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戦国DNA  作者: 花屋青
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悪魔武将

 暗闇の中にちいさなちいさな水玉が光輝く竜宮海岸。ラーシャは巻き尺で縄跳びしながら待っていた。

「全く。遅刻するナンテ。……そちらの方ハ?」

「遅れてごめんなさい! 僕は大沢友樹! よろしくね!」

「ラーシャ・カーソンと申しマス。コチラコソよろしくお願いしまス。」

「細川さんも申し訳ありません。」

「全くだ!」

 細川の眼差しに友樹だけはちょっとビクッと反応した。行也は皆を見回して腕を突き上げ叫んだ。

「よし! 変身だ!」

 友樹もヨッシーの指示で変身する。

「南蛮文化の風を受け

大友義鎮、夢見て出航!」

 甲冑は山田兄弟達と同じで、兜は山型に膨らんだつばつき帽子型で、黒色。いわゆる南蛮兜である。金平糖のようなビーズや十字架のモチーフなどが連なった連が巻き付いている。陣羽織はオレンジ色。

「何か山田君達の兜と違って、大友義鎮さん所有の兜には見えないな。」

「兜を作った人がわからなかったんじゃろ。それより急ぐのじゃ!」

 四人は敵に向かって七Kmくらいダッシュ。

 ……しようとしたのだが。ラーシャも友樹も四・五Kmでへばり、山田兄弟にそれぞれ担がれる。

「昨日思い出したんじゃが。甲冑は微弱な電波が出ていて、脳が疲れる代わりに体力を普段より解放出来るはずなんじゃがのぅ。」

「えっ! 脳が疲れるのかよ!」

「お前と行也は普段使ってないからいいが、ラーシャと友樹はブドウ糖を補給しないとダメじゃぞ。」

――なんとか現場にたどり着いた四人。しかし。敵はいつもより禍々しく恐ろしい空気を纏っていた。

 暗闇の中、敵自身のヘッドライトと黄色く光る空の花弁に照らされ、敵が見えてくる。それは、ドクロで埋め尽くされた甲冑を身に纏う、キックボクシング選手のような美丈夫であった。

