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戦国DNA  作者: 花屋青
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ポチの正体

戦闘終了後、変身を解いてぞろぞろと歩く行人達。紫紺の空の下、涼しい風が火照った彼らをさらさらと掠める。やっと車を止めた場所へ到着した彼らは。光紀提供のスポーツドリンクを貪り飲んだ。保護した支倉が眠ったのを確認した神崎達は、光紀に自己紹介をする。ラーシャと友樹以外は趣味が自己主張なので張り切りった。じゃんけんに勝った、ラーシャ、細川が次々と自己PRをし、神崎の番。

「俺は神崎高志。三十二才。戦士のキャプテンだ。海外での傭兵経験がある。戦場でしか生きられない、危険な男だと自分では思っていたが……。最近はどちらかというとまともな人間だということが判明した。特技は英語。スペイン語もそこそこ出来る。あとは宴会芸だ。よろしくな!」

次の友樹はにこやかに自己紹介。

「僕は大沢友樹。ちょっとヘタレな二十三才だよ。趣味は旅行、読書かな。特技は英語とフランス語。よろしくね! 大友義鎮の生まれ変わりのピンクのモモンガ、ヨッシーと住んでいるんだ。」

友樹はついでにヨッシーの紹介もする。

「ヨッシーは教養があって経済にも詳しいから、一緒にいると勉強になるよ! とてもワガママで、キリスト教を布教したがる癖は困るけどね……。」

最後に龍造寺。

「…某は龍造寺隆信。趣味は古典を読むこと。暴飲暴食だ。特技は文章の暗唱、力作業。詐欺だ……。』

頷きながら熱心にメモを取る光紀だが、思わず手を止める。それを見た神崎は釈明した。

「これからは俺が監視するから大丈夫だ。」

黒田は、ここにいないメンバーの自己紹介をサクッと始める。

「あと、ヤクザの組長の霧沢……こやつは鍋島殿の兜の所有者じゃ。クセ者で困ったやつじゃが、ズル賢いし、強い。……笑いのドツボに填まらなければな。

取り扱い説明モモンガの鍋島殿は、真面目で律儀な方なんで色々嘆いていたわ。」

光紀は眉間にシワを寄せた

「ヤクザ?」

黒田は慌てて手を振る。

「……あ、警察官の仲間もいるから大丈夫じゃよ!」

黒田は続いて四国と中国地方の戦士の紹介をする。

「警察官は、吉川元春殿の兜の所有者の吉崎春彦じゃ。かなーり思い込みが激しくてめんどくさい奴じゃが、とても強いと吉川殿が言っていた。そしてその弟の吉崎輝。毛利輝元殿の兜の所有者じゃが、まだ頼りない。まぁ愛嬌があるからムードメーカーじゃな。観察眼はなかなかのものがあると小早川殿は仰有っていた。それから、小早川隆景殿の兜の所有者で、彼らの従兄弟の加賀涼太。監察医じゃ。腹黒いが、いつも冷静だから頼りになるとの小早川殿の評じゃ。最後に長宗我部元親殿の兜の所有者の魚住海。なかなか強いし、将来が楽しみだと吉川殿は言っていた。ただ個人的には、マイペースで連絡を怠る所を治してほしいがのぅ。吉崎に連絡をしないとどういうことになるか、わかっていたはずなのに。まぁ反省していたがな。光紀はメモを見てぶつぶつ言っていたが、行人に促されて自己紹介する。

「始めまして。私は菊池光紀と申します。行也と同じ学年で二十二才です。大宰府大学の4回生で、専門は遺伝子学です。趣味は読書。不思議採集。特技は機械類の操作です。運動は苦手ですが、反射神経はそんなに悪くないと思います。どうぞ宜しくお願いします。」

次にポチの番。彼はそわそわしだす。

(……明智と名乗ると、ドン引きされるから、飼われていたモモンガの子孫だと言ってきたが……。ばれるのは時間の問題か…。)

光紀は黙って固まっているポチを見つめて首を傾げた。

「ポチさん、どうかなさいましたか。」

しかしポチは、光紀の言葉も聞こえずに、まだ黙り込んでいる。

(ごめんね……ポチは明智光秀って言うの。嘘ついてごめん! 明智はね、本能寺の変なんて起こしたくなかったの。追い詰められてたから、突発的犯行なの! だって、信長様はずっと真面目に仕えてきた重臣ですらリストラしちゃうんだよ。こわかったんだもん!……と、可愛く泣き出して見るか……。強ち嘘というわけではないし……。)

「……明智、早くしろ…。」

龍造寺の発言に目を見開くポチ……明智。

「……なぜわ!」

黒田はおでこをつついた。「桔梗紋はよくあるが、水色は珍しいからのぅ……。」

そっと自分のおでこに触れる明智。鉢巻きの感触が無い。彼は空を仰ぎ、そして頭を抱えた。そして、警戒する皆の目付きに、ため息をついて言う。

「……初めまして。裏切り者の明智です……。」

その言葉を聞いた瞬間。細川の目が赤く光った。


「貴様が信長様を……。」

目にも止まらぬ速さで、細川は明智に飛び掛かった。それを見事に避ける明智。皆は割って入る。細川は神崎に取り押さえられながらも地鳴りのような怒号を発し、じたばた手足を激しく動かす。いつもの怒り方ではない。もっと激しい、全てを焼き付くす桜島のマグマのように彼は叫ぶ。

