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戦国DNA  作者: 花屋青
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夜の家庭訪問

 ラーシャの家は、イタリアの保養地のようなリゾートマンションだった。

 彼によると、マンション内には住民専用のデパート、プール、映画館などが入っているらしい。

「ありがとうございまシタ。」

「待ってくれ。」

 行也はラーシャと一緒に友樹の車から降りた。

「こんなに遅くなってしまったし、俺には説明責任がある。ご両親にお目にかかりたい。」

「別にイイデス。」

 行人も一緒に降りた。

「お前めちゃくちゃ怒られるから、絶対俺達が説明した方がいい!」

 ラーシャは兄弟の勢いに押され、ため息を吐いた。

「……特撮研究会に入っているコトになってマス。余計なことはしゃべらないでクダサイ。」

 三人は目を見開いた。

「お前、本当のことを話してねーのかよ!」

「それはまずいよ! ラーシャ君はまだ高校生でしょ?」

「ラーシャ君、ご両親が心配なさるから本当のことを話したほうがいいよ。」

「話したら余計心配シマス。ただでさえ心配性なのニ」

 友樹はちょっと考えてから言った。

「まぁ、今日話すのはタイミングが悪いし、今度にしよう。」

 結局、ラーシャが今日は黙っていて欲しいと言ったのもあり。三人は挨拶だけして帰ることにした。

 ラーシャの両親は日本語はだいたい分かるとのことだが。

「挨拶だけは一応イタリア語にしようよ。」

 と友樹が言ったので、三人は歩きながらイタリア語の挨拶の練習をした。

 二重の門、建物の入り口のオートロックのキーをラーシャが開け、中に入る四人。

 警備員に会釈をし、エレベーターに乗ると、友樹はふとラーシャを見た。

「そういえば、ラーシャ君みたいに日本に住む外国人て珍しいね。」

「そうデスネ。」

 兄弟は口を揃えて言った。

「え、珍しい?」

「珍しいよ! だって日本はちょっと逆鎖国に近いんだから!」

「逆鎖国って何ですか?」

「世界の国々から付き合って貰えない国のことだよ。うちは輸入品を扱ってる会社だから、海外の船や飛行機が来てくれなくなったら困るんだよね。」

「すごくわかりやすい説明ありがとうございます!」

「でも、あのクソ貴族は外人じゃね?」

「クソ貴族は失礼じゃないか。オムレツをご馳走になったろ。」

 ちなみにプリンと筑前煮は行人は怖がって食べなかった。

 貴族ッテ? とラーシャが聞こうとした時。目的の階についた。

 ラーシャの家は、海外の美術館のようだった。

 天井は高く解放感があり、シャンデリアが虹を生み出し煌々と輝く。床はさまざまな色の石が寄せ木細工のように嵌め込まれ、踏むのが勿体無いくらいだ。

 そして花の彫刻が施された人工のアメジストとターコイズなどの家具が鮮やかに佇んでいる。

 内装も質感がそんじょそこらと違う。おまけに教科書で見るような絵が壁を飾っていた。

 兄弟達は応接室に通されて両親を待つ。友樹は目を輝かせながら部屋の美術品や家具に魅入っていた。

「あの人形は世界に十体しかないんだよ!

 このテーブルだって滅多に手に入らない伝説の職人コロボックル先生の……。」

 ラーシャも目をスターサファイアのようにキラッと輝かせ、珍しく頬を頬を上気させる。

「そうなんデスヨ! 二年待ちでシタ!」

 兄弟はイマイチ価値がわからなかったが、戦いでショック死しそうだった友樹を見て微笑んだ。

「失礼します。」

 ラーシャと友樹がにこやかに話す中、メイドさんが入ってきて、四人に紅茶とケーキが出してくれた。

 お辞儀すると行人は早速、ふわふわした白とクリーム色のオブジェに銀のフォークをさす。

「このスポンジは神様のジャージの味!」

「意味がわかりまセン。」

 そうこうしているうちに両親が来た。三十台半ば程に見える筋骨逞しい父親と、どちらかというと姉に見える、ラーシャ似の美しい母親が会釈する。

 三人もお辞儀すると、イタリア語で挨拶と自己紹介をした。

「Piacere!

Mi chiamo Tomoki Osawa.

Mi chiamo Yukiya yamada.

