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戦国DNA  作者: 花屋青
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スーツの三人(前編)

 行也が市役所に着くよりちょっと前。行人は六限目が始まる直前に学校に到着した。


――そして放課後。

「奄美大島行ったんだろ! 何かお土産くれよ!」

「ねぇよ! それどころか持ってったおやつすらあげちまったくらいなんだぜ! 友達なら土産どうこうより洋平みたいに大丈夫かっていたわるもんだろ!」

「土曜日も昨日も心配して電話かけたけど、大丈夫だってお前言ってたじゃん。今日だって元気そうだから聞く必要はないと思ったんだけど。」

「それもそうか!」

 行人と悠太の話に決着が着いてすぐ。洋平は口を開いた。

「ところで、悠太が市役所に行きたいって言うんだけど……城井さんの方は会いたくないだろうな。」

 悠太はアヒル口で机の上に立った。

「それはそうだけどよ〜せっかく城井さんにマフラー作ったんだぜ。こないだのおわびに。」

 悠太が首に巻いて見せたのは、銀色に輝くマフラーだった。

「城井さん、七月なのにあんな格好してるんだぞ。確実に明らかにちょー寒がりだろ。

 このマフラーは金属繊維が編み込まれていて、摩擦するとちょっと温かくなるんだ。いいだろ。

 うちのかーちゃんが試しに仕入れて来た糸なんだ。」

 悠太の家は洋品店である。手先が器用な行也は、店内の見本品作成のバイトをさせてもらったことがあった。

「スゲー!」

 行人は光を受けた川面のように輝くマフラーに心を吸いよせられた。思いっきり手元に引っ張ってしげしげと見つめる。悠太は喉を潰されたカエルのような声をあげた。

 洋平は慌てて行人の手をマフラーから剥がす。

「悠太が死んじゃう!」

「あっわりぃ。

 ……それにしてもこのマフラー、何か未来っぽくていいな! 俺にもくれ!」

 悠太は咳き込みつつも、マフラーに負けないくらい、キラキラと微笑んだ。

「色々改良したいから、秋になったら編んでやるよ! 洋平にも……時高にも。」


 行人達は、ぞろぞろと市役所へ向かった。

「黒田さんとも仲直りしたんだろ? 市役所の帰りにお前んち行って勉強習いたいんだけど。数学がわかんないとこあって。」

「いいぜ。でも今日は兄貴は夜から仕事だから夕飯は期待すんなよ。」

 行人は洋平へ視点を動かした。

「洋平も来いよ!」

「ありがとう。でも何で仲直り出来たの? それはそれで良かったとは思うけどさ。」

 洋平の言葉に行人はちょっと上を向いて小さく唸る。

「うーん……。色々考えたんだけど、元々黒田先生はそういうまっ黒いキャラだから仕方ないっつーか、許せないところも間違ってるところもあるけど、嫌いになれねぇんだ……。

