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戦国DNA  作者: 花屋青
20/90

神崎組

「おめでとうございます! よかったですね!」

行也はにこやかに携帯を切ると、行人達に言った。

「幽斎さんは仕事が見つかったそうです。」

「よかったな! で、何の仕事だ?」

「家庭教師だそうだ。」

――龍造寺が来てから二週間。以前から迷いの種であった戦士用サプリについては行也は概ね問題ない思った。軽い腹下りはあったものの、そのあとは身体が軽く、すっきりした感じでむしろ好調だからだ。麻薬のように禁断症状もない。

だが一応行也はまたサプリを検査に出していた。今度は幼なじみのみっちゃんに検査機関の紹介を依頼。二ヶ所に送付してくれたという。ラーシャ父も検査に出したというので、合計三箇所分の結果が集まった。

ビニール袋→特大ハードケース→ダンボールで挟む→俗に言うプチプチをぶ厚く巻き→さらにそれをビニール袋に入れ→厚いアクリル板で挟む。という、手紙マトリョーシカの脱け殻をゴミ箱に入れ。兄弟達はみっちゃんが送付した封筒をあける。


……ラーシャの父、ラザニアみっちゃんの依頼した研究所とラーシャ父の依頼した研究所で検査結果は微妙に異なった。まず、みっちゃんの依頼した研究所の結果は。

「長期常用だと有害。特殊薬品なので取り扱いには資格がいる。資格のない一般市民は所持禁止なので直ちにこちらへ提出するように。」

そしてもう一ヶ所は。

「今まで見かけたことのないデトックス剤なので、副作用は不明。成分事体は特に有害なものを含んでいないので、恐らく短期服用は問題ないと思われる。」

一方。ラーシャ父が提出した機関は。

「画期的なデトックス剤。よかったらもう少し送って欲しい。」

という結果。唸る兄弟達。

「あっ、手紙も入ってる。」

みっちゃんからの送付物には、検査結果二通の他に手紙が添えられていた。

「検査結果を送付する。二通あるのは、二ヶ所に依頼したからだ。機密書類なので、梱包を厳重にしてある。結果を送付しておいてなんだが、個人的に一ヶ所目の内容は疑わしく思える。最初の検査結果は、『非常に危険な毒物』という結果だったのに、飲んでも大丈夫だったらしいと言ったら『再検査』すると言われた。いい加減で困った研究所だ。二つの研究所とも、しつこく誰からの依頼だ、残りはどうしたとうるさいので、適当にあしらった。どうやら喉から手が出る程欲しいものらしいぞ。まさか危険なことに関わってはいないだろうな?

追伸:私が冷え性だからといって、やたら靴下や腹巻きを送るのはやめてくれないか。」

手紙は合計二十枚に及んだ。結局、兄弟達は短期間飲んでみようという結論に。

「それにしても、神崎さんにお会い出来ないのは困ったな。デトックス剤を渡さないといけないのに。そうだ、尋ね人って張り紙を貼って見るのはどうだろう。」

「神崎さんはハンサムだけど、人相が悪いからお尋ね物扱いじゃね?」

一方、黒田は友樹から借りたパソコンで色々検索していた。島津も画面を覗く。

「神崎組と言うヤクザが出てきたんじゃが……まさかな! ハハハ!」

「そういえば、神崎殿はご自身のことを『戦場でしか生きられない男』とおっしゃってたでござる。」

「龍造寺さんを脅すときも何か本職ぽかったぜ。」

「そうなのか? 悪い人には見えないけどなあ。」

行也はふと、カレンダーを見た。現在より一枚捲ったの未来に、『団地の夏祭り』と赤ペンで書かれている。兄弟の心の中は、楽しみな夏祭り、神崎のこと以外に二つ気になることがあった。一つは隣の田山さんのこと。田山さんは、たまに自家栽培の野菜や自身のケーキ屋の製菓材料をわけてくれる恩人だ。しかし今は元気がない。兄弟がこないだ店を手伝った時に来た、怖い男のせいだと思われる。力になりたい兄弟だが、本人がその話題を嫌がっているので何ともしがたい。そしてもうひとつは龍造寺のことであった。あまりにもデブなので戦闘の際に連れていくのに困るのだ。彼が甲冑に飛び付くと銅像のように重くて戦闘どころではない。何とか痩せさせようとする行也達。しかしジョギングに連れ出しても動かないわ、よく食べるわで太る太る太る。そこで行也は龍造寺に食事の量を減らしてくれるように頼んだ。