「信長様の仇ィイぁあ! それに貴様のせいで…ガラシャを幽閉しなきゃいけなくなって…その後あいつとギクシャクするようになっちまったんだよぉォッ!」

宥める島津達。しかし光紀は、細川の心マグマに爆弾を落とした。

「明智さんは最悪ですが、本能寺の変と貴殿方夫婦の問題とは別です。それはそれ。これはこれ。そもそも貴方はガラシャさんの幽閉中に側室を作らなければよかったのです。」

「おめぇエエになにがわかんだヨォァァー!」

血走った目をし、全身から湯気や怒声を発する細川。首を傾げた光紀だったが、細川の目にうっすら涙が浮かんでいるのを見て、一瞬目を見開き、頭を下げた。

「……わかりません。失礼しました。」

暫く下を向いていた光紀だが。少しして彼は黒田達を見回した。

「ところで反省会はしないのですか?」

一匹凄い勢いで暴れており、「ところで」という状況ではない。しかも、もう夜の二十二時半である。

「めんどくせー!」

「子供は帰る時間デス。」

結局、反省会はまた今度、ということになった。

「……仕方ない。」

光紀は渋々頷くと、やや早口で疑問点を述べる。

「でもお聞きしたいことが幾つかあります伊達達は何者なのですかそして何故戦うのを海上保安庁や警察に任せないのですかそれに行人とラーシャ君と輝君と海君は労働基準法違反ですよあとこの装備は人体に影響がないのですかそもそもどういう原理で変身出来るのですかそして黒田さん達はどのように生まれ変わったのですか真実を聞くまで私は帰りません。」

疑問はごもっともだが、皆はさっさと帰りたい。しかし光紀は正座してテコでも動かない気配。一方黒田は光紀も聞く権利はあると思った。兄弟に話したこと+幽斎から聞いたこと+小早川達の話を話す。光紀は話を聞き進めるうちにふらつきだした。

「よくわからない不思議な力とは何ですかよくわからないのに何故大丈夫だと言えるのですか幽斎さんに今すぐ連絡を取って説明させるべきです!」

正論である。

「どこにいるのか、わかんないんじゃよ。どこかで家庭教師をしているらしいんじゃが……。」

黒田から帰ってきた答えに光紀は唸った。

「電話は掛かって来たことがあるんですよね? ならばそれをリダイヤルして逆探知します。携帯を貸して下さい。」

「ち、ちょっと! それは犯罪じゃないかな!」

慌てる友樹。神崎もため息をつく。

「その携帯は行也が持っている。そもそも明日、行人もラーシャも学校だ。友樹も会社だ。とりあえず今日は…」

「神崎さんは?」

何気ない光紀の問いに、神崎は顔を赤らめた。

「無職だよ!」

「……失礼しました。」

一方島津と細川は、光紀に賛同した。彼らは幽斎に事情聴取すべきと主張する。

「細川の名を汚すとは許せん! 見つけて情報を吐かせ次第成敗してくれるッ!」

息巻く細川。そんな彼を明智はじっと見つめた。細川は目が据わっている。

「こっち見るんじゃねぇエッ!!! 裏切り者ォー!!!!」

島津はまた細川を宥める。細川は島津の言うことはわりと素直に聞く。なので黒田は心の中で島津を細川係に任命していた。彼は細川が少し静かになった所で口を開く。

「栗山と母里に捜索させてるから、すぐに見付かるとおもうんじゃがのぅ。」

行人は目を丸くした。

「へ?誰だよそれ?」

「今日、散歩中に出会った。ワシのとても優秀な部下じゃ。情報を掴み次第、皆に報告する。とにかく今日は遅いから解散!」

――行人は光紀の車で家に着いた。彼はホテルに泊まるという。

「遠慮しねえでうちにとまりゃいいのに。」

「気持ちはありがたいが、遠慮してないように見せかけて気を遣うというのが私は苦手だ。失礼します。」黒田は呆れながら言った。

「本当に面倒くさい奴じゃ! 人の心の地雷を踏みまくるし! 行也と行人以外に友達いないじゃろ!」

「仰る通りです……。」

光紀は黙りこんで下を向く。黒田も口を押さえて固まった。

「先生は人のこと言えねぇのにひでえよ! みっちゃんは友達がいないのを気にしてるんだぜ!」

フォローにならないフォローをする行人。明智も優しく肩を叩く。島津も慌てて慰めた。

「気にするな! 黒田殿は悪気はないが無神経なのでござるよ! だから小寺氏にも秀吉公にも徳川殿にも好かれず、実力の割に出世出来なかったのだ。とにかくこれからは仲間として宜しくお頼み申す! ……明智殿も。」

