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戦国DNA  作者: 花屋青
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甲突川へ走れ

行也は、神崎に幽斎から貰ったデトックス剤を入れた小瓶をそっとテーブルに置いた。

<この間はありがとうございました。俺が話したいことは二つあります。一つめはこれを飲んでいただきたいということです。これはデトックス剤です。下さった方によると、汚染されている日本の海で活動した場合、このデトックス剤を飲まないと体に悪いとのことです。>

神崎は眉間に皺を寄せ、鋭い眼差しを向けた。行也はそれを受け止めて続ける。

<俺が試しに飲んだ所、一時的にやや腹下りの症状がありました。しかしその後は体が軽くすっきりしました。麻薬のような常用性もないです。>

行也は神崎の目の前で、デトックス剤を一粒飲んだ。

<わかった。お前がそこまでするなら信じる。>

<ありがとうございます。もう一つは九州を守る戦士になって欲しいということです。>

行也は今までのことをホワイトボードにびっしりと書いた。神崎はそれを見て低く唸り、両面ホワイトボードをひっくり返して書き込む。

<俺は自信がない。前回はお前の弟にかばってもらったし、逃げる途中で倒れたりと足を引っ張ってばかりだった。>

<それは甲冑が重かったからだと聞いています。>

<他に甲冑はないのか?>

リュックの中から黒田がまた頭を出した。

<わからん。少なくとも今はあの甲冑で頑張って貰うしかない。龍造寺殿は甲冑を軽くする方法をご存知か?>

肩かけボストンバックから龍造寺が顔を出し、首を横に振る。

行也はため息を吐いた。

<神崎さん自体は強いですが甲冑が重すぎでは厳しいですね。そういえば甲冑って装備しないとダメなんですか?>

<まず海上での戦いが主じゃから水に浮く必要がある。それに甲冑を装備することで身体能力と防御力が上がる。そしてそれは相手も同じじゃ。装備していないと相手のパワーアップした身体能力に勝てない。何よりKY戦士の攻撃でないと兜を封印できない。そして敵側の戦士が減らない。>

<でも毎回撤退しても大丈夫ですよね? 敵が攻めてきても結界があるなら、ほっといてもいいんじゃないですか?>

<少し結界が弱っているんじゃ。>

<何でわかるんですか?><偽幽斎がプリンの大皿の下にもカードをはさんでいたじゃろ? あの和歌の意味がやっと解けた。

『紫外線が強くなったら結界が弱っている証拠』

と言う意味じゃった。紫外線が例年より少し強くなったのは森から逃げた後ぐらいから。もしかしたら敵の戦士が結界を破壊しているのかもしれない。だから、敵の戦士を結界に近寄らせないようにしないと。>

<そういえば、紫外線のことはニュースでやっていましたね。結界が壊れたらどうなるんですか?>


<結界のことはイマイチわからんが、壊れたらミサイル跳ばされてオシマイじゃろう。正直言って結界が壊れたあとは修復可能かも不明じゃ。情けない話ですまぬ>

神崎は腕を組んでじっくりとやり取りを見ていたが、自らもまたペンを取って疑問を書く。


<大体の事情はわかった。話は変わるが、どうして敵はまとめて攻めてこないんだ? こっちは俺が入っても五人だ。毎日大量に戦士を送りだされればアウトだろ。牽制したいだけなのか、それとも今は準備中でこれからドカドカくるのか。>

