X-3 6歳、領地を統べる
グランディール領・南部穀倉地帯
視点:周囲の人々(と少しエリシア)
「……えーと、確認ですが。本当にこの子が、南部穀倉地帯の運営責任者で?」
「はい。公爵閣下の直々の命令です。“うちの娘は天才だから、麦くらい任せていい”と」
「麦くらいって何だよ……!」
使用人たちの悲鳴が、朝の穀倉地帯に響く。
その中心に立つのは、青いリボンを揺らす6歳の令嬢――エリシア・フォン・グランディール。
「皆さん、朝礼は3分以内に終えてください。長話は生産性を下げます。あと、麦の搬出ルート、昨日から変えました。地図は更新済み。旧ルートで迷ったら自己責任です」
「自己責任って言ったぞこの子……!」
「あと、馬車隊の稼働率が低すぎます。“馬が疲れてる”という言い訳は、馬に聞いてからにしてください」
「馬に聞けって言ったぞこの子……!!」
エリシアは冷静だった。
6歳とは思えぬ語彙と、容赦ない合理主義。
だが、父バルバロッサは遠目からそれを見て、むしろ目を細めていた。
「うちの子、かわいいだろう? 領地、回してるんだぜ。6歳で」
「閣下、かわいいの定義が崩壊しております……!」
その日、エリシアは穀倉地帯の倉庫配置を再設計し、使用人の動線を最短化し、馬車隊の交代制を導入した。
ついでに、昼食の献立も「炭水化物比率が高すぎる」と言って変更した。
「お嬢様、今日のお昼はパンとスープの予定でしたが……」
「パンは小麦。小麦は輸出品。内部消費を減らして外貨を稼ぎましょう。今日の昼は、芋です」
「芋ォォォォ!!」
こうして、南部穀倉地帯は6歳の令嬢によって“最適化”された。
使用人たちは泣き、馬はなぜか元気になり、父は娘の姿絵を額に入れて飾った。
「エリシア……父は、お前の芋戦略に感動したぞ……!」
「父上。芋は戦略ではなく、資源です」
「そこがまたかわいい……!」
こうして、帝国の食糧庫は今日も平和だった。
…たぶん。