「龍造寺さん、すみませんがもうちょっと食事の量を減らしてくれませんか? 食べ過ぎは体にもよくありませんし。」

龍造寺はそっぽを向いて言った。

「……某が嫌なら追い出せばよい……。」

「それは嫌です。」

島津も口を出す。

「行也殿の言う通りでござるよ。よく噛んで食べればお腹一杯になるはず!」

龍造寺はあくびをしながら無視した。島津は深くため息をつく。

(もう拙者は疲れた……。味噌汁にチョコを入れたのも絶対、龍造寺殿の仕業でござる……。)

黒田はもやしのヒゲを取りながら黙っていたが。顔を上げると断言。

「龍造寺殿には食事制限を含むダイエットをして貰う。食費も掛かるしな。行也、お前はダイエットメニューを作れ。」


龍造寺ダイエット会議の最中。平和な部屋の外で。インターホン連打音、ドアをタンバリンのように激しく叩く音が響き始めた。

「田山! いるのはわかってるんだぞ! 開けないとブッコロス!」

「早く開けろ! 死にたいのか!」

柄の悪い男達の声が重なり、ますます悪意で賑やかな玄関。行也達は玄関へ向かった。外からはその後も、「開けないと殺す」のフレーズが再生され続ける。逆に開けると殺されそうだ。行人は拳をギュッと握って言った。

「懲らしめてやる!」

音声を録音したり、警察を呼ぼうという黒田を無視し、行人はドアの鍵に手を伸ばす。行也はそんな行人の腕を掴んだ。

「俺がやる。攻撃力はお前が上だが、リーチは俺の方が長い。複数相手の場合はリーチが短いのは致命的だ。お前は黒田先生達を連れて窓から出て、警察に電話してくれ!」

「俺がやる!」

「お前は後ろから近づいて彼らを縛ってくれ。頼む。」

行人は渋々頷いた。

「仕方ねぇな!」

それから少しして。行也はチェーンをかけてドアを開ける。柄の悪い男は、玄関から細い長方形状の室内が見えてきたので、ドアに足を挟むと生き生きと定番のセリフを喋ろうとする。

「死にたくなか……。」

しかし言い終わる前に彼らは凍りついた。ドアの隙間から、行也が高枝切りバサミを突き出していたのだ。ヤクザも刃物を準備していたが遅かった。しかも黒田の指示で、行也の胸には夏祭りの焼きそば鉄板がエプロンのように括られている。ヤクザ達は激しく行也を罵った。

「危ないだろ!」

「いきなり刃物をつきつけるなんて非常識だ!」

行也は相手を刺激しないよう穏やかに話した。

「すみません。毒は塗っていませんのでご安心下さい。ところで何の用ですか?」

「借金の催促だ!」

「わかりました。立ち話もなんですからとりあえず中でお話を聞きましょう。両手を挙げながら入って下さい。」

「ふざけんな!」

「ふざけていません。……困ったな。言うことを聞いてくださらないと……。」

「と?」

行也はドアに挟まったヤクザの足を強く踏んだ。

「……催涙スプレーをかけちゃおうと思います。」

そういうと目線はヤクザ達を見つめながら、懐からスプレーを取り出した。ヤクザ初心者の彼らはとりあえず行也の指示に従った。

行也はドアを締める

→鍵を締める

→チェーンを外す

→鍵を開け

→相手にドアを開けさせる→相手を先に部屋に入らせる。

の手順で彼らを中に入れた。

「なめるなよ!」

行也が靴を脱ごうとする瞬間、小刀で襲いかかる二人。行也は高枝鋏の柄を一閃。黒い二つの刃を弾く。さらに小刀の軌道を目で追う二人の隙をつき、柄で二人の足を撃った。思わずよろけるヤクザ二人。