 彼は一回転して鮫ピラミッドから飛び降りた。水しぶきが、彼から逃げるように跳び跳ねる。

 「死ねェええー!」

 男は耳をつんざく声で絶叫。暴走バイクのように海面を荒らし走ってきた。


 男の手には、四メートルくらいの長い槍。それを両手にそれぞれ持ち、扇風機のようなスピードで振り回しながら走ってくる。

 まだかなり距離があるのに嵐を巻き起こし波が刺のように立ってくる。

 友樹はガタガタ震えていたが一秒で決断した。

「みんな! 逃げよう!」 岸へと一目散に駆ける彼。そこそこと言うレベルでない。素晴らしい俊足。人間というものは、危機になると力を発揮するものなのである。

 友樹の逃げ足の速さに唖然とする一行。細川は顔に血管を浮き出させ金切り声で叫ぶ。

「敵前逃亡は許さねえェ! ラーシャぁああァ! やっちまえぇエ!!」

 ラーシャはそれどころではないので無視した。一方、黒田は男に呼び掛ける。

「そこの超絶美男子最強お兄さん。お名前は?」

「森長可! 趣味は書道!」

 黒田はラーシャも行人も少し顔がひきつって手が震えているのを見て決断した。

「退却!」

「わかりました! 戦国一〇八計! 中国大返し!」

 行也はラーシャを肩車し、行人の右手を取りダッシュ。そして友樹に追い付くと左手を掴みひた走る。

 行也はこの技をまだ使い慣れていないので、体の一部が触れていないと他人に技の効果が伝わらない。

 行也はタコになりたいと思った。

 森はドリルで削られる金属のような甲高い雄叫びを上げる。

「逃がさねエえええー! 戦国一〇八計・百段ダッシュ!」

 森の具足が騎馬に変化。馬は嘶き、海上を彫刻刀のように削り駆ける。行也達の目に小さく見えていた森が、じわじわ大きくなってくる。

「死ね!」

 森の手から槍がレーザーの如く放たれた。

「友ちゃん頭下げてー!」 友樹の頭の残像を青く鋭い直線が貫き海に刺す。

「あががががが……。」

 友樹は歯も目もガタガタさせて震えつつも走る。

 森は友樹をターゲットと決めた。片手でクソ長い槍を振り回しながら、空いた手でドでかいドクロ柄の手裏剣を投げてくる。

「特選、毒ブレンド手裏剣!」

「ギャアああぁヒィー!」 

 友樹は軟体動物のように曲がり避けた。しかし行也と手が離れてしまう。おまけにコケる。海面は彼を優しく殴打した。

「友樹さん!」

 行也はダッシュで戻って友樹を拾う。更に森と距離が狭まる。

「細川! 愛のカルタ!」

「島津十文字斬!」

 肩車されているラーシャが愛のカルタを放ち、行人は振り返りながら十文字斬をする。

 しかし金色の扇も十文字の衝撃波も、森の振り回す扇風機槍の風圧ではねかえされ虚しく海へ落ちる。

 ラーシャは今度は鞭を取り出した。槍より短いので森でなく槍を絡めとろうとするが。鞭もまた風圧で弾き返され、吹き流しのように空間を漂うだけ。

 黒田は叫んだ。

「なりふり構わずとにかく逃げろ普通に逃げろ必死で逃げろ!」

「いくら森殿でもこのまま何もしないで退却できッかァー!」

「海に沈むでござるよ!」

 島津は飛び掛かろうとする細川を何とか抑える。そんな中、ヨッシーは手を上げた。

「ヨッシーは考えがあるのー! とりあえずバカ兄弟達は走ってー!」

 さらに友樹に指示。

「友ちゃーん!

 『大友! ステキカステラ』って言ってー、手を高く上げてー!」

「大友、ステキカステラ?」

 友樹は首を傾げつつ手をあげた。ヨッシーは兜をちぎると、友樹の口に詰める。

 その間にも森は更に距離を詰め悪魔の形相で槍を振り回す。

「死ねぇえええ!」

「友ちゃーん! 後ろ向いてー!」

 振り返った友樹の視界を占領したのは。血走った狂気の目でせせら笑う森長可。

「ふぉあぉあヒィァ〜!」

 口をモゴモゴさせながら泣く友樹。森との距離はどんどん近づく。

 そしてついに。森の腕の長さと手の中の青い直線を足した長さが友樹と重なる。

「死ねェョォア! 紅茶頭!!」

 青く細長い強力な重力ベクトルが友樹の頭めがけ振り下ろされるその二瞬前。

「口の中の吐いてー!」

 ヨッシーは友樹の背中をぶったたく。友樹は口から詰め物を吐き出した。

 詰め物は空気に触れるとしゅわしゅわ膨らみ、大きなコンクリ状のカステラの壁が友樹達の前に出来た。 槍はその分厚いコンクリカステラに突き刺さる。

「槍がぁ抜けない? ……まぁいい! 手裏剣がある!」

 森は手裏剣を飛ばしてくる。しかしその薄い板は腰が抜けてしゃがんだ友樹の頭上をスライスして落ちた。

 行也達は半分気絶している友樹を引きずり、何とか撤退したのだった。

……海岸についた行也達は、半分気絶中の友樹の名を何度も呼んだ。

 その大声に友樹は半分になっていた目を見開いて飛び上がった。

「あ……悪魔は?」

「もう大丈夫です。お疲れ様でした!

 ヨッシーさんと友樹さんのおかげで退却できました!」

「……いや、僕は一人で先に逃げちゃったから…ごめんなさい。」

 後ろめたそうに頭を下げる友樹へ皆は口々に言った。

「うーん……。確かにこれからは退却が決定してからにして欲しいです。

 でも、友樹さんは一応宣言してから逃げましたし、退却できたのはヨッシーさんと友樹さんのおかげなので腹は立ってません。」

「俺はムカついたぜ!」

「鞭でブッタタキたくなりまシタ!」

「仲間を置いて行くなんてどうかと思うでござる!」

「友ちゃんダサイー! でも無事で良かったー!」

 細川は口にハンカチを巻かれて地面に転がっている。

「まぁ友樹のように無理をしないことも大事じゃ。今のところは。生き残ればまたチャンスもある。」

 黒田の言葉に行人は疑問を呈した。

「でもさ、俺達は退却してばかりじゃね? 正直今回は退却したいって思っちまったけど。なんか特訓しないとやばくねぇか?」

「……皆。来週の土日、どちらかはあいてるかの?」

「俺は土曜日なら非番です。日曜は仕事で難しいです。」

「俺は両方大丈夫だ!」

「ボクも大丈夫デス。」

「僕も。」

「よし! では来週の土曜日は合宿じゃ!」

「はい! ところでラーシャ君、もう二十二時だから家に電話した方がいい。」 ラーシャは家に電話をかける。彼の顔はさらに白くなり、携帯を持つ手が震えだしたが行也達は気が付かない。

「じゃあ、ラーシャ君の家、山田君達の家って順で送ればいいかな?」

「行人でいいぜ! 送ってもらえると助かる! ありがと!」

「俺も行也で。ありがとうございます!」

 ため息をつくラーシャも、友樹の車で家路を行くこととなった。


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