1-3 初期調査 ― 企業コンサル魂の目覚め
翌日、結局馬車に積んでいた野営用のマットレスで夜を明かし、目覚めの紅茶を一口飲んだ私は、椅子のギシギシ音に負けじと、静かに決意を固めた。
「……さて、早速現地調査といこうか。まずは修道院の現状把握からか。」
「承知しました。では私は予定通り裏側の調査を。」
マリアンヌは、修道服の袖から何かをスッと取り出した。
小型のメモ帳と、見たことのない細いペン。
うんとさ、それのどこら辺がペンなの?
先に返しがついたアイスピックにしか見えないんだけど。
先っちょから緑色のインクが・・・インク?いや、それインクじゃないよね?毒だよね?毒針だよね?
「……それ、調査用具じゃなくて暗殺道具じゃない?」
「ふふっ。調査と処理は常にセットです。」
「いやいやいや、セットにしないで。ふふって何だよ。ここ修道院だから。清らかな信仰の場だから。アサシンギルドじゃないから。」
マリアンヌはニコリと微笑み、音もなく廊下の奥へと消えていった。
あの子、絶対壁歩いてるよね。物理法則、守ってないよね。
私はため息をつきながら、まずは水回りの確認へ向かった。
・・・井戸はある。が、バケツが錆びている。ロープは切れかけている。
水を汲んでみると、色が……うん、これは飲んじゃいけない色だ。
前世で見た「飲んではいけない水ランキング」堂々の1位。しかも泡立ってる。なぜ?
「浄化魔道具、要るな……。てか、これ魔物の巣じゃないよね?」
次に厨房。
調理場は、油と煤で黒ずんでいる。鍋は焦げ付き、まな板は割れている。
冷蔵庫?そんな文明の利器なんてあるか。
あるのは、謎の壺と干からびた野菜。
「……これは、食事というより苦行だな。」
修道女たちの食事風景を見てみると、皆無言でパンをかじっている。
そのパン、硬すぎて武器になりそうなんだけど?
しかも、飲み物がぬるいハーブ水。いや、これハーブっていうか、ただの草じゃない?
「……まずは食事改善だな。栄養バランス、衛生管理、調理技術。全部アウトだ。」
次に寝具。
どのベッドも何かしらの問題を抱えている。傾いていたり、足一本なくて代わりにレンガを重ねてはめていたり、マットレスは沈み込み、枕は……うん、枕っていうか、布の塊?(再確認)
シーツは黄ばんでいて、人の股間のあたりが来る部分に何かの染みがある。何かは聞かない。絶対聞かない。
「……これは、寝るというより、耐えるだな。ある意味修行といえるのか。いえねーよなぁ。」
私はメモ帳を開き、前世のコンサル魂を呼び起こす。
初期改善ポイント(エリシア式)
水回り:井戸の浄化、バケツとロープの交換、魔道具設置
食事:献立再構成、調理器具の更新、衛生講習(←ここ重要)
衣服:下着、生理用品の補充
寝具:寝具一式の交換、衣服を含めた洗濯体制の整備
業務フロー:修道女のシフト管理、役割分担の明確化
教義:信仰と実務の両立を目指す再教育
「……あれ?これ、完全に仕事してるよね?領地改革してる時も思ったけど、転生してまで社畜って、どんな罰ゲーム?」
紅茶をもう一口飲んだ私は、椅子のギシギシ音に再び耐えながら、静かに呟いた。
「スローライフって、どこに売ってるんだろうな……。通販とか・・・密林とかで買えるなら、今すぐ注文したい。」
その時、マリアンヌが音もなく戻ってきた。
「裏側の調査、完了しました。資金の流れに不審点あり。修道女の中に、教会本部との癒着が疑われる人物がいます。」
「……やっぱりか。どこにでもいるな、そういう奴。」
「処しますか?」
「処さない。まずは話し合い。穏便に。穏便にね?」
マリアンヌは、無言でサムズアップした。
その笑顔が、なぜか背筋を寒くさせるのは気のせいじゃない。