<すまぬがそれもわからぬ。>

結局、今まで通り戦うしかないという結論になった。神崎はここまで話を聞いた以上、協力してくれると言う。

「その前に俺はしなきゃならないことがある。」

<今の神崎組組長に会うことですね。こないだ新人さんから大体の事情は聞きました。>

<アポを取ってある。明日会う予定だ。決着をつける。>

<俺も行きます。>

黒田は目を見開き高速でペンを走らせた。

<危ないもしものことがあったら>

その直後、島津から電話が着た。

<島津師匠どうなさいましたか?>

うっかり筆談する行也。黒田につつかれ、我に帰る。島津は重く暗い声で言った。

「本当に申し訳ない……何かあったら拙者は責任を取って切腹する……行人殿を見失ってしまったでござるよ!」


行也はコップが入りそうなほど口をあけ、目を限界まで見開いた。

「し、しなないでください! と、とにかく、お…親父にこにこぷんがびょうに見失ったのですかかか!」

「拙者がさっきトイレに行ってる間に見失ってしまったでござる…申し訳ない!」

黒田は行也から携帯を奪う。

「出ていく前に見ていた物は? 場所の予測は?」

島津はパソコンを見て言った。

「<神崎組・募集要項>がパソコンの最新検索リストに……試験会場は甲突川の岸。」

「島津殿に残っていただいて良かった! 甲突川で合流じゃ!」

黒田は電話を切ると、神崎を見て言った。

「甲突川岸へ急ぐぞ! 神崎! 行人の命がかかっている! どうか運転を頼む!」

神崎は頷くと伝票を持って立ち上がる。

「いいぜ。あいつには借りがあるしな。ついてこい!」

甲突川へ急ぐ一行。神崎は運転が上手い。地図を折りたたんで現在地と甲突川を近付けたと錯覚するほど。ちなみに島津も目的地へ向かっていた。家に現金がなかった為、段ボールに『モモンガのおつかい』と書いてヒッチハイクしたという。神崎の予測では島津も同じくらいの時間に着くだろうとのこと。

「あと三十分くらいだが……やばい。エンジンがおかしい。一旦路肩に止めるぞ。」

神崎の車は故障してしまった。裏道を通ってきたため、タクシーも中々拾えそうにない。

神崎は車保険に入っており『目的地まで連れていくサービス』があるという。しかし電話した所、到着まで三十分もかかると言われてしまった。それを聞いた黒田は神崎に頭を下げた。

「神崎に電動竹馬で先行して貰いたい!」

行也は首を振り、大きな声でそれを拒否した。

「俺が行きます! 兄の俺が行きたいです!」

「バカモノ! 今は緊急事態じゃ! お前がどうしたいとか道理が云々よりどうすれば行人を救えるかを合理的に考えろ! 道路事情に詳しくてお前より頭が切れる神崎にまかせた方がいいじゃろ! ……厚かましいのは確かじゃが。」

行也と黒田が揉めている間に、神崎は竹馬を出していた。

「誰かのピンチを助けるなんて格好いい役目、俺にピッタリだ。任せろ!」

ドン、と自分の胸を叩いて気合いの入った表情の神崎に、行也は涙ながらに頭を下げた。

「どうかよろしくお願いします!」

神崎は素早く竹馬に乗ると、行也に背を向けて軽く手をあげる。そして龍造寺はそんな彼の肩に飛び乗った。

「……某が憑いていってやろう……面白い物が見れるかもしれぬからな……。」

「面白い物は見せられねえが、俺の格好良さは見せつけてやるぜ!」

ダイエットの効果はあったのか、神崎は龍造寺を少し軽く感じた。トレーシングペーパーから透けたようなミストと灰色の景色の中を、赤く輝く竹馬は走る。そんな中。

「オッサン! 面白い物に乗ってんな!」

柄の悪い若者は左右から神崎をバイクで挟む。神崎はそれをところてんのようにスルリとすり抜ける。彼は小さな小さな冷たい雫を身体にまぶされながらも、竹馬を自由自在に操り道を急いだ。バイクを撒いて少し胸を撫で下ろした神崎。しかしすぐに次の障害が。

「その竹馬貸して!」

神崎がポケットの鏡で後ろを確認すると。頭に魚の被り物、銀色の鱗模様のジャージに波模様のハーフパンツの自転車少年がいた。無視する神崎に少年は必死に追い縋る。自転車以上バイク未満の速度でヒュンヒュン風をしならせて迫り来る少年。距離が詰まる。しかし丁度カーブに差し掛かり、最短距離でターンした神崎は少年を振り切った。ほっとした彼は隆造寺に言った。