 エラソーだけど師匠と同じで面倒見いいとこもあって、俺達に一生懸命になってくれるし。 

 まぁ結局、先生も師匠も悪なんだけどな……。」

 黙って話を聞く二人。

 行人は絡まった糸が解れたような、すっきりとした笑顔で続ける。

「だから、先生と師匠がまたなんかやったら俺がシメてやるんだ! これ以上悪いヤツになったら困るからな!」

 洋平と悠太は口を揃えた。

「ほどほどにな……。」


――三人は市役所にたどり着いた時に、行也はちょうど訓練を終えた。

「師範、ありがとうございました。今日は夜から仕事なので、これで失礼します。」

「……もう帰るのか。だが仕事なら仕方ないな。明後日は絶対早く来い。」

 どこか焦ったような表情で、いつもと雰囲気が違う城井。行也と島津は目を合わせる。

「あの、師範……」

「城井さんこないだはすみませんでしたっ! これ、あったかいから首に巻いて下さい! 寒がりな人におすすめっす!」

 行也の言葉を遮り、悠太はマフラーを城井に渡したが。

「なんだこのけったいな布は! 私は寒さなどに負けん!」

 城井は勢いよくマフラーを突っ返すと。矢の姿になり、壁に貼り付いた。

 四人と一匹は壁に頭を下げると、スーパーに寄ってから山田家へ向かった。


「兄貴、後は俺がやるから会社行けよ。」

 行也は冷蔵庫にくっついた時計を見る。

「十七時五十分か。今日はうちを十八時半に出れば間に合うから、唐揚げだけ作ってから行くよ。」

 行也はてきぱきと唐揚げを揚げる。香ばしい匂いが台所から居間へと広がって行く。

 それに気がつかないくらい集中して問題を解く洋平に対し、鼻をひくひくさせる悠太。黒田は、そんな彼のノートを軽く叩いた。

「集中しなさい!」

「すみませんでしたっ! ……あ、お客様だ! 俺が出るっすよ!」

 悠太は走ってインターホンの受話器を取った。

『どちらさまですか?』

 インターホンからは、艶やかで気品ある美声が聞こえる。

『私は細川幽斎と申します。』

『ほそかわゆうさいさん?』

 悠太は近付いてきた行人に受話器を渡す。

『幽斎さん? どうしたんだよ? 腹へったのか?』

 代わった行人に、幽斎はいつもより何か含んだ口調で告げた。

『……今日は、とても元気なお友達と一緒に来ましたよ。』

『あー、奄美大島で聞いた。弟子の双子か。』

『はい。双子であだ名はムー、さっしーです。』

 幽斎は、双子の名前に少し力を込めて言った。しかし行人は全く何も感じず、玄関へ走った。

『わかった。今開ける。』

 玄関へ走る行人を島津は血相変えて追いかけた。

「待つでご……。」

「ぎゃぁアアーっ!」

 行人は絶叫をあげながら一瞬でドアを閉めた。 


「みんな逃げろ! 悪魔が来た!」

 ドアを慌てて締める行人。駆け寄った島津、行也と共に彼らはドアを抑え、黒田は鍵を閉める。

 外からガシガシと足蹴にされ、震えるドア。最初は少し軋むような音だったのが、すぐに悲鳴のような音へと代わりゆく。

「洋平、悠太! お前達は窓から外に出て、警察に電話じゃ!」

「もうもたない! ドアから離れろ!」

 二匹の言葉の一瞬後。鉄の扉は勢いよく玄関の中へ倒れこんだ。

「よう! バカ兄弟!」  透明になった四角い空間から姿を見せたのは。細川にナイフを突き付けた鬼武蔵。なぜか普通のスーツ姿の彼は無邪気に微笑んだ。 一方、悠太は背の高い洋平の影に隠れ、ポケットから携帯を取りだした。しかし110の0を押そうかと言う時。

「通報したら殺す!」

「すみません。警察は呼ばないで下さい。穏便に話し合いませんか。」

 鬼武蔵の神経を直接ぶっ刺すような声と、その彼の背後の穏やかで気品ある声が悠太の指を止めた。

 幽斎、そしてそれにナイフを突き付ける鬼武蔵の他に、長身の彼らに隠れて見えなかった訪問者がいたのだ。

 それは三編みの青年、それにナイフを突き付ける中年男性、その少し後ろで遠慮がちに肩をすくめた長身の若い男であった。

 三編みの青年以外はなぜかスーツ。

 彼らは行也達に手を挙げさせると、居間へとずんずん進んで行く。

 そして、手の空いていた長身の青年は行也達を後ろ手に縛って正座させた。

「み、みっちゃんもどうしたんだよ!」

「すまない。幽斎さんにトランクを運んでもらった後、図書館や本屋に連れ回されて……。

 やっと駅前で解放された瞬間に今度は三人組に取り囲まれた。

 パッと見、普通じゃなかったが、一応スーツを着ていたからサラリーマンか思ってたらこんなことに……。」 

 遠慮がちな若い男は、華やかで立派な風貌に似合わない、小さな声で言った。

「サラリーマン見たいなものですよ……。」

 中年男性は頷く。彼は整った顔立ちで、ナイフを人に突き付けるのが似合わない、人徳のありそうな風貌であった。彼は優しい語り口で行也らに問う。

「皆様にお聞きしたいことがございます。前田利家殿の兜がどこにあるかご存知ですか。」

 全員首を横に振る。

 悪魔で鬼武蔵の森長可は、白目に赤い線を走らせ、高笑いした。

「じゃあ、24時間以内に探せ! 見つけらんなかったらこの団地ごとぶっ壊してて殺る! アハハハハハ!」

 鬼武蔵達は、黒田官兵衛と島津義弘の兜、携帯電話も行也達に出させる。フローリングの床に置かれたそれを一瞥し、地獄の釜の底からグツグツ煮え立つような笑みを漏らす鬼武蔵。そんな彼に島津は声を荒げた。