「立てますか?」

行也は、二人の後ろを高枝ハサミで牽制しつつ部屋に入った。そして居間に入ると、二人をぴったりくっつくようにうつ伏せにさせて背後に立ち、高枝バサミの刃の無い側を一人にそっと突きつける。そしてもう一人の足を起き上がれないように踏んでおく。硬直しているヤクザ達を見て、行也はため息を吐いた。

「もうやだな……。」


一方、行人は警察に電話したあと、ベランダから侵入。ビニールひもを引き出しから出す。そしてヤクザの後ろに回り込んで手足を縛る。兄弟は男達を引きずるとベランダのさんに縛りつけた。島津も口にサバイバルナイフをくわえて様子を見守っている。

「なんで田山さんを脅すんだよ!」

「自分にさん付けなんて気持悪いな! こないだお前の親父がうち……神崎組に借金をして蒸発したからだよ! 五十万! いますぐ払え!」

「だったら親父に請求しろよ! ちなみにうちは山田だ!」

ヤクザは顔を見合わせたが、気を取り直して口々に言った。

「組長にチクってやる!」

「組長はすごいんだぞ! 賢くて強くて、焼肉ばかり食べてるんだぞ。」

黒田は呆れた。

「お前達、組長自慢はいいから自分を磨け。まだ若いんだから。」

ヤクザ達は口と目を最大限に見開き震えだした。それを見た黒田は沼の底からのような声で続ける。

「儂は…この九州に根付くモモンガ…もしこのマンションを襲いに来たら…百年呪い続けてやる……。」

さらに震えるヤクザ達。

龍造寺は口の片端を上げ、ニヤリと笑うと黒田に続く。

「某が太っているのは………人を…食っているからだ…。」

ヤクザ達は目に涙を溜めて震えながら言った。

「絶対に組長にチクりません許して下さい! マンションも襲いません!」

龍造寺はそんな二人にニタァ……と邪悪に微笑んだ。ヤクザ達は激しく泣く。ぽかーんとしていた兄弟が、龍造寺の不気味な笑いと舌なめずりを止めさせようとした時。島津は今まで聞いたことの無いような激しく猛る声と桜島の溶岩のような眼差しを放った。

「いい加減にしろ! 怖がっているだろ!!」

龍造寺はプイっと横をむく。ヤクザ達はついに気絶した。皮肉なことに島津が止めをさしたのだ。そして警察が到着。ほっとして長い息を吐く兄弟達であったが。

「あれ?」

警察は兄弟に銀の腕輪をはめた。

「暴行及び拉致監禁の容疑で逮捕する。」

兄弟の両手に、銀の輪が冷たく光る。兄弟は警察官を見つめ、慌てて無実を訴えた。

「あいつらが玄関で殺すとか騒いでうるさかったから黙らせただけだぜ!」


「そうです! ドアを激しく叩いてわめく近所迷惑な方々だったので、家の中で事情を聞いてたら気絶してしまったんです。俺も縛ったりしたのはやり過ぎだったですが……。とにかく弟は何もしてないので連れていくのは俺だけにして下さい!」

必死に訴える行也だが。行人の手にはビニールひもが握られていたので却下された。黒田は慌ててレコーダーの再生ボタンを押す。

ヤクザの在りし日のドスのきいた声が部屋に響いた。

「開けないと殺すぞ!」

「金だせやゴラァ!」

警察官は顔を見合せ、唸りだす。

「正当防衛かな?」

「微妙な所だがな……。」

したり顔で微笑む黒田。

警察官は手錠を外そうと鍵を取り出したが。

「危ないだろ!」

「いきなり刃物をつきつけるなんて非常識だ!」

警察官の鍵を持った手が止まる。慌てて停止ボタンを押す黒田だが時既に遅し。警察官は兄弟を険しい目付きで見つめ、鍵をしまった。


一方、龍造寺はノソノソ動いてヤクザ達の鞄を口にくわえ、警察官の前に置く。警察官達は龍造寺を撫でながら言った。

「モモンガちゃんはこの鞄を開けろと言うのかい?」

「モモー!」

龍造寺は目を気持ちよさげに細め、甘えるように鳴いた。いつもの憎たらしくふてぶてしい態度からは想像できない、可愛らしい鳴き方。黒田と島津は顔を見合せた。

(あいつモモンガの武器を使いやがった!)