「なんなんだあのガキ! 頭の被りものといい、魚みたいなジャージといいちょっと可笑しいよな!」

「……。」


その後も様々なアクシデントを乗り越えた神崎は甲突川に着いた。彼は鏡を見ながら服装を軽く整えて、髪をかきあげた。そして明るい声でまた龍造寺に語りかける。

「『格好いい』とは! 何かを成し遂げる為に、成り振り構わず全力で突き進むことだ! なあ! 龍造寺!」

隆造寺は竹馬を見てけたたましい声で笑いだした。


残された行也と黒田。

行也は膝をついて項垂れた。

「自分の弟すら助けられないなんて……神崎さんにも知り合ったばかりなのに、こんなに頼りきってしまって……。」

黒田はそんな行也の肩を軽く叩く。

「そうじゃな。もっとしっかりしないといけないな。お前も。……ワシも。」

「……はい。そうだ! 走って行くのはどうでしょうか。」

行也はそう言うと、急いで黒田にビニール袋でつくったカッパを着せ、自分も着る。カッパを着せられた黒田は、車の中に入ってカーナビを指した。

「無茶を言うな! 三十Kmくらいあるぞ! 着いた頃にはヘトヘトで逆に足手纏いじゃ!」


「そうですか……あっ! 助手席の下に、折りたたみ自転車がある! 神崎さんごめんなさい! 勝手に借りちゃいます!」

そういうと行也は、神崎の車から自転車とカーナビを勝手に出してしまった。そして車のドアを締めて黒田にカーナビを渡す。

「黒田先生、方向の指示をお願いします!」

彼は自転車をフルスピードで漕ぎ出した。

「オイオイオー! ……まぁ雨だがかなりの追い風だし、プロ仕様のマウンテンバイクじゃから、お前のペースだと三十五分くらいで着きそうだからいいかの。とりあえず直進。そして次の信号を……。」

黒田の指示で、行也は無事に甲突川に到着した。

行也が見上げた空は相変わらず曇り顔で滴を落とす。

「行人と神崎さんはどこかな? 無事でありますように。」

行也は黒田の顔とカッパを拭くと、肩掛け鞄にしまった。そして自転車を押しながら辺りを見回す。甲突川の岸は草木が生い茂った、そこそこ広い平野。夏になるとバーベキューをしている団体もいる。今はまだ梅雨なのでいない……と思われたのだが。男ばかりの大人数団体が一つ。その団体は、白く厚いビニール生地の屋根がついたテントを黙々と張っている。よく運動会で使われるタイプのテントだ。神崎組と書いてある。黒田は肩掛け鞄からぴょこっと顔を出した。「雨の中、バーベキューなんて意味不明じゃな。」

「そうですね。でもとにかく二人を探します。……行人〜! 神崎さ〜ん!」

忙しなくピリピリした空気を掻き分けながら、目を凝らし頭を車のワイパーの如くカクカク回しながら辺りを見回す行也。しかし待ち人は来たらず。変わりに厳つく怖い雰囲気の男に声をかけられた。その男は<試験官>の腕章を付けている。

「おいお前! 邪魔だ! うろうろしないでさっさと作業に入れ! 受験者だろ!」

「失礼しました。ですが俺は受験者ではありません。ここに来る予定の弟達を探しておりまして……。」

「ああー! 連れ戻しに来たのか! 毎年いるんだよな! でも今はみんな気が立ってるぞ。制限時間内にテントを組み立てて、バーベキューの準備が出来ないと不合格なんだ。」

男は続けた。

「弟を探すなら、食事タイムにしろ。大丈夫だ。いきなり殺されることはない。準備中に刃傷沙汰のトラブルを起こすと不合格だから。」

行也は肩掛け鞄の中の黒田をチラリと見る。頷く黒田を見た行也は、折りたたみ自転車を手ぬぐいでふき、持ち歩いていた新品のゴミ袋に入れ、会場にある巨大なコインロッカーにしまった。そして試験官に声をかける。

「親切なご忠告、ありがとうございます。俺は何をすればよいでしょうか?」

……行也は辺りを見回しながら、バーベキューの準備をすることになった。


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