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1-36 黒幕設定って考えるの難しいよね

帝国歴:705年 9月5日

帝都某所・???


ほとんどの帝都民が寝静まる時間、豪華な丸テーブルの上には、蠟燭が一本だけ灯っている。

ほぼ暗がりであるこの部屋に、3人の人間が居た。

お互いの表情は読み取れず、会話だけが響く。


「…………砂漠の件だが、失敗したそうだな……」


最初に口を開いたのは男。

声は太く、威厳を帯びているが、怒気を含んでいた。


「”奈落”め、影の剣を持ちながら小娘と牙に退けられるとは……奴らの派閥に陰りを見せる好機と読んでいたが、これでは台無しではないか」


「おんやまぁ”閣下”、怖い声でございますこと」


艶やかな声が闇を割る。

帝都のスラム街と色町を束ねる女――元娼婦にして「闇街」の頂点。

彼女は蠟燭の炎を弄びながら笑った。


「けれど、失敗は失敗でありんす。その小娘……エリシアとか申すのでありんしょう?砂漠で精霊と遊び、紅茶を嗜むお姫様が、”奈落”を退けたと聞きんした。ほんに面白いではありんせんか」


「確かに面白いが、笑えんな……正確には、”奈落”を退けたのは”武辺”だ。公の伝手で呼んだようだ」


三人目が低く呟く。

蝋燭の光で、かろうじて彼が法衣を纏っていることが解る。

それは教会の司祭であることを意味していた。


「あの変態か。……公とは同期だったな。しかも”奈落”の兄か……大人しく騎士団長の椅子に座っていれば良かったものを……忌々しい」


”閣下”と呼ばれた男は苛立ちを隠せない。


「報告は聖女の耳にも入っている。……”エリシア一行は砂漠の水守を守り、教会保守派の横暴を抑えた”と。この前は聖女に任せていた金策も封じられた。非常にまずい状況にある。……教会上層部同士の会話では、これではどちらが聖女か分からない、だそうだ。……このままでは、聖女庁の権威が揺らぐぞ」


司祭が現状を説明する。

侯爵は鼻を鳴らした。


「奴の失脚を狙う我らにとって、聖女ミレーネは都合の良い駒だが……ここにきてその駒の進行を乱す者が現れた。……エリシア・フォン・グランディール。……修道院への追放がかえって仇となったか……公爵家の娘でありながら余計な正義を振りかざす小娘。……このまま放置はできぬ」


「ふふ……”紅茶姫”を潰すのでありんすか?」


闇街の女が艶然と笑う。


「2年前、北の飢饉に便乗し王国の介入を誘導した我らの計画も、この娘が防いだと噂されている……」


司祭は悔し気に語る。


「それは誠か?……であればここ数年の公爵領発展の理由も……その小娘のせいだとでも言うのか?」


”閣下”は苛立ちを抑えながら静かに唸る。

”司祭”が答える。


「その可能性は高い。……帝国中で騒がれている飛竜便を初め、”醤油”、”芋”、”粉料理”……全て公爵領発端だ。……それに最近では帝都まで伸びる、面妖な鉄棒まで各地に敷設されていると聞く。……その娘、聖女と同じくして”前世の記憶持ち”であると推測する」


「…………」


沈黙が流れる。

そして、


「ならば、闇街の遊女たちに噂を流しましょう。砂漠で精霊と戯れる奇妙な姫、と。評判を落とすのは得意でありんす」


”司祭”は静かに頷いた。


「噂だけでは足りぬな。”奈落”が退けられた以上、次はもっと確実な手を打たねばならない。……聖女の巡礼に合わせ、”紅茶姫”を孤立させる。……教団も次は”個”ではなく、”数”で攻める」


”閣下”と呼ばれた男は蠟燭の炎を見つめ、低く笑った。


「よかろう。”奈落”の失敗は帳消しにする。……次の標的はその公爵令嬢だ。せいぜい今のうちにオアシスでのバカンスを楽しませるのだな……公爵家の小娘を潰せば、帝都の均衡は崩れる。バルバロッサ公らの威光も地に落ちるだろう。……抜かるなよ」


「「御意のままに」」


炎が揺れ、三人の影が壁に伸びる。

帝都の闇を牛耳る者たちの密談は、静かに、しかし確実に、エリシアへと矛先を向けていた。

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