警察官達はにこにこしながら、わかったわかった。と鞄を開ける。鞄の中からは。神崎組新人のしおり、

最新取り立てマニュアル、自動車免許証などが出てきた。しおりとマニュアルにはきちんと名前が書いてある。すべてを照らし合わせてチェックした警察官達。どうしたものか……という雰囲気に。ひそひそ声で話し会う。

「やっぱり過剰防衛ですかね……ベランダに縛りつけるのはやり過ぎかと…。」

「一応外傷はないみたいだが……刃物を出すってどうなんだ。気絶してるしな。やっぱり署に来てもらおう」

連行されていく、行也と行人。彼らの袴とズボンの裾を引っ張り、黒田と島津は悲痛な声で鳴いた。心の大事な部分を投げすてている気はしたが、そこは戦国大名魂。割り切りは速い。

「モモ……モモモー!」

警察官達は辛そうな顔をする。

「モーちゃん…連れて行かないでっていってるのか…。」

そんな中、田山さんが帰ってきた。山田家の外に野次馬が群がっているのを見て、何事かと周りに尋ねる。「借金取りのヤクザと格闘したらしいわよ。」

田山さんは、顔色を変えて兄弟達の部屋の中へ入って行く。中に入ると兄弟がまさに連行されようとしていた。

「行也君! 行人君!」

「関係者以外、立ち入り禁止です。出て行って下さい。」

「私は関係者です。この縛られている男達……神崎組に脅されていました!」

そう言うと、田山さんは自分の部屋に警察官を一人連れていき、消しきれなかったドアの小さな落書き痕を見せた。そして脅迫されていたことを書いた日記を部屋から持ち出し、兄弟の部屋に戻ると警察官達に見せた。


田山さんは頭を下げる。

「彼らはやり過ぎたかもしれませんが、私を心配したが故の行動です。どうか、穏便にお願いします!」

田山さんは、かぼそい、気品のある男性である。そんな彼が必死で頼むのを見て、警察官達は顔を見合わせた。兄弟達もヤクザと警察官達を交互に向いて頭を下げる。そんな中、ヤクザ達は目を覚ました。龍造寺が首だけ動かしてヤクザをみてニヤリと笑う。ヤクザ達は震えながら首を振った。

「俺達は怪我してないのでいいです! いいです!」野次馬の皆さんの証言もあり、兄弟は連行されずに住んだ。

――警察官に連行されたヤクザ達の乗る車内。警察官はヤクザ達に尋ねた。

「本当にいいのか? あの兄弟はやり過ぎだ。ヤクザにも人権はある。」

ヤクザ達は顔を見合わせた。

「……素人に負けるのが悪いんです。俺達はいつか、もっと強いヤ……何でもありません。」


田山さんも被害届けをだすために警察へ行った。兄弟達は夕飯を食べながら反省会をすることに。

行也の意見。

「無理矢理捕まえる必要はなかったですね。コツコツと証拠を集めて訴えた方がよかったのかもしれません。今回やり過ぎた件で、逆恨みされるでしょうね。田山さんにもご近所の方にも迷惑をかけてしまいそうだ……。」

行人の意見。

「でもさっさと決着をつけないと、ダメだったんじゃね?田山さんは日に日にやつれていたし。兄貴が高枝ハサミでアイツらをうつ伏せにして、俺が手足を縛るまでは多分セーフだったと思う。」