仲間、という言葉に光紀の表情がやわらぐ。

「こちらこそ、宜しくお願いします。」

深々とお辞儀をし、彼は車に乗った。ヘッドライトが紺色の夜を照らす中、光紀は車を飛ばし、予約していたペット可ホテルに到着した。部屋は光紀の希望で非常口の近く。入室して灯りをつけ、荷物を置くと、彼は明智に話し掛けた。

「貴方は嘘つきで信頼出来ませんが、とりあえず宜しくお願いします。所で、お腹が空きませんか? ルームサービスを取ろうと思うんですが。明智さんは何をお召し上がりになりますか? はい、モモンガ用メニューです。」

顔を近付けてメニューを見る明智に、光紀は問う。

「もしかして目を患っておられるのですか?」

明智は黙って頷く。光紀はそんな彼をじっと見つめて首をひねった。

「そう言えばさっきから何もお話しになりませんね。どうかなさいましたか。」明智は部屋をさまよい、ホテル備え付けのメモに手を伸ばす。明智はなかなか綺麗な字を書いた。

《喉が痛いわけではないが喋れなくなった》

「もしかして細川さんに襲われたショックですか。ナイーブなのですね。」

明智は目を吊り上げた。

《失礼な。忠興のせいではない。明智は決して気が弱いわけではない。》

「しかし本名を明かすことを恐れたではありませんか。」

明智はため息をついた。そしてひと呼吸置き、疑わしげな眼差しの光紀へ文を書き連ねる。

《結論から言おう。その通りだ。明智本人でなく飼いモモンガだと名乗ったのは、どん引きされたり嫌がらせを避けるためだった。悪かった。》

光紀は少し腕を組んで黙り込んだ。彼自身も自分を守るための嘘を一度もつかなかった、というわけではない。それにあの細川の剣幕を見れば、誰でも嘘をつきたくなるだろう。きっと明智は以前、悲惨な目にあったのだろうと光紀は思った。

「私も自分を守るための嘘を吐いたことはありますし、今回は自己防衛の嘘ということでもう良いです。しかし今後、悪質な嘘を沢山ついて、私達を裏切るなら…。」

光紀は夜光茸のように目を光らせる。明智は唾を飲んだ。

「大学の獣医学部に貴方を預けます。よいデータが取れるでしょう。」

明智は絞りだすような声で言った。

「……鬼畜だ!」

――翌朝。晴天。光紀は明智を連れ、動物病院にいた。

「特に異常はないですね。こちらがこれ以上の視力低下を防ぐための冊子です。目を通して下さい。」

「ありがとうございます。あと、詳しい視力検査は出来ませんか? 眼鏡を作りたいのですが。」

ベテランの獣医は腕を組んで唸った。

「うーん…うちにはモモンガ用の視力測定器がありません。他の病院でもあんまり聞いたことがないですね。眼鏡か…。動き回るからコンタクトの方が…しかし、コンタクトは手入れが大変だし、モモンガが自分で外せないし危険か…うーん……。うーん…。うーん……。」

明智は光紀をつつき、出口を指さす。これ以上聞いても仕方ない、ということで、光紀は立ち上がった。

「先生、診察ありがとうございました。では失礼します。」

彼が部屋の出口に差し掛かった頃。

「……私の甥が眼鏡屋で働いていますから、一応尋ねてみて下さい。無駄足になったらすみませんが。」

先生はそういうと、小さな紙に眼鏡屋の場所と、明智についての簡単なメモを書いてくれた。

――しばらくして、眼鏡屋に到着した光紀達。さっそく先生の甥っ子に話しかける。

「モ、モモンガ用の眼鏡ですかぁ?」

裏返った声でメモを受け取った甥っ子は、やはり先生と同じように唸った。

「うーん…激しい運動に耐えられるような素材で…うーん…。完全なオーダーメイドですから、値段はかなりいいお値段になりますがよろしいですか?」

明智は不安げに出口を指差すが、光紀は無視した。

「構いません。お願いします。」

――色々寸法を測り、彼らは店を出た。職人に依頼するので数日かかるという。「毛にマジックテープのように張り付くタイプも面白そうでしたが……。やはり、後ろのバンドでしっかり止める、水中眼鏡系の方が安全ですね。」

「……人間の時は禿げていたから、信長様に金柑頭とからかわれたものだ。マジックテープタイプは毛が抜けるから避けた。毛は資源。一本たりとも無駄にはできん。菊池殿。」

「なんですか?」

「美味しいごはんに暖かい蒲団。こんなに快適にすごせたのは久しぶりだ。病院にも連れて行ってくれた上、眼鏡まで。かたじけない。」

明智は深々と頭を下げた。光紀は、素直に感謝する明智を柔らかい眼差しで見て言った。

「いえいえ。お気になさらず。明智さんも大変でしたね。」

「……辛いこともあったが、いいこともあった。」

光紀は、しんみりと物思いに耽る明智が、現世に帰ってきたころに話し掛けた。「ところで、一つお願いがあります。毛を採取させて欲しいのですが」

「……貴殿は人の話を聞いていないであろう!」

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