「24時間なんて無理でござるよ!」

「だったらこの二人の命はねぇぞォ! さっさと探しやがれ!」

 縛られたまま暴れる島津。一方、黒田は彼の横の中年男性を見上げた。

「お主、名前は?」

「森 可成と申します。長可の父です。」

「似てねー!」 

 声を揃える行人と悠太を、鬼武蔵は目で死神の鎌を振るうが如く睨み付けた。彼らは白くなって黙る。

 黒田は、森を見上げて続けた。

「確かに似てな……顔はちょっと似ているかの。森可成殿。無くした場所や手掛かりは?」

「前田殿。」

 前田、と言われた美形かつ長身で絵になる男は。その体躯を小さくし、もじもじしながら前に出た。

「友達に貸したら、友達の友達の友達の友達に又貸しの又貸しされて、その人がARE旅行に行った時に持ってって盗難にあっちゃいました。

 ……後日に骨董市で見つけたそうなんですけど、

 お金を下ろして戻って来た時には売り切れだったそうです。日本人が購入したと言うのですが……。」

 呆れて言葉を失い、蔑むような眼差しの行人らに、鬼武蔵は金属の板を釘で引っ掻いたような声で言った。

「俺も前田殿は稀代の馬鹿だと思ってんだよォ!

 でも槍の腕は一流だからな!

 お前らは馬鹿にしたら許さねぇァー!」

 ちょうどその時。兄弟の家の二件先の中年女性が子供の手を引いて通りがかった。

「や、山田さんどうしたの? またヤクザ?」

 驚く婦人に、慌てて出てきた前田は爽やかに微笑んだ。

「はい、ヤクザ映画の撮影中です。」

「まぁ! 本職みたいね。」

 ハンサムな前田の笑顔にうっとりする婦人。

 一方、小さな少女は婦人の手をぎゅっと握って小さく言った。

「でもドアがこわれてる。 それにこの人こわい……。」

 前田はしゃがむと優しく目を細めて言った。

「……撮影に使うカメラとか、大きな道具を入れる時には邪魔だから一旦取り外したんだよ。」

「そうなの。」

 前田は婦人と少女に目線を合わせて軽く頭を下げた。

「お騒がせして申し訳ありません。」

 ……結局婦人と少年は納得して帰り、両隣は留守だったので、通行人が通報してくれないかなと思った洋平の密かな願いは潰えた。

 黒田達が前田に遺失物の事情聴取をする中。彼らの知らない所……二階の山田家のベランダの前で蠢く影があった。

 その影は黒い甲冑に水牛の角の兜の双子の少年とモモンガ二匹。

 もう一人の少年に肩車された少年は、ベランダのさん越しに望遠鏡を構え、素早くそれを動かして行也達を見た。

 そして彼は栗山の指示で直ぐに肩車からそっと降りる。二階のベランダから覗き込んだ時の死角へ移動すると、彼らはひそひそ話し合った。

「みんなしばられてるよ。ゆうさい先生ともう一人は首にナイフかなんかを当てられてた。

 窓は閉まってた。

 みんなはベランダを背にしてて、悪い人達がこっち……ベランダを向いてるからメッセージを伝えるのはむずかしそう。」

 母里は舌打ちした。

「どうでもいい絵日記メールを送り付けてくる程の島津殿すら返信がこないと思ったらこういうことかよ……。」 

土台になっている少年は自分の肩を揉みながら口を開いた。

「玄関から回って見ようよ。」

「えっ! 閉まってるんじゃないの?」

 栗山は口に指を当ててから続けた。

「ちょっと静かに。……そうだね。念のため玄関からも見てみようか。

 所で、その悪い人達はどんな感じの人かな?」

「あくま見たいな人と、優しそうな人と、イケメンだけど気弱そうな人。」

「悪魔みたいな人?」

「うん。なんかね、短いきんぱつにつり上がった目。」

 栗山と母里は目を合わせた。

「行也殿の戦闘日記の似顔絵にあった……。」

「悪魔か。」


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