黒田の意見。

「ワシも証拠を集めて訴える方がよかったと思うぞ。逆恨みされてまた家庭訪問されたら、周りの皆さんにも迷惑がかかるからのぅ。それに今回は新人ヤクザだったからよかったものの、拳銃所持者だったら危なかったぞ。無理は禁物じゃ。まぁ今回は大丈夫だと思うが。奴らは外傷がないし、色々と脅えきってたから大騒ぎすることもないじゃろ。」

島津の意見。

「やっぱり、悪い奴は懲らしるべきでござる! でもちょっとやり過ぎだったでござるな。泣いて気絶までして、ちょっと気の毒でござった。ベランダに縛るまではよかったと思うでござるよ。」

龍造寺の意見。

「…奴らは多分、仕返しには…来ない。それどころじゃ無い……。」

全員、龍造寺を見た。

「どういうことですか?」龍造寺はニヤリと笑った。「……奴らは忙しくなる……近いうちに、ピッカリン鉱業などの株主総会…総会屋…ヤクザの出番…準備が大変…こんな小さなことに…構っていられない……。」

「なるほど!」

「おお! そうじゃな!」

「確かにそうでござるな。……行人殿?」

「ああ。わりぃ。聞いてなかった。」

行人はぼんやり考え事をしている。ヤクザが去り際に言っていたことが気になっていた。


――時間は遡る。

行也は連行されていくヤクザに尋ねた。

「神崎高志さんはご存知ですか?」

「……そういえば、古株の先輩からその名前を聞いたな! 確か先代のご子息だ。」

「先代の方はどうなされたんですか?」

「数ヶ月前に心不全でお亡くなりになられたと聞いたぜ。そんで、元々後継者指名されていた組長が継いだらしい。」

「そうですか……お気の毒に。」

「組長は疑われて大変だったしいぜ。いてっ!」

もう一人のヤクザが足を踏んで話好きヤクザに注意。「警察の前でベラベラ喋るなよ!」

「しまった! 俺が言いたいのは今の組長がかっこいいってことだよ!」

もう一人のヤクザも、それには同意した。警察官は残念そうにため息を吐いた。

「もっと話が聞き出せるかと思ったけど残念だ。行くぞ!」

回想を終え、行人は思った。

(神崎さんがやっつけたい奴は……神崎さんの親父の急死後、組をついだ今の組長か。怪しいって思うのも当然だよな。俺も親父が事故死したって聞いた時、信じられなかったし……。神崎さんも辛いだろうな……。そうだ!)

行人の頭に知恵の電流が流れる。

「いいこと思いついた!」

黒田は口の端をピクピクさせた。

「な、何をじゃ! 官兵衛お兄さんに話してみなさい!」

「秘密だぜ!」

その後。兄弟は夕飯の片付けが終わってすぐに田山さんを警察に迎えに行った。法律に詳しい黒田をリュックに入れ、紺色の道を赤と黄色の光は走る。二人がもも上げをしたり、スクワットをして暫くして。田山さんが出てきた。

「田山さーん!」

「来てくれたの? ありがとう。」

田山さんはこういう事態になった以上、すべて話す気になったらしい。溜め息をつきながら事の次第を兄弟に話す。用するに、酒を飲んで暴力を振るう父から、母が田山さんを連れて離婚→その数十年後、父が神崎組に借金→父が蒸発したので、田山さんをかぎつけて借金の催促、と言う流れらしい。

「連帯保証人とかにはなっているんですか?」

「なってないよ。今まで音信不通だったんだ。」

「ひでえ親父だな! 払わなくてもいいんじゃねーの?」

田山さんは疲れた顔で言った。

「でも毎日脅迫電話がかかってくるわ、店や家までヤクザがくるわで精神的に疲れたんだ。家族は友達の家でお世話になっているけど……。さすがにいつまでもというわけにはいかないし……さっさとお金を払って楽になりたくて五十万を払ってしまった。そうしたら、それは利子だと言われて…また五十万払ったのに、それでもしつこくて……全部で二百万円払ってしまった。」

