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1-35 オネェの事情と台国の存在

砂漠の修道院近郊・水守の家


翌日。 水守の家の居間。

昨夜の襲撃の余韻がまだ残る中、私とマリアンヌはカインの話を聞いていた。

水守さんは牙と共に、集落とオアシスの見回りに行っていて留守だ。


カインは湯飲みを置き、艶やかに微笑んで語り始めた。


「んまぁ〜、昨日の子はねぇ、アタシの双子の弟ちゃんなのよ。名前はアベル。小さい頃からずっと一緒に剣を学んできたの。可愛いでしょ?」


「可愛いって…………そうか……双子……」


私は思わず紅茶を置いた。

剣筋が似ていた理由に、ようやく納得がいく。


「アタシたちの流派には“表”と“裏”っていう二つの道があるの。技の優劣はないんだけど、掟があるのよぉ。表は栄誉を取り、裏は潜伏を取れ、ってね」


「……なるほど。だから、カイン様は表を、アベル様は裏を」


マリアンヌが頷く。


「そうそう♡ 双子だっていうのにアベルは内向的でぇ、人前に出るのが苦手だったから、裏を選んだの。アタシは表を選んで、武術大会で優勝したり、ダンジョン踏破したりして“武辺”なんて呼ばれるようになったわ。でもアベルはねぇ、ずっと影に潜んで、実力を隠してたのよ」


「……裏の存在意義は?」


私は問いかける。


「もともとはねぇ、栄誉を選んじゃって、調子に乗って悪さする表の子を諫めるためなの。裏は影に潜んで、表を監視する役割。そういうバランスなのよぉ」


「……つまり、表と裏は互いに補完し合うものなのですね」


マリアンヌが静かに言う。


カインは少し目を伏せ、肩をすくめた。


「学院を卒業した後、アタシは帝国武術大会で当時の騎士団長をまぐれで倒しちゃったのよ。それで師匠から“次期騎士団長に”って推薦されたんだけど……アタシ、断ったのよ。だって今まで陰で支えてくれたアベルにこそふさわしいと思ったから」


いや絶対まぐれなんかではないと思うが。


「……それで、アベル様は?」


私は息を呑む。


「どう受け取ったかはわからないわぁ。……でも、あの子は忽然と姿を消しちゃったの。それ以来、消息は途絶えたまま……」


居間に沈黙が落ちる。

昨夜の無言の剣戟が、頭をよぎる。


「……カイン様。その剣は?」


マリアンヌが視線を移す。

カインの腰に差された、異国の刀。


「これぇ?これは台国刀よ。東方の島国――ヤマト台国で武者修行してた時に手に入れたの。アタシ、騎士団長の椅子を蹴ってから12年間そこで剣を学んだの。抜刀術ってねぇ、アタシの流派と相性が良くって、すっごく気に入ってるのよぉ♡」


「……東方の剣。確かに、昨夜の斬撃は速かった」


私は紅茶を啜りながら呟いた。

いやマジで。リアルるろうにが居たと思ったほど。

リアルるろうに……なんだか言いにくいな。

それとヤマト台国……知らなかった…………日本文化に近い国が存在するのもテンプレだが。


「元の流派だけで戦った場合ならぁ、アタシとアベルの技量は拮抗してると思うわ。だから、彼の知らない流派の剣を使う必要があったのよ。抜刀術っていうね♡」


「……カイン様」


マリアンヌが真剣な眼差しを向ける。


「アベル様は、今も“裏”としての役割を果たしているのでしょうか?」


「さぁ〜、それはわからないわねぇ。でも昨夜の剣には迷いがあった。あの子はまだ、影の中で何かを探してるんだと思うわぁ……人を殺しながらね……」


「…………」


暗殺か。

だが暗殺という事は依頼主が居るという事だ。

話を聞くにアベルにとって水守はなんの関係も接点もないはずだ。


「カイン教官、もしかして、帝国には暗殺集団、もしくはアサシンギルドなるものが存在したりします?」


それを聞いてカインは一瞬目を見開き、改めてこちらを見ると微笑んだ。


「あら!さすがはエリシアちゃんね。あるわよぉ。一番ヤバイのが。……”黒の手”って呼ばれてるわ。暗殺教団ね。邪神を崇拝してると言われているわ。暗殺や密輸を生業にして、邪神復活の為の資金を集めてるって噂ね」


テンプレの中でも一番ヤベー奴じゃねーか。

邪神、いるのかよ。


「…………そういった組織の排除は難しそうですね……」


隠密部隊最強であるマリアンヌが答えると説得力があるな。


「そうなのよぉ。……そんな危ない組織に加担しちゃってるのがアベルってわけ。もう、やんなっちゃうわぁ……」


オネェ言葉だから軽く聞こえるが、実際かなり危ない話だなこりゃ。


私は、手帳に記録を残す。


水守の家・会話記録


カイン:双子の弟アベルの過去を語る。流派の掟、表と裏の存在意義。台国刀(日本刀)を所持。

アベル:双子の弟。裏を選び、潜伏に徹する。消息不明のまま、昨夜再び姿を現すも、片腕を失い撤退。

マリアンヌ:お茶を淹れながら冷静に質問を重ね、理解を深める。

エリシア:紅茶と皮肉と記録担当。剣筋の謎に納得。

空気:静寂と緊張。逆に平均値を探すほうが大変。


これで刺客がめっさ強い意味がようやく分かった。

カインの双子の弟ならそりゃ強いよな。


それとヤマト台国。

教会本部さん、いえ、ラファエロ猊下、海外出張とかないですかね?

ヤマト台国で布教活動とか。

それだったら喜んで行くんだけど。



砂漠の修道院に戻り、ひと風呂浴びてようやく一息ついた夜。

私は紅茶を啜りながら、静かな時間を過ごしていた。

その頃、修道院の中庭では――カインがマリアンヌを呼び出していた。


「……マリアンヌちゃん、お呼び立てしてごめんなさいねぇ。ちょっといいかしらぁ?」


月明かりの下、カインは柔らかく声をかける。


「はい、カイン様」


マリアンヌは姿勢を正し、真剣な眼差しで応じた。


「昨日はアベルを退けたけどねぇ……アタシが毎回助けに来れるとは限らないのよ。帝国は広いし、影はどこにでも潜んでるわぁ。だから、あなた自身の覚悟を聞いておきたいの」


マリアンヌは一瞬だけ目を伏せ、そして静かに答えた。


「……私は、エリシア様をお守りするために剣を振るいます。たとえ命を落とすことになっても、その覚悟はできています」


カインは目を細め、艶やかに微笑んだ。


「んまぁ〜、いい返事じゃない♡その覚悟があるなら、ここにエリシアちゃんがいる間に、アタシが稽古をつけてあげるわ。影に潜む者を退けるには、解ってると思うけどその腹筋じゃぜんっぜん足りないの。心と体、両方を鍛えなくちゃねぇ」


「………先日の、腹部の怪我の件、知っておられたのですね……」


ふふっと笑ってカインは答える。


「牙ちゃんに聞いたわよぉ。ただ今回は運が良かっただけと思いなさいな。次は、……ないわよ?」


マリアンヌは黙って頷いた。

その瞳には、決意の光が宿っていた。


「よろしい♡ 明日からよ。覚悟を示したなら、鍛え抜いてあげる。エリシアちゃんの傍に立つ者として、恥じない強さを身につけなさい」


夜風が砂を撫で、修道院の壁に影が揺れる。

その場に立つ二人の姿は、まるで師と弟子の契りを交わすようだった。

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