3日目 やばいやつは、無視すべし
#相手にせずに、距離をとりましょう
朝、うっかり寝落ちしてしまったネットカフェを後にし、コンビニでパンを二個とスポーツドリンクを買って、また駅へ向かった。
昨日より少し遅い時間だったせいか、通勤ラッシュからはずれており、電車はかなり空いていた。
三日目にしてようやく、角席を確保することができた。
この車両にはほとんど人が乗っておらず、私以外には数えるほどしかいない。
通勤ラッシュではなく、普通に利用者の少ない路線らしい。
そのまま、田舎道を揺られていく。
トンネルを抜けると、外には海が見える町が広がっていた。
イヤホンで音楽を聴きながら、その景色を眺める。
失敗したと思ったのは、海が見えるのがこちら側の窓だったことだ。
いかにも、「イヤホンしながら感傷に浸ってるやつ」みたいに見られそうで、三秒くらいでやめた。
本当は、見慣れない港町をもっと眺めていたかった。
だが、席を移動してまで見るのは子供っぽい気がしてやめた。
少し前に、大阪を通り過ぎたらしい。
もう中国地方に入っただろうか。
永遠に続く海を眺めながら、この日は十五時くらいまで何も食べずに電車に揺られていた。
まあ、そうそううまくいくはずもない。
こんな時にまた変なやつが来たら嫌だな。
そう思っていた矢先だった。
次の停車駅で、褐色系のシワシワの服を着た、メガネのおじさんが乗ってきた。
何がやばいって、四、五人しか乗っていない電車で、わざわざ私の隣に座ってきたことだ。
それだけではない。
首から上、めっちゃこっちを見ていた。
チラチラ見てくるとかではない。
凝視。
私の視界の端に、おじさんがめちゃくちゃこちらを見ているのが映る。
一瞬、見間違いかと思い、恐る恐るおじさんの方を見る。
凝視。
え、待って待って。
私、何かしましたか?
怖すぎなんですけど。
さすがに「何ですか」と話しかけようとしたところで、おじさんの方から口を開いた。
「はじめましてぇ、宇宙ですぅ」
………………。
宇宙人だった。
何かに呪われているのだろうか。
一昨日から、やばいやつに絡まれすぎている。
しかも今までのやばいやつは、人間的なヤバさだった。
だが、横のやつは、もはや人外だ。
自分でそう言ってるし。
ウザ絡みしてくるにしても、飛ばしすぎではないだろうか。
お酒の匂いはしない。
だからこそ、ヤバさの理由が分からないのが余計に怖かった。
悩み抜いた末に、私は、
「……あっ、こんにちは〜」
と返してみた。
これなら、仮に本当に宇宙人だったとしても問題ない返しだ。
すると宇宙人は、
「宇宙人はねぇ、目が見えないのぉ。だからねぇ、この“何でも見えるメガネ”をつけて、地球をお散歩してるのぉ」
と言った。
話している間も、ずっとこちらを凝視している。
あー、なんかもう、めんどくさくなってきた。
人目を気にする必要がないくらい車内は空いている。
なので私は、宇宙人の話を信じてみることにした。
暇つぶしに、ボケおじの相手をするのも、たまにはいいだろう。
「へぇ〜、素敵なメガネですね」
と返す。
すると宇宙人は、
「ありがとうぉ」
と言い、
「一個買うぅー?」
と聞いてきた。
やっと目的が分かり、もはや少し安心した。
まあ要するに、メガネを買わせたいのだろう。
そっち系だと分かった瞬間、逆に安心した。
普通に断る。
「あ、それはちょっといいです」
そう言うと宇宙人は、
「そうおー? じゃあ案内してくれたらあげるよぉー」
と言ってきた。
「美味しいお店ぇ、知ってるぅー?」
とも聞いてくる。
そろそろ、宇宙人を名乗るやばいおじさんとの会話にも飽きてきた。
私はスマホを起動し、てきとうに次の停車駅の近くの飲食店を探した。
そして場所を見せる。
すると宇宙人は、
「ありがとぉ〜。じゃあこれあげるねぇ」
そう言って、ただの黒いメガネを渡してきた。
電車は宇宙人を降ろし、そのまま発車する。
タダでくれたのなら、結局目的は何だったのだろうか。
メガネに発信機でもついているのだろうか。
まあいいや。
私はそのままメガネをつけた。
スマホの黒い画面で確認すると、結構、自分は整った顔立ちをしていると思う。
黒い画面は、なぜ二割増しくらいに見えるのだろうか。
結構似合っている。
何でも見えるというのなら、やばいやつとそうでないやつの見分けがつくようにしてほしい。
せっかく海の町に来たのだから、海鮮でも食べようか。
そう思い、私は次の駅で降りた。
降りると、人混みで賑わっていた。
改札を出る。
さすがの私でも、この辺りはタコが有名なことくらいは知っている。
おそらく、誇るほどのことではないのだろう。だが、地理に弱い私にとって、たまたま降りた場所に知っている情報があるというだけで、少しテンションが上がった。
何か郷土料理的なものを食べようと思ったが、結局、たこ焼きとお好み焼きで腹を膨らませた。
さて、駅へ戻ろう。
方角は分かっているので、来た道とは少し外れた、人気のない道を通る。
こういう場所を歩くのは好きだ。
そして、そういう場所を歩いている自分は、もっと好きだった。
いつの間にか、少年と手を繋いで歩いていることに気づいたのは、少年が話しかけてきた時だった。
驚きすぎて、私は思い切り握っていた手を引っ込める。
まじでびびった。
「え……誰?」
そう聞くと、少年は、
「……幽霊」
と答えた。
宇宙人の次は、幽霊に会うことができた。
今日の運勢は、どうやら過去一で悪いらしい。
くそが。
もう、まじでめんどくさい。
これが子供ではなく、おじさんだったら、しばいていた。
そんなことある?