「何てクソ野郎だ!」

「それはひどい! 警察に被害届けは出さなかったのですか?」

「こないだ相談には行ったんだ。でも、たまたま神崎組の息がかかった刑事で……。見た瞬間にその刑事は焦げたクッキーみたいな雰囲気を感じたから、相談せずに帰ろうとしたけど、強引に連れて行かれて脅された。」

田山さんはちょっとだけほっとした顔で続ける。

「でも今日の刑事さんは大丈夫だと思う。」

「これからどうするんだ?裁判とかすりゃいいのか?」

「俺達には法律に詳しい人生の師匠がいます。残念ながら弁護士ではないですが相談してみましょう!」

田山さんは首を横に振る。「もう疲れた……。お金は返って来なくてもいいよ……警察の方がヤクザはこないようにしてくれるって言ってたし…二人ともありがとう。でも…もういい。」

「バカモノ! 簡単に諦めるな! お前には家族がいるんじゃ! その二百万円でどれだけおいしいものを食べさせてやれるか、子供にどんな習い事をさせてあげられるか考えてみろ! 全額は難しいかもしれないが、ワシもなるべく多くの額を穏便に取り返す方法を考えてやる! だからお前も戦え! もし取り返せなくても、法律を学ぶことは大切なこと! バカは死ぬ時代じゃ!」

リュックから頭を出し、暑く真っ直ぐに訴える黒田だが。田山さんは目をくるくる回した。



「大丈夫だぜ! 呪ったりしないから!」

「そうですよ! とっても優しいんですよ。こないだは俺が殴られそうになった時に身を呈してかばってくれたんです!」

黒田は口を押さえて目をキョロキョロしていたが、深呼吸して穏やかに話しかける。

「田山さんには行也と行人がお世話になっているし、ワシも友樹にパソコンを借りるまでは時々田山さんのをお借りしていたから、力になりたいんじゃ! あ。」

兄弟は不審な目で黒田を見る。

「先生を田山さん家にお連れしたことはないですが。」

「……不法侵入したのか! 法律を守れってうるさいくせに!」

行人は黒田を逆さ吊りにした。

「ちゃんと謝れよ!」

「そうです!」

黒田は行人に逆さ吊りにされたまま謝った。

「申し訳ありませんでした!」

田山さんがアッサリ許してくれたので黒田はリュックに戻される。その後。行也は田山さんに電動竹馬を貸し、自分は走って家に帰った。帰宅後に黒田は凄い勢いで判例、神崎組のことなどを検索しだす。そこへ行也が夜食を持ってきた。

「先生、そろそろお休みになられた方が……。」

島津と行人も休むように言うが。

「大丈夫じゃ。島津殿もお前らも寝ろ。大事な戦闘要員じゃからな。それに一人の方が集中出来る。」

黒田はまたパソコンに向かう。そして夜中。黒田は頭を抱えていた。

「印刷用紙がない!」

黒田は友樹に貰った印刷用紙は両面印刷、チラシの裏も動員していたがついに使い果たした。

「メモ帳を作りすぎなきゃ良かった! それか前もってプリント用紙を買っておけば良かった! ワシのうつけ!」

ちなみに島津は書類の整理を手伝っていたが眠りこけている。

「……煩い…。」

口の周りが白い龍造寺が黒田を見つめていた。

「すまぬ……あ。龍造寺殿。夜中にアイスを食べたのか! 太るぞ!」

「……もう太っている…お前は何でそんなに必死に……。」

「ワシは天才の上にとーっても優しい性格で、人の問題を七割程は解決してあげたいのじゃ。」

「…三割は……。」

「全部解決するのは無理じゃ。ワシだって自分を助けたい。それに最後は自分自身で解決するべきじゃからな。さて、どうしたもんかのう。」

「……天才天才煩い。お前のその鼻っぷしをへし折ってやる……。」

そういうと龍造寺はパソコン画面を見つめた。

翌朝。黒田が徹夜で田山さんのケースの判例、関連法律を調べた結果。兄弟達の日本では、「法律的には二百万円取り戻せる」という結論に達した。龍造寺は具体的な判例を暗唱し、黒田はそれを簡単には解説する。一区切りついた所で、黒田はあくびをしながら言った。