Mi chiamo Yukito yamada.」

「いえ、こちらコソ。日本語デ大丈夫デス。」

「ありがとうございます。」

 行人は何かに備えるように身を引き締め、しっかりとした眼差しでラーシャの両親を見つめている。

 彼は部屋に入る直前の友樹の言葉を噛み締めていた。

「主に喋るのは僕と行也君にしよう! 行人君は……うーん……緊急事態になったらヨロシク! それまで絶対黙ってて!」

 友樹が事情を説明しようと口を開くより速く。両親は真剣な顔で言った。

「私達は息子に特撮研究会を辞めて欲しいと思ってマス。」

 黒田は思わずテーブルに飛びあがっていた。

「それは困る! 今は一人でも人員が欲しいんじゃ!」

「黒田殿! 拙者達が喋れるのは秘密でござるのに!」

「何てことを! 俺の部下でしたらあと一回の失敗で成敗ですよ!」

 テーブルに飛び乗った三匹に、両親は絶叫した。

「オー!」

 友樹は目をぐるぐるぐるぐる。行也は考え込み。ラーシャは天を仰ぐ。ヨッシーはスヤスヤ眠っている。 そんな中、行人は生き生きと立ち上がった。

「緊急事態だ! 俺の出番だぜ!」

 ラーシャ両親の悲鳴に、エアガンやフェンシングの剣を構えた武装メイド男が、野獣の群のように駆けつける。

「何でもないデス。皆さん戻ってくだサイ。」

 ラーシャの両親は、メイド達を部屋から出すと、ドアの鍵を締めた。

 行人は元気に仕切り始める。

「ラーシャ! お前はどうしたいんだよ!」

「ボクは続けたいデス。」

「そうか! ……ラーシャの父母さん! 何でやめさせたいんだでありますか?」

 美しい顔を不安に染めながら、お母さんが口を開く。

「今日みたいに帰るのガ遅くなったら心配デス。それにこないだも、めちゃくちゃ疲れて帰ってきまシタ。特撮って何をしてるのデスカ?」

「ヒーローの修行デス。」

「……ラーシャ、ちょっとこっちこい!」

 行人はラーシャを部屋の角へ引っ張るとこそこそ話し合った。

 筋骨逞しいラーシャの父は彫刻刀のような眼差しで行人を観察する。

「弟は何か考えがあるんだと思います。すみませんが少々お待ち下さい。」

 行也はそう言うと頭を下げた。

「い、一番年齢が近い行人君なら、ラーシャ君も色々話しやすい……と思います。一呼吸置いて落ち着いてから、ご両親にお話ししたいのでしょう……。」

 友樹もしどろもどろになりながら頭を下げる。

 彼らの視線の先の部屋の隅の二人は、小さな小さな声で話し合っていた。


『お前の口から今、全部話せ! もうごまかせねぇぞ!』

『本当のコト、話したらもっと続けさせてもらえまセン。』

『信頼って取り戻せないんだぞ。これでまたごまかしたら、バレたとき困るぜ! 戦士以外のことも禁止されっぞ!』


……結局彼は全部話すことにした。行也も戦士日記を見せ、敵についての話や、装備の安全性もよくわからないという話をした。

 両親はあまりの出来事に頭を抱えた。父親は顔を真っ赤にし、テーブルを拳で叩き割った。

「貴方達は、息子が危険な目にあうとわかっていながら日本人同士の内紛に参加させたのカ!」

 皆は立ち上がって深々と頭を下げた。

「大変申し訳ありません。」

 ラーシャは父親から少し距離を取り、俯いて言った。

「細川サンは、ボクが一人っ子だから最後まで戦士になるのを拒否してましタ。跡継ぎがいなくなるト。

 行也さんもよく考えろと言いマシタ。決めたのはボクデス。ボクは続けたいデス。」

 しかし両親は激流のように圧倒的にハッキリと告げた。

「もう家の息子に関わらないで下サイ!」

 ラーシャはメイド達に担がれ奥に消える。三人と四匹は、深々と頭を下げると家をあとにした。

――友樹が家まで運転してくれる車内。行也は下を向いて呟いた。

「行人が戦士になりたいって言ったとき、心配で猛反対した気持ちを何で忘れてしまったんだろう……。」

 そんな彼に、細川も俯いて言った。

「俺がスカウトしたんだ。俺が悪い。」

 島津は行也と細川の肩をポン、と励ますように叩いた。ヨッシーは、空気を読まずにすやすや眠っている。

 そんな中、重い空気を変えるように行人は口を開いた。

「『なんかあったら、遠慮しねぇで家出してうちに来い!』ってメールした! ……とりあえず、来週の合宿頑張ろうぜ!」

 友樹は赤に切り替わる信号を見上げると、バックミラーに視線を移した。

 行人以外は、葬式帰りのような空気を醸し出している。友樹は無意識の内に、裏返った明るい声で言葉を発していた。

「そうだよ! 僕も頑張る! ………………かも。」

 誰にも聞こえない霧のように微かな声で、最後に逃げ道を付け加えた友樹であったが。

 彼の言葉に行也は顔を上げ、微笑んだ。

「俺も……頑張ります。」「そうじゃ! 天才のワシがついているから、合宿は成功も同然!」


 何となく前向き系の空気で満たされ始め、友樹は長い息を吐いた。そして細川に視線を移す。

「……細川さん。うちは、ラーシャ君の家ほど豪華なおもてなしは出来ませんが、よかったら家に来ませんか?」

 山田兄弟は横から口を出した。

「家でも歓迎ですよ。ご飯は友樹さん家の方が美味しいと思いますが、俺も出来るだけのことはします。教養のある細川さんのお話が聞きたいです。」

「細川さんは滅茶苦茶我が儘で怒りっぽいぞ! 友樹さんじゃ、しんどいんじゃね!」

 細川は顔を上げて即答した。

「大沢。宜しく頼む。」

 山田家に到着したのは、日付が変わるちょっと前。

 兄弟は友樹に、送ってくれたこと、ラーシャの両親と話をしていた時に行人をかばってくれたことのお礼を言うと車を降りた。


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