しをすることなのに……なぜ立花が学校に行くことや友だちをつくることがよろこばれるのか、恩返しだと言われるのか、わからないであります。」

 謙信はほっとしたような、困ったような、複雑な顔で立花を見て、溜め息を吐いた。

「……私が貴方を掴みあげた時に、必死に追いかけて、貴方の足を引っ張った人が茂殿?

それから、貴方は一人っ子?」

「はい。」

「……貴方が大事だから、友達を一杯作って欲しいんだと思う。

…はっきり言うと、茂殿も茂殿の母上様も、年齢的に貴方より早く死んでしまうから、そうなった時に貴方がひとりぼっちにならないようにって思ってるんだろうね。

一人っ子ならなおさら。

母が死んでしまった時には戦狂いな兄も友達も励ましてくれたから、私は立ち直れた。

そういう辛いときに、友達のありがたみがわかるよ。」

「あ……。」

 立花は田中達の思いも、なぜ自分の父が奄美大島にいることを望んだのかも、わかった気がした。

「……ありがとうございます。立花はずっと、父上達からは大切にされているとはわかっていても、一緒に暮らしてくれなくてさびしいと思っていたであります。

でも、茂殿達と同じで、立花が大人になった時のことを考えてくれてたのですね。

謙信殿のお陰でわかりました。

ありがとうございます。では失礼します。」

 立花は正座したまま三つ指をついて頭を下げ。

立ち上がってまた一礼。そしてすぐに走りだそうとした……が。

「待ちなさい。貴方はこれで敵だとはっきりしたから、私は貴方を倒します。」

「えっ! 立花は女性には手をあげられません!」

 狼狽える立花を氷柱のような冷たく美しい目で刺し。謙信は刀を構えた。

「私だって小学生を傷付けたくない。でも。国の責任者の一人として、敵武将を無傷では帰せない。

貴方が只の小学生ではなく、武士であるように、

私も只の知的で清楚な美女ではなく、武士です。私に失礼なことをしたくないのなら、全力で掛かって来なさい!

いざ尋常に勝負!」

 謙信はそう宣言すると背を向けていた立花の脇へビュゥッと刀を振り下ろす。

立花は刃は当たっていないのに傷付いた肩甲と床を見て、振り返った。

太刀筋も怪我をしていたとはいえ、最後に手合わせした父よりも速い。

そもそも自分と茂を片手で持ち上げた腕力は伊達ではない。やはりひとかどの武士だ。

逆に普通の女性扱いするのは失礼なのではないか。

そう思った彼はぎゅっと刀を握りしめた。

「かしこまりました。」

 木枯らしが吹き荒れるが如く張りつめた空気の中。二人の刀は速く鋭く。お互いの信念を通すために激突した。

リーチとパワーは謙信が上。だが。反射速度は自分の方がごくごくわずかに上。

額に汗を滲ませ。本能的にそう判断した立花は。だんだんと謙信に圧され、ふらつきそうな心と足に力を入れて踏みしめた。

何合もぶつかる程に。刀は火花を散らし。二人の汗は床に落ちる。

その汗で。二人は同時にスッ転ぶ。

……先に立ち上がり、刀を振り下ろしたのは立花だった。

「おりゃああー!」

 刀の幅広な部分で立花は思いっきり上杉の兜ををぶっ叩く。

「みご……と」

 立花は、目を閉じてゆらりと倒れた上杉の頭を支え。横たえた。

「刀を持ったまま気絶するとは天晴れであります。では失礼しま……茂殿!」

 立花は茂からの電話に笑顔で出た。



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