「連帯保証人になっていなかったこと、父親とずっと連絡を取っていなかったこと、取り立て方の違法性がポイントじゃったな。」

「よかった! じゃあ取り戻せるんですね!」

黒田は苦い表情になった。「神崎組はヤクザの中では良心的な方じゃがヤクザはヤクザじゃ。ヤクザと戦ってくれる弁護士がいるかどうか。難しいのぅ。」

黒田の不安は当たった。兄弟も周りの人に聞いたり、ネットで検索した場所に電話したのだが、引き受けてくれそうな所は見つからなかった。


そして数日後。行人が学校へ向かった後。

「今日来てくれるのか! 助かるのぅ! 宜しくお願い致します。」

黒田は電話を切ると、行也の前にデトックス剤を置いた。

「行也、ラーシャの父上のラザニア殿が弁護士を紹介して下さるそうじゃ。彼は行動が滅茶苦茶早くてありがたい。ついでに今日は神崎に会いに行くぞ!」

行也は急いで携帯を構え、田山さんに電話する。そして弁護士の話をして電話を切ると、スーツに着替えながら黒田に尋ねた。

「そう言えばどうして神崎さんの居場所がわかったのですか?」

黒田は得意気に笑って答える。

「神崎はブログをやっている。そこに載っていた、行きつけのスーパー、図書館、スポーツジム、そして部屋の写真などから自宅の大体の場所を割り出した。今は無職のようだから平日でも会えるじゃろ。ちなみに最近更新していないが、ブログ内容は『俺は出来る男でカッコイイ』じゃ……。アハハハヒヒヒ!!」

行也と島津は注意するが。黒田は笑い転がり、ちゃぶ台に足の小指をぶつけた。

黒田は涙目で小指を擦りながら続ける。

「島津殿には残って行人の監視をしていただきたい。あいつの、

『いいこと思いついた!』は不吉な呪文じゃ。島津殿もこの言葉を聞いたら事件が起こると思って欲しい。」

「ほ、本当でござるか! 」

島津は慌てて行人の学校へ走る。黒田は今度は龍造寺を見た。

「それから龍造寺殿にはついてきて貰うぞ!」

龍造寺はそっぽを向いた。

「…何故…お前の言うことを聞かないといけない……。」

「悔しいが、純粋な暗記能力はワシより龍造寺殿の方が微妙に上じゃ。今日の話し合いの内容を暗記していただきたい。今回の話は人事じゃないから教訓にしたいしな。それに神崎にも会っていただきたいからの。よろしく頼む。」

龍造寺は無表情で黒田を見て黙っている。黒田はもう一押しだと思った。

「帰ってきたらフライドチキンをご馳走するぞ! 行也が!」

「えっ。ダイエット中ですよ!」

「余計に太るでござる!」龍造寺は目を反射板のように光らせる。

「…フライドチキン…忘れるな……。」

行也はリュックに黒田と資料、ホワイトボード、肩書けボストンバックに龍造寺を詰めると田山さんと一緒に竹馬を飛ばし、ラーシャ宅へ向かった。


二人が到着して暫くすると。弁護士さんがやって来た。彼らは早速話に入る。黒田が作成した「今までのあらすじ」的な事件経過の書類、判例を印刷した紙を見て、龍造寺の判例暗唱を聞いた弁護士は満足気に手を叩いた。

「よくここまで調べましたネ。二百万円は取り返せるデショウ。それから精神的苦痛による慰謝料もゲットしちゃいマショ!」

これからについて話し合い、目処がついた所で行也達は帰ることにした。田山さんは弁護士さんとラーシャ父にお菓子を渡そうとするが断られた。

「ゴメンネ。日本のお菓子は心配ナンダ」

すると田山さんは、お菓子の素材の原産地、様々な検査結果が書かれた用紙を見せた。

「ご心配になられるのも無理はありません。一応うちは殆ど輸入品でお菓子を作っています。輸入品以外の食材も汚染の少ない産地から仕入れております。また一週間に一度は、お菓子の一部を検査に出し、お店に並べる前には必ずすべてのお菓子を購入した測定器で検査して出しています。」