宇宙人と幽霊に同じ日に会うとか、終わりすぎている。
「へー」
何も考えずに出たリアクションは、さすがに興味がなさすぎただろうか。
子供は、不思議そうに、
「……驚かないの?」
と聞いてきた。
まあ、ファミレス相席おばさんと、激キショセクハラ男と、メガネ宇宙人のあとだ。
シンプル幽霊は、さすがに少し弱い。
「いや、まあ、そういうこともあるかなって」
と返しておく。
こういうのにいちいち付き合うと、大幅に体力を消費することを、ここ最近で学んだ。
子供は、
「そっか」
と言い、
「そろそろ成仏しようかなって思ってて。だから最後に、神社まで送ってくれない?」
と言ってきた。
え?
普通にめんどくさい。
一人で行けや。
というか、成仏ってそんな感じじゃないでしょ。
もっとこう、重たい感じというか、最愛の人の前で泣きながら、徐々に薄くなっていくみたいなイメージなんだけど。
「ごめんねー、ちょっと予定があって……」
そう言って断る。
子供のいたずらに、いちいち付き合っているほど暇ではない。
まあ暇だけど、めんどくさい。
すると子供は、
「え〜、結構ここから近いし、パワースポットっぽい感じだよ」
と言ってきた。
それなら、今まさに目の前に幽霊がいるのだから、わざわざそのパワースポットに行かなくても、十分体験できている。
にしてもしつこい。
なので、もうさっさと連れて行って、成仏させることにした。
知らない土地の神社に少し興味が湧いたのもあるが、ここから近いのであれば、連れて行った方が早い。
「じゃあ行こっか」
そう言うと、子供は私の手を引き、ずんずん進んでいく。
普通に触れてるし。
最近の親は子供に甘すぎる、というジジババたちのことを煙たく思っていたが、こいつの親はさすがに甘すぎる。
くそがき。
途中で塩を買って、その場で振りかけてやろうかとも思ったが、可哀想なのでやめておいた。
神社に着く。
思いのほか大きい場所だった。
犬を連れて参拝してもいいらしく、ペット連れも多い。
犬とすれ違うたび、子供は私の後ろに隠れた。
犬が苦手なら、なぜこの神社に連れてきたのか。
地元民なら知っていてもおかしくないだろう。
夕暮れのオレンジ色が、石畳を照らしている。
「どうすればいいの?」
と子供に聞くと、
「んーと、えっとね、そこのお金入れるところで、お金入れてね、えーと、“成仏しろ〜”ってやるとできるよ」
と、かなりその場しのぎ感のある成仏法を教えてくれた。
ここに来る途中で、その設定くらい考えておけよと思う。
お金を入れ、手を合わせる。
私は、全く違うことを願っていた。
すると、幽霊はいつの間にか消えていた。
無事、成仏できたらしい。
急に、どっと疲れた。
子供の遊びに付き合うのも、楽ではない。
気づけば、辺りはすっかり夜になっていた。
この辺にネットカフェはない。
仕方なく、近くのビジネスホテルに泊まることにした。
シャワーを浴び、ベッドに寝転ぶ。
そのまま、私は熟睡した。
気持ちよく眠っていたのに、起きたのが朝ではなかったので、寝起きは最悪だった。
深夜二時。
目の前には、成仏したはずの少年がいた。
コメントで電車あるある募集中です
読んでいただき、ありがとうございます。評価やブックマーク、感想等をいただけると更新の励みになります。1日1話更新を目指しています。気分でもっと高い頻度で更新するかも。(感想、評価待ってます!!)