ラーシャ父は検査結果とその封筒を見て言った。

「なるホド。研究機関も測定器も信頼出来るメーカーさんダネ。」

そういうと目をつぶってッキーを食べた。

「私はめちゃくちゃ特殊な舌をもっててね、重金属などが混じったお菓子は分かるンダヨ。……これは大丈夫ダネ。おいしいヨ。」

行也は文字がゴマ粒のようにびっしり詰まった検査用紙を見て驚く。

「こんなに気を付けておらるたなんて、知らなかったです。」

「安全性のわからない食べ物は、職人として出せないよ。経営は苦しいけどね。」

行也はお昼ご飯をご馳走になってラーシャ邸を出ると、田山さんと別れて神崎の自宅へ向かった。

神崎を探す一人と二匹。灰色の空の下を赤い竹馬は走る。自宅には不在だったので、彼らは神崎行きつけのスポーツジムへ向かった。

「確か、ここのスポーツジムに通っているはずじゃ。『何でここがわかった! ブログ見たのかよ! 恥ずかしい!』とか言って逃げ出すかもしれないから、気をつけるんじゃよ!」

「神崎さんは恥ずかしがりやさんなんですか?」

「恥ずかしがりやというか、見えっぱりで格好悪い事が嫌いじゃ。たが戦士としては優秀じゃよ。行人が立ち上がれなかった程重い甲冑で走れたからな。」

「それはすごいですね! ところでジムはペット不可です。どうしましょう。受付で呼び出してもらいましょうか?」

「そうじゃな。『六文銭の真田です。』と呼び出すのじゃ。」

「なぜ普通に山田と名乗らないのですか?」

「敵である六文銭の真田がきた! という方が、

『敵から逃げるなんて格好悪い』から会ってくれるじゃろ。」

龍造寺はポツリと言った。

「……非常に…面倒くさい男だ…。」

黒田はため息を吐きながら思った。

(……それにしても困ったやつばかりじゃ。行也はアホ。行人は過激、友樹はすぐ混乱する。ラーシャは根気が無い。島津殿は情に流され、大友殿はクソ我が儘。しかもキリスト教を強引に広めたがる。普通の良識的クリスチャンのワシは本当に困るわ。細川殿は一緒にいる程寿命が縮まるし、龍造寺殿は物で釣らないと協力する気がない……みんなそれぞれ長所はたくさんあるんじゃが……厄介な奴ばかり! 敵の方が人間性がマシだと思うくらいじゃ! 慈悲深い天才軍師黒田が居なかったら大変なことになっていたわ!)

黒田に心の中でもアホ呼ばわりされつつも、行也はスポーツジムの窓口へ向かった。


「……六文銭の真田様でよろしいですか?」

「はい。宜しくお願いします。」

スポーツジムに鶯嬢のような声の放送が流れた。

「神崎様〜神崎様〜六文銭の真田様がお呼びでございます。」

神崎はエアバイクを漕いでいたが、館内放送を聞いてやって来た。

(例え罠でも、敵から逃げるわけにはいかねえ!)と気合いを入れてその場に行く彼だが。待っていたのは真田ではなく、スーツを着た行也だった。行也は神崎を見ると深々とお辞儀。

(違う罠だった!)

しかしここで背を向けると格好が悪いと思った神崎。行也に何故ここがわかった、と聞く。

「ブログを黒田先生が……。」

神崎は最近、自分のブログの内容が恥ずかしいと思っていたので顔を真っ赤にして慌てて遮った。

「わかった! わかった!着替えてくるから! ちょっと待ってろ!」

神崎はスポーツジムから出てくると、近くのカフェに入ろうと提案。奥の個室に入る。

「十四時半か。もうちょっと鍛錬したかったが。まあいいか、ところで何の用だ?」

黒田がリュックから顔を出し、チラシメモ帳に字を書いた。

<ここから先は筆談で>

窓の外では雨が降り始めた。


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